インド北東部

2020年09月25日

インドの秘境ナガランドの音楽やコスプレのオンライン・イベントのご案内!

「Do you know Cosplay? 知人がコスプレや音楽のオンラインイベントを行うんだ。ぜひ日本からも参加してほしい」
インド北東部で音楽ライターをしている友人から、いきなりこんな連絡があった。

彼の知人だという女性から詳細を教えてもらったところ、その企画は、'Magnum Opus'という名称で、ナガランドの'Act of Kindness'という団体が企画しているものだそうだ。
ナガランドといえば、かつては首狩りの風習があったことでも知られているミャンマーと国境を接するインド北東部の土地。
第二次世界大戦での日本軍の無謀なインパール作戦の激戦地にもなった土地としても知られている。

昨年公開された、田園地帯で歌われる美しい労働歌を描いたドキュメンタリー映画『あまねき旋律』でご存知の方も多いだろう。

もともとは異なる文化や言語を持つ16もの部族が暮らすナガランドは、住民のほとんどがキリスト教に改宗し、激しい独立運動を経て、そしてなぜか今では日本のアニメのコスプレが大流行しているという非常にユニークな土地だ。
 
どれほどコスプレが人気かというと、Nagaland Anime Junkiesというアニメ同好会が毎年開催しているコスプレの祭典Cosfestには、近隣の州からも含めて、毎年1万人近いファンが集まるほどだという。

ご覧の通り、ナガランドに住んでいるのは、典型的なインド人のイメージとは異なるモンゴロイド系の民族。
民族衣装を着ていなければ(とくにコスプレをしていると)日本人と間違えてしまいそうである。

今回案内のあったMagnum Opusは、10月25日の「世界芸術の日(International Artist Day)」に合わせて開催されているアートと音楽の祭典で、今年で6回目を数える。
絵画、写真、オリジナル楽曲、短編ストーリーなどと並んで、「コスプレ部門」があるというのがいかにもナガランドらしい
というか、日本の芸術祭のようなイベントで、コスプレ部門が行われているというのは聞いたことがない。
ナガランドはオタクカルチャーの市民権という点で言えば、もはやとっくに日本を超えているのかもしれない。
すごいぞ、ナガランド。 

このイベントは、例年ナガランド州の中心都市ディマプルで開催されていたが、今年はコロナウイルス禍によりオンライン開催となったことで、ぜひコスプレの本場である日本からも参加してほしい、ということで私にコンタクトしてくれたようだ。

こちらは2年前に行われたイベントの様子。
コスプレ部門の様子は1:30頃から出てくる。

インドの山奥の地方都市とは思えないコスプレっぷりに驚かされるだろう。

ナガランドの人々のジャパニーズ・カルチャーへの情熱には驚かされるばかり。
この動画は、先述の'Cosfest'を取り上げたドキュメンタリー映画だ。
38:20頃から、ナガの人々が日本への思いを告白する部分がある。

なんだか日本人として、こそばゆいような気持ちになるが、ここまで日本のカルチャーに情熱を傾けてくれている人々に、日本のコスプレイヤーの皆さんには是非とも応えてほしい。

エントリー費用はたったの150ルピー(215円程度)。
賞金もベスト・コスチューム賞が10,000ルピー(14,000円程度)、ベスト・パフォーマンスなどの各賞が5,000ルピー(7,000円程度)とごく少額だが、オンラインとはいえ、旅行でもなかなか行けない地域のイベントに参加することは、プライスレスな経験になること間違いなし。

 コスプレ部門の審査員はNaga Anime Junkiesの優勝者らが務めるそうだ。

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審査は、未編集の1分間未満の動画と、未加工の画像3枚(正面・横・後ろから撮影したもの。アクセサリー等にフォーカスした画像1枚を追加可能)で行われる。
評価の対象は、コスチュームのディテールやパフォーマンス、オリジナリティーとのこと。
(詳細はこちら)
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このRegistrationを10月15日までに以下のメールアドレス宛に送り、参加費をGoogle Payで振り込んだうえで、動画や画像を10月20日までに送ればエントリー完了。
(送付先のメールアドレスは、actofkindness.dimapur@gmail.com) 
 
 
もちろん、それ以外の部門も参加大歓迎。
オリジナルソング部門は、英語の曲が望ましいが日本語でも構わないとのこと。
これらの部門の詳細や審査方法については、上記のメールアドレス宛に気軽に問い合わせてほしい。
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それぞれ、ナガランドで活躍しているアーティストが審査を行うようだ。
コスプレイヤーをはじめ、アーティストのみなさんはコロナ禍でなかなかリアルでのイベントに参加できない日々が続いていると思うが、こんな時だからこそ、普段はなかなか接する機会がない地域の人々とも繋がってもらえたらと思う。

日本からの入賞者の知らせを聞くことを、心待ちにしています。


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2019年10月12日

インド北東部のRage Against The Machine! アッサム州のラップメタルバンド、Ambushによる闘争の音楽



「J-Popバンド」「ボブ・ディラン」と続いた「インド北東部に○○がいた」シリーズ。
今回の第3弾は、前回のボブ・ディランとはうってかわって、90年代から活躍するアメリカのヘヴィロック/ラップメタルバンド Rage Against The Machine(以下RATM)だ。

RATMをご存じない方のために簡単に説明しておく。
1991年にロサンゼルスで結成されたRATMは、レッド・ツェッペリンを想起させるリフとヘヴィなグルーヴに歯切れの良いラップを融合した斬新な音楽性で、90年代に高い人気を集めたヘヴィロックバンドだ。
彼らの代表曲、"Killing In The Name"はこんな感じ。


RATMが特徴的なのは、そのサウンドだけではなかった。
彼らはとことん政治的・社会的なテーマを追求したバンドで、1992年にリリースされたファーストアルバムのジャケットには、アメリカ政府の傀儡政権であった南ベトナム政権下で1964年に抗議の焼身自殺を行った仏教僧の写真を採用した。
マルコムXやチェ・ゲバラらに影響を受けた彼らは、アメリカの覇権主義や資本主義の暴走、そして体制によるあらゆる人権侵害への抗議を表明し、その政治的な思想を鮮明にした活動でも注目を浴びた。
この"Sleep Now In The Fire"のミュージックビデオは、なんとニューヨーク証券取引所前でのゲリラ撮影という攻めっぷりだ。
 
監督は『ボウリング・フォー・コロンバイン』などで知られるマイケル・ムーア。
この頃(99年)彼らはすでに世界中のフェスでトリを務めるような大人気バンドだったが、そのラディカルな姿勢は一向に衰えなかった。

日本で最も知られている曲は、この"Guerrilla Radio"だろう。

総合格闘技"PRIDE"のテーマ曲として有名なこの曲は、当時のブッシュとゴアによる選挙戦を皮肉り、権力者による大衆の支配を糾弾した内容だ。
RATMの政治的・社会的なメッセージは、SlipknotやKORNといった同世代のヘヴィロックバンドがより内面的・個人的なテーマを扱ったのとは対照的で、サウンドだけでなく思想的な面でも、多くのアーティストに影響を与えた。

ついついRATMについての説明が長くなったが、これでもう前回の記事をお読みになった方にはお分りいただけただろう。
独立運動を封じ込めるという名目で、AFSPA(軍事特別法)のもとで令状なしでの拘束や暴力にさらされてきたインド北東部の人々が、RATMの怒りを込めたアジテーションに惹かれるのは、当然というよりも、もはや必然なのだ。
 
ロサンゼルスから遠く離れたインド北東部で、サウンドとアティテュードの両面でRATMの強い影響を受けたバンドが2015年に産声を上げた。
アッサム州Karbi Anglong地区の都市、Diphuの若者たちによって結成されたバンド、Ambushである。
彼らが地元Anglong地区の状況をテーマにした"Bleeding Anglong"をさっそく聴いてみよう。

ご覧の通り、サウンドも、闘争の様子を撮影したミュージックビデオも、驚くほどRATMにそっくりだ。

彼らのFacebookページによると、Anglong地区は「持つもの」と「持たざるもの」に分断されており、「持たざるもの」出身である彼らは、音源発表後も自分たちの楽器を持っておらず、 借りものの楽器で演奏していたという。
この曲のテーマは、かつては平和で美しかった故郷が、AFSPAのもと暴力が横行する地になってしまったことにたいする強烈なプロテストである。

この"9mm"は、彼らの地元でささいな理由で繰り返されるストライキや、暴力の犠牲となった無実の人々について歌ったもの。



Ambushは、自分たちを「声なき者たちの声を表現するために結成された」「彼らの社会や地域で起こっているあらゆる悪に対する革命」であると定義しており、「'Fake encounter'(テロの被疑者に対する治安維持勢力による証拠なき殺人)や政府の腐敗に対する反対」を表明している。
彼らの声明は力強い。
「みんなに言いたいのは、奴らが俺たちを銃弾で黙らせることはできないということだ。俺たちは勇敢で、死ぬことも恐れてはいない。全ての仲間たちよ、立ち上がり、団結する時だ。拳を上げろ!」
(いずれも、Facebookのページより)

彼らは、サウンドだけでなく、反権力、平和、反戦を強く訴えるというアティテュードまでRATMに瓜二つだが、彼らが表現している内容は、コピーやフェイクではなく、これ以上ないほどにリアルなものなのだ。
 
アコースティックギターに乗せて語りかけるように歌うボブ・ディランから、強烈なグルーヴとリフに乗せて不正義を糾弾するRATMまで、あらゆるスタイルの「カウンターカルチャーとしてのロック」が、インド北東部には根づいている。
これは、ムンバイのスラムのラッパーたちが、アメリカの抑圧された黒人たちに共感してヒップホップを始めたのと同様に、北東部のロックミュージシャンたちが、ディランやRATMが訴えた社会的・政治的メッセージに自分たちの環境を重ね合わせ、心を動かされたからに違いない。
こうした現象は、音楽的には面白いが、まずは暴力や不正義がはびこる北東部の状況が一刻も早く改善されることを願うばかりである。

以前、こうした北東部の状況について、現地在住の音楽ジャーナリストから話を聞いてブログに書こうとしたときに、彼から「北東部の状況は本当にデリケートなんだ。よく調べて、気をつけて書いてくれ。俺が話したということで、逮捕されることだってありうる」と言われたことがある。
日本人が日本語でブログに書いたことがきっかけで、インドのジャーナリストが逮捕されるようなことが本当にあるのかどうかは分からないが、少なくともそれくらい気をつける必要がある状況ということなのだろう。

日本ではほとんど情報が入ってこないインド北東部だが、北東部の人々が演奏する音楽を通して、楽しい気持ちにも、厳しい状況にも、少しでも心を寄せることができたらと思う。
これからも、このブログではインド北東部の音楽を硬軟あわせていろいろと紹介してゆきます。


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goshimasayama18 at 22:38|PermalinkComments(0)

2019年10月06日

インド北東部にボブ・ディランがいた(その1)!マニプル州のImphal Talkies!



個人的な話になるが、ボブ・ディランのなかでいちばん好きな曲はこの"Don't Think Twice, It's Alright".
『くよくよするなよ』っていう素敵な放題もついている。
(この音源は本物。インドのボブ・ディランはこの後出てきます)

学生時代、就職を控えた最後の春休み、当面最後になるであろう1ヶ月単位でのインドの旅(そして実際、それ以来そんなに長くインドには行けていない)の終わり頃だったと記憶している。
あれはどの街に向かう鉄道だったろうか。
夕暮れに染まるインドの大地を眺めるともなく眺めつつ、CDウォークマンでこの曲を聴きながら、自分の人生はこれからどうなるんだろうか、なんてしみじみと考えたものだった。
就職先が古いタイプの日本企業で、最初の勤務地は出身地とは違う地方に配属になるというしきたりがあった。
1ヶ月後、自分はどこの街でどんな人とどんな仕事をしているのだろうか。
あと、この"Freewheelin' Bob Dylan"のジャケットのような、寄り添ってくれる彼女も欲しかった(ちなみにこの女性は、実際にディランがつきあっていた彼女)。
今にして思うと、めちゃくちゃ安っぽい感傷だが、きっとそんな感傷に浸りたい年頃だったんだろう。
ああ恥ずかしい。
そんな思い出話はさておき。

先日、「インド北東部にJ-Popバンドがいた!?」という記事をお届けした。
インド北東部は"7 Sisters States"と呼ばれる7つの州から構成され(さらにシッキム州を北東部に含めることもある)インドのマジョリティとは異なるモンゴロイド系の民族が暮らす地域だ。
インド北東部地図NEとシッキム

インド北東部地図拡大 

この地域は、中国、ミャンマー、バングラデシュ、ブータンと入り組んだ国境を接する地政学上重要な地域であり、また多くの州で過激な独立運動が行われていたため、長らく外国人観光客の入域が制限されていた謎の多いエリアでもある。
その北東部に、「J-Popバンド」がいたというので、ずいぶんとびっくりしたものだった。

ところが、北東部の驚異はそれだけにとどまらない。
今度は、なんとインド北東部に「ボブ・ディラン」がいるのを見つけてしまったのだ。
「インドのボブ・ディラン」が発見されたのは、マニプル州の州都インパール。
第二次世界大戦中に、日本軍がイギリス軍による中国への補給路(いわゆる援蔣ルート)を遮断するために攻略を目指し、無謀な作戦により大勢の死者を出したあの「インパール作戦」の目的地だった街だ。

それではさっそく聴いていただこう。
インドのボブ・ディランこと、Imphal Talkiesの"Hey Juliet".


どうだろう、この独特の節回しと、ヘタクソ、もとい味のあるハーモニカ、どう聴いても1960年代のボブ・ディランではないだろうか。
このサウンドにして、2013年にリリースされた楽曲だというからさらに驚きだ。 
この曲は、「ロミオとジュリエット」をモチーフに、独立闘争とその弾圧によって殺伐としたインパールで、自由なアメリカに憧れる少女について歌った内容のようだ。

以前の記事でも紹介したとおり、インド北東部はなぜかいまだに80年代から90年代のメタルバンドが高い人気を誇る土地。
メタル以外でも、Bonny MとかBig Mountainみたいな懐かしのアーティストたちが北東部で開催されるフェスに呼ばれていたりする。
先日の渋谷系J-Popといい、北東部はどこか時空が歪んでいるのかもしれない。
(参考:「インド北東部のロック・フェスティバルは、懐かしのメタル天国だった!」) 

彼らの"Hey Little Girl"という曲もかなりのディランっぷりなので、興味のある方はご一聴を。(YoutubeやSoundcloud上には無かったが、Spotifyでは聴ける。ちなみにこちらはなんと2017年の作品)

ディラン的なサウンドのなかで、彼らの個性と呼べる部分を挙げるとするならば、それはアルペジオの中に聴こえるシンプルで印象的なギターのフレーズだろう。
繰り返されるシンプルなメロディーは、この地方の伝統音楽によく似ており、彼らのルーツに根ざしたもののようだ。

それにしても、21世紀に入って20年が経とうとしている今、50年以上前のプロテスト・フォークのサウンドを再現するImphal Talkiesとはいったいどんなバンドなのだろうか。

Imphal Talkiesは、フロントマンでソングライターのAkhu Chingangbamを中心に2008年に結成された。
バンド名の由来は地元にあった映画館で、映画大国インドでは、同じように映画館の名前からとられた"◯◯ Talkies"というバンドが他にも何組か存在している。
よりロック色の強いサウンドを発表するときは、Imphal Talkies and Howlersという名前で活動しているようだ。

Akhuが扱う歌詞のテーマは、文学的・抽象的でもあったボブ・ディランに比べると、極めて政治的に明瞭なものだ。
例えば、それはインド北東部を苦しめ続けているAFSPA(Armed Force Special Power Act. 「軍事特別法」と訳されることがあるようだ)への抗議だ。

AFSPAは、加熱する独立運動を警戒したインド中央政府が、1958年にインド北東部やカシミールを対象地域として施行した法律だ。
宗教や民族や文化や言語の多様性を抱えるインドにとって、独立運動は不満を持つ他の地域にも飛び火しかねない見過ごせない問題だ。
このAFSPAは、独立運動を徹底的に弾圧するために、警察や治安部隊に令状なしの人々の拘束や殺傷、財産の破壊・収奪を認るものだった。
この法律のもと、インド北東部では多くの無辜の市民が中央政府側の弾圧の犠牲となった。

AFSPAは、過去に国連人権委員会や国際的な人権NGOであるヒューマン・ライツ・ウォッチから廃止を求められるなど、正当性に疑問が持たれている。
Imphal Talkiesの"AFSPA, Why Don't You Go Fuck Youself"は、この法案を率直に糾弾したものだ。

このビデオに出てくる新聞記事やニュース映像、そして激しい抗議運動を見れば、この法のもとでいかに北東部の人々がしいたげられてきたか、分かるだろう。

Imphal Talkiesの中心人物Akhuは、紛争が続くインパールの街で育ち、故郷を離れてデリーに進学したときに、はじめて平和な街の暮らしというものを知ったという。
だが、デリーでは、同時に北東部出身のマイノリティとしての差別や偏見にも直面することとなった。
こうした経験が、社会の矛盾や不条理に対する音楽を制作するきっかけになったそうだ。

これまで意図的にディラン的な楽曲ばかりを紹介してきたが、じつはこうしたスタイル以外の楽曲も多く、 インドの大統領プラナーブ・ムケルジーが2013年にインパールを訪問中に、バンドメンバーが警察から暴力を受けたことをきっかけに作られた曲"Mr. President is Coming"
 

紛争地で生まれた子どもたちに捧げられた"Lullaby"は、同じような環境で育った彼らならではの楽曲だ。



インド北東部が置かれた状況は、周縁部であるがゆえに、海外はもとより、インド国内でもあまり知られてはいない。
この地域の音楽シーンと合わせて、彼らが直面しているさまざまな問題も注目されてほしいと願うばかりである。

さて、そろそろこの記事はおしまいなわけだが、最後にさらなる衝撃的な事実をお伝えしたい。
じつは、一般的に「インドのボブ・ディラン」と呼ばれているのは、このImphal Talkiesではなく、別のアーティストなのだ。
インド北東部には、なんとImphal Talkiesよりもっと早く「インドのボブ・ディラン」と呼ばれたアーティストが存在している。
彼の名は、Lou Majaw.
「インドのロックの首都」と呼ばれるメガラヤ州シロン出身のアーティストだ。
いわば、「元祖インドのボブ・ディラン」だ。
アメリカにはボブ・ディランは一人しかいないが、インド北東部にはディランはたくさんいるのである。
北東部のロックシーンで大きな役割を果たしてきた彼のことは、また改めて紹介したい。

それでは!

 参考記事:The Hindu "I will make music till end of time, says 'Imphal Talkies and the Howlers' founder Akhu Chingangbam"  MARCH 27, 2019 
 


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goshimasayama18 at 23:00|PermalinkComments(0)

2019年09月24日

インド北東部にJ-Popバンドがいた!? ミゾラム州のAvora Records!

今回は久しぶりにインド北東部のバンドを紹介します。

これまで何度も紹介してきた通り、モンゴロイド系の民族が暮らす北東部は、キリスト教などの欧米から伝わった文化の影響が強く、インドのなかではかなり以前からロックミュージックが盛んだった土地だ。
今回紹介するのは、インド北東部のなかではいちばん南、ミャンマーとバングラデシュに挟まれたミゾラム州の州都Aizawl(アイゾール)出身のポップロックバンド、Avora Records.
インド北東部

彼らのことを知ったのは、昨年のZiro Festivalのラインナップでその名前を見かけた時だった。
それ以来、彼らの確かなポップセンスがずっと気になっていたのだ。
彼らが昨年リリースした"Sunday"という曲を聴いてみよう。

いきなり出てくる「日曜日」という漢字にまずびっくり。
さらに、少しチープでカラフルなミュージックビデオからは、どことなく90年代の日本のバンドのような雰囲気が感じられ、自然と親しみがわいてしまう。

北東部出身の彼らの見た目が我々日本人に似ていることもあって、彼らに対しては、「インド人だけどどこか日本のバンドっぽいバンド」という印象を持っていた。
それから約1年。
最近になって、Avora Recordsについて書かれたインドの記事を読んで、非常にびっくりすることがあった。
彼らは、なんと「J-Popバンド」だったというのだ。

例えば、インド北東部のカルチャーを紹介するウェブサイト、Roots And Leisureの記事にはこんなふうに書かれている。

An all-boy band creating quite the rave with their fun, upbeat J-Pop/rock and Indie music, this local-gig-favorite band from Aizawl, Mizoram, has shown the crowd that they are here to stay. 

楽しげでアップビートなJ-Pop/Rockやインディーミュージックで高い評価を受け、地元のライブシーンでも人気のあるこのミゾラム州アイゾール出身の男性バンドは、彼らがまさにここにいるという存在感を大衆に示した。


インドの大規模フェス'NH7 Weekender'のFacebookでも、こんなふうに紹介されている。


J-Popとアニメ・ミュージックをお届けするミゾラム州のAvora Recordsが、この11月に(フェスの会場となるメガラヤ州シロンの)丘を盛り上げる。


いったいこれはどういうことだろう?
彼らは、純然たるインドのバンドにもかかわらず、なぜかインドのメディアで「J-Popバンド」として紹介されている。
アニメ・ミュージックというのはよく意味が分からないが、「日本=アニメ」という印象なのだろうか。
それにしても、これは非常に面白い解釈だ。

J-Popというのは、日本人がやってるポップミュージックのことだとばっかり思っていた。
ところが、インドでは(少なくともインド北東部では)、インド人が演奏していても、歌詞が英語でも、日本のポップミュージックっぽい雰囲気があれば、J-Popなのだ。
彼らの楽曲"23:00"は、なんとApple MusicでもJ-Popのカテゴリーで登録されている。
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これは日本人としてはちょっと誇らしいことではないだろうか。
かつて、マージービートやウエストコーストロックやレゲエのような、特定の国や地域に根ざした欧米の音楽が日本のミュージシャンに大きな影響を与えたように、日本のJ-Popという音楽が、インド北東部にまで影響を及ぼしているというのだ。

例えばこの"23:00"のビデオを見てほしい。
ミュージックビデオの映像も、どことなく渋谷系のころの日本のバンドのプロモビデオを思い出させるところがある。
(光のあて方や色彩のせいだと思っていたが、モンゴロイド系のお洒落な女の子が出てくることが渋谷系っぽく見える最大の理由かもしれない)

メロウでスローテンポな曲調ながら、グルーヴ感をキープした演奏からは、彼らの高い実力を感じることもできる。

先日リリースされた新曲、長いタイトルの"If You're Not Sweating To This Then Honey You're Not 90's"は、ファンキーな曲調の90年代へのトリビュートだ。


英語詞であるせいもあって、欧米のバンドっぽい印象もあるが、楽曲のキャッチーさや、かっちりとしたアレンジは、やはりどこか日本のバンドを思い起こさせるところがある。

あと関係ないけど、サムネイルにも出てくる、ビデオの後半に登場する女の子、ものすごくかわいくないですか?
日本で女優をやっていても違和感がないくらいの美人。
インドにこういう日本的なかわいさの女の子がいるっていうのはあんまり想像したことがなかった。
"23:00"に出てきた娘もかわいかったし、ミゾの女の子、インド北東部の中でも美人が多いのかもしれない。

というわけで、謎が謎を呼ぶAvora Recordsにメールでインタビューを申し込んでみたところ、さっそく返信が来たので紹介します!

凡平「Avora Recordsについて教えてください。いつ、どんなふうに結成されたんですか?」

AR「2016年にバンドを結成したんだ。Avora Recordsっていうのは僕らがたむろしてたスタジオの名前だよ。僕らはヴォーカルのStephen, ドラムスのSanga, ベースのCK, ギターのRuataとKhosの5人組だ。
最初は、友達の何人かと2013年ごろにホームスタジオでデモを作ったりしていたんだ。正式に今のラインナップになったのが2016年で、それからライブをするようになった。」

彼らはまだ20代前半で、大学生のメンバーもいるみたいだから、ハイスクールの頃に結成されたバンドということのようだ。

凡平「インターネットの記事で、Avora RecordsがJ-Popバンドと言われていて驚きました。私もあなたがたのサウンドはちょっと日本のバンドっぽいなって感じてます。J-Popとかアニメみたいな日本のカルチャーだとか、K-Popみたいな東アジアの文化から影響を受けているのでしょうか?」

AR「僕たちはK-PopからJ-Popやインディーロックまで、様々な音楽を聴いてるよ。だから僕らはそれらのほとんど全部から影響を受けている。俺たちの音楽の基本的な部分に影響を与えたのは、僕らが育ってきた環境やカルチャーやルーツだね。
僕らは日本の信じられないほど素晴らしいJ-Popのバンドやアーティストをリスペクトしてるから、自分たちで自身をJ-Popとカテゴライズしたことはない。それに僕たちの音楽は、ローカルの要素や欧米の要素が多いから、J-Popという呼び方は合わないと思う。でも日本のカルチャーは僕らにとって馴染み深いものだよ。僕ら『ドラゴンボールZ』とか、『ポケモン』、『デジモン』、『ふしぎ遊戯』や『烈火の炎』みたいなクラシックな日本のアニメを見て育ってきた。ギタリストの二人は、今でもツアー中もポケモンのゲームをやっているよ」


確かに彼らの音楽は、洋楽風に聴こえる部分も大きく、日本のバンドっぽく思えたのは、彼らの見た目やミュージックビデオに出てくる女の子たちの印象が強かったからかもしれない。
ただ、いずれにしても、彼らが相当に日本のアニメに詳しいことは間違いないみたいだ。
恥ずかしながら『ふしぎ遊戯』と『烈火の炎』(それぞれ英語で"Curious Play","Flame of Recca"と書いていた)という作品は聞いたことがなかった。
以前ナガランドのアニメオタクについて書いたことがあったが、インド北東部で日本のカルチャーがそれなりに存在感を保っていることは間違いないのだろう。


結局、なぜ彼らがJ-Popと呼ばれているのかは最後まで分からなかったが、モンゴロイド系の民族が演奏しているクールでポップなバンドがJ-Popと呼ばれるのは、日本人としては素直にうれしい。(彼らはちょっと不本意なのかもしれないが)
日本の音楽をどうやって知ったのかと聞いたところ、YoutubeやSpotifyのレコメンドを手がかりにしているとのことだった。

彼らのポップでソリッドなバンドサウンドは、北東部のみならずインド全体を見ても、非常にユニークなものだ。
インド全体を見渡せば、ポピュラーなロックを奏でるバンドは、おしゃれインディーバンドのParekh and Singh(コルカタ)、英国フォーク色の強いWhen Chai Met Toast(コチ)、レイドバックしたEasy Wanderlings(プネー), ヒンディー語で歌うThe Local Train(デリー)などがいるが、ロックバンド色の強いAvora Recordsの個性とポップセンスは、こうしたバンドと比べてもまったく遜色がない。

彼らはインド北東部やインドという枠を超えて、もっともっと知られてほしいバンドだ。
10月にはデビューアルバムをリリース予定だそうで、日本でのプロモーションにも興味があるとのこと。
日本の各種媒体のみなさん、Avora Recordsの音楽はいかがですか?



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2019年08月31日

インド北東部のロック・フェスティバルは、懐かしのメタル天国だった!

先日、インド北東部アルナーチャル・プラデーシュ州の辺境で行われる究極の音楽フェス、Ziro Festival of Musicについて紹介した。
インド北東部は一般の旅行者があまり足を踏み入れることの少ないエリアではあるが、じつは、Ziro以外にも数多くのロック系フェスティバルが行われるフェス天国なのである。
まずはインド北東部の地理的なおさらいから。
この地図で赤く塗られている部分に注目してほしい。
インド北東部地図NEとシッキム
インド主要部と北東部との間の、南からえぐられているように見える場所にはバングラデシュがあり、北から押しつぶされているように見える場所はブータン、そしてすぐ西にはネパールが位置している。
インド北東部
インド北東部とは、この地図に書かれた7つの州(7 Sisters States)に、ブータンとネパールに挟まれたシッキム州を含めた地域のことだ。

インド北東部には、インドの大部分とは異なりモンゴロイド系の民族が多く暮らしている。
北東部は典型的なインド文化(ヒンドゥー/イスラーム系統の文化)の影響が薄く、クリスチャンの割合が多いこともあって、欧米文化の受容が進んでおり、かなり早くからロックミュージックが人気となっていた地域でもある。
今回は、ここ北東部で行われる音楽フェスティバルが、予想のかなり斜め上をゆく実態だったので、その様子をお伝えしたい。

ほんの数十年前まで首狩りが行われていた秘境、ナガランド州では、毎年12月にHornbill International Music Festivalが開催されている。
これは、ナガランド独自の豊かな文化を継承し広めてゆくことを目的に開催されるHornbill Festivalの一部として行われるもので、毎年多くの観客を集めている。
ちなみにHornbillとは、ナガランドの象徴である大きなクチバシとツノのような突起を持つ鳥「サイチョウ」のこと。

このHornbill International Music Festivalは、地元のアーティストの演奏だけでなく、K-Popアイドルのライブ(3:52〜)や、なんと珍しいBlues Night(8:32〜)なども行われており、外国籍を含めた多彩なアーティストが出演している辺境らしからぬフェスだ。

他の州にも注目すべきフェスはある。
インド北東部最北端のアルナーチャル・プラデーシュ州Dambukでは、毎年12月にOrange Festival of Adventure & Musicが行われている。
このフェスは、「インドで最初のアドベンチャーと音楽の祭典」と言われており、一時休止していたものの2015年から再び開催されるようになった。
このイベントも、単なる音楽フェスではなく、地元文化の紹介や、さまざまなアウトドア体験なども行われる多彩な内容のものだ。

「アドベンチャーと音楽のフェスティバル」だけあって、ライブの模様の紹介は3:00頃から。
このOrange Festivalにも地元のバンドから海外勢まで、多彩なミュージシャンが出演して大いに盛り上がっているようだ。


「インドのロックの首都」と呼ばれるメガラヤ州のシロンでは、全国のさまざまな主要都市で開催されている音楽フェスのNH7 Weekenderの北東部版が行われている。
このNH7 Weekenderは、他の都市ではサマーソニックのような都市型フェスとして行われているが、ここシロンではフジロックのように山岳部の豊かな自然のなかで開催されている。
'The happiest music festival'のキャッチコピーの通り、こちらもかなり楽しそうな様子のフェスだ。

それぞれのフェスについてはまた改めて紹介しようと思っているのだが、今回注目したいのは、これらのフェスで招聘されている欧米のアーティストについてだ。

まずHornbill Festivalから見ていこう。
このフェスの2015年のヘッドライナーは、なんとジャーマン・メタルの代表的バンドHelloween!
メタル系に絞ったフェスでもないのに、Helloweenがトリを務めるっていうのはちょっとすごいことだ。
その前年には、ヴィニー・ムーア(マイケル・シェンカーが在籍していたことで有名なUFOの現リードギタリスト)を招聘しているというから、これまた驚かされる。

さらに、アルナーチャルのOrange Festivalでは、2016年には、元祖ネオクラシカル系速弾きギタリストの「王者」ことイングヴェイ・マルムスティーンを、2017年には元Poison、元Mr.Bigのギタリストのリッチー・コッツェンをトリに据えている。
北東部はそんなにメタル/ハードロック系ギタリストが好きなんだろうか。

それだけではない。
シロンのNH7 Weekenderでは、2015年にはアメリカの'スラッシュメタル四天王'のひとつメガデスを、2017年にこちらも天才ギタリストのスティーヴ・ヴァイをヘッドライナーにしているというから、もう筋金入りである。
シンコーミュージックの「ヤングギター」(メタル系ギタリストがよく掲載されているギター教則雑誌)が後援で、ウドー音楽事務所が仕切っているんじゃないかというラインナップだ。

フェス以外でインド北東部でのライブを行った海外のアーティストも強烈だ。
年代順にアーティスト名とライブを行った土地を書いてゆくと、

2004年
Firehouse(アメリカのポップなハードロックバンド):メガラヤ州シロン、ナガランド州ディマプル、ミゾラム州アイゾール

2007年
エリック・マーティン(Mr.Bigのヴォーカリスト):シロン、ディマプル
Scorpions(ドイツの大御所ハードロックバンド):シロン

2008年
White Lion(アメリカのメタルバンド):シロン

2009年
Mr.Big(アメリカの技巧派揃いのハードロックバンド):シロン、ディマプル

2012年
Firehouse(2004年に続いて):ディマプル、マニプル州インパール
Stryper(アメリカのクリスチャン・メタルバンド):ナガランド州ディマプル、同州コヒマ

2013年
Hoobastank(アメリカのロックバンド):シロン

みなさん、このバンドたちをご存知だろうか?
いずれも1980年代〜90年代に活躍した往年のメタルバンドで、ついてこれるのはアラフォーの元メタル好きだけなのではないかと思う。(唯一、Hoobastankだけは21世紀のバンド)
インド北東部の人たちは"Burrn!"(日本が誇るヘヴィメタル雑誌。欧米での人気に関わらず、日本での人気の高いバンドを中心に取り上げる)を熟読しているんじゃないかっていうラインナップだ。
っていうか、自分も高校生の頃にBurrn!を読んでなかったら分からない顔ぶればかり。
北東部のロックファンは、FirehouseやWhite Lionの曲をちゃんと知っていて、ライブで盛り上がれるのだろうか。
ひょっとしたらインド北東部では伊藤政則(日本が誇るヘヴィメタル評論家)のラジオ番組が聴けるのかもしれない。

ライブで客席に聖書を投げることで有名な'クリスチャン・メタルバンド'Stryperが入っているのは、キリスト教徒が多い土地柄を反映しているものと思われ、2019年にはWhitecrossというまた別のアメリカのクリスチャン・メタルバンドもディマプルとシロンでライブを行っている。 
 
興味深いのは、これらのバンドがムンバイやデリーといった大都市をツアーしたついでにインド北東部に来ているのではなく、むしろインド北東部をツアーするためだけにインドに来ている例がほとんどだということである。 
FirehouseやStryperはインド主要部の大都市には目もくれずに北東部のみをツアーしているし、日本でも人気の高いMr.Bigも、ムンバイにもデリーにも寄らずに、バンガロールと北東部のみでライブを行っている。
つまり、北東部は、インドのなかでもそれだけ音楽の趣味が特殊ということなのだ。
メタルに関して言えば、インド主要部では、デスメタルのような、よりヘヴィなバンドが人気だが、インド北東部は日本同様に、メロディックでポップなメタルバンドが根強い人気のようで、モンゴロイド系民族としての共通点を感じさせられる。

それにしても、既視感のある光景だ。
90年代のグランジ/オルタナティブブーム以降、欧米では人気のなくなったメタルバンドが、まだ人気を保っていた日本によくツアーに来ていたものだが、それと同じような現象が、いまインド北東部で起きているのだ。 

かつて、日本でのみ人気のあった外国のバンドが'big in Japan'などと呼ばれて揶揄されていたが、それと同じようなことも起きているのかもしれない。
2018年のHornbill Festivalでは、韓国ではまだデビュー前のアイドルグループMONTがコンサートを行ったが、それはもう大変な歓迎っぷりと盛り上がりだった。
北東部の人たちは、国際的に有名かどうかにかかわらず、外国からくる華やかなアーティストにとにかく飢えているのだろう。
このへんも、往年の日本を思わせるような状況だ。
(よく知られているように、QueenやBon Jovi, Cheap Trickなどの世界的人気バンドは、最初は日本から人気に火がついた)

メタル以外の招聘アーティストもなかなかに香ばしい。
Hornbillでは2017年にドイツのディスコ・グループBonny M(「ラスプーチン」などのヒット曲で有名。彼らの「バハマ・ママ」は日本の一部の地域の盆踊りにも使われている)を呼んでいるし、Orange Festivalも同じ年にドイツの電子音楽グループTangerine Dreamを招聘している。
メタルではないが、2015年のHornbillではABBAのトリビュートバンドを呼んでいるのも面白い。

以前、インド北東部のメタル人気の高さを検証する記事や、シッキム州の人とマニアックなロック談義をしたという思い出話を書いたことがあるが、北東部の人々音楽の好みには本当に驚かされるばかりだ。

こうした「旬を過ぎた」バンドが北東部のみを回るツアーをしている一方で、Iron MaidenやBon Joviのような超ビッグネームのバンドは、ムンバイなどの主要部の大都市だけをツアーしており、おそらくギャラやスケジュールの都合だと思うが、北東部には来てくれていない。
そのため、北東部の人たちは、代わりにわざわざ欧米からコピーバンドを呼んで、これまた大いに盛り上がっている。
Hornbill Festivalでは2014年にBon JoviのトリビュートバンドBon Gioviを、Orange Festivalでは2018年にメンバーが全員女性のIron MaidenのトリビュートバンドIron Maidensを呼んでいる。

最後に、北東部でのメタル系アーティストのライブの様子をお届けすることとしたい。
まずは、Hornbill FestivalでのHelloweenのライブ。
不安定なオーディエンス・ショットだが、その分観客の盛り上がりがダイレクトに伝わってくる。

ナガランドのメタルファンたちも『守護神伝 第二章』、聴き込んでるみたいだ。
別の動画だと、"I Want Out"で盛り上がっている様子も撮影されていて、インド中央政府から抑圧的な扱いをされ続けているナガの人々が、彼らの曲に自分たちの境遇を重ね合わせているのかもなあ、としみじみ思ったりもした。

続いてはアルナーチャル・プラデーシュ州のOrange Festivalでの王者イングヴェイのライブ。
こちらもかなりたくさんの人が集まって盛り上がっている。

へー、今キーボードの人がヴォーカル兼任なんだな。
どうでもいいけど、キーボードを弾きながら歌うメタルのヴォーカリストって初めて見た。
久しぶりに見た王者は一時期に比べてずいぶんシェイプアップしていて、ギタープレイも絶好調!

「インドのロックの首都」メガラヤ州シロンでのメガデスのライブも大盛り上がり!



 Steve Vaiのライヴには、最近B'zのツアーメンバーとしても活躍しているインド出身の女性バカテクベーシスト、Mohini Deiがゲスト出演している。



ナガランド州ディマプルでのMr.Bigのライブから、"To Be With You"での大合唱の様子。


より知名度が落ちるはずのStryperでもこの盛り上がり!

1986年リリースのこの曲をリアルタイムで聴いているとは思えない若いお客さんが多いが、この人気はいったいどこからやってくるのだろう。

Firehouseのバラード"I Live My Life For You"もほとんどのオーディエンスはばっちり歌えるようだ。

Wikipediaによると、彼らは全米での人気が失速した後も、日本、タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシア、シンガポールなどアジア諸国では高い人気を保っているそうなので、こうしたキャッチーな曲調が東アジア人の琴線に触れるのかもしれない。

MCのときの声色もジョン・ボンジョヴィそっくりなBon Giovi.

完コピ!これはこれで見て見たいかも。

女性コピーバンドのIron Maidensは演奏はいまいちだが、この盛り上がり。


実際にインドでは、Girish and ChroniclesPerfect Strangersのような実力派バンドによる有名バンドのトリビュートイベント(要は、ひたすらカバー曲を演奏する)も頻繁に行われているのだが、やはり本場の欧米から来たバンドは本物っぽさが違うということなのだろう。
このあたりのロックとの距離感は、我々日本人にとってもなんとなく共感できるものだ。
インド北東部、やっぱりものすごく面白い。

それではみなさんまた来週。
See ya! 
(高校生のころ聴いていた伊藤政則のラジオはいつもこんなふうに締められていたのを思い出したもので、つい)


(この後、2019.9.14加筆)
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goshimasayama18 at 12:41|PermalinkComments(0)

2019年08月10日

今年も日本のバンドが出演!Ziro Festivalのラインナップが面白い!

昨年も紹介したインド北東部の最果ての地、アルナーチャル・プラデーシュ州で行われる究極の音楽フェスZiro Festival of Musicが今年も面白そうだ。

(昨年の記事↓)

インド北東部の玄関口アッサム州のグワハティから8時間近く鉄道に揺られ、最寄駅からジープで3時間半かけてやっと到着するアルナーチャル・プラデーシュ州のZiro Valleyで行われるこのフェスには、インド北東部を中心に、インド全土、そして世界中の先鋭的なミュージシャンが毎年出演することで知られている。
この辺境の地で行われるイベントがどれだけピースフルで素晴らしいものなのかは、昨年のアフタームービーを見れば分かるはずだ。

大自然のなかで行われるこのフェスティバルは、いまや数々の音楽フェスが開催されるようになったインドでも、究極の音楽好きが集うイベントとして一目置かれている。

先日、今年のラインナップが発表され、日本のサイケデリック・ロックバンドAcid Mothers Templeが出演することが明らかになった。
zirofestival2019

アルファベット順に記載されているようなので、彼らがヘッドライナーかどうかは分からないが、一昨年はジャーマンロックバンドCanのヴォーカリストとして有名なダモ鈴木、昨年はポストロックのMONOがトリを務めており、いずれにしても3年連続で日本人アーティストが出演することになる。


インドからの出演者も非常にユニークで、いずれもインディーズシーンでも知る人ぞ知る存在のアーティストばかりだが、知名度よりもサウンドの面白さを追求して選んでいるようだ。
西ベンガル州北部シリグリー出身のDreamhourは80年代サウンドを追求するエレクトロニックアーティスト。

この楽曲にはKrakenのギター/ヴォーカルのMoses Koulが参加している。

パンジャーブ州のThat Boy RobyはRolling Stone India誌が選ぶ2018年のミュージックビデオ10選にも選ばれたガレージロックバンド。


New DelhiのZokovaはスリーピースのインストゥルメンタル・ポストロックバンド。


ウッタラカンド州のKarmaは歯切れの良いラップを聴かせるラッパー。


エレクトロニック、ロック、ヒップホップといった現代音楽でインドじゅうから個性的なラインナップを揃えたかと思えば、伝統音楽にも目配りが効いており、カルナータカ州のJyoti Hegdeは古典楽器ヴィーナの奏者だ。

HarmoNOniumは、こちらも伝統音楽で使われる鍵盤楽器ハーモニウム奏者兼ヴォーカリストのOmkar Patilが率いるフュージョンロックバンド。


出演者のなかでもっとも知名度が高いのは、カルナータカ出身で、映画音楽なども歌うシンガーのLucky Aliだろう。

地元のインド北東部からは、今年はシッキム州ガントクのベテランハードロックバンドStill Waters(2001年結成)や、ナガランドのポップロックバンドTrance Effectらが出演する。

この曲はAC/DCを彷彿させるナンバー。



海外から招聘しているアーティストも、国際的スターではなくても、面白そうなバンドばかりだ。
リトアニアのAntikvariniai Kašpirovskio Dantysはジプシー的な要素も入ったローカル歌謡ロック。


イスラエルのOuzo Bazookaは、来日経験があり、サラーム海上さんも推している中東サイケデリックロックバンド。


日本から参加するAcid Mothers Temple

いったいZiro Valleyの地でどんなライブを見せてくれるのだろうか。

昨年のZiro FestivalでのMONOのライブを見てみよう。


都会を遠く離れ、インドの山奥の大自然のなかでこの美しい轟音に身を委ねることができたらどんなに素晴らしい体験だろう。

この個性的すぎるラインナップのフェスを主催しているのは、アルナーチャルのプロモーターBobby Hanoと、首都デリーのロックバンドMenwhopauseのギタリストで、かつてはジャーナリストとしても活躍していたAnup Kutty.
きっかけは、Anupがバンドでインド北東部をツアーしたとき、プロモーターをしていたBobby Hanoが故郷のZiro ValleyにAnupを招待したことだった。
自然に囲まれ、独自の文化を保っているこの地に惹かれたAnupは、滞在中にBobbyとZiroで音楽フェスティバルを開催する構想を話し合った。
デリーに戻ってもそのアイデアが頭を離れなかったAnupは、アルナーチャル・プラデーシュ州の観光局に企画を持ち込んだところ、州は全面的なサポートを彼に約束し、この世界でも稀な辺境の地での先進的音楽フェスティバルが開催されることとなった。
(参考記事:https://rollingstoneindia.com/menwhopause-guitarist-anup-kutty-on-setting-up-ziro-festival/) 
第1回Ziro Festival of Musicの開催はは2012年。
当初から全国的な人気を誇るインディーアクトと、開催地に近い北東部諸州のミュージシャンの両方を出演させる方針が取られ、フェスが軌道に乗ってからは、海外のアーティストも招聘されるようになった。
これまでに前述のMONOやダモ鈴木に加え、Sonic YouthのLee RanaldやSteve Shelleyなども出演したことがある。

Anupが所属するMenwhopauseは2001年に結成されたベテランバンドで、これまでに2007年に米国でのSXSW(South by South West)出演や、複数のヨーロッパツアーの経験がある、インドで最も早く国際的に評価されたバンドのひとつだ。




彼らのSNSはここ1年ほどSNSの更新もなく、目立った活動はしていないようだが、彼ら功績は後続のアーティストたちにとって、確かな道標となっている。

Ziro Festival of Musicは、今年は9月26日から29日にかけて開催。
美しい自然の中にすばらしいラインナップのアーティストたちを集めるだけではなく、プラスチックを極力排除し、環境への配慮も意識するなど、様々な面で理想的な音楽フェスティバルだ。
フェスティバルが単なる音楽鑑賞ではなく、特別なエクスペリエンスであることを最大限に重視した、私が今、世界で一番行きたいフェスである。

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2019年05月06日

インドで盛り上がるK-Pop旋風!

カンボジアのトンレサップ湖に浮かぶ水上集落を訪れたときのことを、強烈に覚えている。
いきなりインドに関係のない話題で恐縮だが、今回のテーマを書くにあたって、どうしてもこの話から書き始めたかったのでご容赦いただきたい。
カンボジア最大の湖であるトンレサップ湖には、70年代まで続いたインドシナ半島の紛争から逃れてきた人々がボートハウスで暮らす水上集落がいくつも点在している。
正直にいうと、すでにインドで途上国の貧しい人々の現実を見聞きしていた私は、湖の水で食器を洗い、同じ湖に排泄する彼らの生活を見ても、さほどショックを受けることはなかった。
水上集落に学校や商店や携帯電話の基地局が作られ、地上の村々と同じようなコミュニティーが形成されている状況にも、感心こそすれ大きな驚きを感じることはなかった。
不法占拠によって形成されたスラムなどでも、同じようにコミュニティーを構成する要素が自然発生するということを知っていたからだ。
だが、彼らが暮らす貧しいボートハウスの壁に、雑誌から切り抜いたと思われる韓流スターのポスターが貼られているのを見たときには、心底びっくりした。
韓国のエンターテインメントが日本同様に多くの国で人気を博しているということを情報としては知ってはいたものの、地面に家を建てることすらできない人々にとってさえ、韓流カルチャーが憧れの対象になっているとは、全く想像していなかったからだ。
(5年ほど前の話である。水上集落にはベトナムからの難民が多かった。その後、昨今のベトナムの経済成長にともなって、母国へ帰国する者が増え、解体された集落も多くなったと聞いている)

日本でも韓流ブームと言われて久しいが、少なくともアジアにおいては、その人気は我々が考える以上にかなりの辺境まで及んでいるようだ。
その時のポスターは、ミュージシャンではなく韓国人俳優のものであったと記憶しているが、今日では音楽の分野でもBTSに代表されるK-popのアーティストたちが世界中でファンを獲得していることは周知の事実だ。
もちろんそれはインドも例外ではない。

インドの若者向けカルチャー誌であるRolling Stone Indiaでは、たびたびK-popアーティストが取り上げられている。
なかでも、BTSが表紙となった2017年の9月号は、現在では入手困難なコレクターズ・アイテムになっているほどの人気だという。
1-RS-Cover-sept-1
Rolling Stone Indiaは、カルチャー誌といってもボリウッドの大衆映画などは扱わず、先鋭的な表現を追求するインディーミュージシャンや海外のトップアーティストの情報を掲載する「センスの良さ」を売り物にした雑誌である。
日本でK-popが取り上げられる場合、日本のアイドル等と同じ「大衆歌謡系」の文化として取り上げられることが多いが、インドでは「クールなポップカルチャー」としての位置付けがされているのだ。
欧米のトレンドを押さえた質の高い楽曲と、確かな実力を伴ったパフォーマンスがそのような評価に繋がっているのだろう。

昨年公開されたBTSの活動を追った映画"Burn the Stage"は、インド全土の40都市で公開され、熱狂的に迎え入れられたという。
Rolling Stone Indiaでは、BTS以外でも、Exo, Blackpink, AteezといったK-Popの人気アーティストたちがたびたび取り上げられている。
同誌で取り上げられたことのある日本人が、ポストロックのMono(昨年北東部で行われたZiro Festivalに出演した)やエレクトロニカのDaisuke Tanabe(インドのレーベルからアルバムをリリースし、インドでのライブ経験もある)などのコアなジャンルのアーティストであることとは対照的である。

英語版のQ&AサイトQuoraに寄せられた回答によると、インドでの近年のK-Pop人気は爆発的に拡大しているようだ。(https://www.quora.com/Why-does-BTS-not-visit-India-for-a-concert

2012年にニューデリーの名門大学であるジャワハルラール・ネルー大学(JNU)の小さな講堂で行われたK-Popコンテスト(コピーダンス大会のようなものか?)に集まった参加者はたったの37名、観客も300名のみだったが、2018年にはインド全土の11都市で予選が行われ、900名近い参加者と2,000人を超える観客を集めるまでになったという。
このイベントは在インド韓国大使館の機関である韓国文化センターの主催で行われている。
韓国政府が積極的にK-Popの輸出をバックアップしていることは知られているが、同時にインドでのファンの受け入れ態勢についても万全のフォローがされているようだ。
ムンバイには、韓国政府の公認を受けたK-PopファンによるIndia Korea Friends Mumbai(IKFM)という組織もあるという。

日本文化に関してもアニメやゲームなどのオタクカルチャーを中心にインドに根強いファンを持っており、ムンバイのCool Japan Festivalのようなイベントには多くのインド人たちが集まっているが、コンテンツの輸出から現地でのファン組織までの全面的なサポート体制に関しては、韓国政府に大きく水を開けられているのかもしれない。
以前紹介したように、インドにもJ-Popの熱心なファンもいることはいるのだが、日本の音楽は、一般的にはまだまだ知名度が高いとは言い難い。
「電気グルーヴとインド古典音楽をリミックスして石野卓球にリツイートされたムンバイのJ-popファン」参照。)

韓国政府のみならず、K-Popのアーティストや所属事務所も、インドを未来の巨大マーケットとして重要視しているようだ。
インドではBTSやBlackpinkのような一線級のK-Popアーティストの公演こそまだ行われていないが、今後が期待される若手グループたちは、インドでの人気を確固たるものにすべく、次々とコンサートやプロモーションを行っている。

先日行われたムンバイのKorea Festivalに出演した若手男性グループIn2Itは、同イベントに出演していたAleXa(オーディション番組のProduce48出身)とともに、往年のボリウッドの大ヒット曲"Bole Chudiyan"をパフォーマンスして大喝采を浴びた。


今月(2019年5月)末からは、6人組の若手男性グループVAVがインドでのコンサートツアーとファンミーティングを実施すると発表した。(彼らはすでに米国、ブラジル、ヨーロッパ、日本、タイなどへのツアーを実施済み)

また、インド北東部のナガランド州で毎年行われているHornbill Festivalには、昨年は当時デビュー前だった3人組のMontというグループが出演。ファンの心をがっちり掴んだようだ。

このブログでも何度も紹介してきた通り、北東部はインドでは例外的にモンゴロイド系の人種が多く暮らす地域。
以前、ナガランドでは日本のアニメやコスプレが大人気であることを紹介したが、同様に東アジア系のカルチャーであるK-Popの人気もかなり高いということがこの映像からもお分かりいただけるだろう。
インドの中でもマイノリティーとして抑圧されがちな北東部の人々が、アーリア系やドラヴィダ系の顔立ちをしたインドのスターではなく、自分たちに似た外見のK-Popにより親近感を抱くというのは十分理解できることだ。
デビュー前のグループがこれだけの熱狂的な歓迎を受けるということは、個別のグループではなく、K-Popというブランドそのものの人気が完全に定着しているのだろう。

同じくインド北東部、メガラヤ州の州都シロンにあるSt.Mary's高校では、体操にBTSやNCT, BlackpinkなどのK-Popの楽曲を採用し、大いに盛り上がっているという。
(ちなみにこの情報は、英語版K-Pop情報サイト"Koreaboo.com"にも取り上げられており、それを昨年のMTV Europe Music AwardでBest India Actを受賞した同州出身のシンガーMeba OfiliaがFacebookで紹介していたのを読んで知ったものだ)

体育祭のようなイベントだと思うが、すごい盛り上がり。

先ほど紹介したVAVのツアーも、デリーと北東部マニプル州のインパールの2箇所で行われるとのことで、K-Popの仕掛け人たちも、北東部を重要なマーケットとして位置付けているようだ。

他にも、Imfact, Lucente, JJCC, ZE:A, 韓国系アメリカ人のDabitらがこれまでにインドを訪れている。
いずれもトップクラスの人気を誇るグループではないようだが、逆に駆け出しのグループがプロモーションのためにインドを訪れているということに、むしろ驚かされる。

昨今多くなってきている多国籍K-Popグループの究極とも言えるZ-Stars(それぞれ異なる国籍の7人組である男性グループのZ-Boysと女性グループのZ-Girlsから成る)には、なんとインド人のメンバーであるSidとPriyankaが在籍しており、K-Popの汎アジア戦略には、インドも確実に含まれていることを伺わせる。
(参考サイト:KPOPmonster「史上初インド人K-POPアイドル誕生へ! メンバー全員出身国が違う超多国籍グループ「Z-Girls」、「Z-Boys」2月デビューへ」

ちなみにSid(本名Siddhant Arora)はZ-Boys加入前はデリー大学に在籍しており、Youtuberとしてボリウッドのカバー等を歌っていたそうで、Priyanka(本名Priyanka Mazumdar)は北東部アッサム州のグワハティ出身で以前にインドのK-Popフェスティバルでの入賞経験もあったとのこと。

インドのポップスターといえば、映画のプレイバックシンガーや、同様の音楽性のソロシンガーが中心(このブログでいつも紹介しているインディーズ系ではない、いわゆるメインストリームの話)。
最近になってようやくストリートラッパーが出てきたくらいで、K-Popのようなダンス/ヴォーカルグループというのはほとんど存在しない。
今後、K-Pop人気がインドの音楽シーンにどのような影響を及ぼすのか、非常に興味深いところである。

一方で、クールでダンス色の強いK-Popとは対照的な「カワイイ」の一点突破型の日本式アイドルであるAKBグループのひとつとして、ムンバイを拠点にしたMUM48の結成が2017年末に発表されたが、その後とんと音沙汰がなく、こちらもどうなっているのか、少々気になるところではある。
いくら秋元康とはいえ、なんのコネクションもないインドでゼロからグループを作り上げるというのは大変困難なことだと思うが、やはり頓挫してしまったのだろうか。

個人的な意見だが、一般的にアイドルに代表される日本の大衆音楽は、ある種の未成熟な部分を愛でたり、ファンの共感の拠り所とする特徴があるように思う。
この特徴を持ち続けている限り、「成熟した/完成された音楽」を良しとする文化圏では、大々的に受け入れられることは難しいのではないか。
60年代にアメリカで「上を向いて歩こう」が1位になった理由は、楽曲の良さに加えて坂本九が極めて高い歌唱力を持っていたからだろう。
インドに日本式カワイイ的ポップカルチャーが本格的に根付くかどうかは、まだまだ未知数だ。
とはいえ、大衆的な人気とまでは行かなくても、世界中に非常にコアなファンを得ているのも日本のカルチャーの特徴だ。
これまで紹介してきたように、KomorebiやKrakenといったインディーアーティストは日本文化からの強い影響を打ち出しており、またSanjeeta Bhattacharyaのように日本語の歌詞を導入しているシンガーソングライターもいる。
(参考:「日本文化に影響を受けたインド人アーティスト、エレクトロニカ編! Komorebi, Hybrid Protokol」「日本の文化に影響を受けたインド人アーティスト! ロックバンド編 Kraken」「バークリー出身の才媛が日本語で歌うオーガニックソウル! Sanjeeta Bhattacharya」

韓国や日本のポップカルチャーやサブカルチャーが、今後インドでどう受け入れられてゆくのか、注目して見守ってゆきたい。



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2019年04月06日

インドのマスロックバンドHaiku-Like Imaginationの楽曲に日本人ギタリストが参加!

以前、「日本語の名前を持つインドのアーティスト特集」で紹介したバンガロールを拠点に活動するエクスペリメンタル・マスロック/ポストハードコアバンドのHaiku-Like Imaginationがデビュー曲となる"Hey, Dynamics!"をRolling Stone Indiaのウェブサイトで独占公開した。
「ワタシ?キモチヨウカイ?俳句のような想像力?日本語の名前を持つインドのアーティストたち!」
スクリーンショット 2019-04-06 10.40.54
http://rollingstoneindia.com/exclusive-stream-haiku-like-imaginations-hyper-playful-hey-dynamics/


(2019.4.13追記 Rolling Stone Indiaでの先行公開を経てYoutubeにも音源がアップされていたので貼り付けておく)

これは近日発売予定のフルアルバム"Eat, Lead, Motherbuzzer"からの先行シングルということになるらしい。

マスロック(math-rock:変拍子や変則的なリズムを特徴とするポストハードコアの一ジャンル)特有の鋭角的なサウンドと複雑な構成の楽曲だが、ヘヴィーでテクニカルなだけでなく、ツインリードのリフや急に飛び出すポップなコーラスが強烈な印象を残す素晴らしい仕上がりだ。
もう一つ聴き逃せないのが、この曲でギターソロを弾いているのが日本のプログレッシブ・メタルバンドCyclamenのギタリスト高尾真之だということだ。
4:15頃から始まる美しいトーンのソロに注目!

高尾氏に参加の経緯を聞いてみたところ、バンドのメンバーから直接依頼があったということのようだ。
Haiku-Like Imaginationのメンバーは日本のマスロックをかなり掘り下げ聴いており、日本でCyclamenのライブを見たこともあるというから相当なものだ。
以前からインスタグラムを通して高尾氏のギタープレイへのリアクションもあったという。

そういえば、以前Haiku-Like Imaginationというバンド名の由来を聞くために彼らにコンタクトしたとき、ギタリストのSuchethから日本のマスロック系フェスティバルであるBahamas Festを見に来日する予定だと聞いていた。(彼らの不思議なバンド名の由来はこの記事から)
どうやらCyclamenのライブもBahamas Festで見たようで、それが今回のギターソロの依頼につながった模様。 
それにしても、海外から日本のマスロック系フェスを見るために来日するって、彼らがアーティストとしてだけではなく、ファンとしてもかなりハードコアな姿勢でマスロックに入れ込んでいることが分かる。
高尾氏曰く、ソロの依頼が来たときは直接の面識は無かったそうだが、ネットを介して音源のやりとりをしながらソロをレコーディングしていったとのこと。

この"Hey, Dynamics"のマスタリングはマスロック/ポストハードコアのジャンルで評価の高いカリフォルニアのDance Gavin DanceやソルトレークシティのEidolaなどを手がけたKris Crummet.

ゲスト参加したギタリスト高尾真之が在籍するCyclamenはもともとはヴォーカルの今西義人を中心にイギリスのレディングで結成されたバンドで、国際的な人気も高い。

こんな楽曲もやっている。

CyclamenがタイのシンガーStamp Apiwatをフィーチャーした"The Least".

話をHaiku-Like Imaginationに戻すと、彼らは2017年に結成され、この曲がレコーディング音源としては初めてのリリースだという新人バンドだが、新人にしてこの国際性。
このブログでも何度も書いている通り、コアなジャンルになればなるほど国境や国籍は全く意味をなさなくなる。
彼らについても、もはやインドのバンドだとか考えることにあまり意味はないのかもしれない。
以前来日したデスメタルバンドのGutslitのようにHaiku-Like Imaginationが来日公演をしたり、インドのフェスでライブしたmonoのようにCyclamenがインドでライブを行ったりということも十分にありうることなのだ。


(2019.4.15追記 ついにHaiku Like Imaginationのデビューアルバム"Eat Lead, Motherbuzzer"が全曲リリースとなった。こちらのBandcampから全曲再生&ダウンロード購入可能!奇妙で複雑で激しくて美しい、マスロック/ポストハードコアの名盤!)
https://haiku-likeimagination.bandcamp.com/releases


インドのこのジャンルのバンドとしては、日本文化からの影響を全面に出したデリーKrakenも活躍している。
 (彼らのことを紹介した記事はこちら「日本の文化に影響を受けたインド人アーティスト! ロックバンド編 Kraken」)

以前北東部アルナーチャル・プラデーシュ州のデスメタルミュージシャンTana Doniから紹介してもらった同郷のマスロックバンドSky Levelも先ごろデビューアルバムをリリースした。


こうした世界的にもメインストリームとは言えないコアなジャンルでも、レベルの高いバンドが各地にいるのがインドの音楽シーンの底力だ。
次回は、また別の日本との繋がりのあるミュージシャンの続報と、インディーミュージシャンの苦労について書いてみたいと思います。
それでは!



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2019年03月11日

3.11 あれから8年、忘れたくない遠い国からの支援

今日で2011.3.11東日本大震災からちょうど8年。
亡くなった方への追悼、次の災害への備え、原子力政策の今後など、思うべきことはたくさんある。

もう一つ忘れたくないのは、8年前に多くの国が日本のためにたくさんの有形・無形の支援をしてくれたということ。
多くの国の方が、支援物資や祈りを届けてくれたことを忘れないでいたい。
そして、同じような優しさを、自分もまた遠い国の人や、すぐ近くの人にも届けられるような人間でありたい。
そう思う人は多いのではないでしょうか。

このブログで扱っているインドや南アジアの国々も、あのときたくさんの支援をしてくれた。
https://ja.wikipedia.org/wiki/東日本大震災に対するアジア諸国の対応#南アジア

また日本に住むパキスタンなど南アジアの国々のムスリムが、震災の直後からカレーの炊き出しという形で被災地を元気づけてくれたことを覚えている人も多いだろう。

今回は、日本であまり知られていないナガランドの国々からの支援を紹介したい。
このブログでも紹介した、ナガランドでの日本文化(アニメやコスプレ)ブーム。
「特集ナガランドその3 ナガの地で花開く日本文化 ナガランドのオタク・カルチャー事情とは?」
ナガランドで日本文化がポピュラーになったきっかけの一つが、東日本大震災のときに、日本の支援のためにナガランドのミュージシャンたちがチャリティーコンサートを開いたことだという。

当時の現地の報道によると、以下のようにたくさんのミュージシャンが無償で追悼・支援のためのパフォーマンスをしてくれたとある。

Methaneilie, OFF, Divine Connection, XTC, Dementia, De band, Ebenezer Band, Chakhesang Church Choir, NBCC male Choir, children from Ao Baptist Church, Rengma male voices, Menei Chale, NSACS brand Ambassador 2010, Toshinaro, Naga Idol 2008, Topeni Naga Idol 2009, Menguse-u, Shursoseilie, Alobo, Dr Nicky Kire 他多数。

このブログでも紹介したナガを代表するアーティストAlobo Naga(当時はまだメジャーじゃなかったのか、ずいぶん最後のほうに書かれている)や、映画『あまねき旋律』の舞台となったペク地方に暮らすチャケサン族の聖歌隊の名前もある。

せっかくだから参加してくれたバンドたちをいくつか紹介します。

エイリアンが歌い踊るビデオも謎だが、もっと驚いたのが「Head Hunter Entertainment」(首刈り族エンターテインメント!)というプロダクションの名前!がいかにもナガランドらしい。

クリスチャン・ロックバンドのDivine Connection.



そしてナガの大スター、Alobo Naga.



ANTB(Alobo Naga and The Band)名義のCome Back Homeでは豪邸のいたるところに飾られた鹿の頭に注目。
ナガではかつて首刈り族だった名残からか、動物の頭部を飾る風習は今でも盛んらしい。

今回はたまたまこのブログで取り上げたことのあるナガランドの当時の支援について紹介したが、あの時、きっと同じように世界中の様々な地域の人々が優しさを寄せてくれたはず。
感謝の思いもまた新たに今日の日を過ごしましょう。
いつかその優しさを返せるように。

それではまた!


参考サイト:
https://www.thehindu.com/society/history-and-culture/nagalands-japanese-subculture/article24481651.ece
http://kanglaonline.com/2011/03/kohima-concert-for-japan-earthquake-tsunami-victims/
 
 

goshimasayama18 at 22:37|PermalinkComments(0)

2019年03月09日

"Gully Boy"と『あまねき旋律』をつなぐヒップホップ・アーティストたち 

ムンバイのストリート・ヒップホップシーンを描いたRanveer Singh主演の"Gully Boy"がインドで大ヒットを続けている。
ここ日本での自主上映でもかなり評判が良いようで、今までになくインドのヒップホップが注目を集めている。
残念ながらSpace Boxさんによる英語字幕の自主上映は本日がラストとのことだが、これまでに日本でヒットしてきたインド映画とはまた違う毛色の本作、改めて正式な劇場公開が待たれる。
(Gully Boyについては不肖、軽刈田も大絶賛しております。「映画"Gully Boy"のレビューと感想(ネタバレなし)」

この映画はムンバイのラッパーNaezyとDivineをモデルにしているが、インドではここ数年、大都市ムンバイのみならず、様々な都市や地域でアンダーグラウンドなヒップホップシーンが形成されている。

それはインドのなかでも独自の文化を持つインド北東部も例外ではない。
インド北東部のナガランド州を舞台にしたドキュメンタリー映画『あまねき旋律』をご覧になった方は、ナガの地に駐留するインド軍が映し出された、重苦しい無音のシーンを覚えていることだろう。
かつて村が焼き払われ、この土地の独立運動が徹底的に弾圧された歴史が、字幕で伝えられる場面だ。
山あいの農村に暮らすチャケサン・ナガ族のみずみずしい歌声にあふれたこの映画の中で、そこだけ生気が失せたような沈黙がとても印象的なシーンだった。
(ナガランドについては何度も書いているが、『あまねき旋律』についてはこちらから:「特集ナガランドその1 辺境の山岳地帯に響く歌声 映画『あまねき旋律』」
インド北東部地図NEとシッキムインド北東部地図拡大
(地図出展:Wikipedia)

インド北東部は、ヒンドゥー/イスラームの二大宗教や、アーリア/ドラヴィダの二大民族に代表される典型的なインド文化とは全く異なるルーツを持つため、周縁的な存在であることを余儀なくされ、差別や偏見の対象となってきた。
そのため、北東部ではナガランド以外でも多くの州で、独立運動や権利を求める闘争が行われてきた。
そうした運動を牽制するため、インド北東部の多くの地域が、前回紹介したカシミール同様にAFSPA(Armed Force Special Power Act. 軍事特別法と訳されることがある)の対象地域とされ、軍や警察による令状なしの捜査・逮捕・資産の収奪が認められている。
そして残念なことにその特権は必ずしも正義のために行使されているわけではなく、これまでに多くの一般市民が権力を持つ側の犠牲になっており、それゆえに権利や自由を求める意識はさらに高まってきたという歴史がある。
このブログでも紹介してきたとおり、インド北東部は典型的なインド文化の影響が少なく、クリスチャンが多いこともあって相対的に欧米文化の影響が大きいため、インドのなかでもかなり洗練されたポピュラー音楽文化を持っている地域だ。
当然ながらアンダーグラウンドヒップホップシーンにも数多くの素晴らしいアーティストがいる。

インド北東部では多くのラッパーが差別や偏見に抵抗し、民族の誇りを掲げたラップをリリースしているが、その代表格がトリプラ州のBorkung Hrankhawl(BK)だ。

"Fighter ft. Meyi"

"Roots (Chini Haa)"
ヒップホップというよりはEDMに近いビートに乗せてポジティブなリリックを吐き出す姿勢がとても印象的なBorkung Hrankhawlについては、以前も詳しく紹介した。(「トリプラ州の“コンシャス”ラッパー Borkung Hrangkhawl」

メガラヤ州からは、この地に暮らすカシ族の名を取ったKhasi Bloodzが、「インドのロックの首都」とも言われるほどインディーミュージックが盛んな州都シロン(Shillong)を拠点に活動している。
この曲はその名も"Hip Hop"

メンバーのBig-Riは同郷の女性R&BシンガーMeba Ofiliaとコラボレーションしたこの楽曲でMTV Europeの2018年Best India Actに選ばれた(こちらの記事でも特集)。
"Done Talking"  


と、ここまではイントロダクション(いつも長くて申し訳ない)。
今回は奇しくも3人のラッパーが似たタイトルの楽曲を発表していることを紹介します。

まずは北東部でも最北の地、アルナーチャル・プラデーシュ州のラッパーK4 Kekhoが昨年リリースした"I am an Indian"から。

「北東部出身者が、インドの主要部で中国人やネパール人に間違えられて経験する真実に基づいている」というメッセージから始まるこのミュージックビデオは、インド国内でも十分に認識されず、高等教育を受けるために進んだ主要都市では外見や文化の違いから差別と偏見にさらされる過酷な現実を訴えている。
それでもなお「俺もまたインド人だ」と主張するラップは、ある意味独立を訴えるよりも悲しみを感じさせるものだ。
後半では主要都市の大学で差別や暴力によって北東部出身者が命を落とした事件に対する抗議の様子が出てくるが、これはBorkung Hrankhawlもフリースタイルのスポークンワードで訴えていた深刻な問題だ。

続いて紹介するのはインドに併合される1975年まで独立国だったシッキム州のラッパー、UNBが2014年に紹介した"Call Me Indian".

彼のことも以前ブログで取り上げたのを覚えている方もいるかもしれない(そのときの記事)。
ユーモラスなフロウでラップされているが、インド人としての誇りを持っていてもインド人して見られず、見た目を馬鹿にされ、声をあげれば暴力さえ振るわれるというリリックの中身は悲痛なものだ。

そして3曲めに取り上げるのは、オディシャ州出身のラッパー、Big Deal.
オディシャ州は地図を見ればわかる通りインド北東部ではないが、インド人の父と日本人の母のもとに生まれた彼は外見的に北東部出身者にうりふたつで、彼もまた幼少期に外見ゆえの差別を受けてきたという。
Odisha
(地図出展:Wikipedia)

彼が昨年リリースした楽曲のタイトルは"Are You Indian".

"I Am Indian", "Call Me Indian", "Are You Indian"と、奇しくも3曲が3曲とも「外見からインド人みなされず差別にさらされる北東部出身者が、自分も同じインド人だと抗議する」というテーマを掲げているのがお分かりいただけるだろう。
これらの曲は、北東部出身者は、インドの主要地域出身者に比べて、同等の尊厳が認められていないという状況を表している。

Big Dealのこの"Are You Indian"はアメリカのラッパーJoyner Lucasの"I'm Not Racist"という曲にインスパイアされて書かれたものだという(この曲もアメリカの黒人の心情が非常に分かるものになっているので、興味があればぜひビデオを見てほしい)。
前半では、ヒンドゥー、ムスリム、南部出身者ら、多様ではあるがインド主要部を構成する人々からの北東部への偏見が吐き出される。
それに対して後半は北東部出身者からの返答という構成になっている。

これがかなり面白いので、相当長くなるがリリックの訳を載せてみます。
まずは前半、インドのメインランドからの偏見はこんな内容だ。

お前は誰だ?ここで何をしている?
よくは知らんが最近インドじゃ移民が多すぎる
中国人に見えるが国境をくぐり抜けて来たのか?
差別するわけじゃないが、お前のマヌケな顔を見て言ってるんだ
小さい目に無いような眉毛
お前がインド人だって?疑わしいね
お前がインド人だって?何言ってんだ
インド人を探してるってんなら、あいつを見てみな

お前たちの女どもは挑発的な格好をして一晩中パーティーするんだろ
そりゃレイプされるのも仕方が無いね
全然違うんだよ 俺たちは最高で、お前たちは病気だ
お前らの学生どもはアル中か大麻中毒だろ
自分には関係無いって言うのは勝手だが、俺はお前らが大嫌いだ
お前らの近所に住んでるが、お前らがでかい音でかける音楽が大嫌いだ
大学に行ってる奴らも多いみたいだが
さぼってばかりで金を無駄にしているんだろう
どうして仕事につかないんだ?自分の価値も見つけられないのか?
いつまでも親のスネかじりか? 
ゲームばかりやって時間を無駄にしてるのか?
少数民族の優遇制度のおかげで仕事につくんだろ
政府のお情けにすがって生きてるのか?
 
お前らの女どもは早いって聞くが
処女を失ったみたいに尊厳も無くしちまったのか?ひどいもんだ
 
お前らもお前らの臭い食べ物も地獄に堕ちろ
お前らが料理すると黄色いクソみたいな匂いがして吐きそうになる
肉が入ったものしか食べないんだろ
鶏肉じゃ満足できなくて犬も食べるんだろ
 
調子を合わせてみたり、自分たちは違うって言ってみたり
西洋人になりたがってみたり、インド人になりたがってみたり
お前らは矛盾ばっかりだ
どうしてどっちかに決められないんだ?
お前らが思ってるなりたい人間になれよ
その方が楽だからって誰かの真似をするな、被害者ぶるな
それがお前らの地域のテロの理由だろ
自分たちの権利のために戦ってるって言うんだろ
人殺しはやめろ
 
お前らの人種は何か変なんだ
男らしいって言うがヒゲもないじゃないか
法律なんかクソくらえだ 裁判所なんか信じないね
正義なんて盲目だし、盲目ってのがキーワードなんだ
だから犯罪者どもが好き勝手したり無罪の人間が聴取されたりするんだ
俺たちが汚い言葉を使ったって言って5年も刑務所に入れるんだ
メアリー・コムは好きだぜ
彼女は自分の地元だけじゃなくてインドを代表してるんだ
俺たちは絆を分かち合う必要がある
自分たち自身みたいにお互いを気遣う必要がある
お前らはインド人か?
インド人になりたいのか?


まずはここでも中国人に似ていることや外見に対する差別から歌詞が始まり、ヒンドゥーやイスラーム的な価値観とは異なる彼らへの偏見が続く。
今回紹介した3曲全てに北東部の食文化に対する差別が入っているのも興味深い。
インドのマジョリティーであるヒンドゥー文化は菜食を清浄なものとし、肉食を忌避する傾向があるが、北東部出身者は伝統的に肉をよく食べることから、差別の対象となりやすい。
「犬肉を食べているんだろう」というのは、典型的な北東部出身者への偏見の一例だ。
指定部族(Scheduled Tribe=STという。ちなみに不可触民などの指定カーストはScheduled Caste=STと略される)優遇制度の恩恵を受けていることや、テロリズム的独立運動というのも北東部のステレオタイプへの批判と言ってよいだろう。
最後の方に出てくるメアリー・コムというのは北東部のマニプル州出身の女子ボクシング世界チャンピオンのこと。
彼女はモンゴロイドだが、彼女の半生が映画化された際には、典型的なインド美人の女優、プリヤンカ・チョープラーが彼女の役を演じた。

さて、前半の偏見に対する北東部からの反論はこんなふうに続く。

俺は俺だ インド人としてうまくやろうとしてる
お前の無知には我慢できないな 俺を移民だと思っていやがる
国境のそばに住んでるんだ もちろんその左側さ
(※国境の右側は中国ということだろう)
俺の顔で判断したってことはあんたはまぎれもない人種差別主義者だ
アルナーチャル、アッサム、マニプル、ミゾラム、
メガラヤ、トリプラ、シッキム、ナガランド
これが北東部、インドのセブン・シスターズだ
俺たちはまぎれもないインド人、中国でも日本でもない
 
俺たちがいい暮らしをしていて苦々しいんだろ
目は小さくても大きいビジョンで見渡せるんだ
いつの日かいっしょになれるかもな
調和のうちに共存できるかもな 俺たちもテロはこりごりだ

女性たちへの差別的な感性
あんた達の服だって思ってるほど立派じゃない
正義のための道に毎日集まるんだ
ムスリムへの差別も止めろ
(※この4行のヒンディー語部分は機械翻訳なのであやしいです)
 
俺たちは歴史的にひどく抑圧されてきた
不平等と混乱にさらされてきた
差別され、マイノリティーとして抑圧されてきた
だから俺たちには優遇制度が与えられているんだ
簡単に言おう 俺たちはあらゆる優遇制度に十分に価する
お情けにすがって生きているんじゃない お前がそう思わなかったとしてもだ
なんなら今すぐ役所に行って問題提起してみな
 
俺たちの中には同化しようとする奴も、違ったままでいたい奴もいる
俺たちの中には西洋人になりたがる奴もいるが、それはお前たちが俺たちもインド人だと感じさせないからだ
俺が言いたいのはお前らがこうさせたってことだ
どうして心を決めないんだ
俺たちに心の底から好きなようにさせてくれ
俺たちに好きなようにさせてくれ、俺たちは犠牲者だ
俺たちの地域のテロの理由は
政府がしてくれないから自分たちの権利のために戦っているんだ
体制なんてクソくらえだ

メアリーを讃えろ
男どもは毛深くてクソみたいな匂いがする
俺たちの女が怖がるのも無理はない
ガンディーは肌の色のせいで電車から降ろされた
イギリス人はそんなふうに俺たちを人種差別して、そして出て行った
今日まで俺たちは同じようなことをしている

俺たちは俺たちのプライドの奴隷
罪のないものが代償を払わされてる
暴力的に命が奪われ、また母親が泣く
また娘がレイプされ、息子が死んでゆく
すべての犠牲は、誰が正しいか証明するために起きているんだ
俺たちが戦い続けて、目をあわせようとしないなら
そんな人生なら、
生きる意味はいったいどこにある?
俺たちは人間でいよう 人間らしく共感しよう
変化をもたらす時だ 俺たちから始めるんだ


無知や見た目による差別への反論がこれでもかと畳みかけられる。
逆差別との批判も受けがちな優遇制度も、独立運動にも、彼ら自身さえうんざりしているテロ行為にさえ、それに値するだけの理由があるのだという主張には、犠牲者でありつづけてきた悲痛が込もっている。
リリックはさらに激しさを増し、かつてインド人を差別したイギリス人と同じことをしている差別主義者や、差別することで自尊心を満たす彼らの生き方を糾弾する。

ここまで聞くと、やはり差別される側である北東部出身者の声に一部の理があるように思える。
Youtubeのコメント欄には、この曲に対して北東部出身者からの共感の声と、メインランドの理解者からの賞賛の声が並んでいるが、その中にいくつか気になるものがあった。
「こういう音楽を作ることで、かえって分断を強調してしまうのではないか」とか「北東部にもメインランドから移住した者に対する差別がある」といったものだ。

正直にいうと、私も北東部の人々のおかれた状況に同情しつつも、この曲の後半のかなり過激な糾弾に対しては、差別主義者の心に届くのなあ、と疑問に感じていた。
北東部出身者でないBig Dealのリリックが、実際の当事者であるK4 KekhoやUNBの表現よりも赤裸々で激しいことも気になる。

Big Dealは、当事者が反発を招かないために、あえて越えないようにしていたラインを越えてしまったのではないか。
こうした表現方法では、共感者の理解は得られても、そうでない人(例えばST制度反対論者)の気持ちを変えることはできないのではないか。

その点に対して、Big Dealは、この曲について解説した動画の中で非常に興味深い話を語っている。

オディシャ州の小さな街プリーで育った彼は、幼少期に東アジア的な見た目ゆえの差別を経験した。
プリーの街にはそんな顔の人間は誰もいなかったからだ。
インド北東部にほど近いウエストベンガル州ダージリンの寄宿舎学校進むと、そこには彼によく似た見た目の同級生たちがいた。
ところが、今度こそよく似た仲間たちに溶け込めたのかというと、そうではなかった。
そこで会った北東部出身者は、見た目は似ていてもよその地域から彼をやはり差別したのだという。
(そこからラップに出会ったことで自信を得てゆく過程は彼の"One Kid"という曲に詳しく表現されている

こうした経験を通して、彼は偏見というものが決して一方向だけのものではないことを知る。
偏見とは双方向的なもので、それぞれが「正しい」と思っていることの中に含まれているのだ。
それがマジョリティーとマイノリティーに分断されたときに、差別という問題になって表出する。
これは「差別される側にも原因がある」というような意味ではなく、人間の本質についての話だ。

この曲は北東部への差別を扱った楽曲ではあるが、メインテーマは前半と後半、それぞれのヴァースの最後の部分なのだ。

俺たちは絆を分かち合う必要がある
自分たち自身みたいにお互いを気遣う必要がある
 
俺たちが戦い続けて、目をあわせようとしないなら
そんな人生なら、
生きる意味はいったいどこにある?
俺たちは人間でいよう 人間らしく共感しよう
変化をもたらす時だ 俺たちから始めるんだ

Big Dealは、自分と異なる容姿の人々と、よく似た人々の双方からの差別を経験したからこそ、この曲を作ったと語っている。
「差別する側の言い分」である前半のラストにも理解を求める言葉があるのは、無知や偏見ゆえに差別する人々も、心の底では相互理解の必要性を分かっているということを表しているのだろう。
この曲が扱っているのはインドだけの問題ではなく、世界中の誰にとっても普遍的なテーマなのだ。

本日はこのへんまで!
今回はずいぶん長い記事を読んでいただいてありがとうございました!



Big Dealのことも以前書いていたので興味のある方はこちらからどうぞ。
「レペゼンオディシャ、レペゼン福井、日印ハーフのラッパー Big Deal」2018.2.28
「律儀なBig Deal」(インタビュー)2018.3.24




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goshimasayama18 at 20:11|PermalinkComments(0)