インドのその他の音楽

2022年11月03日

インド製カントリーポップの世界! (インドは日本の100倍くらいアメリカだった)



前回の記事
で書いた通り、インドではラテン系ポップスがポピュラー音楽としてそれなりに受容されている。
インド人の国民性とラテンのノリが共鳴しあっているのではないか、というこれといった根拠のない説を唱えてみたのだが、冷静に考えると、そんな理屈をこねる必要は全くなく、インドでラテン系ポップが人気なのは、単純にインドの音楽シーンが日本の100倍くらいアメリカのシーンの影響を直接的に受けているからなんじゃないか、という気がしてきた。
要は、アメリカで売れている音楽ジャンルを模倣する傾向が強い、ということである。

ご存知のように、インドでは英語が「準公用語」的な位置付けをされており、いわゆる「ネイティブ」並みに喋れる人が結構いる。
都市圏を中心に、初等教育から英語で行う学校も多く、以前何かの統計で、インドで流暢に英語が話せる人の割合は10%程度という記事を読んだ記憶がある。
10%というと少なく感じるかもしれないが、人口を考えればインドの英語話者数は日本の総人口を上回るということになるし、またもちろん都市部ではその割合は大幅に高くなるはずだ。

インドで使われている英語は、その歴史的経緯からイギリス式の英語なので、インドのポピュラー音楽もイギリスの影響を強く受けているのではないかと思いがちだが、昨今のヒップホップ人気を見てもわかる通り、インドの音楽シーンはじつは相当にアメリカの影響を受けている。

それをとくに強く感じるのが、インドには、日本にはほとんど見られない、カントリーミュージックの影響を受けたポップシンガーが結構いる、ということである。
さまざまな社会に翻案可能なヒップホップや、人種や国籍に関係なく盛り上がることができるダンスミュージックではなくて、カントリーという非常にアメリカンな音楽が、文化的背景の全く異なるインドにも存在しているのだ。

インド人カントリーミュージシャンに関しては、以前Bobby Cashというアーティストの音楽を「ビリヤニ・ウエスタン」と名づけて紹介したことがあるが、今回は、彼のような本格派のオールドスクールなカントリーではなく、もっとポップな、テイラー・スウィフトとかシャナイア・トゥエインみたいなスタイルのシンガーたちを取り上げてみたい。
 


ちょっとハスキーなヴォーカルが心地よい。HuyanaことVarshita Rameshは、チェンナイ出身のシンガー・ソングライター。

Huyana "Nothing Wrong in Not Being Okay"


この曲はパンデミック下でも比較的自由だったゴアに滞在していたときのことを歌ったものとのこと。
彼女の他の曲はチルなエレクトロニック・ポップだったりするので、けっしてカントリーにこだわったアーティストではないようだが、こじゃれた音楽としてこのジャンルが選ばれるということに、むしろカントリーの定着を感じる次第である。


次に紹介するベンガルール出身のシンガーDisha Reddyはなんとまだ16歳!

Disha Reddy "Rudy"


途中からリズムと共に入ってくるバンジョー(マンドリン?)が心地よい。
まだこの曲しかリリースしていない新人アーティストだが、今後もカントリー路線で行くのか、それとも全然違うスタイルに変わっててしまうのか、気になるところではある。


北インド、ラクナウ出身のVineet Singhは、ハーヴァード・ビジネススクール出身のエリートで、インドの都市部(デリー、ムンバイ、ベンガルール等)で放送されているラジオ局Radio Oneの共同設立者/元CEOでもあるという異色の富豪シンガーだ。

Vineet Singh "City Roads"


このVineet Singhにしろ、先ほどのDisha Reddyの"Rudy"にしろ、YouTubeをチェックしてみると、明確に「カントリーの新曲です」と紹介しているのが面白い。
日本のポップシンガーが、カントリーっぽいアレンジの曲をリリースしたときに「新曲はカントリーです」って言うことはまずないと思う。
日本だと、失礼ながらカントリーやブルースは、「一部の好事家のおっさんたちがやっているジャンル」というイメージがあるが、インドではそうでなく、オシャレな舶来音楽のひとつなのだろう。


デリー近郊のグルガオン出身のAashnaは、アメリカのバークリー音楽大学出身の音楽エリート。
YouTubeの紹介欄を見る限り、ポップ、ロック、R&B、フォーク、カントリー、ジャズの影響を受けているそうなので、要は、非エレクトロニック系の音楽を志しているということなのかもしれない。

Aashna "Wasted"


女性たちがどんどん殻を破っていくミュージックビデオが面白いが、海外が舞台になっているのは、インドでは女性の逸脱が受け入れられにくいからだろうか。
最初に紹介したHuyanaみたいな、「タトゥー入ってますが何か?」みたいな(インドにしては)超ラディカルな女性もまれにいるが、大多数の人はまあそれなりに保守的に生きているわけで、インドの音楽を聴くうえで、アーティストがどの層に合わせた表現を取っているのかに注目するのもなかなか面白い。


例によってインドにおけるカントリーミュージックの受容は全国にわたっており、このAaryan Banthiaはコルカタ出身のシンガー。(ただし、現在の活動拠点はムンバイとのこと)

Aaryan Banthia "Hey Betty"


ミュージックビデオもカントリーっぽい世界観で作られていて、女優さんも少し白人っぽく見える人が選ばれているところに芸の細かさを感じる。


もうちょっと本格的なところでは、デリーのWinston Balmanが挙げられる。

Winston Balman and the Prophets of Rock "Sense of it All"


彼の英語っぽい名前が芸名なのか、クリスチャンであるためなのかは不明(インドでもキリスト教徒は英語やポルトガル語の名前を付けられることが多い)。


今回紹介したアーティストたちの動画再生回数は、数百回から数十万回。
インドの人口規模を考えれば、けっして「インドでカントリーが人気!」と言える数字ではないが、それでもポピュラーミュージックの表現方法としてカントリー的手法を選ぶアーティストがこれだけいるというのは、なかなか面白い事実だ。

ちなみにインドにはブルース系のアーティストも結構たくさんいる。




今回は、インドのインディペンデント音楽シーンというニッチなテーマのなかでも、さらにニッチなジャンルについて書いてしまったが、何が言いたいのかというと、インドの音楽シーンはそれだけ多様化して面白くなってきているということだ。
ラテンにしろカントリーにしろ、多様に分かれたインドの音楽シーンの枝葉の先端部分が、これからどんなふうに進化・発展してゆくのか、ますます楽しみである。






--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり



軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

2018年の自選おすすめ記事はこちらからどうぞ! 
2019年の自選おすすめ記事はこちらから
2020年の軽刈田's Top10はこちらから
2021年の軽刈田's Top10はこちらから

ジャンル別記事一覧!


goshimasayama18 at 15:34|PermalinkComments(0)

2022年10月08日

サイケデリックだけじゃない! ーインド古典音楽meets電子音楽ー  さらに広がる印DMの世界



最近つくづく思っていることがある。
それは、「インド音楽って、何にでも合う」ってことなんである。

「何言ってんの、あらゆる料理にマサラを入れたほうが美味しくなるって思ってるインド人じゃあるまいし」と言われそうだが、実際、合うものは合うのだからしょうがない。
話すと長くなるので、興味のある人はリンクを辿っていただきたいが、インドの古典音楽/伝統音楽は、ロックヒップホップジャズメタルと、あらゆるジャンルと融合することが可能な魔法の音楽なのである。


ロックや電子音楽の世界では、インド音楽(含むマントラ等の宗教的な詠唱)は、古くからサイケデリックやスピリチュアルを表現する記号的な役割を担ってきた。
ビートルズのジョージ・ハリスンみたいなそれなりのリスペクト込みのやつもあれば、雰囲気だけの文化の盗用みたいなやつもあったと思う。
1990年台以降になると、古典音楽/伝統音楽はTalvin SinghやKarsh Kaleといった在外インド人アーティストによってドラムンベースなどのクラブミュージックと融合し、新たな方向性を獲得した。
'Buddha Bar'をはじめとするアンビエント系のコンピレーション盤で、インドの古典楽器が入ったエスニックなサウンドがもてはやされていたのもこの頃だ。



近年では、Ritvizらによってインド的かつEDMポップ的なスタイルが定着し、新たな潮流が生まれている。
インド系アーティストによるインド的かつオリジナルな電子音楽を、私は勝手に印DMと名づけ、地道に布教活動を続けてきた。
(ラジオでも話したことがあるが、残念なことにファン層が広がっている気配は全くない…)
 


まあとにかく、「インド音楽+電子音楽」という組み合わせは、かつてはトランスやアンビエント、最近ではインド的EDMポップという方向性が定番だったのだけど、ここに来て、オーセンティックなテクノ・サウンドと古典声楽を融合している面白いアーティストを見つけてしまった。
そんで、それがまた非常にかっこよかったので、今回改めて紹介する次第なんである。

彼の名前はBlu Attic.
まずは、北インドの古典であるヒンドゥスターニー音楽の声楽とテクノを融合したこの曲を聴いてみてほしい。

Blu Attic "Jhanak Jhanak"


ぐねぐね曲がったトランスのサウンドならともかく、直線的なテクノと古典音楽は合わないんじゃないかと思っていたが、この素晴らしい融合っぷりに脱帽!
電子音楽は全く詳しくないのだが、あまり硬質な音を使わずに、柔らかめの音でまとめているところがポイントだろうか。
男声ヴォーカルを起用したこの曲も非常にかっこいい。

Blu Attic "Mil Jaa Na"


古典声楽のうねるような旋律やたたみかけるような歌い回しが、エレクトロニック・ビートと絡み合って高揚感を増幅させているのが見事!

Blu AtticことAniket Jainは、デリー出身のアーティストで、インターネット上に楽曲を発表し始めたのは2021年からとごく最近のようだ。
苗字を見る限り、彼は厳格な菜食主義で知られるジャイナ教徒の可能性がある。
派手さを抑えて、着実なビートでグルーヴで作るそのスタイルは、インドの宗教のなかでもとりわけ禁欲的な彼の信仰から来ているのだろうか(といったようなステレオタイプなイメージを結びつけて書くのは本当はあまり好きではないのだが、彼については書ける情報がほとんどないので、つい書いてしまった)。

オリジナルの楽曲もさることながら、古いボリウッドの曲のリミックスがまたびっくりするくらい素晴らしい。

Lata Mangeshkar "Aa Jane Jaa"(Blu Attic Remix)


原曲は"Aa Jane Jaan"(最後にnが入る)というタイトルで、生涯で50,000曲もの楽曲をレコーディングしたと言われる伝説的プレイバックシンガーLata Mangeshkarが1969年のヒンディー語映画"Intaqam"で歌った曲。

Asha Bhosle "Jab Andhera Hota Hai"


こちらの原曲は1973年のボリウッド映画"Raja Rani"からの楽曲で、歌っているAsha BhosleはさきほどのLata Mangeshkarの妹。

Blu AtticはまだサブスクやYouTubeでの再生回数も少ない知る人ぞ知るアーティストだが、この個性はもっと評価されてほしいところ。
それにしても、50〜60年前のヒット曲をなんのためらいもなくテクノにアレンジしてしまうという発想と、それをかっこよく仕上げるセンスには恐れ入る。

調べてみると、彼の他にもインド音楽と電子音楽の面白い融合しているアーティストはいて、
例えばこのTech Panda & Kenzaniという二人組。
彼らもニューデリー出身のアーティストで、Tech Pandaのほうは幼少期はタブラを習っていたと言うから、古典音楽/伝統音楽と電子音楽の両方が染み付いているのだろう。
このChidiyaはバーンスリー(横笛)と声楽をテクノ/EDM的なサウンドと融合させている。

Tech Panda & Kenzani "Chidiya"


バーンスリーの幻想的な音色がエレクトロニックなビートに独特の浮遊感を加えているのが素晴らしい。
アンダーグラウンドな存在ではあるが、かなりの人気があるようで、この"Khoyo"はYouTubeで100万回以上再生されている。

Tech Panda & Kenzani "Khoyo"



タール砂漠が広がるラージャスターンの映像が美しいが、ラージャスターンといえばこんなコラボレーションもある。
インドでは珍しいハウスDJのHamza Rahimtulaも伝統音楽と電子音楽の融合に取り組んでいて、このDJセットではラージャスターンの伝統楽器と共演している。

Hamza Rahimtula + Rajasthan Folkstars



ラージャスターン音楽とエレクトロニック・ビートの融合という意味では、近日中にまた面白い楽曲を紹介予定なので、ぜひ聴き比べてみてほしい。


ここまで紹介してきた音楽は、電子音楽のアーティストが古典音楽を融合した例だが、例えばこんなふうに古典声楽の歌手がドラムンベースっぽいビートを導入していたりもするので、やっぱりインドは一筋縄ではいかない。

Vagyakaar "Naadan Jiyara"




彼らが等しく追求しているのは、電気的に作られた音であろうと、人間の喉や楽器が発する音であろうと、いかに心を高揚させ、別世界に誘ってくれるかということだろう。
音楽をついジャンルに分けて考えてしまいがちな日本の我々にとっては、彼らのオープンマインドすぎる姿勢はすごく刺激になるなあ、と自戒の念を込めながら思っている。

インド系クラブミュージックはかっこいいやつがたくさんあるのでぜひまた紹介したい。


--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり



軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

2018年の自選おすすめ記事はこちらからどうぞ! 
2019年の自選おすすめ記事はこちらから
2020年の軽刈田's Top10はこちらから
2021年の軽刈田's Top10はこちらから

ジャンル別記事一覧!
 

goshimasayama18 at 18:39|PermalinkComments(0)

2022年05月30日

R.I.P. Sidhu Moose Wala パンジャービー・ギャングスタ逝く


sidhu-moosewala

2022年5月29日深夜、パンジャーブ州マンサ郡ムーサ出身のバングラー・シンガー、Sidhu Moose Walaが地元で射殺されたという衝撃的なニュースが飛び込んできた。
以前もこのブログで紹介したことがあるが、彼は現代的なヒップホップのビートに乗せてコブシの効いたバングラーを歌いまくる新世代パンジャービー・シンガーの第一人者。
享年28歳。
あまりにも若すぎる死だ。




彼の楽曲はYouTubeで軒並み数千万から数億回もの再生回数を誇っている。
彼は2人の仲間と自家用車に乗っていたところを、30発もの銃弾で撃たれ、病院に運ばれたが亡くなってしまったようだ。
同行の2人も負傷したというニュースが入ってきている。
犯人はまだつかまっていない。

彼の最後のリリースは、亡くなる4日前にリリースされた"Levels"と、2週間前にリリースされた"The Last Ride".



霊柩車も登場するミュージックビデオが、結果的に彼の死を暗示するかのようになってしまった。

彼が亡くなった当時、現地では1984年に黄金寺院(彼も信仰するシク教の聖地)に立て篭もった過激派シク教徒を政府軍が武力攻撃した「ブルースター作戦」の記念日(6月3〜6日)を控え、厳重な警備が敷かれていた。
後述のように、Sidhu Moose Walaはシク教徒としてかなりラディカルな姿勢を打ち出しているためか(あるいは、単にセレブリティーだからか)、警護の対象となっていたようだが、銃撃はその隙をついて行われた。

パンジャーブ州の小さな村ムーサで生まれたSidhu Moose WalaことShubhdeep Singh Sidhuは、その斬新なスタイルと過激なアティテュードで、2017年のデビュー以来、瞬く間にトップスターとなった。
「バングラー・ラップ」のスタイルはPanjabi MCら海外在住のパンジャービー系アーティストたちによって発明され、インドに逆輸入されたジャンルだが、Sidhuは逆輸出というべきか、海外で暮らす移民たちにも支持され、北米ツアーを行うなど、国境を超えた人気(ただし、ほぼインド系住民に限るが)を誇っていた。
(この海外での人気に関しては、彼が一時期カナダを活動拠点としていたことも関係しているかもしれない)

思想の面で言えば、彼は敬虔な、というよりも、急進的なシク教の信者だった。
かつて黄金寺院に立て篭もった過激派たちと同様に、シク教徒による独立国家「カリスタン」の樹立を理想とする思想を抱いていることを明言していた。
軍人である彼の父とは真っ向から対立する考え方だった。

過激なのは思想だけではなかった。
彼は銃器を愛し、銃をテーマにした楽曲をいくつもリリースし、警察から無許可で銃のトレーニングを受けたことで逮捕されるなど、ギャングスタ的な生き方を実践していた。

グーグルマップを見れば分かるが、彼の生まれ故郷ムーサはほんとうに小さな村だ。
彼は成功後も地元を離れず、その郊外に邸宅を構えていた。
彼が殺された理由が、その過激な思想ゆえの政治的なものなのか、貧しい田舎であまりにも羽振りが良かったためだったのか。
図らずも、その死に様で彼のギャングスタ的な生き方がリアルなものだったことが証明されてしまった。
彼のマチズモ的な生き方は議論を呼ぶものだったが、それでも率直に言って抗えない魅力を持っていたことは紛れもない事実だった。

自らの表現に殉じるような死を迎えたとはいえ、彼の魅力を思想や言動の「過激さ」だけだと考えるのは誤りだろう。
彼は思想やアティテュードありきのアーティストではなかった。
その類稀なセンスとスキルが支持されていなければ、何曲もの楽曲が数億回も再生されることはない。
Sidhuは非常に多作なアーティストで、わずか4年ほどの活動期間の間に100曲を超える曲をリリースしている。
彼のリリースしてきた楽曲を(ほんの少しだが)振り返りつつ、冥福を祈りたい。

最近共演が多かったカナダ出身のパンジャービー系ラッパーSunny Maltonと共演した"F**k Em All".
 

オーセンティックなラップの後にSidhuが続くと、バングラー独特のアクの強い節回しがまた違った雰囲気に聴こえる。
まるでヒップホップの曲にレゲエシンガーがフィーチャーされているかのような印象になるのが面白い。


"Me And My Girlfriend"


かわいらしいタイトルだが、ミュージックビデオは物騒だ。
「銃が俺の彼女」なのか「銃みたいに強烈な俺の彼女」なのかは分からないが、今にして思えばのどかに見えるパンジャーブの田舎でのリアルなギャングスタ・ライフだったのだろう。


彼の出世作"So High"は、カナダ時代の楽曲で、5億回にも迫る再生回数を誇っている。



インドのヒップホップシーンからも彼の死を悼む声が続々と上がっており、共演経験のあったRaja Kumariをはじめ、デリーのSeedhe MautやベンガルールのBrodha Vが追悼のメッセージをツイートしている。





"Legend"

 

インドのミュージシャンが「射殺」というショッキングな最期を遂げることは前例がなく、しばらくは音楽シーンに動揺が続きそうだ。
YouTubeの彼のミュージックビデオには、ファンからの'Legend never dies'と彼の功績を讃える声がたくさん寄せられている。
2パックやビギーのように、彼もまた歴史に残るアーティストとしてインドの音楽シーンで永遠に語り継がれてゆくことだろう。
あらためて、Sidhu Moose Walaの冥福を祈りたい。








追記(5月31日):



Yahoo! JapanでもRolling Stone IndiaやCNNの記事を引用する形でSidhu Moose Walaの死が報じられた。
彼が初めて大手メディアで日本に紹介されたのが訃報だったというのが本当に残念だ。

どちらの見出しも「政治家に転身した人気ラッパー」とあるが、これは2021年に国民会議派(Congress Party. インド独立以来長く中央政権を維持してきたが、最近ではインド人民党〔BJP〕政権のもと野党に甘んじている)から州議会選挙に出馬したが、地元だったにもかかわらず2割ほどの得票しか得られず、落選(それでも得票率2位だったらしいが)したことを意味している。

Rolling Stone Japanの記事では、政界入り時のコメントが「地位や名声のために政界入りするわけじゃありません」「僕は制度を変える一員になりたい。人々の声を届けるために議会に参加するのです」と、「僕」という一人称で、です・ます調で書かれていたのが、こう言ってはなんだがちょっと面白かった。
印象違うんだよなあ。
国民会議派がシク教徒の独立国家を支持する彼を本気で政治家として買っていたとは思えず、彼の出馬は、おそらくだが日本で言うところの「タレント候補」のようなものだったのではないだろうか。

ちなみに選挙後、Sidhuは許容された期間外に戸別訪問を行ったとして告訴されている。
当選した州の与党「庶民党(Aam Aadmi Party)」の候補者は、おそらくは彼のギャングスタ的な姿勢を指してのことだと思うが、彼の楽曲は「反パンジャーブ的である」と非難していたという。

「政治家に転身」といっても決してラッパーのキャリアを捨てたわけではなく、Sidhuはその後も積極的に楽曲をリリースしているし、この落選を"Scapegoat"という楽曲としてリリースもしている。

記事に、警察署長が「シドゥのマネージャーとカナダ人ギャング団との抗争が原因」と発表したとあるが、これはインド系カナダ人(おそらくはカナダに多く暮らしている同郷のパンジャーブ系)のことを指しているのだろう。
いくらなんでも白人やアフリカ系のギャングがパンジャーブ州のこんな田舎にいたら目立ちすぎる。
ありえない。
Sidhuの家族は、ろくに調査もしないでギャングの抗争と結びつけたことを批判しており、警察署長もこの発言は誤って引用されたものだと否定している。

彼が警護されていたセレブだったということで、この犯行は影響力のある人物を優遇する「VIPカルチャー」への反発だったのではないかという見方もされているようだ。
警護下にあった人気スターの射殺事件に対して、彼が所属していた国民会議派も中央政権を握るBJPも、州の政権与党である庶民党の失態だと非難しており、彼の死がさっそく政治的な抗争に利用されているというのがなんともインドらしい。

続報では、この殺人事件に関連して6人が勾留されているようだ。
(このあたりの情報のソースは主にBBC:https://www.bbc.com/news/world-asia-india-61629130https://www.bbc.com/news/world-asia-india-61642596


インスタグラムでは#sidhumoosewalaというハッシュタグの投稿は現時点で640万件を超えており、米人気ラッパーのドレイクも追悼の意を表明している。
Sidhu Moose Walaは豪奢な伝統的ターバン姿で荼毘に付された。




追記2(6月7日)
Sidhu Moose Wala射殺事件の捜査は錯綜しているようだ。
パンジャーブ警察は、襲撃犯をパンジャーブ、ハリヤーナ、ラージャスターン、マハーラーシュトラに在住する8人と特定し、行方を追っているようだ。
犯行前、付近の防犯カメラには、犯人のうち一人がファンを装ってSidhuが運転するSUVに近づき、セルフィーを撮った後で共犯者に電話したと見られている。
(6月1日頃に1名の容疑者を逮捕したとの情報もあったが、関連は不明)

前回の追記で書いたカナダのギャング云々というのは、カナダ在住のパンジャーブ系ギャングGoldy Brarが、Sidhuの殺害は彼の仲間Vicky Middukheraと弟のGurlal Brarの死(いずれもここ2年の間にインドで射殺されている)に対する復讐であることをFacebookで表明したことを指しているようだ。

Sidhu殺害事件に関しては、Goldy Brarのギャング仲間で、別件でデリーのTihar刑務所に服役中のLawrence Bishnoiが取り調べを受けているようだが、彼は仲間が殺害に関わったことをほのめかしつつも、自分自身は犯行を指示できる状況になかったと訴えているようだ。
パンジャーブ系国際ギャング団とバングラー・ラップについては、あらためて特集する機会を持ちたい。


情報ソース:
https://www.ndtv.com/india-news/sidhu-moose-wala-murder-cctv-of-man-who-took-selfie-with-singer-probed-3041951
https://www.indiatoday.in/india/story/gangster-goldy-brar-claims-responsibility-sidhu-moose-wala-murder-1955740-2022-05-29



--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり



軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

2018年の自選おすすめ記事はこちらからどうぞ! 
2019年の自選おすすめ記事はこちらから
2020年の軽刈田's Top10はこちらから
2021年の軽刈田's Top10はこちらから

ジャンル別記事一覧!
 続きを読む

goshimasayama18 at 18:25|PermalinkComments(0)

2022年01月27日

インディアン・ナード・カルチャーを考えてみる

少し前に読んだ「ブラック・ナード・カルチャー:それは現実逃避(escape)ではない」という記事がめっぽう面白かったので、インドにおけるナード・カルチャー(nerd culture≒オタク文化)について考えてみた。


詳細は(本当に面白いので)各自読んでもらうとして、この「ブラック・ナード論」を自分なりの観点で要約すると、「マジョリティである白人からも、黒人コミュニティの内部からも、マッチョあるいはセクシーな存在であることを強いられていた黒人にとって、ナード(≒オタク)であることは、逃避的な性格を持つものではなく、むしろクリエイティブな姿勢である」ということになる。

記事では、ブラック・ナード・カルチャーの代表者として、ドナルド・グローヴァー(チャイルディッシュ・ガンビーノ)、タイラー・ザ・クリエイター、フランク・オーシャンらを挙げている。(記事にも触れられているが、最近では女性ラッパーのミーガン・ジー・スタリオンもアニメ好きで有名だ)
20年前だったら、ナードな黒人セレブリティーがここまで大勢活躍している状況はまったく想像できなかった。
確かにナード・カルチャーは、アメリカの黒人文化を変えつつあるのだろう。


さて、それではいつもこのブログで紹介しているインドの音楽シーンの場合はどうだろう。
インドのインディーミュージックシーンにも「オタク趣味」を持つアーティストは多い。

例えば、デリーを中心に活動するマスロック/プログレッシヴ・メタルバンドのKrakenは、曲名やビジュアルイメージにも日本の要素を取り入れており、さらにインタビューでは驚くほど日本文化(音楽・映画)に詳しい一面を見せてくれた。




同じくデリーのエレクトロニカ・アーティストのTarana Marwahは、宮崎アニメなどの日本の作品からの影響を公言しており、日本語のKomorebiというアーティスト名で活動している。



ベンガルールのラッパーHanumankindは、最近はシリアス路線に転向しているものの、かつてはゲームやアニメなどのオタクカルチャーをテーマにしたラップを数多く発表していた。


そこまで前面にナード的なルーツを出していないアーティストでも、例えばプネーのドリームポップバンドEasy Wanderlingsは、宮崎駿や久石譲のファンだと語っており、ミュージックビデオにさりげなくトトロのぬいぐるみを登場させている。



日本文化からの影響という意味で言えば、「インドで日本語で歌うインド人シンガー」Drish Tはその究極系とも言える存在だろう。
ムンバイを拠点にインドをマーケットとして活動しながら、彼女は行ったことがない日本のコンビニをイメージした曲を日本語でリリースしている。




ムンバイで活躍する日本人シンガーHiroko Sarahと共演しているラッパーのIbexやKushmirも、インタビューで日本のカルチャーに親しんできたことを語っている。




インドでも、ナード/オタク的カルチャーをインスピレーションの源として、オリジナルな表現に昇華しているアーティストがたくさんいることに間違いはなさそうだ。

その背景を考える前提としてまず理解しなければならないのは、インド社会では、インディーミュージシャンがマッチョさやセクシーさを求められる風潮は、おそらくそこまで強くはないということだ。(一部ヒップホップ勢を除く)
欧米社会では「労働者階級の音楽」「被抑圧者の音楽」であるロックやヒップホップは、インドにおいては、むしろ「欧米の先進国からやってきたハイカルチャー的な音楽」だ。

アニメやゲーム、あるいはマーベルやDCのようなアメリカのコミックを原作とした作品のようなナード/オタクカルチャーも、外来の(ときにクールな)文化という意味では同様である。

インドのインディーミュージシャンは、こうした外来文化に敏感な、インテリ的なアッパーミドル層が中心であり(一部ヒップホップ勢を除く)、その点でアメリカのストリート発祥のブラック・カルチャーとは分けて考えるべきだろう。(もちろんアメリカの黒人アーティストにも富裕層出身者やインテリは多いが…)

じゃあ、インドのナード・カルチャーは、ただの金持ちのオタク趣味なのか。
というと、そうとも言い切れない部分があるはずだ。
インドの大都市に暮らす進歩的な人々が、日本人の平均よりもはるかに欧米的な感覚を持っていることは間違いないが、それでもインド社会の保守性はまだまだ根強い。

親世代と若者の価値観のギャップはインドの映画や文学の永遠のテーマだし、インディー音楽シーンでも、社会の保守性の生きづらさや世代間のすれ違いを扱った曲は多い。
(前回の記事↓で紹介した1位、2位の曲とかね)



ほかにも過剰な格差社会、競争社会であるとか、政治や行政の腐敗や機能不全、コミュニティの対立など、インド社会にはさまざまな問題が山積している。
そうした社会に疲れた若者たちにとって、物語の中に憂き世とはまったく別の小宇宙を見せてくれるオタク/ナードカルチャーは、ある種の避難所的な役割を果たしているのも確かだろう。
それを言ったら、オタク/ナードカルチャーの元になった作品を生み出した日本やアメリカだって、それぞれ固有の社会問題には事欠かないわけで、結局のところ、どこの文化でもオタク/ナード的な異世界が人々を惹きつけることに変わりはないのだけど。


いずれにしても、インド+ナードの組み合わせが、なんだか面白いものを生み出しているってことは間違いない。
例えばこのインドのアニメファンによるYouTubeチャンネル'Anime Mirchi'の強烈な二次創作は、他の国ではありえないオリジナルっぷりを見せてくれている。
「ガンジャ(大麻)がキマってるみたいなアニメのシーンのコンピレーション」とか、「もしアニメがボリウッドで作られていたら」とか、アニメとインドのインディーミュージックの融合とか、我々の想像を超えたセンスを見せつけてくれる。


例えば、その豪腕を評価されながらもヒンドゥー・ナショナリズム的な姿勢を非難されてもいるモディ首相をネタにしたエヴァンゲリオンのオープニングのパロディなんて、批判的風刺なのだろうけどもう訳がわからない。



とにかく言えるのは、このブログでは「インド+欧米由来のコンテンポラリー音楽」の面白さを追求しているけれど、「インド+オタク/ナードカルチャー」もものすごく面白いってこと。
この混沌のなかから、世界をあっと言わせるようなものすごい作品が生まれてくるのも、そう遠い話ではないのかもしれない。




--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり



軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

2018年の自選おすすめ記事はこちらからどうぞ! 
2019年の自選おすすめ記事はこちらから
2020年の軽刈田's Top10はこちらから
2021年の軽刈田's Top10はこちらから

ジャンル別記事一覧!


goshimasayama18 at 18:07|PermalinkComments(0)

2021年12月15日

2021年度版 インドのクリスマスソング特集!

もう12月も半ば。
この時期、2018年にはインド北東部ナガランド州のクリスマスソングを、昨年は同じく北東部メガラヤ州のクワイアが歌うクリスマスソングを紹介したので、今年は他の地域の曲を紹介したい。




…と思って調べてみたのだけど、正直に言うと、今のところ、そこまで素敵なクリスマスソングをインドで見つけることはできなかった。
これはどうしてかっていうと、キリスト教徒が多いインド北東部と比べて、メインランド(北東部の人たちは、アーリア系やドラヴィダ系の人々がマジョリティを占め、ヒンドゥー教やイスラーム教やシク教などが信仰されているインドの大部分をこう呼ぶ)にはそこまでクリスマスを祝う習慣が根付いていないからだろう。

なんて言うと、インドに詳しい人から「メインランドにもゴアやケーララ州にはクリスチャンがたくさんいるじゃないか」と言われてしまいそうだが、今回調べた限りでは、いわゆる西洋スタイルのポップミュージックとして聴けるいい感じのクリスマスソングは、ゴアやケーララでも見つけることができなかった。
(代わりに、宗教的なものや、インドの歌謡曲っぽいクリスマスソングはたくさん見つかったが…)
20世期に大々的にキリスト教への改宗が進められた北東部に対して、ゴアにキリスト教が伝えられたのは大航海時代だし、ケーララにいたっては1世紀に聖トマスがキリスト教を伝道したとも言われている。
つまり、ゴアやケーララのキリスト教(主にカトリック)は、長い歴史を持つがゆえに、欧米とは異なるインド独自の伝統を持っていて、それがウエスタン(西洋)・ポップス的なクリスマスソングを生まれにくくしているんじゃないだろうか。

インド北東部でクリスチャンが多いのは、もともとヒンドゥー教やイスラーム教よりもアニミズム(精霊信仰)が盛んだった地域だ。
こうした場所では、19世期から欧米の宣教師たちが入って改宗が進められ、ナガランド州やミゾラム州では、今では9割を超える人々がキリスト教を信仰するようになった。
ナガランド特集の記事でも紹介した、チャケサン・ナガ族の民謡と欧米的ポップスを融合した音楽性で知られるTetseo Sistersは、昨年のクリスマスに"Joy to the World"をリリースした。



顔立ちや伝統的なアクセサリーを見ないで音だけ聴けば、インドのシンガーだと思う人はほとんどいないだろう。

こちらはチャケサン・ナガの伝統的歌唱スタイルのクリスマスソング。


いつの間にかメンバーが一人脱退しているっぽいのが気になるが、ドキュメンタリー映画『あまねき旋律』でも紹介された伝統唱歌'Li'を思わせる素朴な歌声が心地良い。


北東部以外に、欧米ポップス的なクリスマスソングが皆無なわけではない。
ムンバイ出身のGwen Fernandesは、昨年クリスマスアルバム"The Best Christmas Ever"をリリースした。


名前を見る限り、彼女もクリスチャンのようだが、大都市ムンバイのクリスチャン・コミュニティで育った彼女にとって、こうした欧米のスタンダードなクリスマスソングは、慣れ親しんだものなのだろう。

こちらもクリスチャンっぽい名前のデリーのシンガー、Kimberley Rodriguesがリリースしたオリジナル曲。



インドでは、クリスチャン・コミュニティ以外にも、非宗教的なオシャレイベントとしての(いわば、日本的な)クリスマスが都市部を中心に広まりつつあるようで、例えば昨年も紹介したこの曲は、元EDMアーティストで、近年はアコースティックシンガーとしての活躍が目立つZaedenによるもの。



デリーからは、ラッパーのHommie Dilliwalaがインドの売れ線系ラッパーの筆頭格Yo Yo Honey Singhをフィーチャーした"Jingle Bell"という曲を発見。


おそらく宗教的な意味でのクリスマスとは全く関係のない内容だが、都会のパーティーカルチャーの雰囲気がよく伝わってくる。

インドでは、ディワーリーやホーリーといったヒンドゥー教の伝統的なお祭りに合わせてリリースされるポピュラーソングも多く、またなぜか毎年独立記念日に合わせてリリースされる楽曲もある。
そう考えると、インドでは、そこまで季節の風物詩としてのクリスマス・ソングが必要とされていないのかもしれない。
いつかインドからワム!や山下達郎みたいな感じの、ポップなクリスマスソングの名曲が出てくることがあるのだろうか。




--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり



軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

 

goshimasayama18 at 18:57|PermalinkComments(0)

2021年12月06日

インド大衆音楽の再定義 Indian Lo-Fi/Chillという新しい可能性

今回もまた詳しくないジャンルについて語ることになってしまうのだけど、どうしても書いておきたいテーマなので許してもらいたい。
いわゆる'lo-fi beats'のインドでの受け入れられ方、って話なんである。

2010年代後半から世界中に広がっていったlo-fiビートは、一過性のブームに終わることなく、熾火のように静かに、しかし確かな熱を持って燃え続けている。

2017年にフランスでスタートしたこのオリジナルlo-fiガールのYouTubeチャンネル'lofi hip hop radio'は、いつ見ても数万人の視聴者がいるし、Spotifyなどのサブスクでも、この手の音を集めたプレイリストが数え切れないほど作られている。


lo-fiの起源や発展については、詳しい人がいろいろ書いてくれているのでそっちを読んでもらうとして、要するに、ヒップホップから派生した、ジャジーでチルなサウンドやレイドバックしたビートが、やがてアナログなざらつきと温かみを感じさせる'lo-fi'というジャンルとして再定義されていった、ということで概ね間違っていないと思う。
面白いことに、こうしたサウンドのオリジネイターとされる日本人ビートメーカーの故Nujabesや、彼が音楽を手掛けたアニメ『サムライ・チャンプルー』の影響なのか、「lo-fiビートには日本のアニメ風の動画を合わせる」というのが、スタイルとして定着している。
lo-fiはクラブカルチャーとオタク文化を繋ぐミッシングリンクでもある(多分。けど今回はその話はしない)。


で、最近ようやく気がついたのだけど、このlo-fiという概念は、音楽ジャンルというよりも、音像のスタイルのことなんだな。
あえてノイズを散らし、トレブルやベースをカットした、カセットテープのような音像そのものが、「架空の思い出/故郷」とでも言えるようなノスタルジックな感傷とリラクシングな雰囲気を醸し出すサウンド作りの手法になっているってわけだ。

こうしたlo-fiビートが持つピースフルで肯定的なイメージは、同じノスタルジーを喚起する音楽でも、大量消費文化に対する皮肉やディストピア的な感覚の強いヴェイパーウェイヴとは見事に対照的だ。
批評性のあるカウンターカルチャーとして受け入れられたヴェイパーウェイヴに対して、lo-fiビートがここまで大衆的な支持を得ることができた理由は、「郷愁」という誰もが持つ感情に素直に訴えかけてくるからだろう。

そしてここからが本題なのだけど、インドの音楽シーンもこうした潮流と無関係ではないのである。
これまでにブログで紹介した中にも、Lo-Fiビートの影響を大きく受けたミュージックビデオがいくつかある。

インドのアニメファンによるYouTubeチャンネル'Anime Mirchi'は、オリジナルのローファイ・ガールへのオマージュを捧げつつ、インド的なサウンドのLo-Fiビートを編集した17分の動画を作成している。

Indian lofi hip hop/ chill beats ft. wodds - Desi lofi girl studying


サウンドについては言うに及ばず、机の上のチャイグラスや右腕のヘナにインドらしさを感じさせつつ、初音ミクやドラえもんなどの日本的な要素(本棚には太宰治の本もある!)を取り入れた映像もとてもクール。
モンスーンの季節なのか、窓の外では雨が降りしきっているのが印象的だ。


先日特集をお届けしたムンバイのビートメーカーKaran Kanchanも、この"marzi"では彼の代名詞でもあったJ-Trapとは正反対の叙情的なlo-fi的なチルサウンドを聴かせている。

Karan Kanchan, mohit, Xplicit - marzi

このミュージックビデオでは、うたた寝するLo-FiガールならぬLo-Fiボーイが印象的だが、こちらも窓の外は雨。
インドでは雨とローファイ的ノスタルジーは深い関わりがあるのだろうか。


Raj "Can't You See"

デリーを拠点に活躍するギタリストのRajは、韓国のLo-Fi系レーベル'Smile For Me'からアルバム"Lo-Fi and Romance"をリリースしている。
lo-fiビートの特徴のひとつであるメロウなギターサウンドが心地よい作品。


Prim4l "Pardesi"

アッサム州グワハティ出身のPrim4lは、オールド・ボリウッド風のヴォーカルとメロウなギターを組み合わせた"Pardesi"を発表。
(1996年のヒット映画"Raja Hindustani"へのヴェイパーウェイヴ的オマージュか?)

と、こんなふうにインドのインディペンデント・シーンにおいても、ローファイ・サウンドは確固たる存在感を放っているのだ。


いやいや、そんなこと言っても、一部のアーティストが通好みな音楽性に飛びついているだけでしょ、と思われるかもしれないが、そうではない。
インディー・アーティストたちによるオリジナルの楽曲だけではなく、ボリウッドの新旧の名曲、すなわちインドの大衆的なヒット曲をローファイにアレンジした音楽もYouTubeに数多くアップされていて、そうした動画が、決して小さくはない支持を集めているのである。






これらのlo-fi系ボリウッドチューンは、どの動画も数百万回の再生回数を誇っている。
ヒット映画のテーマ曲ともなれば1億再生超えも珍しくないインドでは、大人気と言えるほどではないかもしれないが、こうした大衆的ヒットをlo-fi化したサウンドを評価する層が、無視できないほどに存在しているのは確かなようである。

個人的な感覚で言わせてもらうと、インド映画の曲って、サウンドトラックそのまんまだと、音やアレンジのクセが強くて、そこまで入り込めないことが多い。
服に例えると、普段づかいするのには派手で奇抜すぎるエスニックな服、みたいな。
ところが、lo-fi的なアレンジをほどこすことで、そうした過剰さが取れて、むしろオシャレな感じすらするサウンドになってしまうから面白い。

とにかく、欧米とも東アジアとも全く別の発展を遂げてきたインドのポピュラー音楽が、ここに来てlo-fiという同じ方法論で、人々のノスタルジーを喚起しているってことは間違いないだろう。
どうやらインドでは、少なくともここ日本以上に、lo-fi的なサウンドや方法論が、受け入れられつつあるようなのである。
音楽の歴史や文化は全く違っても、ノイズまじりの音色や、アナログな音像という、音の質感そのものに関しては、lo-fiであることが同じ意味合いを持つのだと思うと、感慨深いものがある。


こうした状況から、何か新しくて面白いものが生まれてきそうな予感がするのだが、それがいったいどんなものになるのか、期待を込めつつ注目してゆきたい。


それにしても、改めて思うのは、すべての音がデジタル化/均質化してしまった今、10年後、20年後の人たちは、どんなサウンドにノスタルジーを感じるのだろう、ということ。
サブスク配信の音源を、安物のbluetoothイヤホンを通して聴いたような薄っぺらい音質が、いずれノスタルジックなサウンドとして懐かしがられる日が来るのかもしれない。


(関連記事っぽいもの)








--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり



軽刈田 凡平のプロフィールこちらから



goshimasayama18 at 22:40|PermalinkComments(0)

2021年05月02日

iPadで奏でる古典音楽! 自由すぎるカルナーティック奏者 Mahesh Raghvan

インドでは、ジャズやロックやヒップホップなどの現代音楽と古典音楽との融合が頻繁に行われており、こうした新旧・東西を融合した音楽は、「フュージョン・ミュージック」と呼ばれている。

…なんていう書き出しの記事を、このブログですでに10本近く書いただろうか。






インド人の「あらゆるものを自分たちの音楽に取り込んでしまう」という傾向は、昨日今日に始まったものではない。
例えば、南インドの古典であるカルナーティック音楽ではバイオリンが主要な楽器として使われているし、古典音楽・伝統音楽で広く使われている鍵盤楽器ハルモニウムも、もともとはヨーロッパ発祥の楽器である。
インドの古典音楽に詳しい人なら、それに加えてサックスやギターや大正琴までもが、古典を奏でる楽器として使われていることをご存知だろう。(というか、古典音楽に全く詳しくない私でも知っている)


バイオリンもカルナーティック音楽に使われるとご覧の通り。
フレットのない構造を生かして、ダイナミックに上下する旋律を表現するさまからは、もはや西洋楽器の面影はまったく感じられない…


この床置き式のアコーディオンみたいな楽器がハルモニウム。
ハルモニウムはもはや西洋音楽で使われる機会は消滅してしまい、ほとんど南アジア専用の楽器として使われている。
この演奏はパキスタン〜インドで親しまれているイスラーム神秘主義(スーフィズム)の宗教歌謡カゥワーリー。

 
サックスの倍音豊かな音色は声楽にも近く、思ったよりも違和感なくカルナーティック音楽になっている。

 
さきほどのバイオリンの演奏を見て、フレットがないからああいう演奏ができるんだよな…と思った人もいるかもしれないが、ギターでもこの通り。
ちなみにギターはインド古典音楽で使われる場合は、インド風に「ギタール」と呼ばれるらしい(単にインド訛りの英語なのかもしれないが)。

大正琴は現地では'bulbul tarang'という名前で呼ばれている。
この演奏方法は、日本人の発想ではまず思いつかない。
インド人たちは、初めて触れる楽器と出会うたびに、古典音楽を演奏する方法を考えずにはいられないのだろうか。

おそらくだが、インド古典音楽の根底には、その音楽の本質を表すことさえできれば、定まった様式(使われる楽器や演奏方法)は問わないという哲学があるのだろう。

古今のインド人たちのフュージョンっぷりを見れば、彼らがどんな楽器で古典を奏でようと、もう驚くことはない。
そう思っていた私はまだまだ甘かった。

今回の記事の主役、Mahesh Raghvanを初めて見た時、私が考える「フュージョン」の限界は、インド人には遠く及ばないということを思い知らされた。
カルナーティック音楽をベースとしたフュージョン・ミュージックを演奏する彼がプレイする「楽器」は(それを楽器と呼ぶなら、だが)、なんとiPadなのだ。

18世期に作られたこの古典楽曲の、1:23から始まるソロに注目!
Mahesh RaghvanがプレイしているのはGeoshredというiPadのアプリである。
iPad上に表示された音階をなぞることで、フレットレスの弦楽器と同じように無段階に音程をコントロールすることができるこのアプリを利用して、彼はカルナーティック音楽特有の大きなビブラートや微妙な音階を自在に表現している。

この"ShiRaga2.0"は18〜19世紀の作曲家Tyagarajaの作品をダブステップにアレンジしたという意欲作。
彼らは'Carnatic 2.0'と称して、カルナーティック音楽を現代風にアレンジする取り組みを進めている。
こうした取り組みは、インドではMaheshに限ったことではなく、たとえばロックバンドではPinapple Expressがプログレッシブ・メタルとカルナーティック音楽との融合に取り組んでいる。

Maheshは、純粋な古典音楽を追求するというよりは、あくまでも古典の要素を新しい形で表現するということに興味があるようで、彼のYouTubeチャンネルでは、現代のヒット曲や映画音楽をカルナーティック・スタイルで演奏した動画が何百万回もの再生回数を叩き出している。


「ホグワーツがインドに開校したら…」という設定も面白い『ハリー・ポッター』のインド風カバーは、1,000万回再生にも迫る勢いだ。
 
ホグワーツのインド校にはきっとサイババみたいな見た目の校長がいることだろう。

スターウォーズの『帝国のマーチ』をインド風に演奏すれば、ダースベイダーもボリウッドダンスを踊りそうな雰囲気に。
スターウォーズが黒澤明の時代劇映画影響を受けていることはよく知られているが、もしジョージ・ルーカスがインド映画に影響を受けていたらこんな雰囲気になっていたのだろうか…。

Luis FonsiとDaddy Yankeeの大ヒット曲"Despacito"もタブラやバーンスリーを交えた編成で演奏すればこの通り。
ラテンのリズムとメロディーがここまでインド的なアレンジに合うとは思わなかった。

同じ編成で演奏したMaroon 5の"Girls Like You"も聴きごたえたっぷりだ。

インド古典音楽は国内外にこだわりの強いファンが非常に多いジャンルなので、彼らがMaheshの演奏を聴いてどう感じるのか、気になるところではあるが、YouTubeのコメント欄を見る限り、インドでは好意的に受け止める声ばかりのようだ。

師のもとで一生かけて追求するほどの深さを持ちながら、これだけの自由さとフットワークを持ったインド古典音楽は、現代社会における伝統芸能として、理想的なあり方をしているように思える。

インドの音楽シーンとiPadの関わりといえば、今日のインドのストリートラップブームの火付け役となったNaezy(映画『ガリーボーイ』の主人公ムラドのモデルとなったことでも有名)が、出世作となった楽曲"Aafat!"をiPadのみで作ったことが知られている。(ビートをダウンロードし、マイクを繋いでラップを吹き込み、ビデオクリップを撮影してYouTubeにアップロードするという行為を全てiPadのみで完結し、新しいストリートラップのあり方を提示した)
インドには"Jugaad(ジュガール)"という「今あるもので工夫して、困難を解決する」という発想があるが、インド人とiPadの組み合わせは、音楽界に無限の可能性をもたらしてくれそうだ。



…と、ここまで書いて記事を終わりにしようと思っていたのだが、もうひとつインド古典音楽に合いそうな楽器を思いついてしまった。
それは、1920年にロシアの発明家が作り出した「世界初の電子楽器」テルミンである。
かつてインドが、ソビエトとの経済的なつながりが強かったことを考えれば、テルミンで古典音楽を演奏する人がいてもいいはずだと思ったのだが、ちょっと調べた限りでは、「古典テルミン奏者」は見つけられなかった。

無段階に音程を調整でき、ビブラートも自在なテルミン、インド音楽にぴったりだと思うんだけどなあ。

インド古典音楽界に新風を巻き起こしたいあなた。(誰だよ)
テルミンが狙い目ですよ!
動画をYouTubeにアップすれば、注目されること間違い無し!


(関連記事)





(追記)















--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」

更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり   
軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

凡平自選の2018年のおすすめ記事はこちらからどうぞ! 
凡平自選の2019年のおすすめ記事はこちらから

ジャンル別記事一覧! 



goshimasayama18 at 22:25|PermalinkComments(0)

2021年04月12日

インドで発見!日本語で歌うシンガーソングライター Drish T

日本人にとってうれしいことに、アニメや漫画といった日本のカルチャーは、インドのインディー音楽シーンでも一定の存在感を放っている。
Kraken, Komorebi, Riatsuなど、これまで何度も日本の影響を受けたアーティストを紹介してきたが、ここにきて、新たな次元で日本にインスパイアされたシンガーソングライターを見つけてしまった。

彼女の名前はDrish TことDrishti Tandel.
DrishT

ムンバイ育ち、若干20歳の彼女は、他のアーティストのように、曲に日本語のタイトルを付けたり、日本のアニメ風のミュージックビデオを作ったりしているだけではない。
なんと、彼女は日本語で歌っているのだ。

まずは彼女の曲"Convenience Store(コンビニ)"を聴いてもらおう。
(ちなみに、カタカナの「コンビニ」までがタイトルの一部だ)
 
大貫妙子を思わせる透明感のある声のキュートなポップス!
日本語の発音もとてもきれいだし、わざとなのかどうか分からないが、「忘れものはいないの?」という表現がユニークでかわいらしい。

彼女がすごいのは、この1曲だけ日本語で歌っているのではなく、「これまでに発表した全ての曲を日本語で歌っている」ということだ。
考えてみてほしい。
日本にも英語で歌うアーティストはいるが、全ての曲を日本語でも英語でもない、母語ではない言語で歌うアーティストがいるだろうか?

Drish Tは他のアーティストの楽曲にゲストヴォーカルとして参加することも多く、iTooKaPillと共演した"Portal"は、なんと日本語の「語り」から始まるエレクトロニック・バラードだ。
声質やトラックのせいもあると思うが、この曲はちょっと宇多田ヒカルっぽく聴こえる。

Animeshというアーティストとコラボレーションした"血の流れ(Blood Flow)"では、アンビエントっぽいトラックに乗せたメロウなヴォーカルを披露している。
インドの音楽シーンに突如現れた日本語シンガー、Drish T, 彼女はいったい何者なのか?
さっそくTwitterのダイレクトメッセージを通じてインタビューを申し込んでみたところ、「日本でインドの音楽のブログを書いている人がいるなんて思わなかった。喜んで質問に答えます!」とすぐに快諾の返事が来た。
それではさっそく、インド生まれの日本語シンガー、Drish Tインタビューの模様をお届けしよう。


ーまず最初に、あなたの経歴を教えてください。あなたはムンバイ在住の二十歳のシンガーソングライターで、カレッジで音楽を学んでいる、ってことであってますか?

「もちろん!私はムンバイで育ったけど、でも今はチェンナイにある、A.R.ラフマーンの音楽学校に通っていてディプロマ課程の2年目よ」

ーということは、現在はチェンナイに住んでいるんですか?

「そう。ここで学んで3年になる。でもロックダウンでみんな家に帰っていたから、最近になってやっと最終学年がスタートしたの」

ー学校が再開してよかったですね。いつ、どうやって作曲や歌を始めたんですか?

「最初は8年生(中学2年)のときにアコースティックギターを弾き始めた。叔父さんの古いギターを直したところだったから。でもすぐに歌うほうが好きだって気がついた。それで西洋風のヴォーカルを始めて、トリニティ(ロンドンの名門音楽カレッジ)のグレード5の試験を受けることにしたのよ。それから、KM音楽学院(KM Music Conservatory:前述のA.R.ラフマーンの音楽学校)を見つけて、芸術系の学校で12学年(日本でいう高校3年)を終えたあとに、ここに来たってわけ」

ーギターを始めた頃は、どんな音楽をプレイしていたんですか?

「そのころはポップ・パンクに夢中だったから、ポップ・パンクから始めたわ」

ー例えばGreen Dayとかですか?古くてすみません、あなたよりだいぶ年上なので(笑)。

「(笑) そう。6年生と7年生(中1)の頃、Green Dayの"Boulevard of Broken Dreams"がすごく人気だった。でもPanic! At The DiscoとかTwenty One Pilots, 5 Seconds To Marsの曲なんかも弾いてた!」

ーいいですね!私はGreen DayでいうとBasket Case世代でした。じゃあ、彼らがあなたに影響を与えたアーティストということですか?

「ええ。最初は彼らの曲をたくさん聴いていた。それからママの古いCDのコレクションで、ブライアン・メイとかマイケル・ジャクソンとかABBAとかQueenも!
それから、ちょっとずつ日本や韓国の音楽も聴くようになって、いまではそういう音楽から影響を受けているの!あとはカレッジの友達が作る音楽もね」

ーあなたが日本語でとても上手に歌っているので驚きました。日本語も勉強しているんですか?(ここまで英語でインタビューしていたのだが、この質問に彼女は日本語で答えてくれた)
スクリーンショット 2021-04-01 22.22.21

ーすごい!漢字もたくさん知ってますね。どうやって日本語で歌詞を書いているのですか?

「ありがとうございます(日本語で)!
日本語の歌をたくさん聴いているし、アニメとかインタビューとかポッドキャストとか、いろんなメディアを通して、言葉の自然な響きを学ぼうと努力してる。それで、歌詞を書こうと座ったら、考えなくても言葉が浮かんでくるようになった。今では日本語が私の内面の深い感情をもっともうまく表現できる言語よ。英語よりもね」

ーいつ、どうやって日本のカルチャーを見つけたんですか?

「9年生(中3)と10年生(高1)の頃、YouTuberをたくさん見ていたんだけど、ある時突然彼らが『デスノート』と『進撃の巨人』の話をするようになった(笑)。それですごく興味を持って、最初に見始たのが『四月は君の嘘』。音楽に関する話だったから。それからもっとたくさんアニメを見続けて、とても印象的で美しい言葉だから、日本語も勉強したいって思った。そういうわけで、Duolingoで独学を始めて、日本の文化に関する本もたくさん読んだ。
日本の文化でいちばん好きなのは、礼儀正しさと敬意ね。私はすべての人が敬意を持って扱われるべきだと信じているから、すぐに日本の文化に共感したの。
2019年には日本語能力試験(JLPT)のN4(4級)に合格したのよ!」

ーおめでとうございます!あなたの言ってること、分かる気がします。僕の場合は19歳のときにインドを旅して、それからずっとインドが好きなので。インドの好きなところは、活気があるところと文化の多様性ですね。僕の場合は、インドの言葉ができないってのが違うけど。勉強するべきだったかな…。

「それは素晴らしいわね!ヒンディー語はとても簡単だし、北インドで最も共通して話されている言語よ。私は南インドの言語を知らないから、今住んでいるチェンナイではちょっと苦労することもあるの」

お気に入りのアニメや日本のミュージシャンを教えてもらえますか?

「私のお気に入りの日本のアニメは、なんといってもジブリの映画!『ハウルの動く城』はお気に入りの一つよ。『ハイキュー!!』も大好き。登場人物たちを見てると、あたたかくてハッピーな気持ちになれるの。もちろん、『鬼滅の刃』『進撃の巨人』『僕のヒーローアカデミア』、最近では『呪術廻戦』もね。」

ージブリの作品はどれも素晴らしいですよね。もう『呪術廻戦』もご存知なんですね!日本では去年『鬼滅の刃』の映画が大ヒットして、次は『呪術廻戦』が来るんじゃないかってみんな話してますよ。

「ええ。『呪術廻戦』はインドでも私たちの世代にとても人気よ!
『NARUTO!』みたいなクラシックな作品ももちろん好き。
日本の音楽に関して言えば、大橋トリオ、久石譲、林ゆうき、Tempalay、Burnout Syndromes、Radwimps、米津玄師、神山羊、King Gnuをたくさん聴いているし、他にもお気に入りは大勢いる。挙げればきりがないわね(笑)」

ー(凄い…。知らないアーティストもいる…)韓国の音楽も聴いているって言ってましたよね。今ではK-Popは世界中で人気がありますが、日本の音楽と韓国の音楽の違いはどんなところだと思いますか?

「あ、百景を挙げるのを忘れてた!最近ではマスロックやプログレッシブロックもたくさん聴いているの。
そうね、K-Popはインドでも大人気よ。もちろん、BTSはとくにね。私も彼らの音楽は大好き。なによりいろんな意味で盛り上げてくれるから。でも、彼らみたいなグループはとても商業的だってすぐに気がついて、もっとインディー・ミュージックを聴くようになったの。そうね、日本の音楽のほうが、より誠実な感じがする。
あっ!なんてこと!toeとu-zhaanのことも言い忘れてた!」

ーK-Popは国際的なマーケットに向けたビッグビジネスって感じですよね。日本の方が人口が多いからかもしれませんが、日本のアーティストはもっと国内マーケット向けに音楽を作っていて、そのことがユニークなサウンドを生み出しているようにも思います。どっちのほうが良いということではなく、どちらも面白いですよね。
プログレッシブロックやマスロックが好きなら、デリーのバンドKrakenは知ってますか? 彼らも日本のカルチャーから影響を受けているバンドです。

「そう、日本の音楽はとてもユニークで、ほとんどの人がなかなかそのことを理解しないわね。でもインドの人たちも、少しずつ東アジアのカルチャーに対してオープンになってきている。
Krakenのことはちょっと前に知ったのだけど、彼らは本当にクールよ。私は日本とインドが私たちの文化を超えてつながるのが大好きなの!」

ーところで、iTooKaPill, Animesh, Ameen Singhなどのたくさんのミュージシャンと共演していますよね。彼らのことは知りませんでしたが、とても才能があるミュージシャンたちで驚きました。どうやって彼らと知り合って、コラボレーションすることになったんですか?

「ああ(笑)、彼らはミュージックカレッジの同級生なの。ここでたくさんの面白くて才能のある人たちと会えて、素晴らしいわ」

ー最高ですね。ところで、これまでずっと日本語で楽曲をリリースしてきましたが、インドの人々のリアクションはどうでしたか?彼らにとっては、意味がわからない言語だと思うのですが。

「そうね。実際、私の音楽をリリースすることにはためらいがあったんだけど、でもK-Popもインドで人気があるし、人々が新しい文化やカルチャーを受け入れるようになってきたって気付いたの。それで、みんなが歌詞を理解できるように、リリックビデオを作ったのよ。みんなのリアクションには、とても満足してる。日本語で歌っているから、音楽業界のインフルエンサーたちも注目してくれた。インドではとても珍しいことだから!」

ー『コンビニ』みたいな曲はどうやって書いたんですか?あの曲、すごく気に入っているのですが、日本の暮らしを想像しながら書いたんですか?

「ありがとうございます(日本語で)。私はよくパンケーキを焼くし、日本のコンビニに行くvlogをたくさん見てたから、自分でちょっとした世界を作ってみたくなったの」

ー歌詞の中で「忘れ物はいないの?」っていうところが好きです。「いない」って、人に対して使う言葉だから、なんだか詩的でかわいらしく聞こえるんです。まるで卵とかバターを友達みたいに扱っている気がして。

「歌をレコーディングした後に気が付いたんだけど、そのままにすることにしたの!それはすごくキュートな見方ね」

ー間違いだったんですか?わざとそうしているのかと思いました。

「ええ、間違いよ。でもそのままにしておいてよかった(笑)」

ー他の曲は、もっと心の状態を表したものが多そうですね。" Let's Escape (Nigeyo)"(逃げよう)も気に入っています。ギターが素晴らしくて。この曲は何から逃げることを歌っているのですか?

「そう、他の曲は心の状態について歌っているの。親友のAmeenがすごくクールなリフを弾いてくれて、共演しようって言ってくれたの。歌詞を書こうと思って座ったら、すぐに『逃げよう』って言葉が浮かんできた。歌詞全体は、宿命論的な心のあり方から逃げることについて書いているけど、いろんな解釈ができるわ。何らかの感情、場所、人からエスケープするとかね」

現時点の最新曲"Let's Escape(Nigeyo)"はAmeen Singhのマスロック的なギターをフィーチャーした楽曲で、彼女の新しい一面を見ることができる。
「本当は、2020年の夏に両親といっしょに日本を訪れて、いくつかの音楽大学をチェックする予定だったの。でもパンデミックが起こってしまって…。本当に、いつか日本で学んでみたいと思ってる」

ー日本にはまだ来たことがないんですか?

「ええ、まだないの。チケットも予約していたのに、全てキャンセルしなければならなかったのよ!」


と、最後まで日本への思いを語ってくれたDrish T.
彼女が安心して日本に来ることができる日が訪れることを、心から願っている。

彼女がコラボレーションしていたiTooKaPillやAnimeshも才能あるミュージシャンで、インドの若手アーティストの(というか、A.R.ラフマーンのKM音楽学院の)レベルの高さを思い知らされる。
というわけで、今回は「インドで日本語で歌うインド人シンガー」Drish Tを紹介しました!
次回は「インドでヒンディー語で歌う日本人シンガー」です !





--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」

更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり   
軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

凡平自選の2018年のおすすめ記事はこちらからどうぞ! 
凡平自選の2019年のおすすめ記事はこちらから

ジャンル別記事一覧! 


goshimasayama18 at 20:43|PermalinkComments(0)

2020年12月23日

2020年度版 インドのクリスマスソング特集! 古代アラム語で歌われるクリスマスキャロルからバングラーまで



2年前に、インド北東部ナガランド州のクリスマスソングに関する記事を書いた。
典型的な「インド人」とは異なる、モンゴロイド系の民族が多く暮らすインド北東部は、他の南アジアとは異なりヒンドゥー/イスラーム文化の影響が少なく、19世紀以降の宣教によって、今では多くの住民がキリスト教を信仰している。
ナガランドは人口の9割がクリスチャンであり、地元の伝統と西洋のポップミュージックやキリスト教信仰を融合したユニークなクリスマスソングが存在しているのだ。
 
(詳細はこちらの記事で↑)
今回は、ナガランド以外に視野を広げて、あらためてインドのクリスマスソングを調べたので、紹介してみます。
今年リリースされた曲でとくに印象に残ったのはこの2曲。

まず紹介するのは、インドを代表するEDM系プロデューサーからアコースティックなシンガーソングライターへの転身を遂げたZaedenが、女性シンガーNatania Lalwaniをフィーチャーしてリリースした"For Christmas".

シャッフル気味のアコースティックギターに、ファルセットボイスで歌われるポップなメロディー。
インディー音楽とはいえ、とうとう典型的なクリスマスのポップチューンがインドでも作られるようになったと思うと感慨深い。
途中からレゲエっぽいリズムが入ってくる展開も洒落ている。

インドでは、近年の経済成長や海外文化の流入に伴い、都市部を中心に「欧米的なオシャレなイベント」としてのクリスマスが根付きつつある。(一方で、既存の宗教の原理主義的な信奉者や偏狭なナショナリズムの支持者からは反発もあるわけだが)
イエス・キリストの誕生日やサンタクロースがやってくる日としてのクリスマスではなく、愛する人と過ごす日としてのクリスマスが描かれたこの曲は、都市部の現代的な若者たちのクリスマスのイメージを踏襲したものと見てよいだろう。


続いて紹介するのは、人口の75%がキリスト教を信仰するインド北東部メガラヤ州の州都シロンからの1曲。
Shillong Chamber Choirが今年リリースしたクリスマスアルバム"Come Home Christmas"に収録された"Go Tell It On The Mountain"だ。

Shillong Chamber Choirは、2001年に結成された室内合唱団で、人気テレビ番組'India's Got Talent'での優勝(2001年)を含め、国内外で多くの賞に輝いている。
地元の民謡っぽい旋律に続いて、ファンキーにアレンジされた賛美歌/ゴスペルの"Go Tell It On The Mountain"が英語で歌われるが、途中で歌が耳慣れない言語に変わることに気がつくはずだ。
これはなんとイエス・キリストが話していたと言われる「古代アラム語」だそうで、「マルチリンガルなクリスマス・アルバム」として制作された今作に合わせて、今ではほとんど話者のいないこの言語を「救い主が生まれたことを世界に告げよ」と歌うこの曲に採用したとのこと。
多言語社会のインドでは、複数の言語で歌われる曲も珍しくはないが、賛美歌に古代アラム語を持ってくるというのは、クリスチャンの多い北東部ならではの発想だろう。

この"We The Kings"では、ウルドゥー語とペルシア語が採用されている。

非常に美しいミュージックビデオは、イスラエルのサンドアーティストIlana Yahavによるもの。
正直に言うと、私は普段合唱団が歌うような音楽は全く聴かないのだが、このアルバム"Come Home Christmas"に関しては、ファンキーにアレンジされたゴスペルから荘厳な賛美歌まで、さまざまな言語の美しい響きとともに、なんの違和感もなくポップミュージックとして楽しむことができた。
非常にユニークな、長く聴くことのできるクリスマス・アルバムだ。


今年のリリースではないものの、インドならではの面白いクリスマスソングを他にも見つけることができたので、合わせて紹介します。

ムンバイのポップバンドSanamは、いくつかのクリスマスソングをカバーして発表している。
彼らは古いボリウッド映画の曲を現代的にカバーし、YouTubeから人気が出たバンド。
彼らは映画音楽のみならず、100年前のベンガルの詩人タゴールの作った歌などもカバーしており、近代化著しいインドで、歌を通して古き良きものと現代を繋ぐ役割を担っているのだろう。
そんな彼らがカバーしたクリスマスソングは、ポップスではなく、伝統的な聖歌/賛美歌だ。

おそらく彼らはクリスチャンではないと思われるが、彼らのクリスマスソングを聞くと、流行の消費主義的なイベントとしてのクリスマスではなく、信仰こそ違えど、我々よりも大きな存在に帰依する人々への共感とリスペクトが込められているように感じられる。
物質主義的な部分が強くなって来たとはいえ、インドは信仰の国だ。
サンタクロースやクリスマスケーキになじみのない人々も、偉大なGuru、イエス・キリストの生誕を祝う気持ちは十分に理解できるのだろう。

続いて、北インドのポピュラー音楽シーンのメインストリームであるバングラー(Bhangra)のクリスマスソングを探してみたところ、意外にも多くの動画がアップされているのを見つけてしまった。
バングラー・ユニットのGeeta Brothersは、その名も"Punjabi Christmas Album"というアルバムをリリースしている。

陽気な男たちが打ち鳴らすドール(Dhol. 両面太鼓)、コブシの聞いた歌い回し。
彼らはバングラーの故郷パンジャーブ州に住んでいるわけではなく、イギリスに暮らす移民たちらしい。
パンジャービー系の人々は、移民が多く、コミュニティーが世界中に広がっているからこそ、世界中の文化と伝統音楽の融合が行われているのだろう。

こちらはマレーシア、クアラルンプールのパンジャービー・コミュニティー。


クリスマスソングに合わせてバングラー・ダンスを踊りまくっている動画とか、クリスマスソングのバングラー・リミックスもかなりたくさんヒットする。





彼らがクリスチャンなのか、はたまたヒンドゥーやシクなのかは知る由もないが(ターバンを巻いている人たちはシク教徒のはず…)、なんとも陽気で楽しくて素晴らしいではないか。
「お祝いだ!太鼓叩いて踊ろうぜ」って感じのノリが最高だ。

クリスマスを信仰に基づいてお祝いする人も、パーティーとして楽しむだけの人も、今年は例年になく困難な状況を迎えているが、何はともあれ感謝の心を忘れずに、遠く離れた人々との繋がりも感じながら過ごすことができたら素晴らしいことだ。
みなさん、メリー・クリスマス。
素敵なクリスマスをお過ごしください。




--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」

更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり   
軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

凡平自選の2018年のおすすめ記事はこちらからどうぞ! 
凡平自選の2019年のおすすめ記事はこちらから

ジャンル別記事一覧!  


goshimasayama18 at 19:13|PermalinkComments(0)

2020年12月10日

インドのアニメファンによるYouTubeチャンネル"Anime Mirchi"の強烈すぎる世界!


これまでも何度か特集しているとおり、インドにおいて日本のカルチャーは一定のファン層を獲得している。
ここでいう「カルチャー 」というのは、主にアニメのことで、インドのインディーミュージシャンの中には、日本のアニメ作品からの影響を公言しているアーティストがたくさんいるのだ。




そんなインドのアニメファンが運営している、かなり面白いYouTubeチャンネルを発見してしまった。
それが、今回紹介するこの'Anime Mirchi'である。
('Mirchi'とはインド料理にもよく使われる唐辛子のこと)


このチャンネルの素晴らしいところは、単にアニメのみを扱っているのではなく、インドのインディペンデント・ミュージックと日本のアニメ・カルチャーの融合にも積極的に取り組んでいることである。

中でも唸らされたのが、この'Indian lofi hip hop/ chill beats ft. wodds || Desi lofi girl studying'と題された動画だ。


Lo-Fiヒップホップは、創成期の代表的ビートメーカーである故Nujabesが、アニメ作品『サムライ・チャンプルー』のサウンドを手掛けたことなどから、アニメとのつながりが深いジャンルとされている。
とくに、パリ郊外に拠点を構えるYouTubeチャンネル'ChilledCow'が、"lofi hip hop radio - beats to relax/study to"に勉強中の女の子のアニメーションを使用してからは、ローファイサウンドと日本風のアニメの組み合わせがひとつの様式美として確立した。

Lo-Fi HipHopについてはこのbeipanaさんによる記事が詳しい。
 
この「勉強中の女の子」(当初はジブリの『耳をすませば』 のワンシーンが使われていたが、著作権の申し立てによってオリジナルのアニメに差し替えられた)は、国や文化によって様々なバージョンが二次創作されており、Anime Mirchiが作成したのはそのインド・バージョンというわけである。
(インド以外の各国バージョンはこの記事で紹介されている)

さらに面白いところでは、「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」をヴェイパーウェイヴ、シンセウェイヴ的に再構築するという狂気としか思えないアイディアを実現したこんな音源もアップロードされている。

ヒンディー語版?のドラえもんのテーマ曲をリミックスした映像は超ドープ!


ここ数年話題となっているヴェイパーウェイヴというジャンルを簡単に説明すると、「80年代風の大量消費文化を、追憶と皮肉を込めて再編集したもの」ということになるだろう。
「シンセウェイヴ」は、同様のコンセプトでシンセサウンドとレトロフューチャー的なイメージが主体となったものだ。
これらの動画のサウンドを手掛けている'$OB!N'というアーティストは相当なアニメファンらしく、あの『こち亀』の主人公の両津勘吉をテーマにしたこんな曲を自身のSoundcloudで発表していたりもする。
$OB!N · Ryotsu
他にも、このAnime Mirchiには、アニメのなかのドラッグ的な効果を感じるシーンを集めた'Anime on Ganja'なんていう想像の斜め上すぎるシリーズの動画もアップされている。

こんなふうに書くと、サブカルチャーをこじらせたマニアックなYouTubeチャンネルのようなイメージを持つかもしれないが(まあ、それは間違いないんだけど)、このチャンネルが面白いのは、アニメだけではなく、ボリウッドやハリウッドなどの王道ポピュラーカルチャーにも目配りができていることである。
例えば、昨年日本でも公開された『ガリーボーイ』や『ロボット2.0』の予告編そっくりの動画を、アニメ映像をマッシュアップして作り上げるなんていう、これまたぶっとんだアイディアの動画もアップされているのだ。
オリジナルの予告編と合わせて紹介してみたい。

これは『DEVILMAN crybaby』の映像で作った、ボリウッドのヒップホップ映画『ガリーボーイ』予告編のパロディ。


こっちがオリジナル。


こちらは『ジョジョの奇妙な冒険』をマッシュアップして作ったスーパースター、ラジニカーント主演のタミル語映画『ロボット2.0』の予告編。


そしてこちらがオリジナル。

映像のシンクロ率は『ガリーボーイ』ほどではないが、こちらもかなりの完成度。もしかすると、『ガリーボーイ』『ロボット2.0』という映画のセレクトも、日本公開された作品を選んでくれているのかもしれない。

同様の発想で、アニメの映像を使って『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の予告編を作ったり、「もしアニメがボリウッドで制作されたら」というシリーズを作ったりと、とにかく独特すぎる動画が盛り沢山。
さらに凝ったところだと、『バーフバリ 伝説誕生』の映像を編集して、アニメ映画の予告編風の動画を作っていたりもする。
 
カタカナ入りの字幕も全てこの動画のために作成されたものだ。
『バーフバリ』はコアなアニメ作品同様、コスプレまでする熱心なファンを持つ映画だが、こうして見てみると、かなりアニメ的なシーンや演出が多いということに気づかされる。
この映像は、『バーフバリ』の日本で大ヒットし、新しいファン層を開拓したことに対するトリビュートとして制作されたものだそう。

インドのインディーミュージックの紹介を趣旨としているこのブログとしては、最近のアーティストの作品に日本のアニメの映像を組み合わせた動画に注目したい。

これはSmg, Frntflw, Atteevの共作によるEDM"One Dance"に新海誠の『言の葉の庭』の映像を合わせたもの。


デリーのラッパーデュオSeedhe MautとKaran Kanchanの"Dum Pishaach"にはHELLSINGの映像が重ねられている。

この2曲に関しては、オリジナルのミュージックビデオも(ほぼ静止画だが)アニメーションで作られており、"One Dance"はSF風、"Dum Pishaach"はアメコミと日本のアニメとインドの神様が融合したような独特の世界観を表現している。


"Dum Pishaach"のビートメイカーKaran Kanchanは大のアニメ好き、日本カルチャー好きとしても有名なアーティストだ。


著作権的なことを考えると微妙な部分もあるが(というか、はっきり言ってアウトだが)、ここまで熱心に日本のカルチャーを愛してくれて、かつ私が愛するインドのインディーミュージックにも造詣が深いこのチャンネル運営者の情熱にはただただ圧倒される。
インドにおけるジャパニーズ・カルチャーと、日本におけるインディアン・カルチャー。
いずれもコアなファンを持つ2つのジャンルをつなぐ'Anime Mirchi'に、どうかみなさんも注目してほしい。


'Anime Mirchi' YouTubeチャンネル


--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」

更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり   
軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

凡平自選の2018年のおすすめ記事はこちらからどうぞ! 
凡平自選の2019年のおすすめ記事はこちらから

ジャンル別記事一覧!  

goshimasayama18 at 20:06|PermalinkComments(0)