インドのエレクトロニック・ミュージック

2021年09月29日

J-WAVE 'SONAR MUSIC'出演! オンエアした曲、紹介したかったけどやめた曲など


9月29日(水)J-WAVEであっこゴリラさんがナビゲートする「SONAR MUSIC」にて、たっぷりとインドの音楽を紹介させていただきました!

めちゃくちゃ楽しかったー!
1時間近く、時間はたっぷりあったはずなのに、伝えたいことがあって、ちょっと喋りすぎちゃったかな…と少し反省もしてますが、自分の好きな音楽(そしてほとんどの人が知らないであろう音楽)をラジオを通してたくさんの人に伝えられるというのは何度経験してもすごくうれしいもの。

当日オンエアした曲をあらためて紹介します! 



Su Real "East West Badman Rudeboy Mash Up Ting"
デリーのEDM/トラップ系プロデューサー!


Ritviz "Chalo Charlein feat. Seedhe Maut"
プネーのインド的EDM(印DM)プロデューサーとデリーのラップデュオの共演!


When Chai Met Toast "Yellow Paper Daisy"

ケーララ州のフォークロックバンド!


Pineapple Express "Cloud 8.9"
ベンガルールのプログレッシブ・メタルバンド、インドの古典音楽との融合!


Drish T "Convenience Store(コンビニ)"
ムンバイ出身の日本語で歌う(!)シンガーソングライター!


Siri "Gold"
ベンガルールの女性ラッパー!


Seedhe Maut "Nanchaku ft. MC STAN"
デリーのラップデュオにプネーの気鋭の存在MC STANがゲスト参加!


MC STAN "Ek Din Pyaar"
プネーのラッパー!



今回の選曲は、インドでの人気や知名度よりも、純粋にサウンド的にかっこよかったり面白かったりするアーティストを集めたという印象。
この"SONAR MUSIC"は毎回かなり面白い特集を組んでいる音楽番組なだけに、リスナーの皆さんの反応が気になるところでしたが、気に入ってもらえたらうれしいです。


(ここからはちょっと余談)
6月の宇多丸さんのTBS「アフター6ジャンクション」、先月のSKY-HIさんの"IMASIA"に続いて、3本目のラジオ出演(全部ラッパーの番組!)となったわけだけど、ラジオで紹介する曲を選ぶのって、毎回かなり悩む。
インドの音楽やインドという国にとくに興味のないリスナーのみなさんにも「インドの音楽って面白い!」と思ってもらいたいし、できれば楽曲だけじゃなくて、興味深いエピソードなんかも話したい。
いかにもインドっぽい音がいいのか、インドらしからぬ欧米のポップスみたいな曲がいいのかも悩みどころだ(結局、毎回両方を選曲している)。
ラジオでは、私が出演するコーナーの前後に、当然ながら日本やアメリカやイギリスの完成度の高いポピュラーミュージックが流されているわけで、いずれにしてもそこに埋もれない曲を選びたい。
さらに欲を言えば、番組やパーソナリティーのカラーにあった曲が紹介できると、なお良い。

SONAR MUSICのナビゲーターのあっこゴリラさんの曲は以前から聴いていて、"DON'T PUSH ME feat.Moment Joon" みたいな曲で、女性やマイノリティが社会で感じている生きづらさを、きちんと表現しているのがかっこいいと思っていた。
日本語のリリックでは表現が難しいこういう社会的なテーマを、ヒップホップのフォーマットのなかでかっこよく表現するというのは、センスも勇気も必要なことだ。

だから、このブログでも度々話題にしているような、日本とはまた違う形で保守性や排他性が残るインドの社会の中で女性としての意見を表明しているフィメール・ラッパーのことを紹介したかったし、それに対するあっこゴリラさんの意見を聞いてみたかった。

ところが、「コレ!」という曲がなかなか見つからない。
インドにもフィメール・ラッパーはそれなりにいるのだが、ブログで文章を添えてミュージックビデオを紹介するぶんには良くても、ラジオでオンエアするとなると、曲としてはちょっと弱かったりするのだ。
メッセージは最高なのだけど、ラップのスキルがいまいちだったり、インドのアーティストにしては完成度の高いトラックでも、もしアメリカのトップアーティストの曲が流れた後だったら、そこまで魅力的に響かなかったりする。

できればインドらしいインパクトがあり、かつラップのスキルも十分で、メッセージも強烈な曲があれば良いのだが…と思っていたら、ぴったりの曲があった。

インド系アメリカ人で最近はインド国内での活躍がめざましいRaja Kumariをリーダーとして、ベンガルールのSiri, メガラヤのMeba Ofilia, ムンバイのDee MC,といったインドじゅうのフィメールラッパーが共演した"Rani Cypher"だ。

いかにもインド的なコーラスも耳を惹きつけるし、サビの女性に対する「忘れないで、あなたはクイーン(タイトルの'Rani'は女王の意)」というメッセージも素晴らしい。
ラップが英語でいわゆる洋楽リスナーにも聴きやすいのも良いし、冒頭で'As a woman in this industry, we have to work harder, we have to be better, we have to do so much more'という語りが入っているのでコンセプトが分かりやすい。
在外インド人であるRaja Kumariとインド各地の異なるバックグラウンドのフィメール・ラッパーのコラボレーションというのもぜひ触れたいポイントだ。

これは紹介したい楽曲の最右翼。さあリリックを細かくチェックしようと思ったら。
冒頭のヴァースで、ヘイターたちへのメッセージとして、こんなリリックをラップしていたのでびっくりした。

'I Nagasaki on them haters, ground zero'

マジか…。
これって明確に「ヘイターどもはナガサキのグラウンド・ゼロみたいにぶっ潰してやる」って意味だよね。

ラップの中で語呂のいい言葉を選んだのだろうが、さすがにこれはない。
(このリリックをラップしているのはSiriで、彼女に対しては、きちんと抗議しておきます。返事が来たらまたご報告します) 

この曲に関して言えば、この部分のリリック以外はコンセプトもサウンドも最高だし、こうしたリリックが含まれていることを注釈したうえで紹介しようかとも思ったのだけど、せっかく大勢の音楽ファンにとって未知のインド音楽を紹介するのに、ネガティブな話はしたくないので、残念だがこの"Rani"はリストから外すことになった。

インド社会の悪い意味での保守性のもとで女性たちが苦しんでいる現状に対して、ラップという新しい手段で声を上げることは、とても素晴らしいことだと思う。

問題は、虐げられている人々を鼓舞するために、別の虐げられた人たちが傷つくような表現をするっていうのはそもそもどうなのか、という話だ。

彼女の他の曲もたくさん聴いたが、彼女は決して露悪的な表現を好むラッパーではないと認識している。
(ヒップホップ的な範囲での強がりやディスりはもちろんあるが)
おそらく彼女にとって原爆投下は遠い国の歴史上の出来事で、いまだに犠牲者やその家族が、直接的、間接的に苦しんでいることを単純に知らないのだろう。

もちろん、彼女のしたような表現がインドで一般的に許容されているわけではなく、同じくベンガルールを拠点に活動するラッパーのSmokey The Ghostはこんなふうにフォローしてくれている。



(Smokeyはこの後、今回の一件について「原爆の悲劇はインドでもよく知られているし、これは単なる『特権的な無知』に過ぎない」との解釈を伝えてくれた)


いろいろ考えた結果、結局、フィメール・ラッパーの曲はSiriの"Gold"という曲を選んだ。
彼女の無知は責めるべきだし、この"Raani"のリリックは論外だが、彼女が本来伝えようとしているメッセージの価値はゆるぎないし、インドの女性ラッパーのなかでも音楽的にとくに秀でていると考えてのことだ。

まあとにかく、こうやって誤解や失敗を繰り返しながら国と国との関係とか、人と人との関係ってのは良くなっていくものだと信じている。 

言いたいのは、リスペクトを大事にしよう、ってこと。

最後に、今回紹介したアーティストについて、これまでに書いた記事を貼り付けておきます。



Su Real



Ritviz



When Chai Met Toast
 


Pineapple Express
 


Drish T



Seedhe MautとSiriが所属しているAzadi Records.
 


MC STANについては、書こう書こうと思ってまだ書いてない!
近々特集したいと思ってます。



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goshimasayama18 at 23:59|PermalinkComments(0)

2021年07月07日

Karan Kanchanの活躍が止まらない!(ビートメーカーで聴くインドのヒップホップ その2)


うれしいことに、ここ最近、俺たちのKaran Kanchanの快進撃が止まらない。
Karan Kanchanはムンバイを拠点に活躍しているビートメーカー。

なぜ「俺たちの」なのかというと、彼はジャパニーズ・カルチャーに大きな影響を受け、その結果、日本にも存在していない'J-Trap'というジャンルを「発明」してしまったという、愛すべきアーティストなのである。

(彼について紹介した記事)


J-Trapはトラップのダークでヘヴィなビートに、三味線っぽい音色や和風の旋律をちりばめた、極めてオリジナルな音楽だ。
この"Tokyo Grime"のラッパーはXenon Phoenix.
外国人の目線から見た不穏なイメージの東京がめちゃくちゃクール!

こちらは"Daruma Dub"
インド人仏教僧Bodhidharma(サンスクリット語)を語源とするおなじみのダルマが、日本のポップカルチャーの影響を受けた最新のダンスミュージックとしてインドに帰還したと思うと、なんだか不思議な縁を感じる。

インドでは、K-Popがメインカルチャーとして受け入れられている一方で、アニメやマンガを中心とした日本文化は、コアなファンを持つサブカルチャーとして確固たる位置を占めている。
K-Popのグループがインドの雑誌の表紙を飾ったり、ボリウッドの人気歌手がK-Popシンガーと共演して多くの耳目を集めている一方で、インディーミュージックシーンでは、日本語名のアーティストや、日本語タイトルの楽曲が数多く存在しているのだ。
こうした日韓のカルチャーの受け入れられ方の違いは、東アジアの一員として非常に興味深い。

(関連記事をいくつか貼り付けます)






シーンを見渡せば、他にも、ジブリの映画や久石譲の音楽をフェイバリットに挙げ、ミュージックビデオにトトロの人形を登場させたドリームポップバンドのEasy Wanderlingsや、80年代の日本のアニメをモチーフにしたミュージックビデオ(楽曲のタイトルは"Samurai")をリリースしたSayantika Ghoshなど、日本文化の影響を受けたインディーミュージシャンは枚挙にいとまがない。
Karan Kanchanは、そのなかでも、非常に強く日本のカルチャーの影響を感じさせるアーティストの一人なのである。


この"Monogatari"のイントロの語りは、三味線奏者の寂空-JACK-によるもの。
じつは、この二人を引き合わせたのは私、軽刈田。
Kanchanの「コラボレーションしてくれる三味線奏者を探してほしい」というリクエストをSNSで拡散したところ、寂空が手をあげてくれたのだ。
この曲では、三味線とトラップのコラボレーションに先駆けて、語りでの共演となった。
寂空が所属するバンド'Shamisenist'は、今後アメリカのレーベルColor Redからのデビューが予定されており、ひとまわり大きくなった日印のアーティスト同士の新たなコラボレーションにも期待したい。

J-Trapという類まれなるスタイルを確立したKaran Kanchanは、前回の記事で紹介した「ムンバイのストリートラップシーンの帝王」DIVINEとの共演を皮切りに、瞬く間にインドのヒップホップ・シーンを代表するビートメーカーとなった。

Karan Kanchanは、ソロ名義でJ-Trapの作品を制作するかたわら、DIVINEを中心としたムンバイのストリートラップ集団Gully Gangのビートを数多く手掛け、次々に注目作をリリースしていった。

DIVINEのニューアルバムでは、ストリート路線から脱却し、内面的なテーマを扱うようになった彼に合わせてディープでメロウなビートを提供。
かと思えば、DIVINE同様にMass Appeal Indiaからのデビューを決めたGully GangのD'Evilには、初期ガリーラップを思わせるパーカッシブなビートを用意し、ムンバイの個性を巧みに表現した。

近年のKanchanの活躍の舞台はムンバイを飛び越え、デリーのラッパーと共演する機会も広がっている。
この"Dum Pistaach"ではデリーのラップデュオSeedhe Mautと共演し、ヘヴィ・ロックの要素を導入した新境地を開いた。
アメコミとインド神話とジャパニーズ・カルチャーが融合したようなビジュアルもクール!
デリーを拠点に活躍するメジャー寄りの人気ラッパーRaftaarの楽曲にも制作陣として名を連ねている。
2019年にリリースされたこの曲の再生回数は4,500万回を超えている。

彼の活躍は国境すら超えはじめており、最近では、Netflixで全世界に配信された『ザ・ホワイトタイガー』の主題歌の"Jungle Mantra"で、盟友のDIVINE、そしてアメリカの人気ラッパーVince Staples、Pusha Tとの共演を実現させている。


ここ最近の彼の活動で特筆すべきは、活躍の場を広げているだけではなく、ビートのスタイルも多様化させていることだろう。
以前はトラップ系のヘヴィなビートをシグネチャー・スタイルとしていたKanchanだが、最近ではよりコードやメロディーを重視したサウンドにも挑戦している。
Pothuriと共演した"Wonder"では、Daft Punkを思わせるようなポップでエレクトロニックなR&Bのビートを披露。


Gully Gang一味の出身で、やはりMass Appeal Indiaの所属となったShah Ruleの"Clap Clap"では、印象的なピアノのメロディーと、ドリル的に上下にうねるベースが印象的。


とにかく活躍が止まらないKaran Kanchan、売れてくるにつれて彼は日本のカルチャーを忘れてしまったのか?と少々寂しい気持ちにもなるが、最新曲の"Marzi"は、新境地のChill/Lo-Fi系のビートを大胆に導入した最高に心地よいサウンドを届けてくれた。

Lo-Fi/Chill Hop系のビートは、日本のビートメーカーNujabesやアニメ作品との関わりから、日本のカルチャーとの関わりが深い。
(この話題についてはこの記事に詳しい。beipana「Lo-fi Hip Hop〔ローファイ・ヒップホップ〕はどうやって拡大したか」

言うまでもなくこのミュージックビデオはあの有名なLo-Fi Study Girlのオマージュ(正面から映しているのは珍しい!)で、机の上のチャイがインドらしさを感じさせるが、窓の外の景色や室内の様子は、日本のようにも、どこか他の国のようにも感じられるのが今っぽい。
ヘヴィはトラップ・サウンドから出発したKaran Kanchanが、メロウなLo-Fiビートでジャパニーズ・カルチャー的な世界に帰ってきてくれたと思うと、なんとも感慨深い。

(関連記事。インドのYouTubeチャンネル'Anime Mirchi'が作ったインド風Lo-Fi Study Girlにも注目)



ここでこの記事を終わりにしてもよいのだけど、せっかくなのでKaran Kanchan本人に、ここ数年の大活躍とスタイルの深化、そしてパンデミック下での生活についてインタビューをしてみた。
その様子は次回!
お楽しみに!

(Karan Kanchanインタビュー)


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2021年06月01日

K-pop meets 'I-Pop'! インドと韓国のコラボレーションは新しい扉を開くのか?


5月21日にリリースされたArmaan Malik, Eric Nam, KSHMRのコラボレーションによる新曲"Echo"の評判が良い。

6月1日の時点でYouTubeの再生回数は1,000万回以上。
ヒット映画の音楽ともなれば億を超えることも珍しくないインドでは決してずば抜けた数字ではないが、映画と関係のない音楽としては大健闘していると言っていいだろう。 


この楽曲に関わった人物を整理してみよう。
Armaan Malikはムンバイ出身のシンガー。
代々インド映画の音楽を作ってきた一家に生まれたArmaanは、幼い頃から古典音楽を学び、アメリカの名門バークリー音楽大学で学んだのち、EDM, R&B, そしてもちろん映画音楽などの分野で活躍している。
インド映画のプレイバック・シンガーにはよくある話だが、彼もまた多くの言語で歌っており、ヒンディー、英語、ベンガル語、テルグー語、マラーティー語、タミル語、グジャラーティー語、パンジャービー語、ウルドゥー語、マラヤーラム語、カンナダ語の楽曲をレコーディングしたことがあるという。


この"Chale Aana"は2019年のボリウッド映画"De De Pyaar De"の挿入歌で、作曲はArmaanの兄であるAmaal Mallik. (兄のAmaalは、弟と違って姓のアルファベット表記の'L'が2つある)

この曲の再生回数は1.6億回とケタ違いだ。
彼が歌う他の映画音楽では、5億再生を超えているものもある。

映画音楽以外の活動も見逃せない。
2020年のMTV Europe Music Awardsで、近年勢いづくヒップホップ勢を抑えてBest India Actを受賞した"Control"は、"Echo"同様にインドらしさをまったく感じさせない「洋楽的」なポップソングだ。

Armaanは、映画音楽という大衆音楽と、洋楽的なポピュラー・ミュージックという、対照的なふたつのジャンルの第一線で活躍しているシンガーなのだ。


Eric Namはアトランタ出身の韓国系アメリカ人シンガー。
011年に名門ボストン・カレッジを卒業し、ニューヨークのデロイト・コンサルティングで勤務するというエリート中のエリートだった彼は、YouTubeへのカバー曲動画の投稿や韓国でのオーディション番組への参加を経て、ミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせた。

シンガーとしては、韓国語と英語の両方で楽曲をリリースしており、海外ツアーを行うなど、すでに国際的な活躍をしている。

この"Honestly"を聴けば分かる通り、そのサウンドはK-popのイメージを裏切らないきらびやかなダンスポップ。
声の質もArmaanに近く、ヴォーカリストとしての相性がぴったりなのがこの曲からも分かるだろう。


"Echo"のプロデュースを務めたKSHMRことNiles Hollwell-Dharはカリフォルニア出身のインド系アメリカ人のEDMアーティストだ。
名前の通り、カシミール地方出身のヒンドゥー教徒の父を持つ(母親はインド系ではないようだ)。
2003年に高校の友人と結成したヒップホップユニットThe Cataracsで活動したのち、2014年にKSHMRの名義でEDMに転向。
UltrasやTommorowlandなどの大規模フェスでもプレイし、2016年、2017年、2020年にはDJ Magの世界トップDJの12位に輝いているEDMシーンのトップスターの一人だ。

活動の場が違うので簡単には比較できないが、ジャンル内の評価で言えば、このKSHMRが3人の中でもっとも大きな成功を収めていると言えるかもしれない。
(再生回数で言えば圧倒的にArmaan Malikだが)

この曲はインドで行われたアジア最大のEDMフェス'Sunburn'のテーマ曲として作られたもの。

インド国内のマーケットを意識した作品では、このようにビジュアルにもサウンドにもインドらしい要素を取り入れており、最近ではインド国内のアーティストとのコラボレーションも多い。


…長くなったが、要は、この曲でコラボレーションした3人には、非常に多様性に富んだ背景があるということである。
国籍としては、インド、韓国、アメリカ。
音楽ジャンルとしては、フィルミ(インド映画音楽)、インド古典音楽、R&B、K-pop、EDM...
こうした多様性のある3人のコラボレーションなのだから、ものすごい化学反応が起きて、斬新なフュージョン音楽が生まれるのではないかと期待していたのだが、誤解を恐れずに言えば、出来上がった作品は、ポップミュージックとしての質は高いものの、音楽的な冒険はせずに、手堅くまとめたという印象だ。
"Echo"には、Armaanの古典音楽的な歌い回しも出てこなければ、KSHMRの得意なフュージョンの要素もない。
ミュージックビデオの映像も、K-Pop的な派手さや伝統的なインドのイメージとは無縁な、率直に言うとかなり地味なものである。

Eric Namは、Rolling Stone Indiaにこう語っている。
「"Echo"は3人のアジア人がグローバルな舞台で団結した重要な例なんだ。僕らの仲間がもっと増えたらいいのにって思ってる。僕たち(引用者注:アジア人)全体を代表してやってのけることができる人たちの、もっと大きなネットワークが欲しいんだ。僕らは、自分たちみたいなカルチャーに関わる人たちを、もっと大きなスクリーンで見たいと思って成長してきた。でも、伝統的に、そういう場所は僕らにオープンじゃなかったんだ。ようやく、少しずつオープンになってきてはいるけどね。それから今、人種間や社会的な緊張がこれまでになく高まってきている。だから、僕らにとって、今こそこういうことをやるのに最高の時なんだよ」

この言葉の中の、「アジア人にもショービジネスが少しずつオープンになってきている」というのはK-popの成功を、「人種間や社会的な緊張が高まっている」というのはコロナ以降のアジア人差別を指しているのだろう。
"Echo"をこのタイミングでリリースしたのは、5月がアメリカ合衆国における「アジア系アメリカ人および太平洋諸島出身者月間」(Asian American and Pacific Islander Heritage Month)であることも意識していたという。

だからこそ、彼らは偏見にもつながるステレオタイプと裏表な典型的なアジアの要素を前面に出すのではなく、あえて無国籍なポップミュージックを作り、音楽の質そのもので勝負しようとしたのだろう。
しかし、無国籍なポップミュージックとは、結局のところ、欧米の白人が作ったジャンルを意味している。
今のところ、インド国内と韓国の一部のファンには高い評価を得ているようだが、この方法論が世界でどこまで通用するのか、応援しつつ見守ってゆきたい。

ところで、記事のタイトルに'K-pop meets "I-pop"'と書いたが、'I-pop'とはこの曲を紹介するにあたり、インドの媒体が多用している言葉。
インドは英語が話せる人材も多いし、最近ではArmaanのようにバークリーなどの欧米の一流の音楽大学に進学する若者も増えている。
I-PopがK-Popのように、世界で評価される日が来るのだろうか。
その時に、"Echo"はエポック・メイキングな楽曲として思い出されるものになるはずだ。


関連記事:






参考サイト:
https://rollingstoneindia.com/exclusive-armaan-malik-eric-nam-and-kshmr-collaborate-on-new-single-echo/

https://www.bollywoodbubble.com/bollywood-news/exclusive-armaan-malik-on-echo-taking-i-pop-global-dabbling-with-wanting-to-breakout-and-fear-of-rejection/




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goshimasayama18 at 20:56|PermalinkComments(0)

2021年05月10日

次世代の主流になりうるか? インドの「アンダーグラウンド・メインストリーム・ポップ」!


ご存知の通り、インドのポピュラーミュージックの主流は映画音楽である。

ところが、21世期に入った頃から、少しずつ状況が変わり始めた。
インドの経済成長による衛星放送の普及、そしてインターネットの発展にともなって、人々が様々な音楽を聴く機会が増えてきたのだ。
2010年代になると、そうした音楽を好む若者たちのなかから、多くのラッパーやロックバンドや電子音楽アーティストが登場した…というのは、いつもこのブログで紹介している通りである。

とはいえ、インド全体の音楽シーンのなかでインディペンデント・ミュージックが占める割合はまだまだ少ない。
都市部の若者を中心にファンやリスナーを獲得しているものの、圧倒的な規模や予算で市場を席巻する映画音楽には遠く及ばない。
やはり、いまでもインドの音楽シーンは、映画音楽を中心に回っているのだ。

それでも、桁違いの人口規模を誇るインドのインディーミュージックシーンはびっくりするほど多様だ。
なかには、インドらしさをまったく感じさせない、アメリカやイギリスのチャートの上位を賑わせそうなポップサウンドを作っているアーティストたちもいる。
いわば彼らは「世界のメインストリームの音楽を作っているインドのアンダーグラウンド・アーティスト」というわけだ。

今のところ、彼らの音楽はまだポピュラリティを獲得しているとは言い難いが、質の高い音楽を作っているアーティストも多い。
といわうけで、今回はそんなアーティストたちを紹介したいと思います。


手始めに、先日紹介した「日本語で歌うインド在住のインド人シンガー」Drish Tとも共演していたAnimeshの"Pressure on It"を聴いてみて欲しい。
ファンキーなリズムに乗ったキャッチーなメロディーは、ちょっとBruno Marsのアップテンポな曲を思わせるところもある。
ヴォーカルのFranz Dowlingはオーストラリアのブリスベン在住のシンガーだそうで、国籍を超えたコラボレーションであるという点もとても今っぽい。
AnimeshはDrish Tと同じチェンナイのKM Music Conservatory(A.R.ラフマーンが作った音楽学校)に通う学生とのことで、彼女と同年代なら、まだ20歳くらいということになる。
これから洗練されてゆけば、かなり面白い存在になりそうだ。


続いて紹介するのは、同じくチェンナイのポップアーティストKevin Fernandoが、プロデューサーのAshwin Vinayagamoorthyと女性シンガーのNivedita Lakraと共演した"Foxy".
Kevin Fernandoという欧米風の名前は、おそらく彼がクリスチャンの家庭に生まれたことによるものだろう。
プロデューサーのAshwin Vinayagamoorthyは、ふだんはタミル語映画の音楽を手掛けている人物のようだ。
ラフマーンも然り、いつもは地元のマーケットを意識した音楽を作っていても、こういう欧米ポップス的な引き出しも当然のように持っているというのが現代インドの商業音楽家の強みだろう。


3月にデビュー曲の"Summer Nights"をリリースしたばかりのAneeshは、ムンバイのエレクトロニック・ミュージックのプロデューサー。
ちょっとラテンっぽいリズムを取り入れた楽曲は今の気分にぴったり。
AneeshはAviciiやJonas Blue, KSHMRなどのEDMアーティストの影響を受けているという。
この曲のヴォーカルは、テキサス在住のシンガーソングライターBrandon Chaseで、ここでも国境を超えたコラボレーションが行われている。
インドのインディペンデントシーンには、欧米での生活や留学を経験したアーティストも多く、英語圏のシーンとの心理的・言語的な距離は我々が想像するよりもずっと近い。
他のアジア圏のアーティストと比較して、彼らのこうした点もグローバルな成功へのアドバンテージとなるはずだ。


Chirag Todiはインド西部グジャラート州アーメダーバードのプログレッシブロックバンドHeat Sinkのギタリスト。
ソロ作品の"Desire"ではファンキーな心地よいグルーヴを聴かせてくれている。
男性ヴォーカルはムンバイのバンドSecond SightのPushkar Srivatsar, 女性ヴォーカルはデリーのTania Nambier.
この曲はRolling Stone Indiaが選ぶ2020年のベストシングルにも選ばれていて、こうしたファンキーかつクールなグルーヴはインドの音楽好きに好まれているようだ。


もっとローカルなところだと、例えばこのAdhiraj Mathur.
まだ無名なミュージシャンで、情報はほとんど無いのだが、この曲は「シャワーを浴びているときに思いついて、ベッドルームでミキシングとマスタリングして、iPhoneでミュージックビデオを撮影した作品とのこと。
アナログビデオ風の映像の加工も最近インドのミュージックビデオでよく見られる傾向。
こうした映像が撮れるビデオカメラの時代には生まれていなかった若い世代が、アナログ的な要素を積極的に取り入れているのが興味深い(そもそも、もし生まれていたとしても、当時のインドにはこうした家庭用の映像機材はほとんど出回っていなかったはずだ)。
渋谷系の日本のミュージシャンが60年代や70年代の洋楽の影響を強く受けていたように、自分たちが持ち得なかった過去へのあこがれがひとつの原動力になっているのだろうか。


ムンバイのエレクトロニック系プロデューサーChaitxnyaの"You Broke Me First Flip"は女性ヴォーカルもの。
アーティスト名は'Chaitanya'と読むのだと思うが、おそらくは同名異人との混同を避けるために、名前を独特の綴りにするというのは、インドの有名人によく見られる手法だ。


ここまで紹介したアーティストたちは、インドのなかでもまだまだ無名で、YouTubeの再生回数も数百回から数千回、もっとも多いChirag Todiでもせいぜい15,000回程度の、ごくマイナーな存在に過ぎない。
オリジナリティーあふれるサウンドで、インドのインディペンデントシーンでより高い評価を確立しているアーティストたちも、コアなジャンルではなく、現代メインストリーム的な楽曲を手掛けている例が散見される。

例えば、日本にも存在しない和風のトラップ・ミュージックである'J-Trap'というジャンルを開拓し、最近ではヒップホップのビートメーカーとしても大活躍しているKaran Kanchan.
DIVINEのようなビッグネームとのコラボレーションでは、YouTubeで1,000万回を超える再生回数を叩き出している彼は、R&BシンガーRamya Pothuriとコラボレーションして、こんなキャッチーな曲をリリースしている。
ぶっといビートのイメージが強かったKanchanが、ここまでスムースかつポップな曲を手がけるのは非常に新鮮!
彼のビートメーカーとしての引き出しは非常に多く、最近ではDIVINEがコロナ禍で奮闘する人々に捧げた"Salaam"でのメロウなサウンドや、Shah RuleがMass Appeal Indiaからリリースした"Clap Clap"でのピアノを導入したビートが印象に残っている。


インディペンデント・シーンでの評価の高いムンバイのシンガーソングライターTejasは、この"Down and Out"でAviciiの"Wake Me Up"を思わせるカントリーっぽいメロディーと四つ打ちのビートの融合を試みている。
このブログでもこれまでにPrateek KuhadRaghav Meattleといった才能あふれるアーティストを紹介してきたが、彼の楽曲からもインドのシンガーソングライターのレベルの高さを改めて感じさせられる。


今回紹介したような「アンダーグラウンド・メインストリーム・ポップ」はまだ小さな潮流だが、彼らのポップセンスと、英詞での表現が得意という特性がうまく化ければ、インド国内のみならず、グローバルな市場で幅広いリスナーを獲得することも夢ではないように思う。
インドのインディー音楽に注目する立場としては、インドならではのユニークなサウンドを作っているアーティストも大好きが、こうした世界に通用するサウンドを作ろうとしているアーティストたちも応援したい。

彼らの今後の活躍に期待!




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2021年04月12日

インドで発見!日本語で歌うシンガーソングライター Drish T

日本人にとってうれしいことに、アニメや漫画といった日本のカルチャーは、インドのインディー音楽シーンでも一定の存在感を放っている。
Kraken, Komorebi, Riatsuなど、これまで何度も日本の影響を受けたアーティストを紹介してきたが、ここにきて、新たな次元で日本にインスパイアされたシンガーソングライターを見つけてしまった。

彼女の名前はDrish TことDrishti Tandel.
DrishT

ムンバイ育ち、若干20歳の彼女は、他のアーティストのように、曲に日本語のタイトルを付けたり、日本のアニメ風のミュージックビデオを作ったりしているだけではない。
なんと、彼女は日本語で歌っているのだ。

まずは彼女の曲"Convenience Store(コンビニ)"を聴いてもらおう。
(ちなみに、カタカナの「コンビニ」までがタイトルの一部だ)
 
大貫妙子を思わせる透明感のある声のキュートなポップス!
日本語の発音もとてもきれいだし、わざとなのかどうか分からないが、「忘れものはいないの?」という表現がユニークでかわいらしい。

彼女がすごいのは、この1曲だけ日本語で歌っているのではなく、「これまでに発表した全ての曲を日本語で歌っている」ということだ。
考えてみてほしい。
日本にも英語で歌うアーティストはいるが、全ての曲を日本語でも英語でもない、母語ではない言語で歌うアーティストがいるだろうか?

Drish Tは他のアーティストの楽曲にゲストヴォーカルとして参加することも多く、iTooKaPillと共演した"Portal"は、なんと日本語の「語り」から始まるエレクトロニック・バラードだ。
声質やトラックのせいもあると思うが、この曲はちょっと宇多田ヒカルっぽく聴こえる。

Animeshというアーティストとコラボレーションした"血の流れ(Blood Flow)"では、アンビエントっぽいトラックに乗せたメロウなヴォーカルを披露している。
インドの音楽シーンに突如現れた日本語シンガー、Drish T, 彼女はいったい何者なのか?
さっそくTwitterのダイレクトメッセージを通じてインタビューを申し込んでみたところ、「日本でインドの音楽のブログを書いている人がいるなんて思わなかった。喜んで質問に答えます!」とすぐに快諾の返事が来た。
それではさっそく、インド生まれの日本語シンガー、Drish Tインタビューの模様をお届けしよう。


ーまず最初に、あなたの経歴を教えてください。あなたはムンバイ在住の二十歳のシンガーソングライターで、カレッジで音楽を学んでいる、ってことであってますか?

「もちろん!私はムンバイで育ったけど、でも今はチェンナイにある、A.R.ラフマーンの音楽学校に通っていてディプロマ課程の2年目よ」

ーということは、現在はチェンナイに住んでいるんですか?

「そう。ここで学んで3年になる。でもロックダウンでみんな家に帰っていたから、最近になってやっと最終学年がスタートしたの」

ー学校が再開してよかったですね。いつ、どうやって作曲や歌を始めたんですか?

「最初は8年生(中学2年)のときにアコースティックギターを弾き始めた。叔父さんの古いギターを直したところだったから。でもすぐに歌うほうが好きだって気がついた。それで西洋風のヴォーカルを始めて、トリニティ(ロンドンの名門音楽カレッジ)のグレード5の試験を受けることにしたのよ。それから、KM音楽学院(KM Music Conservatory:前述のA.R.ラフマーンの音楽学校)を見つけて、芸術系の学校で12学年(日本でいう高校3年)を終えたあとに、ここに来たってわけ」

ーギターを始めた頃は、どんな音楽をプレイしていたんですか?

「そのころはポップ・パンクに夢中だったから、ポップ・パンクから始めたわ」

ー例えばGreen Dayとかですか?古くてすみません、あなたよりだいぶ年上なので(笑)。

「(笑) そう。6年生と7年生(中1)の頃、Green Dayの"Boulevard of Broken Dreams"がすごく人気だった。でもPanic! At The DiscoとかTwenty One Pilots, 5 Seconds To Marsの曲なんかも弾いてた!」

ーいいですね!私はGreen DayでいうとBasket Case世代でした。じゃあ、彼らがあなたに影響を与えたアーティストということですか?

「ええ。最初は彼らの曲をたくさん聴いていた。それからママの古いCDのコレクションで、ブライアン・メイとかマイケル・ジャクソンとかABBAとかQueenも!
それから、ちょっとずつ日本や韓国の音楽も聴くようになって、いまではそういう音楽から影響を受けているの!あとはカレッジの友達が作る音楽もね」

ーあなたが日本語でとても上手に歌っているので驚きました。日本語も勉強しているんですか?(ここまで英語でインタビューしていたのだが、この質問に彼女は日本語で答えてくれた)
スクリーンショット 2021-04-01 22.22.21

ーすごい!漢字もたくさん知ってますね。どうやって日本語で歌詞を書いているのですか?

「ありがとうございます(日本語で)!
日本語の歌をたくさん聴いているし、アニメとかインタビューとかポッドキャストとか、いろんなメディアを通して、言葉の自然な響きを学ぼうと努力してる。それで、歌詞を書こうと座ったら、考えなくても言葉が浮かんでくるようになった。今では日本語が私の内面の深い感情をもっともうまく表現できる言語よ。英語よりもね」

ーいつ、どうやって日本のカルチャーを見つけたんですか?

「9年生(中3)と10年生(高1)の頃、YouTuberをたくさん見ていたんだけど、ある時突然彼らが『デスノート』と『進撃の巨人』の話をするようになった(笑)。それですごく興味を持って、最初に見始たのが『四月は君の嘘』。音楽に関する話だったから。それからもっとたくさんアニメを見続けて、とても印象的で美しい言葉だから、日本語も勉強したいって思った。そういうわけで、Duolingoで独学を始めて、日本の文化に関する本もたくさん読んだ。
日本の文化でいちばん好きなのは、礼儀正しさと敬意ね。私はすべての人が敬意を持って扱われるべきだと信じているから、すぐに日本の文化に共感したの。
2019年には日本語能力試験(JLPT)のN4(4級)に合格したのよ!」

ーおめでとうございます!あなたの言ってること、分かる気がします。僕の場合は19歳のときにインドを旅して、それからずっとインドが好きなので。インドの好きなところは、活気があるところと文化の多様性ですね。僕の場合は、インドの言葉ができないってのが違うけど。勉強するべきだったかな…。

「それは素晴らしいわね!ヒンディー語はとても簡単だし、北インドで最も共通して話されている言語よ。私は南インドの言語を知らないから、今住んでいるチェンナイではちょっと苦労することもあるの」

お気に入りのアニメや日本のミュージシャンを教えてもらえますか?

「私のお気に入りの日本のアニメは、なんといってもジブリの映画!『ハウルの動く城』はお気に入りの一つよ。『ハイキュー!!』も大好き。登場人物たちを見てると、あたたかくてハッピーな気持ちになれるの。もちろん、『鬼滅の刃』『進撃の巨人』『僕のヒーローアカデミア』、最近では『呪術廻戦』もね。」

ージブリの作品はどれも素晴らしいですよね。もう『呪術廻戦』もご存知なんですね!日本では去年『鬼滅の刃』の映画が大ヒットして、次は『呪術廻戦』が来るんじゃないかってみんな話してますよ。

「ええ。『呪術廻戦』はインドでも私たちの世代にとても人気よ!
『NARUTO!』みたいなクラシックな作品ももちろん好き。
日本の音楽に関して言えば、大橋トリオ、久石譲、林ゆうき、Tempalay、Burnout Syndromes、Radwimps、米津玄師、神山羊、King Gnuをたくさん聴いているし、他にもお気に入りは大勢いる。挙げればきりがないわね(笑)」

ー(凄い…。知らないアーティストもいる…)韓国の音楽も聴いているって言ってましたよね。今ではK-Popは世界中で人気がありますが、日本の音楽と韓国の音楽の違いはどんなところだと思いますか?

「あ、百景を挙げるのを忘れてた!最近ではマスロックやプログレッシブロックもたくさん聴いているの。
そうね、K-Popはインドでも大人気よ。もちろん、BTSはとくにね。私も彼らの音楽は大好き。なによりいろんな意味で盛り上げてくれるから。でも、彼らみたいなグループはとても商業的だってすぐに気がついて、もっとインディー・ミュージックを聴くようになったの。そうね、日本の音楽のほうが、より誠実な感じがする。
あっ!なんてこと!toeとu-zhaanのことも言い忘れてた!」

ーK-Popは国際的なマーケットに向けたビッグビジネスって感じですよね。日本の方が人口が多いからかもしれませんが、日本のアーティストはもっと国内マーケット向けに音楽を作っていて、そのことがユニークなサウンドを生み出しているようにも思います。どっちのほうが良いということではなく、どちらも面白いですよね。
プログレッシブロックやマスロックが好きなら、デリーのバンドKrakenは知ってますか? 彼らも日本のカルチャーから影響を受けているバンドです。

「そう、日本の音楽はとてもユニークで、ほとんどの人がなかなかそのことを理解しないわね。でもインドの人たちも、少しずつ東アジアのカルチャーに対してオープンになってきている。
Krakenのことはちょっと前に知ったのだけど、彼らは本当にクールよ。私は日本とインドが私たちの文化を超えてつながるのが大好きなの!」

ーところで、iTooKaPill, Animesh, Ameen Singhなどのたくさんのミュージシャンと共演していますよね。彼らのことは知りませんでしたが、とても才能があるミュージシャンたちで驚きました。どうやって彼らと知り合って、コラボレーションすることになったんですか?

「ああ(笑)、彼らはミュージックカレッジの同級生なの。ここでたくさんの面白くて才能のある人たちと会えて、素晴らしいわ」

ー最高ですね。ところで、これまでずっと日本語で楽曲をリリースしてきましたが、インドの人々のリアクションはどうでしたか?彼らにとっては、意味がわからない言語だと思うのですが。

「そうね。実際、私の音楽をリリースすることにはためらいがあったんだけど、でもK-Popもインドで人気があるし、人々が新しい文化やカルチャーを受け入れるようになってきたって気付いたの。それで、みんなが歌詞を理解できるように、リリックビデオを作ったのよ。みんなのリアクションには、とても満足してる。日本語で歌っているから、音楽業界のインフルエンサーたちも注目してくれた。インドではとても珍しいことだから!」

ー『コンビニ』みたいな曲はどうやって書いたんですか?あの曲、すごく気に入っているのですが、日本の暮らしを想像しながら書いたんですか?

「ありがとうございます(日本語で)。私はよくパンケーキを焼くし、日本のコンビニに行くvlogをたくさん見てたから、自分でちょっとした世界を作ってみたくなったの」

ー歌詞の中で「忘れ物はいないの?」っていうところが好きです。「いない」って、人に対して使う言葉だから、なんだか詩的でかわいらしく聞こえるんです。まるで卵とかバターを友達みたいに扱っている気がして。

「歌をレコーディングした後に気が付いたんだけど、そのままにすることにしたの!それはすごくキュートな見方ね」

ー間違いだったんですか?わざとそうしているのかと思いました。

「ええ、間違いよ。でもそのままにしておいてよかった(笑)」

ー他の曲は、もっと心の状態を表したものが多そうですね。" Let's Escape (Nigeyo)"(逃げよう)も気に入っています。ギターが素晴らしくて。この曲は何から逃げることを歌っているのですか?

「そう、他の曲は心の状態について歌っているの。親友のAmeenがすごくクールなリフを弾いてくれて、共演しようって言ってくれたの。歌詞を書こうと思って座ったら、すぐに『逃げよう』って言葉が浮かんできた。歌詞全体は、宿命論的な心のあり方から逃げることについて書いているけど、いろんな解釈ができるわ。何らかの感情、場所、人からエスケープするとかね」

現時点の最新曲"Let's Escape(Nigeyo)"はAmeen Singhのマスロック的なギターをフィーチャーした楽曲で、彼女の新しい一面を見ることができる。
「本当は、2020年の夏に両親といっしょに日本を訪れて、いくつかの音楽大学をチェックする予定だったの。でもパンデミックが起こってしまって…。本当に、いつか日本で学んでみたいと思ってる」

ー日本にはまだ来たことがないんですか?

「ええ、まだないの。チケットも予約していたのに、全てキャンセルしなければならなかったのよ!」


と、最後まで日本への思いを語ってくれたDrish T.
彼女が安心して日本に来ることができる日が訪れることを、心から願っている。

彼女がコラボレーションしていたiTooKaPillやAnimeshも才能あるミュージシャンで、インドの若手アーティストの(というか、A.R.ラフマーンのKM音楽学院の)レベルの高さを思い知らされる。
というわけで、今回は「インドで日本語で歌うインド人シンガー」Drish Tを紹介しました!
次回は「インドでヒンディー語で歌う日本人シンガー」です !





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goshimasayama18 at 20:43|PermalinkComments(0)

2021年04月03日

コロナ禍のインドでのホーリー系音楽フェス事情!

色のついた粉や水をぶっかけあう奇祭として有名なインドのホーリー。
ヒンドゥー暦11月の満月の日に行われるこのお祭りは、今年は3月28〜29日が開催日にあたっていた。


(これは2017年に制作されたホーリーの様子を紹介した動画:Get an Up-Close Look at the Colorful Holi Festival | National Geographic)

以前このブログでも紹介したように、ここ数年、都市部ではホーリーは音楽フェスと一体化し、伝統と現代が融合したいかにもインドらしいパリピ的イベントとしても祝われている。

だが、見ての通りホーリーは密な状態で色粉や色水をかけあう濃厚接触しまくりのお祭りだ。
昨年のホーリーの時期には、インドでは新型コロナウイルスによる全国的なロックダウンが行われており、さすがにこの手の音楽フェス系のイベントは軒並み中止されていた。
さて、今年。
全国的なロックダウンこそ解除されたものの、まだまだコロナウイルスが猛威を振るっているなか、当然今年も音楽フェス系のホーリーイベントは開催されないんだろうな、と思っていたのだが、私はまだまだインドを理解していなかった。

さて、フェスの話題に入る前に、今年のホーリーのインドの街の様子を見てみましょう。

ホーリーを祝うにしても、マスクをしたりフィジカルディスタンスに気を遣ったりしているのかな、と思ったら…(サムネイルの画像でオチが分っちゃうけど)。


めっちゃ密で盛り上がってるんですけど…。
日本で若者がこんな騒ぎをしようものなら、社会的袋叩きにあうこと必至だが、インドではオッサンもオバサンもみんなでこの盛り上がり。
かつて岡本太郎は、諏訪の御柱祭を見て興奮し、「木落とし」(氏子を乗せた「御柱」を3傾斜の30度の急斜面に落とすアレ)に参加しようとして、周囲に「先生、死んじゃいますよ」と止められ、「死んでもいいじゃないか、祭りだろ!」と言い返したという。
大好きなエピソードなのだが、今年のホーリーもインド人たちの「死んでもいいじゃないか、祭りだろ!」スピリットが充満していて素晴らしい。
それにこのお祭りが神妙で厳粛なものではなく、聖なる大馬鹿騒ぎだというのも素晴らしい。

インドのこの盛り上がりを見ると、良し悪しとは別の次元で、我々日本人に決定的かつ根本的に欠けている何かを突きつけられるような気がする。

というわけで、今年のインドでは、ホーリー系音楽フェスもほとんど平常運転!
(ここまで記事を書いて、アフタームービーや参加者のSNS投稿などがないかチェックしてみたところ、不思議と1件もヒットせず、もしかして土壇場で中止になった?とも思ったのだが、中止になったという報道やプレスリリースも見当たらず、ちょっと狐につままれたような状況でいる。まあとにかく、今年行われたはずの各種イベントを紹介します)

2019年まではデリーで行われていたこの手のフェスの老舗Holi Mooは、今年はインドの音楽フェスのメッカであるゴアで開催された。
HoliMoo

デリー開催のときは国内のインディーミュージック系のアーティストが主に出演していたが、今年はゴアの土地柄か、海外のトランスやトラベラー系アーティストが多く出演している。
メインアクトはインド系イギリス人タブラ奏者/電子音楽アーティストで、ボリウッド映画の音楽も手掛けたことがあるKarsh Kaleが務めたようだ。


デリーのJawaharlal Nerhu Stadiumで行われるNeon Holi Festivalは、エレクトロニック系のDJから、ローカルなバングラー、ストリートフードまで、幅広い内容を取り揃えている。

neonholifes

イベントの内容はこんな感じ。
About the Event

Neonrings India in Association with #Dewine Club and Lounge is proud to announce its 5th annual Holi Music Festival- Neon Holi Festival 2021' with a blend of Music, Art & Colors. Thousands of people, dressed in white, come together to share in music, dance, performance art and visual stimulation.

Holi is the biggest & widely celebrated festival of India. It’s a Festival of Colors, Happiness & Madness and that's what you get @Neon Holi Festival 2021

Entertainment is also a part of the Festival with day filled with electronic , commercial and Live music to be played on a massive Stage. As well as the huge range of drinks on offer, the Festival also offers the visitors the chance to enjoy some fantastic Delhi's popular delicacies, street food and snacks.


About Neon Holi Festival | Dilli ki #Safest Holi


• 1 Massive Stage | 5+ Hours of Non-stop Music | Sanitized Arenas

• Organic Colours | Water Guns

• Celebrity Guests | Celebrity DJ’s | Punjabi Artists

• Dhol Dhamaka | Bhangra Acts | Moko Jumbies

• Rain Dance

• Thandai | Holi Snacks

• COLOUR Room | Photo Booths

• Food-Stalls | Bar 

• Beautiful Holi Décor | Photo booth

• Professional video coverage of the event

• VIP lounge | Family lounge

• Media coverage

• Live Streaming in UK and Europe.


https://insider.in/neon-holi-festival-2021-mar29-2021/eventより)

めちゃくちゃ盛り沢山で面白そう。
Celebrity Guests, Celebrity DJ'sというのがどのクラスの人たちなのか気になる。
'Sanitized Arenas'とあるように、会場の消毒をしているようで、一応の感染対策をしているらしいことがうかがえる。


インドでは根強い人気を保っているトランス系のアーティストをメインに据えたイベントも多い。
「世界で3番目の規模のEDMフェスティバル」を主催するSunburnは、ホーリーに合わせてイスラエル出身のトランスデュオVini Viciのデリー、ベンガルール、ゴアの3都市ツアーを決行。
HoliViniVici


デリーで行われたHolidelic Space Walkは、ご覧の通りいかにもオールドスクールなトランス的なフライヤーのデザインだ。
ヘッドライナーはスペインのアーティストPsynonima.
HolidelicSpaceWalk

かつてビートルズが修行に訪れたヨガの聖地リシケーシュでも、トランス〜チルアウトの90年代ヒッピー系トラベラーカルチャー的なイベントが行われていたようだ。
HoliRishikesh

欧米のサブカルチャーがインドに抱いていた幻想が、一周回ってインドに根付いたわけで、これはこれで面白い文化の還流と言える。


それにしても、紀元前から行われていたと言われているホーリーが、こんなふうに現代的にアップデートされて親しまれているというのは、単純にすごい。
日本で言えば、盆踊りがクラブイベント化したり、炭坑節のEDMバージョンが作られたりしているようなものだろうか。
しかもそれが若者に大々的に受け入れられているというところに、インド文化の伝統の強さと懐の深さを感じる。(たぶん、日本人よりも圧倒的に踊ることが好きな国民性も影響しているのだろうが)

調べてみると、ホーリーを祝う音楽のダンスミュージック化は、インディーミュージックの分野にとどまらず、ボリウッド的メインストリーム・ポップスでも多くの曲がリリースされているし、宗教音楽的なものをDJがダンサブルにマッシュアップした音源も見つけることができる。
どうやらDJというカルチャーが、インド文化のあらゆる側面に浸透しているようなのだ。




こちらはボリウッド系ヒットソングのDJミックス。
タイトルに「ボリウッド」とあるが、Panjabi MCの"Mundian To Bach Ke"なども入っているので、ここでいうボリウッドは「北インド言語のヒット曲」という意味か。

なりふり構わないアゲっぷりがいかにもインドらしくて素晴らしい。


というわけで、結局最後まで今年のホーリー系音楽フェスが開催されたのかどうか分からず、もやもやする記事になってしまったが、続報分かったらまたお届けします!


過去のホーリーに関する記事:








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goshimasayama18 at 13:34|PermalinkComments(0)

2020年12月29日

2020年度版 軽刈田 凡平's インドのインディー音楽top10


2017年末に始めたこのブログも、おかげさまで丸3年。
これまでは、毎年年始めにRolling Stone India誌が選んだインドの音楽年間トップ10を紹介してきましたが(それもやるつもりですが)、今年は、軽刈田が選ぶインドのインディーミュージック年間トップ10を選んでみたので、発表してみたいと思います。


いつも偉そうに音楽を紹介してるけど、広大なインドのインディーミュージックを全て聴き込んでいるわけでもなく、言語も分からず、しばらくインドの地を踏めていない自分の興味や好みによるセレクトではありますが、映画音楽や古典音楽以外のシーンで何が起きているのかを知るきっかけにはなるはず。

ノミネートの条件は、今年インドでリリースされた楽曲、アルバム、ミュージックビデオであること。
選考基準はセールスでも再生回数でもなく、完全に主観!
とはいえ、一応いまのインドのシーンを象徴する楽曲を選んだつもりです。
全10選ですが、とくに順位はありません。


DIVINE "Punya Paap"

今のインドのインディー音楽について書くなら、どうしたってヒップホップから始めることになる。
DIVINEについては何度も書いているのでごく簡単に紹介すると、彼はムンバイ出身のラッパーで、ストリートラップ(いわゆるガリーラップ)シーンの初期から活動していた大御所(インドはシーンの歴史が浅いので、キャリアはまだ10年程度だが)。
2019年に公開された映画『ガリーボーイ』の「MCシェール」のモデルになったことをきっかけに知名度を上げ、今では米ラッパーNasのレーベルのインド部門である'Mass Appeal India'の所属アーティストとして活動している。
かつてストリートの日常をテーマにした「ガリーラップ」で人気を博していた彼は、最近では内面的なリリックやコマーシャルなパーティーラップなど、新しいスタイルに取り組んでいる。
この曲は彼のクリスチャンとしての宗教的な部分を全面に出した作品となっており、ガリーラップ時代とはまた別の気迫を感じさせる意欲作。
同じく今年リリースした"Chal Bombay"や"Mirchi"はかなりコマーシャル寄りな楽曲で、セルアウトと言われようと変わり続けるシーンになんとか食らいついてゆこうというベテランの意地を感じる。
最新アルバム"Punya Paap"では多彩な音楽性に挑戦しているが、どんなビートでも変わらないアクの強い独特のフロウを、彼のシグネチャースタイルと見るか不器用と見るかで評価が分かれそうだ。

DIVINEが音楽性を多様化させる一方で、最近ではBadshahやYo Yo Honey Singhといったコマーシャルラッパーたちは、従来アンダーグラウンドラッパーが使っていたような抑えたビートを選ぶことが多くなっている(これはムンバイ在住のHiroko Sarahさんの鋭い指摘)。
インドのヒップホップ界のメジャーシーンとインディーシーンの垣根はますます低くなってきているようだ。



MC STΔN  "Ek Din Pyaar"

DIVINEがインドのストリートラップの第一世代だとしたら、ヒップホップの新世代を象徴しているのがこのMC STANだろう。
マハーラーシュトラ州プネー出身の21歳。
メディアへの目立った露出もないまま、卓越したスキルとセンスを武器にYouTubeから人気に火がついた(と思われる)。
人気ラッパーEmiway Bantaiにビーフを仕掛けるなど、悪童的なキャラクターが先行していた彼は、2019年末にリリースした"Astaghfirullah"で、イスラームの信仰を全面に出したことでそのイメージを刷新。
内面的なテーマも扱う本格ラッパーという評価を決定的なものにした。
その後、再びこの"Ek Din Pyaar"(自身の悪評もネタにしている)のような不道徳路線に戻って数曲をリリースした後、つい先日また宗教色の強い"Amin"を発表したばかり。
こうした聖と俗の振れ幅、確かなラップスキルとセンス(トラックメイキングも自身で手掛けている)、ビジュアル、そして人気や知名度から見ても、彼こそがインドのヒップホップ新世代を象徴する存在と考えて間違いない。

今年のインドのヒップホップシーンは、他にもMass Appeal IndiaからリリースされたIkkaの"I"(これはコマーシャルラッパーのアンダーグラウンド回帰の好例)や、売れ線を完全に無視してエクスペリメンタルに振り切ったTienasの"A Song To Die"など、佳作ぞろいだった。
インドのヒップホップシーンの変化の激しさと面白さは今後もしばらく続くだろう。


Prateek Kuhad "Kasoor"
今年は世界中の音楽シーンが新型コロナウイルスの影響を受けた1年だったが、かなり早い段階からロックダウン政策が取られていたインドでは、この逆境を逆手にとって優れた作品をリリースするアーティストが目立った。
このPrateek Kuhadの"Kasoor"のミュージックビデオは、オンラインで集めた映像(恋愛にまつわるテーマへのリアクション)を編集して、非常にエモーショナルな作品に仕上げている。
ミュージックビデオの好みで言うなら、個人的にはこの曲が今年のNo.1。
この曲は他のアーティストたちにも響いたようで、インドを代表するEDMプロデューサー/シンガーソングライターのZaedenは、さっそくこの曲のカバーバージョンを発表していた。
Prateek Kuhadはインドのシンガーソングライターを代表する存在で、音楽ファンの支持も厚く、つい先ごろアメリカの名門レーベルElektraと契約したことを発表したばかり。
今後の活躍がもっとも期待されるアーティストの一人だ。



Tejas他 "Conference Call: The Musicall!"


コロナによる活動の制限を逆手にとって発表された作品のなかで、もっとも見事だったのが、この"Conference Call: The Musicall!"
インドには、Jugaad(ジュガール)という「今あるものを使って工夫してやりくりする」文化があるが、この曲はコロナ禍で急速に一般化したオンライン会議をミュージカルに仕立て上げ、さらには兼業ミュージシャンが多いインドの音楽シーンを皮肉をこめてテーマにした、まさに音楽的ジュガール。
シンガーソングライターTejas Menonが中心になって制作されたこのミュージックビデオは、ストーリーも面白いし楽曲も良くできていて、ミュージカルとしても純粋に楽しめる作品になっている。
全世界の音楽関係者が絶望したり、大真面目に「逆境に立ち向かおう」と訴えているときに、こういう面白い作品をしれっとリリースしてしまうのがインド人の素晴らしいところだ。



Aswekeepsearching "Sleep"

グジャラート州アーメダーバード出身で、現在はベンガルールを拠点に活動しているポストロックバンドが今年4月に発表したアンビエント・アルバム。
この作品に関しては、楽曲単位ではなくアルバムとしての選出。
ロック色の強かった前作"Rooh"とはうってかわって静謐でスピリチュアルな作風となったが、これがコロナウイルス禍でステイホームを余儀なくされた時代の雰囲気にばっちりはまった。
アンビエントとはいえ、トラックごとに個性豊かで美しい楽曲は飽きさせることがなく、個人的な感想を言うと、夜人気のない道をランニングしながら聴くと不思議な高揚感が感じられて大変心地よく、一時期愛聴していた。
インドには、ポストロックやアンビエント/エレクトロニカのような音の響きを重視したジャンルの優れた才能アーティストが多く、これからも注目してゆきたい。



Whale in the Pond "Dofon"

コルカタの「ドリームフォーク」バンドWhale in the Pondがリリースした"Dofon"は、核戦争による世界の終末を迎えた人類を描いたコンセプトアルバム。
この作品もアルバムとしての選出としたい。
"Aaij Bhagle Kalke Amra Nai"はアルバムの冒頭を飾る楽曲で、ベンガル語の方言であるシレッティ語(Sylheti)で歌われているが、アルバムには"Kite/Loon"のように英語で歌われている曲も多く収録されている。
サブスク全盛の現代に、世紀末的なテーマのコンセプトアルバムとはなんとも前時代的だが、この作品はソングライティング、構成、伝統文化との融合など、あらゆる面から見て大傑作。
昨今のインドのアーティストには珍しく、ウェブサイトを通じてフィジカルリリースをしていると思ったら、なんと「CDは時代遅れなのでついていません」との注釈が書かれていて、アルバムがダウンロードできるリンクのついたブックレット(コンセプトやビジュアルアート、歌詞が掲載されている)のみを販売しているとのこと。
こうしたセンスを含めて、伝統的な部分と革新性を併せ持った、才能あふれるバンドだ。



Heathen Beast "The Revolution Will Not Be Televised But It Will Be Heard"

インドのインディーミュージックの激しい面、政治的・社会的な面を煮詰めたような作品。
Heathen Beastはコルカタの無神論ブラックメタル/グラインドコアバンド。
このアルバムでは、ヒンドゥー・ナショナリズム的な政権や排外主義政策、腐敗した宗教界、警察権力、メディアを激しく糾弾している。
社会性/政治性を抽象化せずに、ここまでストレートにメッセージを打ち出しているアーティストは、いまどき世界的にも貴重な存在。
メンバーは過激すぎる作風から、正体を明かさずに音楽活動を続けている(インドでは反体制的なジャーナリストの殺害事件なども多い)。
正直、この音楽性なのでアルバムを通して聴くのは結構しんどいが、強烈なアティテュードにある種の清々しさを感じる作品だ。




Sayantika Ghosh "Samurai"

もう1枚、コルカタ出身のアーティストから。
シンセポップ・アーティストSayantika Ghoshの"Samurai"は、80年代レトロフューチャー的なサウンド/ビジュアルや、内面的な歌詞、日本のアニメの影響など、昨今のインドのインディーシーンの鍵となるテーマが散りばめられた作品。
ブログでも取り上げた通り、近年インドでは、"Ikigai"とか"Natsukashii"のように日本語のタイトルを冠した曲が散見されており、日本人としては気になる傾向だ。
Sayantika Ghosh現在は活動拠点をムンバイに移しているとのこと。
ソングライターとしての能力も高く、今後もっと評価されて良いアーティストだ。

今年は彼女の他にもNidaの"Butterfly"Maliの"Absolute", ラップに挑戦したSanjeeta Bhattacharyaの"Red"など、女性シンガーソングライターの自然体の魅力あふれる秀作が多い一年だった。




Ritviz "Chalo Chalein feat. Seedhe Maut"

RitvizはSpotifyでも高い人気を誇っているインド風EDM(いわゆる「印DM」)アーティスト。
インド的な要素と現代的なダンスミュージックを融合するだけでなく、ポップな歌モノとしても上質な作品を発表し続けている。
ポップかつノスタルジックな色彩のミュージックビデオは、彼の音楽にも今の気分にもぴったりはまっている。
共演のSeedhe Mautはデリー出身のストリートラップデュオで、この一見ミスマッチなコラボレーションにもインドのヒップホップの多様化・一般化を見ることができる。
Ritvizは"Raahi"のミュージックビデオでは同性カップルを取り上げており、こちらもLGBTQの権利向上に意識が向いてきた昨今のインドのインディー音楽シーンを象徴する作品だった。
ローカルな要素を多分に含んだ彼の音楽が、今後インド国外でも人気を得ることができるのか、注目して見守りたい。

「印DM」には、他にもNucleya, Su Real, Lost Storiesなど、期待できるアーティストが盛りだくさんだ。



Diljit Dosanjh "Born To Shine"

個人的な話になるが、2020年は私にとってバングラー/パンジャービー・ポップの面白さとかっこよさを再発見した年でもあった。
これまで、「バングラーは北インドのコマーシャルなポピュラー音楽」という認識でいたので、インディーミュージックをテーマにしたこのブログでは、ほとんど取り上げてこなかった。
なぜか演歌っぽく聴こえる歌い回しが野暮ったく感じられるというのも敬遠していた理由のひとつだ。
ところが、バングラーをパンジャーブ地方のローカルミュージック、あるいは世界中にいるパンジャーブ系移民のソウル・ミュージックとして捉えつつ、新しい音楽との融合に着目すると、これが非常に面白いのだ。
例えばこのDiljit Dosanjh.
ターバン姿でグローバルに豪遊するミュージックビデオは、2020年のバングラー作品として100点満点を付けてあげたい。
派手好き、パーティー好きで、物質的な豊かさを見せびらかしがちなパンジャービーたちのカルチャーが、カリフォルニアあたりのヒップホップのノリと親和性が高いということも再認識。
初期のインド系ヒップホップシーンを牽引したのがパンジャービーのラッパーだったのは、必然だったのかもしれない。



ここに選べなかったアーティストについても、いくつか触れておきたい。
10選の中に南部出身のアーティストが選べなかったのが痛恨だが、あえて選ぶなら、ケーララのフォークロックバンドWhen Chai Met Toastが今年リリースした楽曲は良いものが多かった。
インドのシンガーソングライターは近年本当に豊作で、非常に悩んだのだが、ここに入れられなかったアーティストから一曲選ぶなら、Raghav Meattleの"City Life".
この曲は物質主義的な都市生活への違和感をテーマにしているが、コロナウイルス禍以降にリリースされたことで、ビンテージ調の映像とあいまって、失われた活気ある生活への追憶のようにも感じられるものになった。
また、過去の作品の再編集なので対象外としたが、ベテランシンガーSusmit Boseのキャリアを網羅した"Then & Now"は、史料的な価値が高いだけでなく、初期ディラン・スタイルのウエスタン・フォークとしても上質な作品だった。
テクノアーティストOAFFの"Perpetuate"のミュージックビデオは、音楽的に新しい要素があるわけではなかったが、日常とサイケデリアをシンプルな映像エフェクトで繋いだ手腕に唸らされた。
コロナに翻弄された1年ではあったが、総じて優れた作品の多い1年だったと思う。

私の座右の銘は「好きなときに好きなことを好きなようにやる。飽きたらやめる」なので、このブログも飽きたら躊躇うことなくやめてしまおうと常々思っているのだけど、インドのインディーミュジックシーンますます面白くなってきており、いつまでたってもやめられそうにない。
というわけで、2021年もご愛読よろしくお願いします!




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2020年12月19日

2020年のインドの音楽シーン総決算!(MTV Europe Music AwardsとSpotify編)



今回は2020年のインドの音楽シーンを振り返る話題をお届けしたい。

MTV Europe Music Awards 2020が11月9日に行われ、Best India ActにシンガーソングライターのArmaan Malikが3月にリリースした"Control"が選出された。

Armaan Malikはムンバイ出身のポップシンガーで、この曲は彼が英語で歌った初めての楽曲。
Malikはこれまでに映画のプレイバックシンガーとして、インドの10言語で歌ったことがあるそうだが、今後は英語ヴォーカルの都会的シンガーとしても売り出してゆくのかもしれない。

MTV EMAのBest India Actは、過去3年間ラッパーの受賞が続いていたため、シンガーソングライターの受賞は2016年のPrateek Kuhad以来となる。
(過去3年の受賞者は、2017年Hard Kaur, 2018年Big Ri and Meba Ofilia, 2019年Emiway Bantai)
今年もMalik以外のノミネートは全員ラッパーだったというのが時代を感じさせられる。
ちなみに他のノミネートされたアーティスト/楽曲は以下の通りだった。

Prabh Deep "Chitta"
デリーのPrabh Deepはインドのアンダーグラウンド・ヒップホップシーンを牽引するAzadi Recordsの看板アーティスト。


DIVINE "Chal Bombay"
言わずと知れたムンバイのGully(ストリート)ラッパーで、米ラッパーNazのレーベルのインド部門'Mass Appeal India'の所属になって以降、活動を活発化させている。
この曲では、これまでのストリート・ラップから、売れ線のラテン風ラップに大きく転換したスタイルを披露した。



SIRI ft. Sez on the Beat "My Jam"
ベンガルールのフィーメイル・ラッパーSIRIと、インドを代表するビートメイカーであるSezによるコラボレーションで、リリックは英語とカンナダ語のバイリンガル。
フィーメイル・ラッパーでは2017年にHard Kaurが受賞しており、2018年、2019年には惜しくも受賞を逃したもののRaja Kumariがノミネートされていた。

Kaam Bhari "Mohabbat"
ボリウッド映画『ガリーボーイ』への出演も記憶に新しいムンバイの若手ラッパー。
『ガリーボーイ』の主演俳優ランヴィール・シンが立ち上げたレーベルIncInkと契約し、女性シンガー/ラッパーNukaとのコラボレーションを行うなど、ここにきて活躍の場を広げている。


結果的にシンガーソングライターのArmaan Malikが受賞したとはいえ、ここまでラッパーのノミネートが多かった年はこれまでになかった。
いまひとつノミネートや選考の基準が分からないMTV EMAの各国部門だが、インドのヒップホップ勢の躍進ぶりを感じさせられるセレクトではある。
(ちなみに今年のMTV EMA Best Japan ActはOfficial 髭男dism. おそらくインドの映画音楽や日本のアイドルポップのようなローカルな大衆音楽ではなく、欧米的な視点から見たセンスの良い楽曲を選出しているものと思われる。)


一方で、Spotify Indiaが発表した、2020年にインド国内と海外で最も多く聴かれたインドのインディーアーティストのトップ10を見ると、また違った印象を受ける。

ランキングを見る前に、インド国内でのSpotifyの位置づけを説明しなければならないのだが、インドでは、Gaana, JioSaavn, Wynk Musicといった国内の音楽ストリーミングサービスがシェアの7割を占めており、Spotifyは15%ほどのシェアしかない後発サービスに過ぎない。
Spotifyの利用に年額で1,189ルピー(1,700円弱)かかるのに対して、Gaanaは年額299ルピー(400円強)で利用できる。
インド国内の音楽ストリーミング企業は、各地の言語でのサービス提供や、国内の楽曲を充実させることに注力しており、低額の利用料金でローカル色の強い国内市場を押さえ込んでいる。
つまり、インドのSpotifyユーザーは、音楽にお金をかける意志があり、海外の音楽も積極的に聴こうとしている熱心な音楽ファンということになるのだ。

前置きが長くなったが、こちらが2020年にSpotifyで最も多く聴かれたインドのインディーアーティストtop10だ。
2020Spotify
国内でも海外でも、RitvizやNucleya, Zaedenといったいわゆる印DM(インド風EDM)がかなり聴かれていることが分かる。

ヒップホップのアーティストは海外で9位に入ったEmiway Bantaiただ1人のみ。
ラッパーが席巻したMTV EMAのノミネーションとは全く異なる結果となった。
ムーブメントとしては熱く盛り上がっているように見えるインドのヒップホップだが、コアな音楽ファンの間でも、量としてそこまで聴かれているわけではないようだ。
(もしかしたら音楽にそこまでお金をかけない、「地元のヤンキー」みたいな層が熱心に聴いている可能性もなくはないが…)
これは、ラップバトル番組が盛り上がっているように見えて、ヒットチャート上位にはなかなかヒップホップが食い込んでこない日本の状況とも似ているかもしれない。

それにしても興味深いランキングである。
Ritviz(海外で2位、国内で1位)のセンスの良さには以前から注目していたが、ここまでの人気とは思わなかった。
Prateek Kuhad(海外で1位、国内で2位)はアメリカのレーベルElektraと契約するなど、インド国内にとどまらず活躍の場を広げており、数多いインドのシンガーソングライターのなかでも卓越した存在のようだ。


海外と国内で若干の傾向の違いも見られる。
海外では、国内のランキングには入っていないLost Storiesが4位にランクインしており、より印DM好まれているようだ。
一方、国内では、Dino James, Anuv Jain, Ankur Tewari, Bhuvan Bamといったシンガーソングライターが存在感を放っているのが印象的だ。
国内10位のWhen Chai Met Toastは英国フォーク風のセンスを持ったロックバンド。
なんというか、国内チャートは、全体的に「育ちの良さ」が感じられるランキングではある。


両方にランクインしているアーティストは5組。
印DMのRitviz, Nucleya, Zaedenと、シンガーソングライターのPrateek Kuhad以外では、ヒンディー・ロックバンドのThe Local Trainがランクインしている。
彼らも洋楽的センスとインド的大衆性の融合に優れたバンドで、インドのリスナーのツボを抑えた音楽性ということになるのだろう。




インディーミュージックに限定せず、インド国内で最も多く聴かれたアルバムとアーティストのランキングを見ると、やはり映画音楽が圧倒的な強さを誇っていることが分かる。
top5India2020

いつもこのブログで大々的に紹介しているインディー音楽は影も形もない。
映画音楽/プレイバックシンガー以外で唯一ランクインしたのはBTSで、インドでのK-POP人気の強さを改めて感じさせられる。

面白かったのは、インドの音楽ストリーミングサービスJioSaavnが始めた、インド各地の言語で歌うアーティストを紹介するキャンペーン"We Are India"ついて書かれたこの記事。


とくに興味深いのは、この記事の中でJioSaavnのディレクターが「インドのミレニアル世代は、自分たちの母語で歌われる音楽や、現代的なレンズを通して彼らの文化を再現するアーティストを好む傾向がある」と述べていること。
ご存知のように、インドは地域ごとに無数の言語が存在する国だ。
ある記事によると、公用語だけで22言語、その他の言語も含めると200言語、さらに1600の方言が存在しているという(正確な言語や方言の数は、専門家でも分からないだろう)。
かつては、マーケット規模やプロモーションのための媒体、流通経路などの関係で、主要な言語の音楽ばかり聴かれる傾向があったが、インターネットの普及により、よりマイナーな言語の音楽でも、容易にリスナーに届けることができるようになったのだ。
ネットやストリーミングサービスの普及により、シーンが集約するのではなく、より多様化しているというわけである。

「現代的なレンズを通して彼らの文化を再現するアーティスト」というのは、まさにインドの伝統的な要素をEDMと融合させたRitvizらの「印DM」などを指している。
この記事では、映画音楽のインディーミュージックの垣根が曖昧になってきていることなどにも触れられており、いずれにしてもインドの音楽シーンはますますその面白さを増していると考えて良いだろう。



…と、たまにはシーン全体を俯瞰した記事を書いてみました!
個人的には非常に面白かったのだけど、みなさんいかがでしたでしょうか。
それではまた!


https://www.valuechampion.in/credit-cards/music-streaming-apps-which-one-should-you-choose

https://inc42.com/resources/hottest-music-streaming-apps-in-india-2020/

https://www.statista.com/statistics/922400/india-music-app-market-share/

https://rollingstoneindia.com/armaan-malik-prabh-deep-divine-mtv-europe-music-awards-ema-best-india-act/

https://indianexpress.com/article/entertainment/music/spotify-wrapped-2020-top-10-most-streamed-tracks-in-india-7074966/

https://www.financialexpress.com/brandwagon/jiosaavn-celebrates-excellence-in-regional-music-through-we-are-india-campaign/2045717/

https://net.keizaikai.co.jp/archives/23747


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goshimasayama18 at 23:30|PermalinkComments(0)

2020年11月29日

ゴアを拠点に活躍する多才すぎる日本人アーティストNoriko Shaktiに注目!

いつものようにRolling Stone Indiaのウェブサイトをチェックしていたら、いきなり日本人女性らしき名前が飛び込んできたので驚いた。
彼女の名前はNoriko Shakti.
 
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現在、ゴアを拠点に音楽活動をしている彼女は、日本でダンスミュージック制作とDJのスキルを得たのち、ヨーロッパで楽曲をリリースし、さらにコルカタでタブラを習得してバウルとの共演もしているという、多彩すぎる経歴の持ち主だ。

Rolling Stone Indiaで紹介されていたEP "Within the Time and Place"の収録曲、"CovidWar"がまた強烈だった。


トランシーなオープニングに続いて、銃撃音をサンプリングしたヘヴィなビートにインドや和の要素が絡むサウンドはユニークかつクール。
ミュージックビデオでは、コロナウイルス禍のためか、ダンサーたちが自宅と思われる場所で踊っているが、それが高揚感のあるサウンドとあいまって、日常から異次元に脱出していくような不思議な感覚をかきたてる。
他のEP収録曲も、モッドなジャズナンバーあり、インド古典音楽あり、アンビエントありと、じつにバラエティーに富んでいる。

異色の経歴、不思議なミュージックビデオ、そしてEPの多彩なサウンド、何から何まで気になることが多すぎる!
というわけで、現在もゴアで暮らしている彼女に、さっそくZoomでのインタビューを申し込んでみた。 



電子音楽からタブラ、そしてコルカタ留学へ

ーダンスミュージックからタブラまで、いろいろな音楽をされているようですが、まずはNorikoさんの音楽遍歴を教えてください。

Noriko Shakti(以下NS):「小さい頃からピアノを習ったり、合唱団に入ったりと音楽に親しんでいましたが、東京の一般的なサラリーマン家庭で育ちました。中学・高校の頃、当時流行っていたメロコアやパンクを友達の影響で聴くようになって、だんだんライブハウスやクラブに行くようになったんです。
高校2年のときにフジロックに行って、世界にはこんなにいろんな音楽があるんだなあーと素直に感動してしまって…。バイト代でターンテーブルを買って、音楽をやっている先輩の影響でシーケンサーを触ったり、DJをしたりするようになりました。当時は、Aphex Twinとかの電子音楽が好きだったんですが、同時にレゲエなどライブミュージックも好きでした。
ちょうどDiwali RiddimとかSean Paulとかのダンスホールが流行っていた時期で、そこからファンデーション、ラバーズロックやダブも聴くようになって、渋いなあーなんて思ってました(笑)」

DJとしての道を歩み始めた彼女は、新宿GARAM、新宿ドゥースラー、吉祥寺の4th Floorやスターパインズカフェ、Warp、恵比寿みるく、渋谷Moduleなどでプレイするようになる。
いくつかのコンピレーション・アルバムに楽曲を提供したのもこの頃だ。

NS「ずっとDJや打ち込みの音楽をやっていたんですけど、20代になってから、電子音楽の限界を感じたというか、アナログ楽器もできたほうがいいと感じるようになって、パーカッションの演奏をきちんと学んでみたいと思い始めたんです。
その頃ヨガにもはまっていて、呼吸とか瞑想とかそういう世界も探求するようになっていたのですけど、『インドって面白い』と思った頃に、ちょうどタブラというものがあると知って(笑)」

ータブラという楽器のことはどうやって知ったんですか?

NS「Talvin Singhなど、UKのアーティストが作るミクスチャー音楽に触れていたので、タブラを知ってはいました。UKの音楽シーンの移民カルチャーに惹かれていたのと、世界一難しいと言われる楽器に挑戦してみたいと思って、インド大使館のタブラ教室でインド人の先生に習い始めました。
もともとピアノや音楽制作の経験があったので、その先生から、ハルモニウムの伴奏を頼まれたり、一緒にステージで共演したりするようになりました。代々木公園で行われている『ナマステ・インディア』(インド文化の一大イベント)で一緒に演奏したこともあります。
そのうち先生から、『君は音楽をやったほうがいい。タブラでも声楽でもインドに行って勉強したほうがいい』って言われるようになり、『面白そう!行ってみようかな』って(笑)。
で、奨学金のテストを受けてインドに来たって感じですね」

ー簡単に言いますけど、すごいですね(笑)

NS「コルカタのRabindra Bharati大学に行くことになったんですが、コルカタに行ってびっくりしました。ヨガにはまってたときに1回だけ南インドを旅行したことはあったんですけど、北インドは初めてで、相当カオスだったので(笑)。
バンコクからコルカタ行きの飛行機に乗る時点から、誰もちゃんと並ばない(笑)」

ー(笑)結局、そのコルカタに長くいることになったんですよね。

NS「途中で日本に帰ってきたり、台湾にアーティスト・イン・レジデンスで行ってたりもしたんですが、コルカタには足掛け5年くらいはいました。イヤだったらすぐ帰ってくればいいや、くらいの気持ちでいたのですが、タブラが面白かったし、音楽好きのインド人の気質もすごく合ったので」

ー「大学でタブラを学ぶ」っていうのはどんな感じなんですか?

NS「セオリーと実技の授業がありました。ほとんどの同級生が古典音楽一家の出身だったので、ついて行くのに必死で勉強しました。インドでは古典音楽は子供の頃から習うのが普通なので。
他にも、インド音楽の歴史とか、アコースティックス(音響学)とか、内耳の構造みたいな授業もありました。ベンガル語も分からなかったし、ずっと日本で育った程度の英語力しかなかったのに、急に大学院の修士課程に入ってしまったので、英語もベンガル語もほぼ独学で必死に学びました」

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(当時の授業の様子。どちらもNoriko Shaktiさん提供)

ーどなたか一人の師匠について学ぶというわけではないのですね。

NS「技術的な部分はいろんな人に習いました。
最近はインドの古典音楽も、日本でよく言われているように、ひとりの師匠のもとで一生を捧げて修行するというよりも、『この人にこれを習いたい』って思ったら教えてもらいに行ったり、古典シーンで活躍している先輩のところに遊びに行ったときに教えてもらったりしました。
出し惜しみなくカジュアルに教えてもらえましたね。
修士、博士論文はリサーチ、英語での文章力が必須になります」


彼女の話を聞いていると、西洋も東洋も、現代音楽も古典音楽も関係なく、自然体で夢中になれる音楽を追求しているのだなあ、という印象を受ける。
東京のクラブでのDJから、コルカタの大学での修行まで、ジャンルも場所も関係なく音楽に向き合ってきたのだろう。
電子音楽からインドの伝統楽器タブラにつながったNoriko Shaktiの音楽遍歴は、さらなる展開を見せる。



シャンティニケタンのフェスティバルでのDJ、そしてゴアでのバウルとの共演!

ーコルカタでは、DJをやったり、クラブシーンに顔を出したりしてたんですか?

NS「コルカタにはいちおう小さいクラブがあったり、シンセとか打ち込みで曲を作るアーティストたちがいたりもします。
あと、シャンティニケタンの野外フェスでDJをしたりもしました。パールヴァティ・バウルさんが歌って、その同じステージでDJをしました。
ただ、タブラの勉強がめちゃくちゃ大変なんで、電子音楽はしばらくお休みしてました」

「バウル」とは、ベンガル地方、つまりインドの西ベンガル州とバングラデシュに何百年も前から存在する、修行者であり世捨て人でもある、不思議な吟遊詩人だ。
かつては賎民のような存在だったとも言われているが、その詩世界や生き方はタゴールやボブ・ディランにも影響を与えたとして、20世紀以降、急速に評価を高めており、今ではUNESCOの無形文化遺産にも登録されている。

 

それにしても、ベンガルの伝統を担うバウルとDJが同じステージでプレイするとは…。
この想像を超えるイベントは、"Route2"というフェスティバルで、極めてオルタナティブかつジャンルの垣根を超えたイベントだったようだ。
ここで名前の挙がったパールバティ・バウル(Parvathy Baul)は、世界的にも著名な女性のバウルで、日本公演の経験もある。
他にも、ラージャスターンのフォークミュージシャンや、マニプル州のImphal Talkies、コルカタのHybrid Protokolらが出演したこのフェスで、彼女はレゲエや電子音楽をプレイして大いに盛り上げたという。


ーずっとコルカタに住んでいたNorikoさんが、どういうきっかけでゴアで暮らすことになったんですか?

NS「本当に偶然でした。ゴアには以前にも2回来たことがあったんですが、観光地としか思っていなくて、数日しか滞在しなかったんです。
去年の12月にコルカタで博士論文を提出し終わったあと、結果が出るまで待たされることになって、その間ずっとコルカタにいるのもなあ…と思っていたら、以前デリーで会ったバウル・シンガーの友人が、今ゴアにいるから一緒に演奏しようよ、と誘ってくれたんです。
それでゴアに行くことにして、結局ゴアで20回くらいそのバウルのおじさんといっしょに演奏しました。
ツーリストとしてでなく、演奏者としてゴアで過ごすのは初めてだったので、楽しかったです。
ゴアにいるうちに、今度は、モールチャン(口琴)の奏者の人に『アルバムをプロデュースしてほしい』と依頼されて、クラブミュージックにモールチャンをフィーチャーした曲を作ったり。
そんなこんなでゴアの滞在が伸びているうちにコロナが起こって、ロックダウンになってしまって。
最初はバウルのおじさんと、一緒に演奏していたシタールプレイヤーと、3人で住居をシェアして暮らしてたんですが、今は家を借りてパートナーと住んでいます。あと近所の犬と(笑)」 

このインタビューの最中、Norikoさんの部屋の中を我がもの顔でうろうろしている犬がいたので、てっきり飼い犬なのだと思っていたのだが、そうではなく勝手に入ってきた近所の犬だそうで、いかにもおおらかなゴアらしい暮らしをしているようだ。

ーゴアではどんな場所で演奏しているんですか?

NS「ライブミュージックの場合は、カフェとかレストランですね。あとバーとか。ゴアにはいわゆるライブハウスはあんまりないんです。
バウルのおじさんとシタールプレイヤーと一緒に住んでいたときは、めちゃくちゃギグがたくさんあったので、ひたすら演奏と練習、っていう暮らしをしていました。」

ーゴアと古典音楽のイメージがあんまり重ならないんですが、ゴアにも古典音楽の演奏をしている人はけっこういるんですか?(ゴアといえば、かつては欧米のヒッピー系ツーリストたちによるサイケデリック・トランスの一大拠点だった街であり、今でもダンスミュージックのイメージが強い)

NS「少ないけど少しはいますね。
あとKarsh Kale(インド系イギリス人のタブラ奏者/エレクトロニカ・ミュージシャンで、最近ではボリウッド音楽なども手がけている)もゴアに住んでますよ!
他にもゴアにスタジオを構えているプロデューサーは結構います」

ーその一緒に演奏していたというバウルの方は、どんな方なんでしょう?
じつは今、日本ではちょっとしたベンガル文化のブームが来てるんです。ドキュメンタリー映画『タゴール・ソングス』がロングラン上映されていたり、川内有緒さんの『バウルを探して 完全版』が発売になったり、バウルという存在が気になっているという人も増えていると思います。あとベンガル料理のお店も増えてきています」

NS「えー!そうなんですか?日本帰らなきゃ(笑)
バウルの話はすごく面白いんですよ。大学で研究もしていたので、バウルについての記事を学術誌に書いたこともあるんです。
バウルのルーツは、実はラージャスターンにもあるんです。ラージャスターンからヨーロッパ方面に行った人たちがジプシーになり、東に行った人たちのなかには、現在のバウルになった人たちに合流した人もいたようです。
もちろん、バウルの起源はミステリアスで、スーフィー、ヒンドゥー、イスラームといったいろんな文化を取り入れて出来上がったのですが。
ダンスのフォームにはスーフィーの影響がありますね。
本来は定住しないで一生旅をしていないとバウルとは言えないってことになっているんですけど、今のバウルは家を持ったり、結婚したり、外国人の彼女作ったり(笑)、いろんな人がいます。
私の友人は、ウエストベンガル出身なんですけど、祖先はアクバル帝の時代にラージャスターンからベンガルに移住してきたそうです。
彼もバウルなのでいろんなところを旅していて、若いときにはデリーでパフォーマンスをする機会が多かったようで、デリーにパトロンがいるみたいです。
彼とはデリーで音楽家の友達のつながりで知り合いました。
バウルは彼らが旅をしてゆく中で作り上げられていったカルチャーなので、バウルの家に生まれなくても、彼らのコミュニティーに入ってバウルになることはできます。
そうやっていろんなカルチャーを吸収してバウルという存在ができています。
楽器も、ラージャスターンのマンガニヤールのひとたちが使うものとベンガルのバウルが使うものは、名前は違うんですけどほぼ一緒だったりして、すごく面白いです」 

バウルの起源は不明だが、15世紀にベンガル語の文献に初めて登場するとされている。
バウルはカーストや血縁に基づく存在ではないため、ラージャスターンから来た人々がそこに内包されている可能性もあるのだ。南アジア文化の流動性や多様性を考えるうえで、かなり興味深い話ではある

ーバウルというと、ベンガル地方で、近隣の村々を回ってマドゥコリ(ごく簡単に言うと、演奏と托鉢)をして生活しているというイメージでしたけど、今ではインドじゅうを回っているバウルもいるということですか?

「インドじゅうのフェスティバルやイベントに呼ばれているバウルもいます。そういう意味では、他のジャンルのミュージシャンと変わらないところもありますね」

バウルという存在は、本来はアーティスト/表現者であるというよりも、修行者/求道者であり、その歌は『俗世』を離れ真理を追求する生き方と不可分なものだ。
現代化が進む南アジア社会のなかで、こうした強烈な魅力を持つバウルの文化は、よりいっそう憧れられ、引用される対象にもなっている。
以前も紹介したように、インドでは多くのインディー・ミュージシャンがバウルとのコラボレーションを行っており、現代のカウンターカルチャーの中でも大きな存在感を放っている。


ーゴアは20年前に一度行ったことがあるだけなんですが、今のゴアはどんな感じですか?
当時は欧米人たちのトランス一色でした。Norikoさんはトランスからゴアに惹かれたわけではないんですよね。まあ、当時のトランスってかなり独特な音楽ではありましたが…(笑)。

NS「トランスは、それこそ学生の頃とか流行っていたんですけど、やっぱり独特な感じでしたよね。私はあんまりハマらなかったです。
アンジュナ・ビーチのあたりは今でもPsy-Tranceとか、テクノが多いです。
アランボール・ビーチのほうに行くと、多国籍なライブミュージックが多くなりますね。
ゴアにはロシア人とイスラエル人が多くて、彼らはトランスが好きだったり、中東系の人たちも多いんですが、彼らはウードとか自分たちの民族楽器を持ってきて演奏したりしています。
Goa Sunsplashというレゲエのフェスもあります。Reggae  Rajahsの人たちが主催していて、彼らはデリーのバンドですが、メンバーの一人はゴアを拠点に活動しているようです。ゴアはムンバイが近いから、ムンバイから来る人たちも多いです」



ー20年前は欧米のツーリストやアーティストがトランスのシーンを作っている印象でしたが、今ではインド人がシーンの中心になっているんですか?

NS「インド人が多いと思います。バンガロールやムンバイからゴアに移住して音楽活動している人も多いですし。外国人もいますけど、インド人のほうが多いですね。
外国人は冬のシーズンしか来ないし、今年の場合は、コロナの影響でもう外国人が来られないので、観光客はインド人ばっかりです。去年までは外国人の演奏者もけっこういたんですけど。
コロナの影響でEDM系フェスティバルのSunburnも中止になっちゃいましたね」

ゴアのシーンからバウルの起源まで、話は尽きないが、ここで、彼女が8月31日にリリースしたEP"Within the Time and Place"に話題を移そう。
冒頭で紹介した多彩すぎるサウンドや、不思議なミュージックビデオは、いったいどうやって作られたものなのだろうか。


EP "Within The Time and Place"の楽曲と背景

ーニューEPの"Within The Time and Place"の話を聞かせてください。収録曲のジャンルがすごくバラエティーに富んでいますよね。

NS「ムンバイ在住のダンサーの原田優子さんからお誘いを受けて、1ヶ月弱で全て作りました。もともと作っていた曲もありましたが、このEPについては、ディレクターのAshley Loboがぐいぐい引っ張ってくれたところもあります。
1曲目はCovidWarはもともと持っていた曲だったんですが、この激しい曲に合わせて、今の状況や葛藤を表したりしよう、ということで採用になりました」

"Within The Time and Place"は、日本とインドのアーティストがオンラインで舞台作品を作り、配信するというプロジェクト"WITHIN"のために作られた音楽作品だったものだという。
この作品は、ムンバイ在住のコンテンポラリーダンサー原田優子さんが国際交流基金ニューデリー日本文化センターに働きかけて制作されたものだ。
インドでは、コロナウイルス禍の急速な拡大によるロックダウンによって、全ての表現活動やエンターテインメントの灯が消えた。
このオンライン作品は、「今こそ、原始祈りであった『踊り』を通して表現をすべき時だ」という思いのもとに作られている。


NS「インドのロックダウンは3月25日から始まって、最初は週末だけの予定だったんですがどんどん伸びていきました。5月の初めごろに、ムンバイに住んでいるダンサーの原田優子さんから電話がかかってきたのですが、ムンバイのロックダウンは本当に外に出られないみたいで大変そうでした。
優子さんはムンバイのAshley Loboのダンスカンパニー(Danceworx)でずっとダンスを教えている方なんですが、彼女がAshleyとか国際交流基金に声をかけたり、Ashleyの弟子のプロデューサー(Shohini Dutta)を連れてきてくれたりして、このプロジェクトが始まりました。
もう一人のダンサーは、愛智伸江さん。
ダンサーの場合、ダンスできる場所がないと、本当にどうしようもない状況になってしまうと思うんですけど、それでも踊り続けるしかないんじゃないか、っていうのを二人で話し合っていたそうです。もともと二人ともバレエ留学していたり、広く活躍されている方々です」

ー収録曲について教えてください。もとからあった曲が多いのでしょうか。

NS「2曲目の"Those Days"はAshleyのアイディアですね。
彼はすごくアーティスティックな人で、私たちアーティストの個人的な部分をすごく大事にするんです。『君が人生で初めて触った楽器は何?』とか、『いちばん好きだった音楽は何?』とかそういう質問をされて、最初に触ったのはピアノで、ジャズも好きだし、クラシックも好きだし…って話をしていたら、『ドローイングのシーンに合わせて、速いテンポのジャズを作ったらどうかな』みたいなことを言われて。
私はずっとエレクトロニカとか電子音楽だったので、はじめてああいうタイプの曲を作りました。ピアノで曲を作ることになるとは思わなかったです(笑)

3曲目の"Summer Reminiscing"はブレイクビーツっぽい曲。
以前作った曲を聴かせたときに、チルアウトな雰囲気で上がりもせず下がりもせず、Zen (禅)な雰囲気の曲もいいね、っていう話になったんです。それだったらブレイクビーツの曲を作ろう、と思って、最初はBonoboをイメージして、そこから作った曲です。

4曲目の"Tensei Taal (Reincarnation)"は絶対タブラを演奏するシーンをやってくれ、と言われて作った曲です。
インドの古典楽器であるタブラをずっとやってきましたが、タブラのビートとかインドの古典音楽のビートって、輪廻のリズムと言われたりするんですよね。
どんなに最悪な状況でも、命は繰り返していくっていうことを思い浮かべて作りました。
『タール』('Taal'=インド古典音楽におけるリズムの概念)って、死と生がいっしょになっているというか、始まりと終わりが同じところに来るっていうのがインド音楽のいちばんの特徴だと思うんです。そんなイメージを持ちながら、すごく短時間で作りました。
このプロジェクトでやるんだったら、ハードなイメージで、シタール使って、タブラがメインになるシンプルな感じにしようと思って、ばーっと自分でタブラを叩いて、ほぼ一発取りで作ってます。
ちょっと電子音楽っぽいシンセとか少しだけ入れていますけど、ほとんどシタールとタブラとベルだけですね

最後の"Within the Time and Place"は、フィナーレで希望を感じさせる音がいいねっていうアイデアをもらって作りました。
最初はもう少し別のイメージで作ってたんですけど、もうちょっとオーガニックな響きがいいなあ、ということでああいう感じになりました」

ーオンライン舞台作品のための音源をリリースしたきっかけは?

NS「パートナーや周りの声を受けて、という形です。
ダンスプロジェクトにテクニカルディレクターとして関わったManuも、助言やインドの音楽シーンの人たちをつなげてくれるなど動いてくれました。彼はMidival Punditzのマネージャーでもあるんです。
自分でミックス、マスターしてリリースしたら、Rolling Stone Indiaや、新聞などのメディアから反響をいただけました」

ーこれからの活動について教えてください。
これまで、DJとしてレゲエをプレイしたり、クラブミュージックを作ったりという活動と、タブラ・プレイヤーとしての活動をしてきたわけですが、今後はそれぞれの分野で別々に活動してゆくのでしょうか?
それとも、電子音楽/ダンスミュージックとインド古典を融合したりすることもあるのでしょうか?

NS「コロナウイルス禍の状況ですが、シンガーとのデュオでのギグや、アートフェスティバルへの出演が決まっています。今作ってる曲のなかには、自分でタブラを叩いてる曲もありますよ。
ダンスミュージックのなかでタブラを使ったり、シタールとかサロードとか、タンプーラのドローン音を使ったりというのは、UKの音楽ではこれまでにわりとあるんですよね。そういった曲も、今後作ってゆくと思います。
リリースの予定としては、地元ゴアのクラブをスポンサーにして、レコード盤を出します。
次のシングルはちゃんとしたミュージックビデオも作って、YouTubeやその他プラットフォームよりリリースします!
他には、ボリウッドシンガーのプロデュースや、映画の音楽などもやってます。
あと、また別の話なのですが、日本の演歌って、インド古典のラーガの音階に沿った曲がめっちゃいっぱいあるんですよ」

ーえ!演歌ですか?僕もパンジャービーとか北インド音楽の節回しって、すごく演歌っぽいなあと思っていたんです。

NS「あれは演歌なんですよ。インドの(笑)。
ラーガ、つまりインドの古典音楽のスケール(音階)を考えると、インドから中央アジア、中国、韓国、日本といろいろな地域に流入しています。
例えば日本の声明はマントラがもとになっていますし、雅楽にもインドの音楽や舞いの影響があって、その時代から日本はかなりインド文化に影響を受けているんです。演歌というのも、いってしまえばセミ・クラシカルですよね。セミ・クラシカルである演歌の響きやスケールはインドのラーガに置き換えられるというのを、ずっと私も思っていて。
そういう意味では、ずっと好きだったレゲエもジャマイカの演歌ですからね、言ってみれば(笑)。
日本の演歌をエレクトロニカとインド古典でカバーしたプロジェクトをやろうと思っています」

ーそれ、めちゃくちゃ面白そうです。
それこそ、インドの演歌みたいなバングラーは、いろいろな新しい音楽と融合していますけど、日本の演歌は誰もやっていないじゃないですか。
誰かそういうことをやらないかなあ、と思っていたので、すごく楽しみです。

NS「曲がたまったらまとめて出そうと思っていて、今は美空ひばりの曲をエレクトロニカと私のタブラとオートチューンで面白いサウンドにしてゆくというアイデアを考えてます」

まさか、かねてから提唱していた「北インド音楽=演歌説」にこんなところから共感してくれる人が現れるとは。
しかも、彼女の頭の中には、かなり具体的なサウンドのビジョンがあるようだ。
これはなんとも楽しみだ。 


ー先日boxout fm(デリーのレゲエバンドReggae Rajahsのメンバーが運営しているオンライン放送局)から配信されたミックスを聴かせてもらったんですが、テクノ、ドラムンベース、レゲエとさまざまなジャンルをプレイしていますが、それでもどこか一貫性を感じるサウンドが印象的でした。
何か音響的な部分へのこだわりがあるのでしょうか?
インドの古典音楽も音の響きをすごく大事にするジャンルですよね。

NS「うーん…。こだわりですか。
昔はダブステップとかブレイクコアみたいな、ノイジーで低音が効いたうるさい感じの音が大好きだったんですが、現在はもっとファンクショナルな音楽がやりたいなあと思うようになりました。
何というか、踊れるし、チルできる、みたいな二面性というか…レゲエもそういう音楽だと思ってるんですけど、リスニングミュージックとしても良いし、フィジカルにも聴ける音楽でもあるし、そういうものに憧れがあります。インド古典もそうだと思います。よく聴いてみるとすごく複雑なことをしていたりもするけど、理論を知らない外国人が聴いても、ノルことができるし。
そういう音の二面性みたいなものに惹かれている部分があると思います」 


音楽遍歴からコルカタでの留学生活、日本とインドでの音楽活動やバウルの話題にもおよぶ、盛り沢山のインタビューだった。
それにしても、幼少期のピアノからクラブDJを経て、タブラにたどり着いた彼女の次なる目的地が、まさか「演歌」だとは思いもしなかった。
制作中のデモ音楽を聴かせてもらったのだが、エレクトロニカ風かつインド風に再構築された演歌も、タブラやバーンスリーを使ったドラムンベース風フュージョンも、いずれもインド的な要素と電子音楽が見事に融合した、完成が非常に楽しみなサウンドだった。
DJであり、電子音楽アーティストであり、そしてタブラ奏者でもあるという稀有な個性に、期待は募るばかりだ。


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goshimasayama18 at 20:16|PermalinkComments(0)

2020年09月15日

これはもう新ジャンル 「インディアンEDM(もしくは印DM〈InDM〉)」を大紹介!


以前の記事で、無国籍なサウンドで活動していたインドのEDM系アーティストが、ここ最近かなりインドっぽい楽曲をリリースするしていることを紹介した。

これはもうEDMと従来のインディアン・ポップスを融合させた新しいジャンルが確立しているのではないか、というのが今回のテーマ。

その新しいジャンルをインディアンEDMと呼びたいのだけど、長いので印DM(InDM)と呼ばせてもらうことにする。
このジャンルの特徴を挙げると、ざっとこんな感じになる。
  • EDM系のプロデューサーが手掛けており、ダンスミュージックの要素を残しつつも、インド的な要素(とくに歌やメロディーライン)を大幅に導入している。
  • 歌詞は英語ではなく、ヒンディー語などの現地言語であることが多い。
  • ミュージックビデオにも、インド的な要素が入っている。(いわゆる典型的なEDMの場合、インド人が手掛けた曲でも、ローカルな要素はミュージックビデオから排除されていることが多かった)
ボリウッド的メインストリームが新しいダンスミュージックを貪欲に取り入れる一方で、インディーズのEDM系のアーティスト達もインド的な要素を積極的に導入していった結果、もはやジャンルの境目がどこにあるのか分からないような状況になってしまっているのだ。

かつてはゴリゴリのEDMを作っていたLost Storiesの新曲"Heer Ranjha"は、この王道ボリウッドっぷり。
目を閉じると、主人公とヒロインが離れた場所から見つめ合いながら手を伸ばして、届きそうだけど届かない、みたいな場面から始まるミュージカルシーンが浮かんできそうな曲調だ。
ブレイク部分でのEDMっぽいアレンジのセンスの良さはさすが。

もうちょっとダンスミュージック寄りの曲調なのがこの"Noor".
なぜパンダなのか謎だが、たぶん理由は「かわいいから」だろう。
クレジットには同じくインドの人気EDMプロデューサーのZaedenの名前も入っている。

そのZaedenの最近の曲は、もはやエレクトロニック・ミュージックの要素すらほとんどない普通のヒンディーポップだ。
1年前の曲がコレ。

最新の曲は、デリーのシンガーソングライターPrateek Kuhadのカバー。
彼はエレクトロニック系のプロデューサーから、オーガニックな曲調のシンガーソングライターへの転身を図ろうとしている真っ最中のかもしれない。
原曲は今年の7月にリリースされたばかりで、ここまで新しい曲のカバーというのは異例だが、Zaedenがこの曲を大いに気に入ったために制作されたものらしい。
Prateek Kuhadによるオリジナル・バージョンのミュージックビデオも大変素晴らしいので、ぜひこちらから見てみてほしい。



2013年のデビュー当初から印DMっぽい音楽性の楽曲をリリースしているのが、プネー出身のシンガーソングライター/プロデューサーのRitvizだ。
彼は幼少期から古典音楽(ヒンドゥスターニー音楽)を学んで育ち、EDMやヒップホップに加えてインド映画音楽の大御所A.R.ラフマーンのファンでもあるようで、そうした多彩な音楽的背景が見事に結晶した音楽を作っている。
彼のミュージックビデオはインドの日常を美しい映像で描いたものが多く、それがまた素晴らしい。


ラム酒のバカルディのロゴが頻繁に出て来るのは、バカルディ・ブランドによるインディー音楽のサポートプログラムの一環としてミュージックビデオが制作されているからのようだ。
インドではヒンドゥーでもイスラームでも飲酒がタブー視される時代が長く続いていたが、新しい価値観の若者たちに売り込むべく、多くのアルコール飲料メーカーがインディーズ・シーンをサポートしている。

今年に入ってからは、デリーのラップデュオSeedhe Mautとのコラボレーションにも取り組むなど、ますますジャンルの垣根を越えた活動をしているRitviz.
これからも印DMを代表する存在として目が離せない。
ハードコア・ラッパーとしてのイメージの強かったSeedhe Mautにとっても新機軸となる楽曲だ。

タージ・マハールで有名なアーグラー出身のUdyan Sagarは、1998年にインド古典音楽のリズムとダンスミュージックを融合したユニットBandish Projektの一員としてデビューしたのち、Nucleyaの名義でベースミュージック的な印DMに取り組んでいる
彼が2015年にリリースした"Bass Rani"は、インドの伝統音楽とエレクトロニック・ミュージックの融合のひとつの方向性を示した歴史に残るアルバム。
この曲ではガリーラップ界の帝王DIVINEとコラボレーションしている。(この共演は『ガリーボーイ』のヒットのはるか以前の2015年のもの)

この2人の組み合わせは2017年のボリウッド映画"Mukkabaaz"(Anurag Kashyap監督、Vineet Kumar Singh主演)で早くも起用されており、インド映画界の新しい音楽への目配りの早さにはいつもながら驚かされる。
ポピュラー音楽のフィールドでの評価や知名度という点では、このNucleyaが印DM界の中でも随一と言って良いだろう。


ベースミュージック的な印DMに、レゲエやラテンの要素も加えた音楽性で異彩を放っているのが、このブログの第1回でも紹介したSu Realだ。


この"Soldiers"ではルーツ・レゲエとEDMの融合という意欲的すぎる音楽性でインド社会にはびこる保守性を糾弾している(興味深いリリックについては上記の第1回記事のリンクをどうぞ)。


この"EAST WEST BADMAN RUDEBOY MASH UP TING"では、映像でもインド的な要素をポップかつクールに編集していて最高の仕上がり。長年、欧米のポピュラー音楽から「エキゾチックやスピリチュアルを表す記号」として扱われてきたインドだが、ここ最近インド人アーティストたちは西洋と自分たちのカルチャーとのクールな融合方法を続々と編み出しており、印DMもまさにそうしたムーブメントのなかのひとつとして位置付けることができる。

新曲"Indian Wine"のミュージックビデオでは、レゲエを基調にしたビートに、レゲエダンサーとインド古典舞踊バラタナティヤムのダンサーが共演するという唯一無二の世界観。
こうした融合をさらっと行ってしまえるところが、インドの音楽シーンの素晴らしいところだ。


このように、ますます加熱している印DMシーンだが、今回紹介した人脈同士でのコラボレーションも盛んに行われている。
この曲はSu RealとRitvizの共作による楽曲。

これはNucleyaがRitvizの"Thandi Hawa"をリミックスしたもの。

世界的にEDMの人気は落ち着きを見せてきているようだが、それに合わせるかのように勢いづいてきている印DMは、「ダンスミュージックにインドの要素がほしいけど、既存のボリウッドの曲はちょっとダサいんだよな…」というような若者たちを中心に支持を広げているのだろう。
インドのメインストリームである映画音楽と、インディーミュージックシーンを繋ぐミッシングリンクと言えるのが、この印DMなのだ。

今後、EDMブームが過去のものになってしまうとしても、このブームが生み出した印DMという落とし子は、今後ますます成長してゆくはず。ヒップホップやラテン音楽への接近など、目が離せない要素が盛り沢山の印DM。
これからも取り上げてゆきたいと思います!




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