インドのヘヴィーメタル

2021年04月26日

驚愕のサウンドトラック・メタル! Friends from Moonの壮大すぎる世界!



インドはメタル大国である。
鉱物資源の話ではない。
音楽のヘヴィメタルのことだ。(音楽ブログなんだから当たり前か)

ボリウッド映画や古典音楽やヨガのイメージからは想像しづらいかもしれないが、経済発展とグローバリゼーションの果実のひとつとして、インドでは多くのメタルバンドが結成されている。
そのなかには、GutslitやGirish and the Chroniclesのように、かなりレベルの高いバンドも存在している。




前述の2バンドや、Kryptos, Systemhouse33, Demonic Resurruction, Amorphiaのように、海外ツアーを行うバンドも出てきているものの、単独で(インド国内においても)ホールやアリーナを埋めることができるようなバンドは、まだ登場していない。


その理由は単純だ。
欧米のバンドがリードしてきたヘヴィメタルシーンでは、インドや日本を含めたアジアのバンドのスタイルは、既存のジャンルの模倣になりがちだ。
どれだけ演奏技術が高く、楽曲が良くても、オリジナリティが低ければ、カリスマ的な人気を得ることは難しい。

ヘヴィメタルシーンにおいてアジアのバンドが注目を集めるためには、欧米のバンドにはない個性を打ち出すことも有効だ。
つまり、自国のユニークな文化をサウンドに持ち込むことで、オリジナルなスタイルを打ち出すことができるのだ。
日本で言えばBabymetal、インドでもSitar MetalやBloodywoodが、その手法で注目を集めることに成功している。


そんな世界とアジアのヘヴィメタルを取り巻く状況のなかで、インドから、ステレオタイプなインドらしさをまったく打ち出すことなく、完全に新しいジャンルを生み出すことに成功したバンドが登場した。

その名は、つい先頃デビューEP "The Spectator"をリリースしたFriends from Moon.
「バンド」と書いたが、Friends from Moonの実態はデリーのヒンディー・メタルバンド(英語ではなくヒンディー語で歌うメタルバンド)AarlonのギタリストRitwik Shivamのソロプロジェクトである。

Friends from Moonの音楽的特徴を一言で表すなら、まるで映画音楽のような壮大なサウンドをヘヴィメタルに取り入れた「シネマティック・メタル」もしくは「サウンドトラック・メタル」と呼ぶのがふさわしいだろう。
これまでも、シンフォニックな要素を効果的に取り入れたメタルバンドは少なからずいたが、それでもFriends from Moonのサウンドが前例のないものであることは、デビューEP"The Spectator"のオープニングトラック、"A Hope Forever"を聴けば簡単に分かるはずだ。


ストリングス、ブラス・セクション、ピアノが織りなすドラマティックなサウンドは、まるでSF映画かファンタジー映画のサウンドトラックを思わせる。
ネタばらしをしてしまうと、この8分にわたる大曲は、なんと最後までメタルの要素が一切ないまま終わってしまう。
これまでもアルバムの1曲目にSE的な「序曲」を入れるバンドは珍しくなかったが、ここまで大仰かつ本格的な「序曲」は50年に迫るヘヴィメタルの歴史上、初めてのことだろう。

満を辞して、2曲めの"Saruman the Black"で怒涛のメタルサウンドが披露される。

シネマティックなイントロに続いて、怒涛のメタルパートに雪崩れ込むが、1曲めからの流れで聴くと、この凶暴なメタルサウンドも、激しさを表現する音楽的演出のひとつとしてすんなりと受け入れられるのではないだろうか。
デス声ではなくクリーンな声で歌われるパートが、典型的なメタルのスクリームではないことも、彼らの音楽の聴きやすさにつながっている。
"Saruman the Black"はトールキンの『指輪物語』("The Lord of the Rings")の登場人物にちなんだタイトルとのこと。
この曲にはイタリアのGabriele Paolo Marraによる一人ブラックメタルプロジェクトHowling in the Fogが参加している。

3曲目の"Salton Sea"はプログレッシブ・メタル的な変拍子を導入した曲。
この曲にはAarlonを含む複数のバンドで活動していたヴォーカリストのPritam Goswami Adhikaryが参加。
Salton Seaとはカリフォルニア州に位置する塩湖の名前のようだ。


EPの最後を飾る"We are the Drifters"は静かなピアノの響きから始まる。

再びヘヴィメタル的の要素を排したこの曲で、彼らのデビューEP、"The Spectator"は幕を閉じる。
4曲のみながら、28分のボリューム。
Spectator(観客/目撃者)というタイトルの通り、リスナーはFriends from Moonのサウンドが紡ぐ物語的な世界にただただ身を浸し、圧倒されることになる。

このあまりにも特異な作品が登場したことに、世界はまだほとんど気付いていないようだが、このアルバムは今後いったいどのような評価を受けるのだろうか(それとも気づかれないまま終わってしまうのか)。
いずれにしても、Ritwik Shivamがこれまでにないジャンルの扉を開いたことは間違いない。
彼らが今後どんなサウンドを展開してゆくのか、興味は尽きない。


参考サイト:
https://www.rsjonline.com/reviews/friends-from-moon-is-excitingly-cinematic-on-debut-ep.html

https://rollingstoneindia.com/reviewrundown-march-2021-project-malabaricus-drastic-naman-winterchild/


 

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2021年01月02日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2020年ベストアルバム10選!

あけましておめでとうございます!
毎年新年に紹介しているRolling Stone Indiaが選ぶ年間ベスト紹介シリーズ、今回はベストアルバム部門の紹介!

(元の記事はこちら↓)


面白いもので、これが昨年末に紹介した軽刈田セレクトの年間ベストとは1作しか重なっていない!
それだけインドのインディーシーンの多様化が進んでいる証拠とも言えそうだけど、Rolling Stone Indiaの年間ベストも数人のジャーナリストだけで選出しているようなので、単に音楽の好みや注目するポイントの違いなのかもしれない。

(私の選んだ年間ベスト10はこちら↓。ただし、アルバムに限らず、楽曲やミュージックビデオも含めた10作品の選出)


私のTop10は「2020年にその音が鳴らされる必然性」を重視して選出したつもりだったけど、Rolling Stone Indiaは、毎年ながら同時代性を全く無視したセレクトになっていて、これはこれで面白いランキングになっている。
今年はいつになく前時代的なロックバンドが多い印象で、また違った「インド音楽」が楽しめると思います。
それではさっそく!


1. Thermal And A Quarter  "A World Gone Mad"

Thermal and a Quarterは96年に結成されたベンガルールのベテランロックバンド。
このアルバムのサウンドを簡単に説明するなら、「ピンク・フロイド的な詩情と70年代ハードロック的なダイナミズムの融合」ということになる。
要はクラシックなプログレッシブ・ロックで、曲によっては90年代USのグランジっぽく聴こえることもある。
プログレといっても、個々のプレイヤーの技巧ではなく、ヴォーカルハーモニーを含めたバンドのアンサンブルで聴かせるタイプの作品なので、聴いていて疲れないのも◎。
とはいえ、この作品が2020年のインドのインディーミュージックの最高到達点を示すものかと言われると、個人的にはちょっと疑問符を付けたくなる。
インドのインディー音楽のリスナーは「インテリっぽいロック」を好む傾向があって、このランキングにもそうした好みが反映されている可能性がある。
以下、その点に留意して聴いてみてください。


2. Soulmate  "Give Love"

Soulmateはインド北東部のメガラヤ州シロンを拠点に活動する2003年結成のベテランブルースロックバンド。
インド北東部はこのブログでも何度も紹介している通り、キリスト教信仰の影響もあって、かなり古い時代からロック等の欧米の音楽が受け入れられてきた。
このアルバムも彼ららしいハードなブルースが堪能できる作品で、とくに女性ヴォーカリストTipriti Kharbangarのソウルフルな歌い回しと、Rudy Wallangのツボを抑えたギタープレイ(チョーキングのトーンコントロールが素晴らしい)は絶品。
やはり2020年らしさは皆無なサウンドだが、この手の音楽の愛好家は世界中にいるはずなので、もっと多くの国で評価されてもいいはずだ。


3. Saby Singh  "Yahaan"

これまで全くノーチェックだったカシミール出身のシク教徒のシンガー・ソングライター。
Rolling Stone Indiaの記事によると、前作の"Ouroboros"は実験的な電子音楽だったようだが(奇妙なことに、この作品は現在YouTubeでも音楽ストリーミングサービスでも聴くことができない)、今作はシンプルなギターの弾き語りとなっている。
こういう音楽は歌詞が分からないとしんどいが、深みと表現力のある歌声は聴きごたえがある。
ときに情感過多で演歌っぽい歌い回しになってしまうのは、シク/パンジャービーのルーツゆえか。



4. aswekeepsearching  "sleep"

この作品が唯一、私が選んだ年間トップ10と重なっていた。
海外のレーベルからアルバムをリリースしたこともあるポストロックバンドによるアンビエント作品。
インド西部グジャラート州のアーメダーバード出身で、ベンガルールを拠点していると思っていたのだが、Rolling Stone Indiaによると、現在はムンバイで活動しているらしい。
Rolling Stone Indiaは、この作品の楽曲を「催眠術的(hypnotic)」("How I Suppose to Know")、「瞑想的(meditative)」("Let Us Try")、「平和的(peaceful)」("Sleep Again")、「未来的(futuristic)」("Glued")、「アコースティックギターが傑出(acoustic guitar prominence)」("Dreams are Real")、「憂鬱(melancholy)」("Sleep Now")と評している。


5. Lojal "Phase"

メガラヤ州シロンのMartin J. Haokipによるソロ・プロジェクト。
どこか近未来的なトラックにR&B的なコーラスやラップが乗る。
感情を抑えたヴォーカルは、雰囲気で聴かせるところもあるが、2020年のインドを感じさせるサウンドではある。
Frank Ocean, Bon Iver, Kanye Westの影響を受けているとのこと。
このランキングで「今っぽさ」を感じさせられるのは4位のaswekeepsearchingと、このLojalくらい。


6. The Earth Below  "Nothing Works Vol. 2: Hymns for Useless Gods"

これまたノーチェックなアーティストだったが、ベンガルール出身で、ムンバイを拠点に活動しているドラマー兼ヴォーカリストのDeepak Raghuを中心としたバンドのようだ。
サウンドは90年代のグランジ/オルタナティブ・ヘヴィロックの影響を強く感じさせるもので、歪んだギターと憂鬱さを帯びたヴォーカルが虚無的な情熱とでも呼ぶべき感情を喚起する。
"Come to Me"のような曲のメロディーセンスもとても良い。
アルバムタイトルに"Vol.2"とあるが、"Vol.1"は検索してもどこにも見当たらないのが謎。
虚無感をテーマにした曲が多いようで、アルバムの副題からも、我々がよく知る信仰心に厚くバイタリティーあふれるインドとはかけ離れているが、これもまた現代のインドのリアル。


7. Serpents of Pakhangba  "Serpents of Pakhangba"

おそらくこのランキング中最大の問題作がこのアルバムだろう。
ムンバイのマルチプレイヤーVishal J. Singh(プログレッシブ・メタルバンドAmogh Symphonyの中心人物としても有名)が率いるSerpents of Pakhangbaの音楽性は、単純に言えばやはりプログレということになるのだろうが、エキセントリックな女性ヴォーカル(伝統音楽に由来しているのか?)、メタル、ジャズ、アンビエント的なサウンドを内包した実験的なもので、なんとも形容し難い。
ものすごい作品のような気もするし、単にとっ散らかっているようにも聴こえるが、アルバム全体を通して異常な緊張感が張りつめており、演奏力も高くて飽きさせない。
バンド名はインドの蛇神ナーガの北東部マニプル州のメイテイ族に伝わる呼び名で、Vishal J. Singhのルーツにも関わっているようだ。
なんと彼らへのインタビューを日本語で紹介しているウェブサイトを見つけたので(さすが日本が誇るメタルマガジン'Burrn!')、詳しくはこちらを参照してほしい。



8. Swadesi  "Chetavni"

Rolling Stone Indiaが2020年のヒップホップを代表する作品として選んだのがこの作品。
Swadesiはムンバイを拠点に活動する多言語ラッパー集団で、これまでも古典音楽/伝統音楽との融合などを試みつつ、さまざまな社会問題や政治問題を扱った作品をリリースしてきた。
今回は伝統音楽の要素はあまり入れずに、オールドスクールっぽいフロウのラップを聞かせてくれている。
サウンドや内面的な表現ではなく、社会的な要素を重視しての選出だったようで、そうなるとリリックが分からないのが非常にもどかしい。
意外なことにこの作品がデビューアルバム。


9. Girish And The Chronicles  "Rock the Highway"


Girish And The Chroniclesは、インド北東部シッキム州出身のヘヴィーメタルバンド。
ヴォーカリストのGirish Pradhanは、Chris Adler (ex. Megadeth)らとのプロジェクトFirstBorurneでも知られている実力派。
これもまた2020年らしさの全くないヘヴィ・ロックンロールで、彼らが時代に関係なく、本当に好きな音楽を追求しているのだということが分かるサウンド。
13曲入りというのも聴きごたえがある。
アップテンポでもヘヴィなグルーヴを失わないリズムセクションと、確かな腕を持っているギタリストを擁していて、楽曲のクオリティーも高い(曲によっては、Sammy Hager在籍時のVan Halenを思わせる)。
35年前のアメリカでこの音を鳴らしていたら、世界的に評価されていたかもしれない。


10. Protocol  "Friar’s Lantern"


ムンバイ出身のプログレッシブロックバンド。
これまた2020年らしからぬサウンドで、ヘヴィな要素もあるが、欧風のフォークミュージックっぽい雰囲気も濃厚。
女性ヴォーカリストの表現力がもう少しあると良いのだが…。


というわけで、全10枚を紹介してみました。
今年は例年になく70〜90年代風のヘヴィ・ロックが目立つ結果となった。
おそらくだが、インドのインディー・ミュージック界は、日本でいうとバンドブーム〜渋谷系の時代なのだろう。
何が言いたいのかというと、同時代的な表現や新しい音を追求することよりも、過去の音楽を咀嚼して、あるときはお手本に忠実に、またあるときはそれを自分なりのセンスで表現した音楽が好まれる傾向があるのではないか、ということだ。
もちろん彼らが単なるコピーだと言いたいわけではない。
Soulmateにしろ、Girish and the Chroniclesにしろ、Serpents of Pakhanbaにしろ、それぞれのジャンルの紛れもない「本物」だし、とくに英語詞での表現については、日本のアーティストよりもずっと「本場」に近いところにいる。
まあ、単に選者の好みなのかもしれないけれども。

いずれにしても、このサブスク全盛で、1曲が2分台の曲が多いこのご時世に、Thermal and a Quarter, Serpents of Pakhangba, Protocolのように1曲が6分以上あるようなアルバムを平気で選んでくるセンスは結構好きだ。
また、Soulmate, Lojal, Girish and the Chroniclesのような北東部のアーティストが目立っているのも印象的。
おそらくは評価基準の一つになっている「欧米的な音楽」をやらせたら、やはり一日の長がある地域なのだろう。

これまで知らなかった面白いアーティストも知れたし、なかなか興味深いランキングでした!
次回はRolling Stone Indiaが選ぶミュージックビデオTop10を紹介したいと思います。


あ、正月ということで、以前書いたガネーシャと正月をテーマにした落語も貼り付けておきます!



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goshimasayama18 at 19:42|PermalinkComments(0)

2020年06月26日

強烈な社会派無神論ブラックメタル/グラインドコア! Heathen Beastで学ぶ現代インドの政治と社会



コルカタ出身のブラックメタル/グラインドコアバンド、Heathen Beastが新しいアルバムをリリースした。
このニューアルバム"The Revolution Will Not Be Televised, But Heard"がすさまじい。
彼らはギター/ヴォーカルのCarvaka、ベースのSamkhya、ドラムスのMimamsaの3人からなるバンドなのだが、あまりにも激しすぎるその主張のために、本名やメンバー写真を公開せずに活動しているという穏やかでないバンドなのだ。
heathen_beast
(3人組のはずなのにアーティスト写真には4人の男のシルエットが写っているが、あまり気にしないようにしよう)

彼らの音楽について説明するには、まず彼らが演奏しているブラックメタルとグラインドコアというジャンルの説明が必要だろう。
ブラック・メタルというのは、ヘヴィメタルが元来持っていた、悪魔崇拝(サタニズム)的な要素をマジで取り入れた音楽のことだ。
もともとは、キリスト教的な道徳観への反抗の象徴だったサタニズムを純化させ、ヘヴィメタルの持つ地下宗教的な雰囲気を、過剰なまでに先鋭化させたジャンルがブラックメタルである。
一方のグラインドコアは、社会への不満がモチベーションになっているパンクロックをルーツに持つ。
グラインドコアは、パンクのサウンド面の激しさを強調した「ハードコア・パンク」の破壊衝動的な要素を、極限まで突き詰めたジャンルと言っていい。

どちらも極端にノイジーなサウンドに超高速なビート、そして絶叫するヴォーカルという点では共通しているが、そのルーツは、構築主義的なメタルとニヒリズム的なパンクという、全く異なるものなのだ。
今回紹介するHeathen Beastのサウンドは、その両方を標榜しているバンドで、彼らの音楽性は、ブラックメタルとグラインドコアを合わせた'Blackend Glind'と表現されることもあるようだ。

Heathen Beastのメンバーは、それぞれが無神論者であることを明言している。
「無宗教」(特定の信仰を選ばない)ではなく、神の存在そのものを明確に否定するという姿勢は、ヒンドゥーにしろイスラームにしろ、(シク教にしろ、ジャイナ教にしろ、キリスト教にしろ…以下続く)信仰が文化やコミュニティーの基盤となっているインド社会では、非常にラディカルなことである。
インドでは、「信仰」は、コミュニティーを結びつけ救いを与えてくれる反面、強すぎる絆や保守的な規範意識が、個人の意思の否定したり、差別的・排他的な感情を駆り立てたりするという負の側面も持っている。
インドで無神論を選ぶということは、単なる内面の問題ではなく、「信仰」に基づくコミュニティーで成り立っているインド社会を否定するという、非常に社会的(かつパンクロック的)な行為でもあるのだ。

彼らが宗教を否定するブラックメタルであると同時に、パンクロックを突き詰めたグラインドコアでもあるという所以である。

"The Revolution Will Not Be Televised, But Heard"には全部で12曲が収録されているが、このトラックリストがまたすさまじい。

1. Fuck C.A.A
2. Fuck N.P.R & N.R.C
3. Fuck Modi-Shah
4. Fuck The B.J.P
5. Fuck Your Self Proclaimed Godmen
6. Fuck Your Police Brutality
7. Fuck The R.S.S
8. Fuck You Godi Media
9. Fuck Your Whatsapp University
10. Fuck Your Hindu Rashtra
11. Fuck The Economy (Modi Already Has)
12. Fuck The Congress

と、すがすがしいほどにFワードが並んでいる。
彼らがfuckと叫んでいる対象をひとつひとつ見てゆくと、現代インドの政治や社会が抱えている課題を、とてもよく理解することができる。
というわけで、今回は、彼らのニューアルバムのタイトルを1曲ずつ紹介しながら、インドの政治と社会についてお勉強してみたい。

1曲めは、Fuck CAA.

シュプレヒ・コールのようなイントロと、ひたすら街頭デモの様子を映した映像から、彼らの社会派っぷりが分かるミュージックビデオだ。
CAA(Citizenship Amendment Act)すなわち「修正市民権法」とは、昨年12月11日に可決された法案のこと。
この法令は、インドに近隣諸国から移住してきたマイノリティーの人々に対して、適切に市民権をあたえるためのものとされているが、その対象からムスリムを除外していることから、インドの国是である政教分離に違反した差別的な法案だとして、大きな反対運動が巻き起こった。
いつもこのブログで紹介しているインディーミュージシャンたちも、そのほとんどがソーシャルメディア上でこの法案に反対する声明を出していたことは記憶に新しい。

2曲めは、Fuck NPR&NRC.

NPRとはNational Population Register(全国国民登録)、NRCとはNational Register of Citizen(国民登録制度)のことだ。
いずれも不法移民の取り締まりなどを目的として、インドの居住者全員を登録するという制度だが、これまで戸籍制度が整備されていなかったインドでは、国籍を証明する書類の不備などを理由にマイノリティーの人々が意図的に社会から排除されてしまうのではないか、という懸念が広がっている。
Heathen Beastはこれらの制度に強烈に異議を唱えているというわけだ。

3曲めは、Fuck Modi-Shah.

Modiはもちろんモディ首相のこと、Shahはモディ内閣で内務大臣を務めるアミット・シャーのことだ。
シャーは、モディ同様にヒンドゥー至上主義団体RSSの出身で、上記のCAA(修正市民権法)導入を主導した中心人物。
これは、Heathen Beastからの現政権の中枢に対する強烈な糾弾なのである。

さて、律儀に1曲ずつ聴いてくれた方はそろそろお気付きのことと思うが、彼らの音楽は全曲「こんな感じ」だ。
その硬派な姿勢はともかく、曲を聴くのはしんどい、という人は、ひとまず解説だけ読んでいただいて、曲を聴くのは体力があるときにしてもらっても、もちろん構わないです。


4曲めは、"Fuck The B.J.P."

BJPとは日本語で「インド人民党」と訳されるBharatiya Janata Partyのこと。
BJPは一般的にヒンドゥー至上主義政党と言われている。
インドは人口の8割がヒンドゥー教を信仰しているが、政教分離を国是としており、政治と宗教との間には一線を画してきた。
ところが、後述のRSSなどのヒンドゥー至上主義団体を支持母体とするBJPは、これまでに述べてきたようなヒンドゥー至上主義的・イスラーム嫌悪的な傾向が強いと指摘されている。
リベラルな思想を持つミュージシャンの中にも、その政策を激しく批判している者は多い。
例えば、以前特集したレゲエ・アーティストのDelhi Sultanateもその一人で、彼はサウンドシステムを用いて自由のためのメッセージを広めるという活動を繰り広げている。
その(ある意味ドン・キホーテ的でもある)活動の様子はこちらの記事からどうぞ。



5曲めの"Fuck Your Self Proclaimed Godmen"は、インドに多くいる「自称、神の化身」「自称、聖人」を糾弾するもの。

彼らが、本来の宗教者の役割として人々を精神的に導くだけでなく、宗教間の嫌悪や対立を煽ったり、高額な献金を募ったり、現世での不幸の原因をカルマ(前世からの因縁)によるものとしていることに対する批判だと理解して良いだろう。

6曲めの"Fuck Your Police Brutality"は文字通り、警察による理不尽な暴力行為を糾弾するもの。

歌詞を読めば、警察の暴力がマイノリティーであるムスリムや、抗議運動を繰り広げている人々に向けられているということがよく分かるはずだ。
昨今話題になっているBlack Lives Matter同様に、インドでもマイノリティーは偏見に基づく公権力の暴力の犠牲になりがちなのだ。


7曲めは"Fuck The R.S.S."

RSSとは民族義勇団と訳されるRashtriya Swayamsevak Sanghの略称だ。
1925年に医師のヘードゲワール(Keshav Baliram Hedgewar)によって設立されたRSSは、当初からヒンドゥー至上主義(インドはヒンドゥー教徒の国であるという主張)を掲げており、ヒンドゥーとムスリムの融和を掲げるガーンディーの暗殺を首謀したことで、一時期活動を禁止されていた歴史を持つ。
政権与党BJPの支持母体のひとつであり、その反イスラーム的な傾向が強いことが問題視されている。
(一方で、RSSは教育、就労支援、医療などの慈善活動も多く手掛けており、彼らが単なる排外主義団体ではないことは、中島岳志氏の『ヒンドゥー・ナショナリズム 印パ緊張の背景』に詳しい)

8曲めは"Fuck Your Godi Media".

Godi mediaというのは聞きなれない言葉だが、ヒンドゥー至上主義的、反イスラーム的(とくに反パキスタン)的な言説を流す傾向が高いメディアのことのようだ。

9曲めは"Fuck Your Whatsapp University".

また耳慣れない言葉が出てきたが、Whatsappは、インドで非常に普及しているメッセージ送受信や無料通話のできるスマートフォンアプリのこと(日本で言えばさしずめLINEだろう)で、4億人ものユーザーがいるという。
Whatsapp Universityというのは、Whatsappから流されてくる誤った情報やフェイクニュースのことを指す言葉のようだ。
こうした情報操作は、おもに現政権与党(つまりBJP)を賞賛するもの、与党に対立する組織や国家を非難するものが多いとされており、BJPは実際に900万人もの人員をWhatsappキャンペーンに動員していると報じられている。
一方で、野党も同じようなインターネットによる情報拡散要員を抱えているという指摘もあり、政権批判だけではなく、このような状況全体に対する問題視もされているという。
Whatsappが(誤った)知識や情報の伝達の場となっていることから'Whatsapp University'と呼ばれているようだが、ひょっとしたら客観的・批判的思考力を持たない卒業生を送り出し続けているインドの大学を揶揄しているという意味も含んでいるのかもしれない。

Godi MediaやWhatsapp UniversityはどちらもジャーナリストのRavish Kumarが提唱した用語である。
インドでは、政治的な主張をするジャーナリストの殺害がこれまでに何件も起こっており、彼もまた2015年から殺害をほのめかす脅迫を受けていることを明らかにしている。
暴力で言論や表現が弾圧されかねないこうした背景こそが、Heathen Beastが匿名でアルバムをリリースせざるを得ない事情なのである。

10曲めは"Fuck Your Hindu Rashtra".
'Hindu Rashtra'はヒンドゥー至上主義国家という意味のようだ。

11曲目は"Fuck The Economy (Modi Already Has)"
これはタイトルどおり、為政者と一部の人々にのみ富をもたらす資本主義経済を糾弾する曲。



そしてラストの12曲めは"Fuck the Congress".
ここで名指しされている"Congress"とは、なんと現最大野党である「国民会議派」のこと。

つまり、彼らは現政権与党BJPや、その背景にあるヒンドゥー至上主義的な傾向だけを糾弾しているわけではなく、インドの政治全般に対してことごとくNoを突きつけているのだ。
国民会議派は、インド独立運動で大きな役割を果たし、初代首相のネルーを輩出し、その後も長く政権を握った政党だが、独立以降、ネルーの娘であるインディラ・ガーンディーをはじめとする一族の人間がトップを取ることが多く、その血統主義は「ネルー・ガーンディー王朝」と呼ばれている。
政権与党時代から、インディラ時代の強権的な政治手法や大企業との結びつきを批判されることも多く、今日においても、ヒンドゥー至上主義的な与党のカウンターとして全面的に支持することができないという人は多いようだ。
昨今の国民会議派は、BJPの支持層を取り込むために、対外的にBJP以上にタカ派の方針を表明することもあり、そうした傾向に対する不満を訴えている可能性もあるのだが、何しろ歌詞が聞き取れないのでよく分からない。

…というわけで、Heathen Beastがその激しすぎるサウンドで、何に対して怒りをぶちまけているのかを、ざっと解説してみた。
彼らはコルカタ出身のバンドである。
彼らのこの真摯なまでの社会性は、独立運動の拠点のひとつであり、その後も(暴力的・非合法的なものを含めて)さまざまな社会運動の舞台となってきたコルカタの文化的風土と無縁ではないだろう。
独立闘争の英雄チャンドラ・ボースを生み、ナクサライトのような革命運動の発祥の地である西ベンガルでは、人々(とくに若者たち)はデモやフォークソングを通して、常に社会や政治に対して強烈な意義申し立てを行ってきた。

Heathen Beastは、単に現政権やヒンドゥー教を糾弾するだけのバンドではない。
今回のアルバムでは、ヒンドゥー・ナショナリズム的な政治を批判する傾向が強いが、彼らが2012年にリリースした"Bakras To The Slaughter"では、イスラーム教がヤギを犠牲とすることを激しく批判している。
何しろ彼らは、"Fuck All Religions Equally"という曲すら演奏しているほどなのだ。

彼らには珍しく、サウンド的にもタブラの音色などインドの要素が入った面白い曲だ。
こうした曲を聴けば、彼らの怒りが、迷信に基づいたものや、人間や生命の尊厳を脅かしたりするものであれば、あらゆる方向に向いているということが分かるだろう。

Heathen Beastの激しすぎる主張を批判することは簡単だろう。
批判ばかりで代案がないとか、彼らが糾弾している対象にも(差別や排外主義は論外としても)それなりの理由や言い分があるとか、そもそもこの音楽と歌い方じゃあ立派な主張もほとんど伝わらない、とか、ツッコミどころはいくらでもある。

それでも、彼らがこういう音楽を通して怒りを率直に表明しているということや、匿名とはいえこうしたことを表明できる社会であるということは、ものすごく真っ当で、正しいことだと思うのだ。
そもそも、ここまで政治や社会に対して直球で怒りをぶつけているパンクロックバンドなんて、いまどき世界中を探してもほとんどいないんじゃないだろうか?
こうした怒りの表明は、ヒップホップのようなより現代的な音楽ジャンルでも、もっとジャーナリスティックなやり方でも、より文学的な表現でもできるかもしれないが、やはりヘヴィメタルやパンクロックでしか表せない感覚というものは、確実に存在する。
ブラックメタルやハードコアのサブジャンルが細分化し、伝統芸能化、スポーツ化(単に暴れるためだけの激しい音楽となっている)してしまって久しいが、彼らのこの大真面目な姿勢に、私はちょっと感動してしまった。

Heathen Beastがテーマにしているのは、彼らがまさに今直面しているインド国内の問題だが、インド人のみならず、ミュージシャンが政治性を持つことを頑なに排除しようとする国の人(あと、そもそも政治性のある音楽を認めていない国の偉い人)も、彼らの音楽を聴いて姿勢を正してほしいと心から思う。

いや、彼らの音楽で姿勢を正すのは変だな。
モッシュするなりダイブするなり好きなように暴れて、それからじっくり考えてみてほしい。


Spirit of Punk Rock is STILL ALIVE in India!
Azadi! (Freedom!)


参考サイト:
https://thoseonceloyal.wordpress.com/2020/05/27/review-heathen-beast-the-revolution-will-not-be-televised-but-it-will-be-heard/ 

https://en.wikipedia.org/wiki/Citizenship_(Amendment)_Act,_2019

https://www.news18.com/news/india/what-is-npr-is-it-linked-to-nrc-all-you-need-to-know-about-the-exercise-2461799.html 

https://cyberblogindia.in/the-great-indian-whatsapp-university/



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2020年03月05日

インドのメタル系フェスの最高峰!Bangalore Open Air

たびたびこのブログでも書いている通り、インドでは多くの音楽フェスティバルが開催されている。
もともとお祭り好き、踊り好き、音楽好きの多い国民性に加えて、インターネットの発展にともなって多様なジャンルのリスナーが育ってきたこと、経済成長によって欧米の人気アーティストを招聘できるようになったこと、自国のインディーミュージシャンが増えてきたことなどが、インドのフェス文化隆盛の理由と言えるだろう。

これまでに紹介してきたNH7 WeekenderやZiro Festivalのように、さまざまなジャンルのアーティストが出演するフェスもあれば、大規模EDMフェスのSunburnや古城を舞台にしたMagnetic Fieldsのように、エレクトロニック系に特化したものもある。





さて、インドで根強い人気を誇っている音楽ジャンルとして、忘れてはならないのがヘヴィメタルだ。
ヘヴィメタルに熱狂するインド人を見たのは、この2007年のIron Maidenのバンガロール公演が最初だった。
彼らの全盛期だった80年代にはまったくロックが浸透していなかったにも関わらず、これだけたくさんのMaidenのファンがインドにいることに、ずいぶん驚いたものだった。


インドのメタルファンたちは、海外のバンドに熱狂するだけではない。
ムンバイやバンガロールのような大都市は言うに及ばず、キリスト教徒が多く、欧米の文化への親和性の高い南部ケーララ州やインド北東部にも、数多くのヘヴィメタルバンドが存在しているのだ。
(詳しくは、このカテゴリーで紹介している)


その中には、GutslitやAmorphiaのように、小規模ながらも来日公演を行ったバンドもいるし、Demonic ResurrectionやAgainst Evilといったヨーロッパツアーを成功させているバンドもいる。
そんな知られざるヘヴィメタル大国であるインドには、当然メタル系のフェスも存在していて、その頂点に君臨しているフェスが、今回紹介するBangalore Open Air(BOA)なのである。

このBOAは2012年にドイツの大御所スラッシュメタルバンド、Kreatorをヘッドライナーに第1回が行われ、以降、毎年Iced Earth, Destruction, Napalm Death, Vader, Overkillといった海外のベテランバンドをヘッドライナーに、インドのバンドも多数参加して、大いに盛り上がっている。

これはDestructionがトリを務めた2014年のフェスの様子。
インドからも、シッキム州のハードロックバンドGirish and Chroniclesや、正統派メタルサウンドにスラッシュメタル風のヴォーカルが乗るKryptosらが参加。
ときにモッシュピットも巻き起こるほどに盛り上がっている。


昨年のBOAの様子を見ると、5年間で会場の規模もぐっと大きくなっているのがわかる。


さて、このフェスの'Open Air'という名称にピンと来たあなたは、結構なメタルヘッズですね。
そう、このBOAでは、ヘヴィメタルの本場のひとつ、ドイツで行われている超巨大メタルフェス、Wacken Open Air(通称ヴァッケン、またはW:O:A)に参加するための南アジアのバンドのコンテストであるWacken Metal Battleの南アジアの決勝戦も行われているのだ。

BOA開催に先駆けた2011年から、インドからは毎年W:O:Aにバンドを送り込んでいる。
というわけで、ここではこれまでW:O:Aに参加したインドのバンドたちを紹介してみたい。
(デスメタルばかりなので食傷気味になるかもしれない)

まずは2011年にW:O:Aにインドから初参加を果たしたバンガロールのデス/メタルコアバンド、Eccentric Pendulum.
彼らは2018年にもW:O:A参戦を果たしている。


2012年に参加したのはムンバイのスラッシュ/グルーヴメタルバンドZygnema.


1998年結成のバンガロールのベテランKryptosは、2013年と2017年にW:O:A参戦を果たしている。


2014年のW:O:AにはムンバイのシンフォニックデスメタルバンドDemonic Resurrecrtionと北東部メガラヤ州シロンのPlague Throatの2バンドがインドから参加している。



2015年には同じく北東部から紅茶で有名なダージリンのデスメタルバンドSycoraxが出演。


2018年にはハイデラバードのGodlessが、2019年にはニューデリー出身のパロディバンド的な要素もあるBloodywoodがW:O:Aに参戦している。


同じようなメタルバンドがたくさん出演するフェスだからだと思うが、やはり類型的なデスメタルやメタルコアよりも、インドの要素が入った個性的なバンドの方が受け入れられやすいようで、オーディエンスの反応はBloodywoodが群を抜いて盛り上がっている。
インド国内のメタルファンは、自国の代表として正統派のメタルバンドを推したいのかもしれないが、海外のオーディエンスからすると、いかにもインドらしいバンドのほうが個性的で魅力的に感じられるというミスマッチがあるようにも思えるが、どうだろう。

2020年のBangalore Open Airは3月21日に開催され、スウェーデンのブラックメタルバンドMardukがヘッドライナーを務めるようだ。
インドからはDown Troddenceが出演する。
BOA2020
BOA2020battle

BOAに先立って、19日にはWacken Metal Battleのインド地区の決勝が、そして20日にはインド亜大陸の決勝が行われる。
果たして今年はどんなバンドがW:O:Aへのチケットを手に入れるのだろうか。

インドでも新型コロナウイルスの感染者が出てきており、デリーではホーリーに合わせて行われるフェスが中止になったりしているが、インドではフェスシーズンの大詰め。
BOAをはじめとするフェスが無事に行われることを願っている。


関連記事:



インドらしいメタルサウンドといえば、シタール・メタルやPineapple ExpressあたりもW:O:Aに出演したら盛り上がると思うんだけど。





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2019年10月12日

インド北東部のRage Against The Machine! アッサム州のラップメタルバンド、Ambushによる闘争の音楽



「J-Popバンド」「ボブ・ディラン」と続いた「インド北東部に○○がいた」シリーズ。
今回の第3弾は、前回のボブ・ディランとはうってかわって、90年代から活躍するアメリカのヘヴィロック/ラップメタルバンド Rage Against The Machine(以下RATM)だ。

RATMをご存じない方のために簡単に説明しておく。
1991年にロサンゼルスで結成されたRATMは、レッド・ツェッペリンを想起させるリフとヘヴィなグルーヴに歯切れの良いラップを融合した斬新な音楽性で、90年代に高い人気を集めたヘヴィロックバンドだ。
彼らの代表曲、"Killing In The Name"はこんな感じ。


RATMが特徴的なのは、そのサウンドだけではなかった。
彼らはとことん政治的・社会的なテーマを追求したバンドで、1992年にリリースされたファーストアルバムのジャケットには、アメリカ政府の傀儡政権であった南ベトナム政権下で1964年に抗議の焼身自殺を行った仏教僧の写真を採用した。
マルコムXやチェ・ゲバラらに影響を受けた彼らは、アメリカの覇権主義や資本主義の暴走、そして体制によるあらゆる人権侵害への抗議を表明し、その政治的な思想を鮮明にした活動でも注目を浴びた。
この"Sleep Now In The Fire"のミュージックビデオは、なんとニューヨーク証券取引所前でのゲリラ撮影という攻めっぷりだ。
 
監督は『ボウリング・フォー・コロンバイン』などで知られるマイケル・ムーア。
この頃(99年)彼らはすでに世界中のフェスでトリを務めるような大人気バンドだったが、そのラディカルな姿勢は一向に衰えなかった。

日本で最も知られている曲は、この"Guerrilla Radio"だろう。

総合格闘技"PRIDE"のテーマ曲として有名なこの曲は、当時のブッシュとゴアによる選挙戦を皮肉り、権力者による大衆の支配を糾弾した内容だ。
RATMの政治的・社会的なメッセージは、SlipknotやKORNといった同世代のヘヴィロックバンドがより内面的・個人的なテーマを扱ったのとは対照的で、サウンドだけでなく思想的な面でも、多くのアーティストに影響を与えた。

ついついRATMについての説明が長くなったが、これでもう前回の記事をお読みになった方にはお分りいただけただろう。
独立運動を封じ込めるという名目で、AFSPA(軍事特別法)のもとで令状なしでの拘束や暴力にさらされてきたインド北東部の人々が、RATMの怒りを込めたアジテーションに惹かれるのは、当然というよりも、もはや必然なのだ。
 
ロサンゼルスから遠く離れたインド北東部で、サウンドとアティテュードの両面でRATMの強い影響を受けたバンドが2015年に産声を上げた。
アッサム州Karbi Anglong地区の都市、Diphuの若者たちによって結成されたバンド、Ambushである。
彼らが地元Anglong地区の状況をテーマにした"Bleeding Anglong"をさっそく聴いてみよう。

ご覧の通り、サウンドも、闘争の様子を撮影したミュージックビデオも、驚くほどRATMにそっくりだ。

彼らのFacebookページによると、Anglong地区は「持つもの」と「持たざるもの」に分断されており、「持たざるもの」出身である彼らは、音源発表後も自分たちの楽器を持っておらず、 借りものの楽器で演奏していたという。
この曲のテーマは、かつては平和で美しかった故郷が、AFSPAのもと暴力が横行する地になってしまったことにたいする強烈なプロテストである。

この"9mm"は、彼らの地元でささいな理由で繰り返されるストライキや、暴力の犠牲となった無実の人々について歌ったもの。



Ambushは、自分たちを「声なき者たちの声を表現するために結成された」「彼らの社会や地域で起こっているあらゆる悪に対する革命」であると定義しており、「'Fake encounter'(テロの被疑者に対する治安維持勢力による証拠なき殺人)や政府の腐敗に対する反対」を表明している。
彼らの声明は力強い。
「みんなに言いたいのは、奴らが俺たちを銃弾で黙らせることはできないということだ。俺たちは勇敢で、死ぬことも恐れてはいない。全ての仲間たちよ、立ち上がり、団結する時だ。拳を上げろ!」
(いずれも、Facebookのページより)

彼らは、サウンドだけでなく、反権力、平和、反戦を強く訴えるというアティテュードまでRATMに瓜二つだが、彼らが表現している内容は、コピーやフェイクではなく、これ以上ないほどにリアルなものなのだ。
 
アコースティックギターに乗せて語りかけるように歌うボブ・ディランから、強烈なグルーヴとリフに乗せて不正義を糾弾するRATMまで、あらゆるスタイルの「カウンターカルチャーとしてのロック」が、インド北東部には根づいている。
これは、ムンバイのスラムのラッパーたちが、アメリカの抑圧された黒人たちに共感してヒップホップを始めたのと同様に、北東部のロックミュージシャンたちが、ディランやRATMが訴えた社会的・政治的メッセージに自分たちの環境を重ね合わせ、心を動かされたからに違いない。
こうした現象は、音楽的には面白いが、まずは暴力や不正義がはびこる北東部の状況が一刻も早く改善されることを願うばかりである。

以前、こうした北東部の状況について、現地在住の音楽ジャーナリストから話を聞いてブログに書こうとしたときに、彼から「北東部の状況は本当にデリケートなんだ。よく調べて、気をつけて書いてくれ。俺が話したということで、逮捕されることだってありうる」と言われたことがある。
日本人が日本語でブログに書いたことがきっかけで、インドのジャーナリストが逮捕されるようなことが本当にあるのかどうかは分からないが、少なくともそれくらい気をつける必要がある状況ということなのだろう。

日本ではほとんど情報が入ってこないインド北東部だが、北東部の人々が演奏する音楽を通して、楽しい気持ちにも、厳しい状況にも、少しでも心を寄せることができたらと思う。
これからも、このブログではインド北東部の音楽を硬軟あわせていろいろと紹介してゆきます。


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2019年08月04日

世界に進出するインドのメタルバンド!

前回の記事で、ケーララ州のスラッシュメタルバンドAmorphiaの日本ツアーの話題をお届けした。
7月5日付の'Rolling Stone India'電子版の記事によると、今年(2019年)はインドのメタルバンドが今までになく国際的に大活躍している年だそうで、9月までに9つのバンドの海外ツアーが行われるという。

2月のAmorphiaの日本ツアーに続いて、3〜4月には、ムンバイのメタルバンドZygnemaが東欧からフランスまでヨーロッパ9か国、16都市を巡るツアーを敢行した。 
Zygnemaは2006年に結成されたスラッシュ/グルーヴメタルバンドで、これまでにもドイツ(メタル系の巨大フェスティバルWacken Open Airへの出演)やノルウェー、タイ、ドバイなどへのツアー経験がある。

2013年のWackenでのライブ映像

セパルトゥラやパンテラといった大御所バンドを思わせるサウンドで、メタルの本場のオーディエンスを盛り上げている。
新曲の"I Am Nothing"は女性への性暴力を告発した内容。
社会派バンドとしての側面もある。


ところでこのZygnemaというバンド名、重々しくていかにもメタルバンドらしい響きだけど、どんな意味だろうと思って調べてみたら、「ホシミドロ」っていう藻みたいな植物の名前だった。
藻っていうのはどうなんだろうね、メタルのバンド名として。
 

ムンバイのスラッシュメタルバンド、Systemhouse 33は、イスラエルのバンドOrphaned Landと西ヨーロッパ7か国20都市を4月にツアーした。

彼らもまた2003年に結成された老舗バンドで、ボーカリストのSamron Jodeは、以前このブログでも紹介したシタールをフィーチャーしたエレクトロニックメタルバンドParatraのギタリストとしても昨年秋にヨーロッパツアーをしたばかり。
Systemhouse 33はピュアなメタルバンドだが、Paratraではかなりダンスミュージック寄りの全く異なるアプローチを聴かせている。
(参考記事:「混ぜるな危険!(ヘヴィーメタルとインド古典音楽を) インドで生まれた新ジャンル、シタール・メタルとは一体何なのか」


昨年来日した黒ターバンのベーシストGurdip Singh Narangが率いるムンバイのブルータルデスメタルバンドGutslitは、アメリカのベテランバンドDying Fetusのサポート公演を含むドイツや東欧を中心としたツアーを7月に行ったばかり。

王道のデスメタルサウンドを演奏しつつも、見た目に分かりやすいインド人の要素もある(メタルだけにターバンの色は必ず黒!)彼らは、ビジュアル戦略にも非常に長けたバンドだ。
彼らは典型的なメタルバンドの枠に収まらないかなりユニークなセンスを持っていて、例えば彼らの新しいビジュアルイメージは、ピンク色を基調にしたメルヘンチックなテイストの、ツノがチェーンソーになったかわいらしくも残酷なユニコーンのイラストだ。
Gutslit_Unicorn
デザインしたのはドラマーのAaron Pinto.
かつてこのバンドのスタイリッシュなカートゥーン調のミュージックビデオを手がけたこともある、稀有なセンスの持ち主である。


バンガロールで1998年に結成されたベテランバンドKryptosは、7月にいくつかの野外フェスティバルへの出演を含めたドイツツアーを実施。
彼らも2013年と2017年にWacken Open Airに出演したことがある。
彼らのサウンドは、1980年代を彷彿させるのオールドスクールなメタルサウンドに、デス/スラッシュメタル的なヴォーカルが乗ったもの。


こちらは今年発売のアルバム。

意図的にB級感を狙ったこのアルバムジャケットは彼らのサウンドにぴったりで、彼らもなかなかのビジュアルセンスを持っているようだ。


南インドの伝統音楽とメタルを融合したプログレッシブ・カルナーティック・フュージョンを掲げるProject Mishramは、7月にイギリス公演を行ったばかり。
彼らはツインギターにフルートとバイオリン奏者を含むバンガロール出身の7人組バンドだ。

ラップメタル的に始まる楽曲だが、古典声楽風のボーカルが入ってくると空気感が一変して、一気にインドの大地に連れて行かれてしまう。
変拍子や複雑なキメの多いインド古典音楽は、プログレッシブ・メタルとの親和性が高く、彼らの他にもParadigm Shift, Agam, Pineapple Expressらがフュージョン・メタルの世界で活躍している。

ボリウッドをもじったバンド名のBloodywoodsはWacken Open Airでの公演を含むツアーを7月〜8月にかけて実施。
ドイツ、イギリス、フランス、ロシアを巡るこのツアータイトルは、その名もRaj Against The Machine.
言うまでもなく、これは90年代から活躍するアメリカの政治的ラップメタルバンドRage Against The Machineのパロディーだ。
これはインドのフォーク(民謡)メタルを標榜する彼らが、春の訪れとともに色粉をぶっかけあうお祭り「ホーリー」をテーマにした楽曲。

当初はインドの要素を取り入れたパロディ/コミックバンド的なイメージで活動していたが、思いのほか本格的なサウンドが評価されてしまい(日本でもすでにいくつかのブログやメディアで紹介されている)、最近ではメンタルヘルスをテーマにしたシリアスな楽曲も発表している。



インド南東部アーンドラ・プラデーシュ州の港町Visakhapatnam出身の正統派パワーメタルバンドAgainst Evilは、ドイツのDoc Gator Recordsと契約し、8月にドイツ、オーストリア、ベルギー、スイスを巡るツアーを実施する。

このツアーは、おもにドイツのメタルファンによるクラウドファンディングによって実現することになったもので、国境を超えたメタルコミュニティーのサポート力を感じさせられる。


お隣テランガナ州の州都ハイデラバードのデスメタルバンドGodlessは9月にドイツのバンドDivideとともにヨーロッパ8カ国を回るツアーを実施。
彼らも昨年、Wacken Open Airへの出演を果たしている。



と、2019年はこれだけのヘヴィーメタルバンドが海外に飛躍する年になった。
記事にも書いたように、インドのメタルバンドの海外進出は急に始まったものではなく、これまでもフェスティバルへの出演などを含めたヨーロッパツアーはいくつものバンドが行なっている。
2008年にはすでにRolling Stone India紙でインドのメタルシーンの興隆についての特集記事が掲載されており、インドでのヘヴィーメタルブームは一過性のものではなく、完全に定着していると言えるだろう。
世界的には「知られざるメタル大国」だったインドのバンドの実力に、徐々に世界中が気づいて来ているのだ。
今回同誌に紹介されていた以外にも、これまでに海外ツアーを実施したバンドは複数おり、ムンバイのシンフォニック・デスメタルバンド、Demonic Resurrectionは、2014年にWacken, 2018年にイギリスのBloodstock Festivalに出演しており、今年も8月から9月にかけてイギリスツアーを行うなど積極的に海外で活動している。


世界最大級のメタル系フェスティバルであるドイツのWacken Open Airに出演したインドのバンドは多く、バンガロールのEc{c}entric Pendulumや北東部メガラヤ州のPlague Throat(ともにデスメタル)もそれぞれ2011年と2014年に同フェスへの参加を果たしている。




また、インド系アメリカ人を含むSkyharborは、昨年、Babymetalのサポートに起用され、アメリカをともにツアーした。


フェスティバルのヘッドライナーを務めるような大物バンドはまだインドから出て来ていないが、どのバンドも演奏能力が高く、各ジャンルの特徴を余すところなく表現できている。
インドのメタルバンドのポテンシャルは想像以上に高いということがお分かりいただけるだろう

以前、映画『ガリーボーイ』をきっかけに、ストリートのラッパーたちがメジャーシーンでも注目されるようになり、インドのヒップホップシーンが大いに活性化してきていることを紹介した。
これまで夢や希望が持てなかったスラムに暮らす若者たちが、ヒップホップを通して名を挙げ、スターになることすらできる時代がやってきたのだ。
前回も書いたように、ヘヴィーメタルはヒップホップに比べて、言語よりもサウンドが重視されるため、優れた楽曲と演奏能力さえあれば、インド国内のみならず海外での評価もされやすいジャンルだ。
スラム出身でも、ラッパーとして評価されればインドのスターになれるように、ヘヴィーメタルバンドとして評価されれば、国籍に関係なく世界をツアーできる時代がやってきた。
新たにバンドを結成するインドの若者たちにとっても、これは嬉しいニュースだろう。
インドのヘヴィーメタルの勢いは、まだまだ続きそうだ。



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goshimasayama18 at 14:16|PermalinkComments(0)

2019年07月30日

インドのメタルバンドが知らないうちに来日して帰国していた件。そして一方インドでは…

まったく気がつかなかったのだが、2月にインド南部ケーララ州出身のスラッシュメタルバンドが来日公演を行っていた。
来日したのは、2018年にデビューしたAmorphiaという3ピースバンドで、大阪で開催された'True Thrash Festival'への出演を含む5公演を行ったらしい。
(と、'Rolling Stone India'の記事にあったが、調べた限りでは2/9の江坂Museでの'True Thrash Festival', 2/16高円寺DeLive, 2/17両国Sunrizeの3公演の情報しか見つけることができなかった。まあとにかく、大阪と東京でライブを行ったことは間違いない)

新鋭バンドにもかかわらず、彼らは'Old School Thrash Metal'を自称しており、1980年代〜90年ごろを彷彿とさせるサウンドを信条としているようだ。
インドのメタルバンドはそれなりにチェックしていたつもりだったのだが、正直に言うと彼らのことは全く知らなかった。

 

大阪で行われたスラッシュメタルのイベントTrue Thrash Festivalでは、オーストラリアのHidden Intent, 中国のAncestor, フィンランドのBonehunter, そして主催者でもある日本のRivergeらと共演。
しれっと書いたが、またしても正直に言うと、ここにも知っているバンドはひとつもない。
これまでも何度か書いてきたように、コアな音楽であればあるほど、国籍や国境は意味をなさなくなる。
スラッシュ/デスメタルやハードコアパンクは、どこの国でも決してメインストリームではないが、根強いファンが必ず一定数はいるジャンルだ。
ロック以外では、レゲエやサイケデリックトランスなどにも同様の傾向があるように思う。
記号的とも言えるほどに特徴的なスタイルやリズムを持つ音楽ジャンルは、歌詞ではなくサウンドを重視するファンが多いため、国境や言語を超えた受容がされやすい。
また、1カ国あたりのマーケットも小さいために、アーティストやリスナーが国境を越えたファンベースを形成する傾向もあるのだろう。
(逆に、国境を超えたヒットが最も難しいジャンルが、国内に十分な大きさのマーケットがあり、歌詞の内容が大きな意味を持つ非英語圏のポップスやヒップホップではないだろうか)

Amorphiaの日本ツアーの様子を記録したこの映像を見ると、ステージダイブが続出する熱いライブを繰り広げながらも、オフにはたこ焼きを食べたり、奈良を観光したり、アイドルのフリーライブを楽しんだりと日本滞在を満喫したようだ。

ホテルの浴衣を着てふざけている姿が微笑ましい。

日本ツアーのライブの中から、スラッシュ・メタル界を代表するバンドで、つい先ごろ引退を表明したSlayerのカバー曲"Black Magic".

ところで、ベーシストが見当たらないけど、どこにいるのだろうか。

知られざるメタル大国、インドにはスラッシュメタルバンドも大勢おり、有名どころでは同郷ケーララのChaosや、ベテランのBrahma(現在の活動状況は不明)らがいるが、今回のAmorphiaの来日公演はこうした先輩バンドに先がけてのものとなった。
(インドのスラッシュメタルバンドについては、YouTubeのこちらの動画でたっぷり紹介されているので興味のある方はご覧ください)

改めて感じたのは、このインターネットで世界中が繋がった時代にマニアックな音楽を演奏するミュージシャンついて語る場合、もはや「インドのバンド」とか「どこの国のバンド」という出身地に関する情報は、ほとんど無意味なのではないだろうかということだ。
実際、ツアー中の彼らの様子を見ると、じつに正しくアンダーグラウンドロッカー然としていて、見てくれ以外に彼らがインド人だと感じさせられる場面は全くない。
(唯一、11:40あたりから、ペットボトルに口をつけずに飲むインド人独特の飲み方をしているところ以外は!)

そういえば、こういうブログを始める前は、私もメタルやエレクトロニック系の音楽を聴くときにはアーティストの国籍はあんまり気にしていなかった。
それなのに、インドの音楽シーンにばかり注目しているうちに、無意識のうちに「国籍フィルター」をかけて見るようになっていたらしい。
どういうことかと言うと、「インドのメタルバンドはレベルは高いけど、日本での知名度は低いし、来日はまずないだろう。もし来日するなら必ず自分のアンテナに引っかかるはず」という妙な思い込みがあったのだ。
ところが、一般的な知名度なんか関係なく、Amorphiaの音楽を評価して招聘した人がいて、きちんとライブも盛り上がっていたのだから、スラッシュメタルファンの情報網と慧眼には恐れ入った。
彼らのライブを見れば分かる通り「分かるやつだけ分かればいいが、分かるやつには必ず分かる」クオリティーが彼らにはあり、ファンもそれを熱狂的に受け入れていた。
これで昨年のデスメタルバンドGutslitに続いて、2年連続でインドのエクストリーム・メタル勢が来日したことになる。
いずれにしても、インドもまた、ヨーロッパや南北アメリカ、オセアニアや東アジアのように、いつハードコアなジャンルの優れたアーティストが出てきても不思議ではない時代に入ったということなのだろう。

一方で、インドでは7月25〜28日にかけて、日本人音響アーティストのYosi Horikawaがデリー、ハイデラバード、バンガロール、ムンバイの4都市を巡るツアーを行ったばかり。
彼は、自然や日常のサウンドを再構築して音楽を組み立てているアーティストで、やはりメインストリームの音楽からは大きく離れた活動をしている。
(音楽的にほぼ様式化されているスラッシュメタルとは、全く異なるジャンルだが)



これまでも、MonoDaisuke Tababe, DJ Nobu, Wata Igarashiなど、一般的な知名度ではなく、それぞれのジャンルで国際的な評価の高い日本人アーティストの招聘を行ってきたインドの音楽業界だが、今回もそのセンスの良さを改めて見せつけられた。
このYosi Horikawaも、「日本の音楽シーンを代表するアーティストとして」というより、「世界的に活躍する先鋭的なアーティストとして」インドでの公演を行ったはずである。
国籍に関係なく、こうした実験的かつ個性的な音楽のリスナーがきちんとインドにいて、招聘するプロモーターがいるということに、インドのシーンの成熟を改めて感じさせられた。
(ちなみにメタルバンドでは、数年前に埼玉のデスメタルバンド兀突骨がインド・ネパールツアーを行ったことが記憶に新しい)

今回紹介したのは、まさに音楽のグローバリゼーションを感じさせられる事例だが、こうした国境や国籍を無意味化するような流れの一方で、インドのローカルなシーンがよりユニークに発展してきているというのは、いつもこのブログで紹介している通り。
インドの音楽シーンは、グローバル化の影響を受けて、ますます面白いことになってきているのだ。
次はインドから誰が来日して、日本から誰がインドツアーを行うのか、非常に楽しみだ。

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2019年05月19日

混ぜるな危険!(ヘヴィーメタルとインド古典音楽を) インドで生まれた新ジャンル、シタール・メタルとは一体何なのか


突然だが、みなさんは「インド音楽」と聞いて何を想像するだろうか。
今日では歌って踊る映画音楽が広く知られているが、インド映画が広く知られるようになる前であれば、インドの音楽といえば、古典楽器シタールの調べを思い浮かべる人が多かったはずである。
悠久の時間を感じさせるゆるやかなリズムの上を、異国情緒たっぷりの音色がたゆたうような旋律を奏でる。
そんなシタールの響きは、当時の人々がインドに抱いていた神秘的なイメージにぴったりだった。
(実際はインドの古典音楽は結構激しかったりするんだけど)

シタールは、古参のロックファンにとっては、60年代にジョージ・ハリスンやブライアン・ジョーンズがバンドサウンドにサイケデリックな響きを導入するために演奏した楽器としても有名だ。

1967年のモントレー・ポップでのラヴィ・シャンカルの演奏を聴けば、インド古典音楽(これはヒンドゥスターニー音楽)がロックファンをも魅了するダイナミズムと美しさ、そして即興の妙を持っていることが分かるだろう。

モントレー・ポップ・フェスティバルから五十余年。
いつもこのブログに書いているように、インドの音楽シーンも激変した。
そして今、かつてロックファンを虜にしたシタールの音色を、あろうことかロックのなかでも最も激しくうるさい音楽であるヘヴィーメタルと融合したバンドが登場したのである。
それも、1バンドだけではなく、複数のバンドがほぼ同時に出てきたというから驚かされる。
というわけで、今回は、インドだけが成し得た究極のキメラ・ミュージック、「シタール・メタル」を紹介します。

まず最初に紹介するバンドはMute The Saint.
古典音楽一家に生まれたシタール奏者Rishabh Seenを中心とするプロジェクトである。
2016年にリリースされたファーストアルバムから、"Sound of Scars".(曲は45秒あたりから)
 
ものすごいインパクト。
 速弾きから始まり、リフを弾いているあたりまでは、ギター風のフレーズを単にシタールで弾いているだけのような印象を受けるが、シタール特有の大きなベンディングやビブラートが入った旋律を演奏し始めると、曲の雰囲気は激変する。
硬質なメタルサウンドのうえで波打つようなシタールの響きが、唯一無二な音世界を作り上げているのが分かるだろう。
直線的なギターの音色と大きな波を描くシタールの対比も面白い。
この1曲だけで、シタールという楽器の特性と可能性を十分すぎるほどに理解できるはずだ。 

インド人のリズム隊とアメリカ人のギタリストに声をかけて制作されたこのアルバムは、なんとメンバーが一度も顔を合わせずに作られたという。
それぞれの場所で演奏するメンバー4人を映したこの"The Fall Of Sirius"では、より古典音楽色の強いシタールを聴かせてくれている。


Rishabh Seenは、もともと大好きだったMeshuggahやAnimals As Leadersといったテクニカルなメタルバンドの曲をシタールでカバーして、インターネット上で注目を集めていた。

Rishabhは、ムンバイのシンフォニック・デスメタルバンドDemonic Resurrectionによるヴィシュヌ神の転生をテーマにしたアルバム"Dashavatar"でもシタールを披露している。
インド広しと言えども、ヘヴィーメタルに合わせてシタールを弾くことに関しては間違いなく彼が第一人者だろう。
「メタルdeクッキング!メキシコ料理編(しかも健康に良い) Demonic Resurrection!」この記事で紹介している"Matsya"のシタールがRishabによるものだ。余談だがDemonic ResurrectionのヴォーカリストDemonstealerは料理番組の司会者兼料理人も務めている変わり種。興味がある方はご一読を)

そんなRishabが、満を持して自分のやりたい音楽、すなわちシタールとヘヴィーメタルの融合のために始めたプロジェクトが、このMute The Saintということになる。
彼らについては、日本の音楽サイト"Marunouchi Muzik Magazine"が非常に丁寧に紹介とインタビューを行なっているので、詳しく知りたい方はぜひこちらを参照してほしい。
Marunouchi Muzik Magazine 'NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MUTE THE SAINT : MUTE THE SAINT】'
彼が「音楽的にはメロディック、リズム的にはダイナミック」と指摘するインド古典音楽とプログレッシブ・メタルの共通点は、インドでプログレッシブ系のロック(ポストロックやマスロックなどを含めて)が盛んな理由を読み解く鍵といえるかもしれない。
例えば、ソロの応酬や変拍子のキメ、深遠な精神性など、インドの古典音楽とプログレッシブ・ロックには、意外にも共通する特徴がいくつもあるのだ。
余談だが、このMarunouchi Muzik Magazineはヘヴィーミュージックを中心に多くのアーティストを紹介しており、以前当ブログでも紹介したプログレッシブメタル/インド古典音楽/ジャズ/EDMを融合した超絶バンドPineapple Expressにもインタビューを行うなど、インド方面にもかなり目配りが効いた内容になっている。
この手の音楽が好きな方はぜひチェックしてみるとよいだろう。

Rishabhが現在取り組んでいるバンドの名前は、その名もずばりSitar Metal.
音源のリリースこそまだしていないが、アメリカの技巧派インストゥルメンタル・ロックバンドPolyphiaのインド公演のサポートを務めるなど、早くも注目を集めている。

「リミットレスなインドの楽器シタールをフロントに据え、ヒンドゥスターニー音楽とヘヴィーメタルの融合を目指す世界初のバンド」というコンセプトのもと、今回は遠隔地のミュージシャンたちによるプロジェクトではなく、ライブパフォーマンスも行うバンドとして活動をしてゆくようだ。

古典音楽のエリートがここまでヘヴィーメタルに入れ込むというのはかなり突飛な印象を受けるが、Talvin SinghやKarsh Kaleといったタブラ奏者たちが「究極のリズム音楽」であるドラムンベース的なアプローチでエレクトロニカに挑戦したことを考えれば、シタール奏者が「究極の弦楽器音楽」であるヘヴィーメタルに取り組むというのも十分に理解できるような気がしないでもない。
(ここでいう「究極」は「音数が多い」という意味と理解してください。ちなみにRishabhはそのTalvin Singhとの共演を行うなど、メタル界にとどまらないジャンルレスな活躍をしている)
Sitar Metalは2019年にはアルバムリリースも予定されており、今年もっとも活躍が楽しみなアーティストのひとつだ。


もうひとつ紹介するバンドはParatra.
Samron Jude(2003年結成のムンバイの重鎮スラッシュメタルバンドSystemHouse 33のギタリスト)によって2012年に結成された、シタール奏者Akshat Deoraとの二人組ユニットである。
シタールの音色だけでなくエレクトロニック的なサウンドも取り入れた、これまた唯一無二な音楽を演奏している。
 
Akshatのプレイスタイルは、エキゾチックな音階を弾いてはいるものの、Rishabh Seenとは異なりファンキーなリズムを感じさせるより現代的な印象のものだ。

彼らが2017年にリリースしたアルバム"Genesis"(vol.1とvol.2の同時リリース)では、同じ楽曲をエレクトロニック・バージョンとメタル・バージョンでそれぞれ発表するという非常に面白い試みをしている。
エレクトロニック・バージョンのほうは、欧米の音楽シーンでサイケデリックを表す記号として長年いいように使われて来たインドからの、なんというかお礼参りみたいな印象を受ける音楽だ。

ビデオ・ドラッグ(古すぎるか)みたいな映像と合わせて彼らのサウンドを聴いていると、オールドスクールな感じのトリップ感覚が味わえて、なかなかに気持ちがいい。

彼らはメタルバンドであるにも関わらず、アジア最大(そして世界で3番目!)のエレクトロニック・ミュージックのフェスであるプネーのSunburn Festivalへの出演経験もあり、古典とメタルだけでなく、ダンスミュージックとの間にある壁も軽々と乗り越えている。

DJブースにはシタール奏者とヘヴィーメタルギタリスト、さらに脇には生ドラムという、なんだかもうわけが分からない状況だが、観客は大盛り上がりだ。

昨年はシッキム州出身の実力派ハードロックヴォーカリストGirish Pradhanをフィーチャーしたヨーロッパツアー(ノルウェーのゴシックメタルバンドSireniaのサポートとして)も行なっており、一部では世界的な注目を集めているようだ。

タイプこそ異なるが、唯一無二であることに関しては甲乙つけがたいインドのシタール・メタルバンド2組。
いずれもが、古典音楽とさまざまな音楽のフュージョンを躊躇なく行ってきたインドが生んだ新たなる傑作と呼ぶにふさわしく、ぜひとも日本でもその雄姿を見てみたいものである。
フェスとかで来日したら盛り上がると思うんだけどなあ。


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goshimasayama18 at 20:35|PermalinkComments(0)

2019年05月04日

インドのインディーズシーンの歴史その13 ケーララから登場!カルナーティック・メタルバンド、Motherjane!

インドのインディー音楽シーンの歴史的名曲を辿ってゆくこの企画、13回めの今回は、ケーララ州出身のロック/ヘヴィーメタルバンドMotherjaneを紹介します。
VH1INDIAによるインドのインディー100曲
これまで、この企画で紹介して来たアーティストは、在外インド人アーティストが6組、ムンバイを拠点とするアーティストが5組。
残りの1組はデリー出身なので、ここで初めて南インド出身のバンドが登場して来たことになる。

以前紹介した通り、ここケーララ州はインドのなかでもロックが盛んな土地。
「ケーララ州のロックシーン特集!」
伝統的に州政府が教育に力を入れてきたケーララ州は、インドの中でも高い識字率、インターネット普及率を誇る。
また、伝統的に海外への出稼ぎ労働者も多い地域であるため、欧米文化へのアクセスが他州に比べて容易な環境でもあった。
こうした背景が、州の規模に不釣り合いなロック普及の要因となったようだ。
インド北東部の諸州と同様にキリスト教文化が根付いていることも、欧米文化との親和性の高さの一因と言えるかもしれない。
(ただし、北東部は20世紀に入ってから布教されたプロテスタントの信者が多いのに対して、ケーララ州は早くも1世紀には聖トマスによってキリスト教が伝来したと伝えられており、また大航海時代にポルトガルの貿易拠点であった歴史もあることから、カトリックの信者が多い)

今回紹介するのは、1996年結成のMotherjaneが2007年に発表した楽曲"Broken".

インドロック界の名ギタリストと称されるBaiju Dharmajanによる古典音楽由来のフレーズが全編に散りばめられた楽曲だ。Motherjaneは南インドの伝統音楽とロックの融合に関しても先駆的なバンドである。

ケーララ州の都市コチで結成されたMotherjaneは、カレッジでのフェスティバルなどで演奏活動を開始した。
1999年にBaijuが加入すると、バンドは活躍の場を広げてゆき、2002年にデビューアルバムの"Insane Biography"を発表する。
このアルバムに収録された"Soul Corporations"という楽曲は、日本のヘヴィーメタル評論家の和田“キャプテン”誠が監修した「劇的メタル」というコンピレーションにも収録されており、さらに2003年にはAsian Rock Rising Festivalというイベントでなんと来日公演も実現している。
今回彼らのことを調べてみるまで、昨年来日したデスメタルバンドのGutslit以前に来日公演を行ったインドのメタルバンドがいたとは全く知らなかった。

そのコンピレーション盤に収録されていた、おそらくは日本に紹介された最初のインドのヘヴィーメタルということになる、"Soul Corporations".

この楽曲ではカルナーティック的な要素はギターソロに少し見られるくらいで、QueensrycheやDream Theaterの影響が感じられるプログレッシブ・メタル的な曲調だ。

彼らがカルナーティック音楽の要素を大きく取り入れたのは2008年にリリースされたセカンドアルバム"Maktub"から。
このアルバムではBaijuの独特のカルナーティック的ギターフレーズとともに、ケーララ州の伝統的な太鼓であるチェンダを取り入れるなどローカル色を全面的に打ち出し、彼らの個性を開花させた作品となった。

"Maktub"収録の"Mindstreet"では、正統派プログレッシブ・メタル的な音楽性を維持しながら随所にカルナーティック的な旋律が散りばめられている。
このアルバム発表後、彼らはインドを代表するメタルバンドとして、MegadethやMachine Head, Opethといった海外のバンドのインドでの公演のオープニング・アクトを務めるなど、さらに活躍の場を広げることになった。

その後、2010年にBaijuは自身のバンドWrenz Unitedを結成するためにバンドを脱退したが、その後も本家Motherjaneともども活躍を続けている。

Wrenz Unitedが5拍子のカルナーティック的フレーズが入ったリフを導入したKing and Pawn.

2:28からのギターソロも、他のギタリストでは思いつかないようなフレーズが飛び出してくる。

Baijuが以前紹介した北東部シッキム州のハードロック・ヴォーカリストGirish Pradhanと共演したGuns and Rosesの"Sweet Child of Mine"のカルナーティック風カバー。

インド南北の実力派ヴォーカリスト/ギタリストによる素晴らしいコラボレーションだ。

本家Motherjaneが昨年リリースした楽曲"Namaste"のビデオは二人組ダンサーUllas and Bhoomiをフィーチャーしたもの。

すっかりオーセンティックなハードロックに回帰しており、彼らが持っていたカルナーティックの要素はBaijuによってもたらされたものだったことが分かる。

2000年代、インドのインディーミュージックシーンは北部の大都市のみならず、全土に広がってゆく。
次回のこの企画で紹介するThermal and a Quarterは南部カルナータカ州のバンガロール出身。
お楽しみに!


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goshimasayama18 at 00:16|PermalinkComments(0)

2019年01月30日

ケーララのブラックメタルバンド"Willuwandi"が叫ぶ「アンチ・カースト」!

以前特集したケーララの音楽シーンのなかで、また面白いバンドを見つけた。
2009年に結成された同州の都市コチのブラックメタルバンド"Willuwandi"だ。

前にも説明したが、ブラックメタルはヘヴィーメタルをさらに過激にした音楽だ。
ヴォーカルはもはや音程を放棄してひたすら絶叫し、ドラムはブラストビートと呼ばれるやけっぱち的な高速のリズムを叩き、ギターはそれにあわせて不穏なメロディーを奏でるという、大衆性皆無なヘヴィーメタル界の極北ともいえるジャンルだ。
音楽性よりもさらに特異なのはその思想で、ブラックメタルはヘヴィーメタルが演出として取り入れていたオカルトや悪魔崇拝に本気 (マジ)で傾倒することを趣旨とし、なかには教会に放火したり殺人を犯すようなとんでもない連中もいるのだ。
最近はブラックメタラーによる凶悪犯罪のニュースはあまり聞かなくなったし、さすがに馬鹿らしくなったのか、悪魔崇拝をテーマにしたバンドも減っているようだが、今でも多くのブラックメタルミュージシャンが反キリスト教、反宗教のスタンスを表明している。

今回紹介するこのWilluwandi、歴史的にクリスチャンの多いケーララ州でアンチキリスト的な音楽とはおだやかでないが、彼らはいったいどんなことをアピールしているバンドなのか。
インドのなかでは教育がゆきとどき、貧富の差も少ないとされるケーララで、彼らはいったい何を主張しているのだろうか。

Willuwandi

これがそのWilluwandiのアーティスト写真。
禍々しくも馬鹿馬鹿しい、ブラックメタル特有の白塗りのメイクは「コープスペイント」と呼ばれ、死体を模したものとされる。
どうして死体を模したメイクで反宗教を歌わなければいけないのかよく分からないかもしれないが、とにかくブラックメタルとはそういうものなのだ。

彼らの音楽性も正統派のブラックメタルのそれだ。

ブラックメタルをよく知らない人からしたら、何が正統派なのか分からないかもしれないが、まあこういうのが正統派なわけである。
(どうでもいいが、テレキャスターでブラックメタルを演奏するバンドを見たのは初めてかもしれない)

彼らのバンド名のWilluwandiとは、ケーララ州の言語マラヤーラム語で「牛車」を意味する言葉だ。
なぜブラックメタルバンドの名前が「牛車」なのかというと、それには少し長い説明が必要となる。

まず最初に「カースト制度」から話を始めることになるのだが、この浄・不浄の概念をもとにした身分制度は、インドの歴史の中で、いつ始まったか分からないほどの大昔から続いてきた。
司祭階級であったブラーミン(バラモン)を最も清浄な存在とし、以下、武士階級(クシャトリヤ)、商人階級(ヴァイシャ)、職人階級(シュードラ)と続くこの4つの階級を、ヴァルナ(四姓制度)と呼ぶ。

この4つの身分の下に、さらに最下層の身分として「アウトカースト」や「不可触民(英語でUntouchable)」と呼ばれる被差別階級が存在している。
汚れを扱うとされる仕事(屠畜、皮革加工、掃除夫、洗濯屋など)を生業としていた人々などがこれにあたり、今日では「抑圧された者」を意味する「ダリット(Dalit)」という名称で呼ばれることが多い。
彼らは共同体の井戸の使用や寺院への立ち入りを禁じられ、カーストヒンドゥーと同じ場所にいることや、ブラーミンの視界に入ることすら禁じられるなどの激しい差別を受け、虐げられてきた。
もちろん現在のインドではこうした差別は憲法で禁止されており、今日では彼らは法のもとで指定カースト(Scheduled Caste)と位置づけられ、進学や就職で一定の優遇枠を維持されるなど保護の対象となっている。
だが、長年の人々の心に染み付いた汚れの意識、差別意識は簡単にはぬぐえず、今なお差別感情に基づく暴力や殺人事件、嫌がらせの犠牲となるダリットは少なくない。
指定カーストとされる人々は、実にインドの人口の16.6%にものぼる。

じつは、Willuwandiは、メンバー全員がこのダリット出身のバンド。
そう、彼らは、あの過激な音楽で、この伝統的な身分制度や、その基盤となった宗教に基づく社会制度への反対を訴えているというわけなのだ。

先ほど紹介した"Black God"も、曲の内容はダリットから身を起こし、コロンビア大学への留学を経てインドの憲法を起草した、初代法務大臣にまで登りつめた英雄的人物ビームラーオ・アンベードカル博士を讃えるものだという。
オカルティックなメイクをして悪魔主義的な音楽を演奏してるが、彼らはRage Against The Machineに影響を受けた、極めて真面目な社会派バンドなのである。

せっかくの社会派の歌詞も、あんな歌い方じゃあ何を言っているか分からないじゃないか、という至極まっとうな意見もあるかもしれないが、それはひとまず置いておく。

バンドの創立者でギター&ヴォーカルのSethuは語る。
「インドは俺たちの土地でもある。俺たちはそれを取り戻したいんだ。俺たちの最大の夢は、NagpurのDeeksha Bhoomiで演奏することさ」

カースト制度による差別の由来は諸説あるが、インドにもともと住んでいた色黒のドラヴィダ人をペルシア方面から侵入した色白のアーリア人が支配する過程で生み出されたものだという説がある。
(そのせいか、今もインドでは色白こそ美の条件とされ、ご存知のように美男美女の映画俳優にはかなり色白な人が多い)
「俺たちの土地を取り戻す」という言葉や、"Black God"の冒頭に出てきた"Real History of India is the war between Aryans and Dravids"というフレーズは、このことを念頭においているものと思われる。
Deeksha Bhoomiとは、アンベードカルがヒンドゥーの因習であるカーストのくびきから脱却すべく、60万人のダリットたちと仏教へ集団改修した聖地のこと。
こんな音楽を演奏されちゃあアンベードカルもさぞびっくりすると思うが、彼らはいたって真面目なのだ。

彼らのバンド名、Willuwandi(牛車)は地元ケララのダリット解放の英雄、Ayyakaliへのオマージュとしてつけられたものだ。
かつて、彼らの土地では牛車を使うことができるのは豊かなカースト・ヒンドゥーに限られ、ダリットは彼らが乗る牛車が来ると道を譲らなければならなかった。
その状況に抗議すべく、Ayyakaliはダリットであるにも関わらず、自ら牛車を手に入れて市場などへ乗りつけることで、差別への反対を表明した。
彼の勇気ある行動のおかげで、20世紀初めごろまでには、地元のほとんどの道をダリットも使うことができるようになったという。
このWilluwandi(牛車)こそが高位カーストの無慈悲さへの抗議の象徴であり、社会運動を推進させるものとして、彼らは自らのバンドに命名しているのだ。
彼らのバンドのロゴには、'wagon of justice, freedom and enlightenment'(正義と自由と啓蒙の乗り物)とある。

Willuwandiの楽曲は、全てが差別や迫害に対する強烈なプロテストだ。

激しいアジテーションのあとに演奏されるこの曲"Eat Me Brother"はデリーの名門大学JNU(Jawaharlal Nehru University)で、ヒンドゥー原理主義団体に所属する学生たちとの口論の後、行方不明となったダリットの学生のことを歌ったもの。

この"From Shadows To Light"は、ハイデラバード大学の研究者として"Caste Is Not A Rumour"を著したのち、やはり同じヒンドゥー原理主義団体からの抗議を受け、自殺したダリットに捧げたものだ。

どこかの公民館のようなところで演奏する映像はあまりに粗く、もともとまっとうな音楽の形態から大きく逸脱した彼らの演奏を伝えるには不十分なものだが、その活動の雰囲気を味わうことは十分にできる。
過激なブラックメタルのライブ映像にいきなり子どもが出てきてびっくりするが、これも彼らの音楽が「既存の倫理や社会に反抗する若者たちのためだけの音楽」ではなく、「コミュニティーの怒りを代弁する音楽」であることの証と見ることができるだろう。

彼らが代弁する「抑圧されたもの」はダリットに限らない。
「俺たちのバンドは闘争そのものだ。ダリットや他のマイノリティー、最近じゃムスリムたちもひどい差別を受けている」
とSethuは語る。
今回紹介した曲からも分かる通り、彼らはインドに蔓延するヒンドゥー至上主義的な空気に異議を唱えているのだ。
とはいえ、彼らは信仰としてのイスラム教や仏教に肩入れしているというわけではない。
「俺たちの音楽はどんな宗教とも関係ない。人々に、自分の神は自分自身なんだと伝えることを目的にしているんだ」とは、宗教を否定するブラックメタルミュージシャンらしい言葉だ。

それにしても、この思想も主義主張も、極めてノイジーな演奏と絶叫ではなかなか社会に伝わらないのではないかと心配になってしまうが(余計なお世話か)、彼らの活動を見ていると「誰が、どんなことを、どんな方法で主張しても構わない」という表現の自由の本質を感じさせられるのもまた確かだ。
それに、長年にわたり被抑圧者として虐げられてきた彼らの絶望や憤りは、このブラックメタルというジャンルこそふさわしいようにも感じる。

今回紹介したWilluwandiは、これまでに紹介してきたアーティストのなかでも極めてマイナーかつローカルで異色な存在だが、富裕層やエリートが多いインドのインディーミュージックシーンで、抑圧された者たちの怒りや苦痛を代弁するという、非常に「ロック的に正しい」姿勢に感銘を受け、紹介してみた次第です。

最後はこの言葉で締めくくりたい。
Jai Bhim!
(「ビームラーオ・アンベードカル万歳!」といった意味で、インドの平等主義者のかけ声として使われる言葉)

参考サイト:
Round Table India 'Willuwandi Band-A Musical Revolt From Kerala Against Brahminism'
Homegrown 'Meet The Black Metal Band From Kerala Fighting Against India's Casteism'
Financial Express: 'A different tune'


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