インドのエレクトロニック・ミュージック

2022年10月14日

Hiroko Sarahの新曲紹介! 日印コラボとラージャスターニー・フュージョン!



これまでも取り上げてきたムンバイ在住のマルチリンガルシンガー/ダンサーのHiroko Sarahが、6月以降、2曲のオリジナル曲を発表している。
インドのアーティストとコラボレーションした楽曲としては、昨年4月の"Aatmavishwas ーBelieve in Yourselfー"以来のリリースとなる。

6月に発表した「Shiki No Monogatari 四季の物語」は、2019年の「Mystic Jounetsu ミスティック情熱」以来となるミュージックプロデューサーKushmirとラッパーIbexとの共作による「和」の要素を打ち出した歌ものチル・ヒップホップ。
10月14日にリリースしたばかりの"Mehbooba"はラージャスターン州の伝統芸能コミュニティであるマンガニヤールと共演したフュージョン(インドでは伝統音楽や古典音楽と現代的なサウンドの融合をこう呼ぶ)作品だ。
どちらも非常に興味深いコラボレーションとなっている。


「Shiki No Monogatari 四季の物語」


タブラやインド古典舞踊カタックダンスを大胆に取り入れた"Aatmavishwas ーBelieve in Yourselfー"とはうってかわって、日本の四季の要素がふんだんに盛り込まれている曲で、ミュージックビデオの色彩も前作のインド的極彩色ではなく、今の日本っぽいポップな雰囲気を心がけたとのこと。


"Mehbooba"


こちらは「Shiki No Monogatari 四季の物語」とはまったく異なるヒンディー語ヴォーカルのフォーク音楽風のダンスチューン。
現時点で公開されているのはリリックビデオのみだが、ミュージックビデオも年明けには公開となるようだ。
この2曲について、そしてインドでの音楽活動について、Hiroko Sarahにインタビューした様子をお届けする。




ーまずは少し前になりますが、6月30日にリリースした「Shiki No Monogatari ー四季の物語ー」について聞かせてください。
タブラやカタックダンスの要素を取り入れていた前作とは対照的に和の雰囲気を前面に出していますが、制作のきっかけや内容について教えてください。

「『Shiki No Monogatari 四季の物語』は、『ミスティック情熱』と同じメンバーの 'チーム・ミスティック情熱'(インド人ラッパー Ibex、インド人ミュージックプロデューサー Kushmir、日本人シンガー Hiroko)のセカンドシングルです。
前回同様チル・ヒップホップをベースに、日本の箏の旋律を取り入れたインストゥルメンタル、日本の四季 '春夏秋冬' をテーマにした歌詞、Hirokoの日本語の歌、そして今作でもIbexは日本語でラップしてます」


ーラッパーのIbexは、第一作の「ミスティック情熱」以来、久しぶりに日本語ラップを披露していますが、ますます上達しているようですね。

「Ibexとは"Mystic Jounetsu", "Aatmavishwas ーBelieve in Yourselfー"に続き3曲目のコラボになります。『四季の物語』でのIbexの日本語ラップの発音は前作からさらに上達して、日本のファンや友人たちも驚いていました。Ibex本人の努力の賜物ですね。
作詞にとりかかる前にまず、日本の春夏秋冬それぞれのイメージをIbexに説明しました。インドにも一応季節はありますが、日本とはまた違うイメージなので。日本の四季の美しさや趣をどう表現するかが『四季の物語』のテーマでした」

ー他の参加ミュージシャンについても教えてください。

「ミュージックプロデューサーのKushmirが作る楽曲は、エレクトロニック、ダウンテンポ、チルホップなどのジャンルに大きく影響されていて、ドリーミーでトリッピーな楽曲が彼のシグネチャースタイルです。
彼は"10th Dada Saheb Phalke Film Festival-2020"で 'ベスト・ミュージックビデオ・アワード' も受賞した、才能あふれるミュージックプロデューサーなんですよ」


これがその受賞作品。
Hirokoさんとの共演のイメージを覆す、トランスっぽいエレクトロニック・ミュージックに驚かされる。



クラブミュージックにインドの要素が取り入れられることは珍しくないが、欧米や東アジアのトランス・アーティストの場合、インド的な味付けは、スピリチュアルな雰囲気を出すための道具として使われる場合が多い。
それに比べると、この作品が持つ、インド的でありながらも日常と地続きのサイケデリアは非常に新鮮だ。
インドから新しいセンスと才能が着実に育っていることを感じさせられる。



ー今回は、日本の四季がテーマですが、ムンバイに暮らしていて季節の移り変わりを感じるのはどんなときですか?

「ムンバイはインドの中では比較的穏やかで温暖な気候ですが、やはり季節の移り変わりはあります。短い春、酷暑の夏、雨季、セカンドサマー、冬といった感じですね。
道端で売られている野菜やフルーツで、新しい季節が来たことを感じられます。マンゴーやリーチ(ライチ)、グアバ、イチゴ、赤いにんじんなどを見かけると、もうこの季節が来たかー!と思います。
モンスーンシーズン(雨季)が始まる前の空気のにおい、モンスーンシーズンが終わる頃の雷、気温が下がる冬の夜に街で皆がニット帽をかぶったりたき火で暖を取っていたりと、こういったところでも季節の移り変わりを感じます」


ーさて、今回リリースした"Mehbooba"ですが、こちらはうってかわってラージャスターン音楽とのコラボレーションですね。
こちらの制作の経緯は?
それから、今回共演している「マンガニヤール」の方たちについて教えてください。

「"Aatmavishwas ーBelieve In Yourselfー"では北インド古典音楽とのフュージョンでタブラー奏者とコラボしましたが、次はラージャスターン音楽とのフュージョンが良いなと考えていました。
2011年から、私はラージャスターニーダンスを学ぶため、ジャイサルメールの師匠 故・Queen Harish jiのもとに通っていて、ジャイサルメールやムンバイでのHarish jiのコンサートに出演させていただき、その時に現地のアーティストコミュニティであるマンガニヤールのミュージシャン達とも共演しました。
"Mehbooba"でコラボしたSalim Khan率いるJaisalmer Beatsも、ジャイサルメールを拠点に活動するマンガニヤールのミュージシャン達です。
SailmとJaisalmer Beatsメンバーは、日本でもパフォーマンスをしたことがあるんですよ。
しかし、インドもコロナでコンサートができなくなり、音楽で生計をたてている彼らにとっては厳しい時期が続き、私や日本の友人たちで彼らを支援しました。
コロナが落ち着いてきた昨年、Salimとコラボ楽曲を作ろうという話が盛り上がり、ジャイサルメールから3人のミュージシャンをムンバイに招いて、レコーディングと撮影を行いました」


Hiroko曰く、「"Mehbooba"は、Jaisalmer Beatsが奏でるラージャスターニー・フォークとエレクトロニックなサウンドが融合したフォークトロニカ」。ハルモニウム(鍵盤楽器)、ドーラク(打楽器)、ラージャスターンの伝統楽器モルチャング(口琴)、バパング(弦楽器)、カルタール(打楽器)といったインド楽器がとても印象的に使われている。
当初はもっとEDM寄りのアレンジがされていたようだが、生楽器の良さを活かすために、このアレンジに落ち着いたという。
 
Hirokoが敬称のjiをつけて呼んでいるQueen Harishは、2019年に交通事故で急逝したラージャスターニー・ダンスの名ダンサー。
男性として生まれた彼(彼女)が、女型のダンサーとして活躍するようになった経緯は、パロミタさんの翻訳によるこの生前最後のインタビューに詳しい。


これは彼女がボリウッド映画にダンサーとして出演したシーンの映像だ。

Jaisalmer Beatsの活動は、メンバーのSalimのYouTubeチャンネルで見ることができる。



ー歌詞の内容はどういったものですか?

「この曲はヒンディー語のラブソングで、タイトルの"Mehbooba"はヒンディー語で『最愛の人』という意味です。インド映画の楽曲のように、互いを想い合う男女の掛け合いの歌詞になっています。まずSalimが男性パートを作詞して、男性パートの歌詞にアンサーするような形で女性パートの歌詞を私が作詞しました。古き良きインド映画からヒントを得た歌詞も入れています。
ジャイサルメールを拠点とするイスラム教徒であるSalimは、ウルドゥー語やパンジャーブ語交じりのヒンディー語で作詞し、歌うので、私もそれに合わせてウルドゥー語の言葉を多用しています。ウルドゥー語は言葉の響きが美しく、愛の詩に相応しい言語のひとつです。
YouTubeの字幕で日本語歌詞も見られますので、チェックしてみてください。
今回はまずオーディオとリリックビデオをリリースしましたが、ジャイサルメールのシーズンが始まったら、現地に行って映像・ダンスありのミュージックビデオを撮影してきます。お楽しみに!」


ーこれまでの曲と違って、歌い回しがかなりインド風というか、独特ですが、作曲したり、歌ったりするにあたって難しかった部分はありましたか?


「そうなんです。Salimがこぶしの効いたフォークシンガーなので、曲の流れで違和感が出ないように気を付けたのと、ヒンディー語の先生と一緒に歌詞の発音を何度も練習したおかげかなと思っています。長く練習していた甲斐あって、先生には 'Hirokoの発音パーフェクト' のお墨付きをいただきました!」


ー最近ではパフォーマンスの機会も増えているそうですね。

「はい、日印国交樹立70周年の今年は、たくさんの日印文化交流イベントや日印ジョイント・ベンチャーの企業イベントに呼んでいただいて、Ibexと一緒にステージパフォーマンスをしています。今後も来年までパフォーマンスの予定がいくつか入っています。
2019年に『ミスティック情熱』をリリースした頃には、インドでは英語や日本語ラップよりヒンディー語の歌やラップの方が断然ニーズが高かったのですが、日印文化交流・日印JVの企業イベントでは日本語か英語の歌を求められることが多く、中には 'ヒンディー語やパンジャーブ語の歌は無しで' というリクエストまであるんです。
これまで世間のニーズを気にせず、自分たちの作りたいように日本語・英語ソングを作ってきて良かったなぁと思いました。
もちろん、クライアントさんからヒンディー語ソングのリクエストがあれば対応できます。
今後も、日本語・英語・ヒンディー語と、あらゆる場面でパフォーマンスできるようなバラエティーに富んだ楽曲を作っていきます」


ームンバイのローカルのラッパーたちのプロデュースも続けていますね。

「ムンバイのWadala、Chembur、Govandiのスラムエリアの子供たちの支援を日本のNGO『光の音符』さんとともに以前から支援していますが、その中でラップ好きな男の子たち(Street Sheikh、Revelほか)がラッパーとしてデビューし、楽曲・MVを制作するプロジェクトのサポートもしています。彼らと一緒に結成したストリートヒップホップクルー「Hikari Geet」(Geetはヒンディー語で歌)のYouTubeチャンネルでは、彼らのミュージックビデオを公開しています。
彼らもどんどんラップが上達してアーティストらしくなってきていて、これからますます楽しみです」




ー今後の活動の予定などを聞かせてください。

「今後も、日印文化交流イベントやカレッジフェスティバルなどでのステージパフォーマンスの予定がいくつか入っています。
また、新曲プロジェクトも複数進行中です。マンガニヤールのSalim達とのコラボ第二弾、Ibexとの日印コラボ楽曲2曲(うち1曲はヒンディー語・日本語ミックス)、Hirokoソロのヒンディー語楽曲、Hikari Geetラッパーたちとのコラボなどなど。ソーシャルメディアやYouTubeなどでも最新情報をアップしますので、これからもチェックしてくださいね!」 


Hirokoの楽曲を通して、インドの様々な文化やアーティストの様子が垣間見える。
IbexやKushmirのような現代的なアーティストからJaisalmer Beatsのような伝統音楽の演奏家まで、時代も地域もさまざまなスタイルが混ざり合っているのが、いかにも今のインドらしい。(前作の"Aatmavishwas ーBelieve in Yourselfー"では古典音楽のタブラ・プレイヤーとも共演している)
彼女自身も「日本人カタックダンサー」という越境アーティストだが、「Shiki No Monogatari 四季の物語」では、Ibexが日本語でラップすることで、逆に日本的な要素を表現しているのも面白い。
音楽には、時代も地域も言語も、さえぎるものはなにもないのだということを改めて感じさせられる。


--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり



軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

2018年の自選おすすめ記事はこちらからどうぞ! 
2019年の自選おすすめ記事はこちらから
2020年の軽刈田's Top10はこちらから
2021年の軽刈田's Top10はこちらから

ジャンル別記事一覧!
  

goshimasayama18 at 21:55|PermalinkComments(0)

2022年10月08日

サイケデリックだけじゃない! ーインド古典音楽meets電子音楽ー  さらに広がる印DMの世界



最近つくづく思っていることがある。
それは、「インド音楽って、何にでも合う」ってことなんである。

「何言ってんの、あらゆる料理にマサラを入れたほうが美味しくなるって思ってるインド人じゃあるまいし」と言われそうだが、実際、合うものは合うのだからしょうがない。
話すと長くなるので、興味のある人はリンクを辿っていただきたいが、インドの古典音楽/伝統音楽は、ロックヒップホップジャズメタルと、あらゆるジャンルと融合することが可能な魔法の音楽なのである。


ロックや電子音楽の世界では、インド音楽(含むマントラ等の宗教的な詠唱)は、古くからサイケデリックやスピリチュアルを表現する記号的な役割を担ってきた。
ビートルズのジョージ・ハリスンみたいなそれなりのリスペクト込みのやつもあれば、雰囲気だけの文化の盗用みたいなやつもあったと思う。
1990年台以降になると、古典音楽/伝統音楽はTalvin SinghやKarsh Kaleといった在外インド人アーティストによってドラムンベースなどのクラブミュージックと融合し、新たな方向性を獲得した。
'Buddha Bar'をはじめとするアンビエント系のコンピレーション盤で、インドの古典楽器が入ったエスニックなサウンドがもてはやされていたのもこの頃だ。



近年では、Ritvizらによってインド的かつEDMポップ的なスタイルが定着し、新たな潮流が生まれている。
インド系アーティストによるインド的かつオリジナルな電子音楽を、私は勝手に印DMと名づけ、地道に布教活動を続けてきた。
(ラジオでも話したことがあるが、残念なことにファン層が広がっている気配は全くない…)
 


まあとにかく、「インド音楽+電子音楽」という組み合わせは、かつてはトランスやアンビエント、最近ではインド的EDMポップという方向性が定番だったのだけど、ここに来て、オーセンティックなテクノ・サウンドと古典声楽を融合している面白いアーティストを見つけてしまった。
そんで、それがまた非常にかっこよかったので、今回改めて紹介する次第なんである。

彼の名前はBlu Attic.
まずは、北インドの古典であるヒンドゥスターニー音楽の声楽とテクノを融合したこの曲を聴いてみてほしい。

Blu Attic "Jhanak Jhanak"


ぐねぐね曲がったトランスのサウンドならともかく、直線的なテクノと古典音楽は合わないんじゃないかと思っていたが、この素晴らしい融合っぷりに脱帽!
電子音楽は全く詳しくないのだが、あまり硬質な音を使わずに、柔らかめの音でまとめているところがポイントだろうか。
男声ヴォーカルを起用したこの曲も非常にかっこいい。

Blu Attic "Mil Jaa Na"


古典声楽のうねるような旋律やたたみかけるような歌い回しが、エレクトロニック・ビートと絡み合って高揚感を増幅させているのが見事!

Blu AtticことAniket Jainは、デリー出身のアーティストで、インターネット上に楽曲を発表し始めたのは2021年からとごく最近のようだ。
苗字を見る限り、彼は厳格な菜食主義で知られるジャイナ教徒の可能性がある。
派手さを抑えて、着実なビートでグルーヴで作るそのスタイルは、インドの宗教のなかでもとりわけ禁欲的な彼の信仰から来ているのだろうか(といったようなステレオタイプなイメージを結びつけて書くのは本当はあまり好きではないのだが、彼については書ける情報がほとんどないので、つい書いてしまった)。

オリジナルの楽曲もさることながら、古いボリウッドの曲のリミックスがまたびっくりするくらい素晴らしい。

Lata Mangeshkar "Aa Jane Jaa"(Blu Attic Remix)


原曲は"Aa Jane Jaan"(最後にnが入る)というタイトルで、生涯で50,000曲もの楽曲をレコーディングしたと言われる伝説的プレイバックシンガーLata Mangeshkarが1969年のヒンディー語映画"Intaqam"で歌った曲。

Asha Bhosle "Jab Andhera Hota Hai"


こちらの原曲は1973年のボリウッド映画"Raja Rani"からの楽曲で、歌っているAsha BhosleはさきほどのLata Mangeshkarの妹。

Blu AtticはまだサブスクやYouTubeでの再生回数も少ない知る人ぞ知るアーティストだが、この個性はもっと評価されてほしいところ。
それにしても、50〜60年前のヒット曲をなんのためらいもなくテクノにアレンジしてしまうという発想と、それをかっこよく仕上げるセンスには恐れ入る。

調べてみると、彼の他にもインド音楽と電子音楽の面白い融合しているアーティストはいて、
例えばこのTech Panda & Kenzaniという二人組。
彼らもニューデリー出身のアーティストで、Tech Pandaのほうは幼少期はタブラを習っていたと言うから、古典音楽/伝統音楽と電子音楽の両方が染み付いているのだろう。
このChidiyaはバーンスリー(横笛)と声楽をテクノ/EDM的なサウンドと融合させている。

Tech Panda & Kenzani "Chidiya"


バーンスリーの幻想的な音色がエレクトロニックなビートに独特の浮遊感を加えているのが素晴らしい。
アンダーグラウンドな存在ではあるが、かなりの人気があるようで、この"Khoyo"はYouTubeで100万回以上再生されている。

Tech Panda & Kenzani "Khoyo"



タール砂漠が広がるラージャスターンの映像が美しいが、ラージャスターンといえばこんなコラボレーションもある。
インドでは珍しいハウスDJのHamza Rahimtulaも伝統音楽と電子音楽の融合に取り組んでいて、このDJセットではラージャスターンの伝統楽器と共演している。

Hamza Rahimtula + Rajasthan Folkstars



ラージャスターン音楽とエレクトロニック・ビートの融合という意味では、近日中にまた面白い楽曲を紹介予定なので、ぜひ聴き比べてみてほしい。


ここまで紹介してきた音楽は、電子音楽のアーティストが古典音楽を融合した例だが、例えばこんなふうに古典声楽の歌手がドラムンベースっぽいビートを導入していたりもするので、やっぱりインドは一筋縄ではいかない。

Vagyakaar "Naadan Jiyara"




彼らが等しく追求しているのは、電気的に作られた音であろうと、人間の喉や楽器が発する音であろうと、いかに心を高揚させ、別世界に誘ってくれるかということだろう。
音楽をついジャンルに分けて考えてしまいがちな日本の我々にとっては、彼らのオープンマインドすぎる姿勢はすごく刺激になるなあ、と自戒の念を込めながら思っている。

インド系クラブミュージックはかっこいいやつがたくさんあるのでぜひまた紹介したい。


--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり



軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

2018年の自選おすすめ記事はこちらからどうぞ! 
2019年の自選おすすめ記事はこちらから
2020年の軽刈田's Top10はこちらから
2021年の軽刈田's Top10はこちらから

ジャンル別記事一覧!
 

goshimasayama18 at 18:39|PermalinkComments(0)

2022年04月03日

インドで洋楽的音楽をどうやって表現するかという問題



今更あらためて言うのもナンだが、インドという国は、日本同様に世界のポップカルチャーの本場であるアメリカやイギリスとは全く異なる文化的背景を持っている。
そんな彼らが欧米で生まれたロックやヒップホップを演奏しようとするとき、「インド人であること」とどうやって向き合っているのだろうか、というのが今回のテーマ。

日本でも、全く異なる文化的風土に欧米由来のポップミュージックを定着させるために、さまざまな手法が編み出されてきた。
例えば、日本語を英語っぽく発音して歌ったり(矢沢、桑田等)、逆に日本語らしい響きをあえてロックに乗せてみたり(はっぴいえんど等)、普通にロックっぽい服や髪型にしても似合わないので、とことん化粧を濃くして髪の毛を極限まで逆だてることで違和感を逆手に取ってみたり(初期ビジュアル系)。
日本と比べてインディペンデント音楽の歴史の浅いインドでは、インド的な文化と欧米由来の表現をどう両立させるか、いろんなアーティストがいろんなスタイルを確立している真っ最中。
というわけで、今回は、完全な独断で、彼らの取り組み方を3つに分類して紹介してみます。


分類その1:「オシャレ洋楽追求型」

ひとつめのタイプは、インドらしさと欧米の音楽を無理に折衷しようとしないで、もうとことん洋楽的なセンスを追求してしまおう、というスタイル。
ふだんチャパティーにダール(食事として一般的な豆カレー)をつけて食べている現実をとりあえずなかったことにして、パンにジャムを塗って食べてる欧米とおんなじスタイルでやってみました、という方法論だ。
彼らはたいてい英語で歌っていて、音を聴いただけではインド人だとはまったく分からないようなサウンドを作っている。
インドは英語が準公用語のれっきとした英語圏。
英語で教育を受けている若者たちも多く、やろうと思えばこれができてしまうのがインドの底力でもある。

例えば、毎回超オシャレなミュージックビデオを作るコルカタのParekh & Singh.

Parekh & Singh "I Love You Baby, I Love You Doll"


彼らの顔立ちと最後の農村風景でインドのアーティストであることが分かるが、逆にいうとそれ以外はインドらしい要素はまったくないサウンドと世界観だ。

ムンバイの女性R&BシンガーKayanも、毎回オシャレ洋楽風のサウンドとミュージックビデオを作っている。

Kayan "Cool Kids"



あたり前といえばあたり前だが、この手のサウンドを志向するアーティストはほとんどが都会出身だ。
おそらくだが、彼らはべつに無理してオシャレぶっているわけではなくて(それもあるかもしれないが)、海外での生活経験があったり、ふだんから欧米的なライフスタイルで生活していたりするために、ごく自然とこうした世界観の作品を作っているのだろう。

クラブミュージック界隈にもこの傾向は強くて、例えば俳優のJim Sarbhを起用したこのApe Echoesあたりは音も映像もかなりセンスよく仕上がっている。

Ape Echoes "Hold Tight"



オシャレとは真逆になるが、ヘヴィメタルもこの傾向が強い。
要はそれだけ様式が確立しているからだと思うのだが、彼らがバイクを疾走させるハイウェイには、間違ってもオートリクシャーとか積荷満載の南アジア的デコトラは走っていない。

Against Evil "Mean Machine"



…と、インド人であることを「なかったこと」にして表現を追求するオシャレ洋楽型のアーティストだが、面白いのは、彼らのなかに、サウンドでは洋楽的な音を追求しながらも、ミュージックビデオではインド的な要素を強く打ち出しているアーティストがいるということだ。

例えば、インドのオシャレ洋楽型アーティストの最右翼に位置づけられるデリーのヴィンテージポップバンド、Peter Cat Recording Co.

Peter Cat Recording Co. "Floated By"


バカラック的なヴィンテージポップを退廃的な雰囲気で演奏する彼らのミュージックビデオは、なぜかインドの伝統的な結婚式だ。
ひょっとしたらインドの伝統とオールディーズ的なポップサウンドは、彼らの中で「ノスタルジー」というキーワードで繋がっているのかもしれない。

ケーララ州出身のフォークポップバンドWhen Chai Met Toastの"Yellow Pepar Daisy"は、「未来から現代を振り返る」という飛び道具的な手法で、懐かしさと現代を結びつけている。

When Chai Met Toast "Yellow Paper Daisy"


無国籍的なアニメを導入したEasy Wanderlingsの"Beneath the Fireworks"でも、サリー姿の女性などインド的な要素が見て取れる。

Easy Wanderlings "Beneath the Fireworks"


この、「音は洋楽、映像はインド」というスタイルは、洋楽的なサウンドとインド人としてのルーツが彼らの中に違和感なく共存しているからこそ実践されているのだろう。



分類その2:「フュージョン型」

次に紹介するスタイルは「フュージョン型」。
洋楽的なサウンドとインドの文化的アイデンティティの融合を図ろうとしているアーティストたちだ。
フュージョンという言葉は、インドの音楽シーンでは伝統音楽と西洋音楽を融合させたスタイルを表す言葉として古くから使われてきた。
現代インドでその代表格を挙げるとするならば、例えば、このブログで常々「印DM」として紹介しているRitvizだ。

Ritviz "Liggi"


EDMにインドっぽい旋律をごく自然に融合させ、ミュージックビデオでも伝統と欧米文化が共存しているインドの今をクールに描くRitvizは、まさに現代のフュージョン・アーティストだ。

ヒップホップでフュージョンスタイルを代表するアーティストといえば、ムンバイのSwadesiをおいて他にない。
彼らは政治的・社会的テーマを常に題材にしながらも、インドの大地に根ざした表現を常に意識しており、さまざまな古典音楽や伝統音楽のリズムとヒップホップの融合を試みてきた。
彼らのSwadesiというアーティスト名は、そもそもインド独立運動の一環として巻き起こった国産品愛用を呼びかける「スワデーシー運動」から取られており、その名前からもインドの社会に根ざしつつ、文化と伝統を大事にするというアティテュードが伝わってくる。
この曲では、古典音楽のパーカッショニストViveick Rajagopalanと共演している。

Viveick Rajagopalan feat. Swadesi "Ta Dhom"


彼らは他にも、イギリス在住のインド系ドラマーSarathy Korwarと共演したり、少数民族ワールリー族のリズムやアートを取り入れて彼らの権利を訴えたり("Warli Revolt")と、常に伝統とヒップホップとの接点でありつづけてきた。
大変悲しいことに、Swadesiのメンバーの一人、MC Tod Fodが24歳の若さで亡くなったというニュースが先日飛び込んできた。(この曲では2:44あたりからラップを披露しているのがTodFodだ)
この曲のリリースは2017年なので、当時、彼はまだ19歳だったということになる。
ヒップホップ黎明期のインドで、あまりにも明確にスタイルを確立していたため、てっきりもっと年上のアーティストなのだと思っていた。
インドは今後のインディペンデント・ミュージック・シーンを担う大きな才能を失った。
改めて彼の冥福を祈りたい。


エレクトロニカの分野でユニークなフュージョン・サウンドを作り出しているアーティストがLifafa.
彼は「オシャレ洋楽型アーティスト」として紹介したPeter Cat Recording Co.のヴォーカリストでもあり、ふたつのスタイルを股に掛ける非常に面白い存在である。

Lifafa "Wahin Ka Wahin"


イントロや間奏で使われているのは、パンジャーブ地方の民謡"Bhabo Kehndi Eh"のメロディー。
極めて現代的な空気感と伝統を巧みに融合させるセンスはインドならでは。
インドでも世界でも、もっと評価されてほしいアーティストの一人だ。

ロックとインド音楽のフュージョンは、ビートルズの時代から取り組まれてきた古くて新しいテーマだ。
インド人の手にかかると、インドの楽器を導入するだけでなく、ヴォーカル的あるいはリズム的なアプローチが取られることが多くなる。

Pakshee "Raah Piya"


Agam "Mist of Capricorn"


古典音楽への深い理解があって初めて再現できるこのサウンドは、単なるエキゾチシズムでインドの要素を取り入れている欧米のロックミュージシャンには絶対に出せない、本場ならではのスタイルだ。

そして第3の分類は、このフュージョン型の派生系とも言えるスタイル。


分類その3:「ステレオタイプ利用型」

他のあらゆる国でもそうであるように、インドでも、リアルなローカル文化と外国人が求める「インドらしさ」には若干の相違がある。
例えば、よく旅行者が土産物屋で買って着ているような、タイダイ染めにシヴァ神やガネーシャ神が描かれたTシャツを着ているインド人はまずいない。
漢字で「一番」と書かれたTシャツを着ている日本人がいないのと同じことだ。
ところが、タイダイに神様がプリントされたTシャツを作って売っているインド人がいるのと同じように、いかにもステレオタイプなイメージをうまく利用して、海外からの注目を集めているアーティストたちが、少ないながらも存在している。

この方法論に気がついたのは、前回紹介したBloodywoodのミュージックビデオを見ていたときだった。

Bloodywood "Dana Dan"


Bloodywood "Machi Bhasad"


サウンド的にはバングラー的なアゲまくるリズムを違和感なくメタルに融合している彼らだが、よく見るとミュージックビデオはなかなかあざとく作られている。
"Dana Dan"のいかにもナンチャッテインド風の格好をした女性ダンサーとか、"Machi Bhasad"のロケ地はラージャスターンなのに突然パンジャーブのバングラー・ダンサーが出現するところとか、「キャッチーなインドっぽさを出すためには多少の不自然は気にしない」というスタンスがあるように感じられるのだ。
念のため言っておくと、別に彼らのこのしたたかな方法論を批判するつもりはない。
YouTubeのコメント欄を見ると、Bloodywoodのミュージックビデオは外国人による賞賛がほとんど。
他のインドのアーティストのYouYubeのコメント欄が、どんなに洋楽的なスタイルで表現しても、インド人のコメントで溢れているのとは対照的だ。
ステレオタイプは偏見や差別の温床にもなりうるやっかいなものだが、ショービジネスにおいては、分かりやすく個性を打ち出し、注目を集めるための武器にもなり得る。

この方法論を非常に有効に使ったのが、フィメール・ラッパーSofia Ashrafだ。

Sofia Ashraf "Kodaikanal Won't"


彼女はグローバル企業の工場がタミルナードゥ州で引き起こした土壌汚染に対する抗議を世界に知らしめるために、サリー姿でNicki Minajのヒット曲"Anaconda"をカバーするという手法を選んだ(しかもラップとはいい意味でミスマッチな古典舞踊つき)。
ショートカットでタトゥーの入った見た目から判断すると、おそらくSofia Ashrafはサリーよりも洋装でいることが多い現代的(西洋的という意味で)な女性だと思うが、この判断は見事に的中し、このミュージックビデオはNicki Minaj本人がリツイートするなど、大きな注目を集め、抗議活動に大きく寄与した。
おそらく、洋楽っぽいオリジナル曲や、典型的なインド音楽で訴えても、南アジアのローカルな問題が世界の注目を集めることは難しかっただろう。
当時、彼女のラップのスキルはそこまで高くはなかったが、このステレオタイプの利用というアイデアが、成功をもたらしたのだ。


ダンスミュージックの分野では、欧米目線で形成されたインドのサイケデリックなイメージを自ら活用する例も見られる。
ムンバイの電子音楽家OAFFのこのミュージックビデオは、伝統的な絵画を使って全く新しい世界を再構築している。

OAFF x Landslands  "Grip"


映像作家はフランス出身のThomas Rebour.
インド的な映像をあえて外国のアーティストに制作させて、新しい感覚を生み出しているのが面白い。


例を挙げればまだいくらでも紹介できそうなのだけど、きりがないので今回はこのくらいにしておく。
何が言いたいのかというと、グローバリゼーションが進んだ結果、世界が画一化してつまらなくなるのかというと、必ずしもそういうわけではなくて、結局やっぱりそれぞれの地域から、ユニークで面白いものが生まれてくるんだなあ、ということ。
いつも書いているようにインドの音楽シーンは爆発的な発展の真っ最中で、これからもますます面白い作品が期待できそうだ。
もちろん、どのスタイルのアーティストでも、積極的に紹介していくつもりです。



--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり



軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

2018年の自選おすすめ記事はこちらからどうぞ! 
2019年の自選おすすめ記事はこちらから
2020年の軽刈田's Top10はこちらから
2021年の軽刈田's Top10はこちらから

ジャンル別記事一覧!
 

goshimasayama18 at 23:06|PermalinkComments(0)

2022年03月10日

SXSW2022に出演するインドのアーティストを紹介!


米テキサス州オースティンで、3月11日から10日間にわたって開催されるサウス・バイ・サウスウエスト。
'SXSW'の略称でも有名なこのイベントは、音楽・映画・ネットメディア・ゲームといったカルチャーの巨大見本市で、今後のトレンドを占う重要な場となっている。

SXSWでは、これまでにNorah Jones, The White Stripes, Franz Ferdinandといったアーティストが発掘されており、またTwitterやSpotifyといったオンラインサービスが最初に注目を集めたイベントとしても知られている。
(ちなみに日本のアーティストでは、X JAPAN, Perfume, CHAI, 東京スカパラダイスオーケストラらが過去に出演している)
このネクストカルチャーの一大ショーケースに、今年インドから出演するアーティストたちがいる。

そのうちのひと組が、このブログでも何度も紹介しているプネー出身のドリームポップバンド、Easy Wanderlingsだ。



彼らは昨年リリースした新曲"Enemy"でも、エヴァーグリーンなポップセンスを存分に見せつけてくれた。


SanyことSanyanth Narothのメロディーメイカーとしての才能はもっと評価されるべきだと以前から思っていたので、こうしたブレイクの機会は非常にうれしい。


ニューデリーからは、エレクトロニック系シンガーソングライターのKavya TrehanとKomorebi, アコースティックなスタイルで活動するシンガーソングライターのHanita Bhambriが出演する。








3人とも、インドのインディペンデント・シーンでは以前から評価の高かったアーティストだ。


他には、ムンバイのシンガー・ソングライターKayanと、チェンナイのロックバンドF16sのシンガーJBABE(Josh Fernandez)が出演する。








いずれも都会的なサウンドを特徴とするアーティストが選ばれていて、「哲学やヨーガやカースト制度で知られる悠久の国インド」ではなく、「優秀なエンジニアやグローバル企業のトップを数多く輩出している国際的で発展著しいインド」を感じさせるラインナップではある。

ヒンディー語で歌っているKomorebi以外は、音だけ聴いている限りでは誰もインドのアーティストだとは気づかないだろう。
(実際は、Hanita Bhambriもヒンディー語で歌うことがあるし、Komorebiは英語で歌うこともある)

こうしたインドのグローバルな面(というか欧米カルチャー的な部分)が注目されること自体は、ステレオタイプを壊すという意味でいいことだと思うのだけれども、率直に言って、SXSWみたいなイベントには、もっと「インドっぽさ」を前面に出したアーティストが参加したほうが絶対に面白いんじゃないだろうか。

SXSWでは、期間中に音楽部門だけでも2000近いパフォーマンスが行なわれる。
今回インドから参加するアーティストたちがいずれも質の高い音楽を作っていることは言うまでもないが、世界中の気鋭が集まるなかで「センスは良いが強烈な個性に欠ける洋楽的サウンド」が注目を集めるのは並大抵のことではない。
まして、世界のポピュラーミュージックシーンの辺境の地である南アジアからの参加となればなおさらだ。

それだったら、むしろRitvizとかPrabh DeepとかLifafaみたいな、もっと強烈にインドっぽくて、それでいて今の世界的な音楽シーンとも共振しているアーティストを紹介した方が、結果的にインドのインディペンデント音楽シーンのポテンシャルを印象づけることができるんじゃないかと思う。



Ritvizをはじめとする"印DM"勢ももっと世界で聴かれてほしい。




インドのヒップホップシーンは多士済々だが、言葉が通じないSXSWで最大限にアピールすることを考えると、サウンドのユニークさと声の良さからPrabh Deepかな、と思う。




Lifafaの所属するPeter Cat Recording Co.もセンスの良いバンドだが、インドらしさと唯一無二のサウンドセンスという点ではソロ作だろう。



SXSWの出演ミュージシャンは、自薦によってエントリーして、審査を経て選ばれることになっている。
ふと思ったのだが、もしかしたら、ここで挙げたような、インドっぽくてなおかつ質の高い音楽をやってるミュージシャンは、はじめからSXSWのような海外マーケット向けのプロモーションには興味がないのかもしれない。
なぜかというと、彼らは海外よりもインド国内をマーケットとして想定しているフシがあるからだ。

インドでは、インディーミュージックであっても、英語よりもヒンディー語などのローカル言語で歌われている曲のほうが人気を集めやすい。
こうした傾向は、YouTubeの再生回数からも見て取れて、たとえば英語とローカル言語の両方で楽曲をリリースしているアーティストだと、ほとんどの場合、ローカル言語の曲の方が再生回数が多くなっている。
国内のアーティストが好きなリスナーは、英語よりも母語の曲を好んでいるというわけだ。

一方で、英語で歌われる曲は、インド国内ではそこまで求められていないという現実がある。
もちろんインドにも洋楽志向のリスナーはいるが、彼らは欧米のアーティストばかりチェックしていて国内のシーンにはあまり注目していないし、洋楽と比べてドメスティックな音楽を低く見る傾向があるようだ。
こうした状況は、日本とも少し似たところがあるかもしれない。

このように、インドの洋楽志向のアーティストを取り巻く環境はなかなかに厳しいものがあるのだが、だからこそ、このブログで、彼らが日本で注目されるきっかけを作れたらいいなと密かに思っている。

いずれにしても、世界中のポップミュージックのリスナーが無意識に持っている「英語ポップスは欧米のもの」というバリアーをいかに壊すことができるかが、インドの(洋楽的)インディーミュージシャンが世界に飛躍するための大きな課題なのだ。


なんだか話がとっちらかってきたけれど、そんなことを考えながらいつもインドのアーティストを紹介している次第です。
オースティンで少しでもインドのアーティストたちが爪痕を残してくれることを期待しています。


--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり



軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

2018年の自選おすすめ記事はこちらからどうぞ! 
2019年の自選おすすめ記事はこちらから
2020年の軽刈田's Top10はこちらから
2021年の軽刈田's Top10はこちらから

ジャンル別記事一覧!
 



goshimasayama18 at 19:35|PermalinkComments(0)

2022年01月20日

Rolling Stone Indiaが選んだ2021年ベストミュージックビデオ10選!

毎年恒例のRolling Stone Indiaが選んだ年間ベスト10シリーズ。
ベストシングル、ベストアルバムに続いて、今回は、ベストミュージックビデオを紹介します!



シングル部門では小洒落たサウンドを追求し、アルバム部門ではトレンドに関係なく優れたサウンド(70's風ギターインストからデスメタルまで)を評価していたこのランキング、ミュージックビデオ部門となるとまた別の傾向が見えてくるから面白い。
ますます隆盛するインドのインディペンデント音楽シーンの勢いが感じられる映像作品が揃っている。
それではさっそく!



1. Aditi Ramesh "Shakti"


1位に選ばれたのは、ムンバイのR&Bシンガー、Aditi Rameshが年の瀬12月にリリースした"Shakti"(「力」という意味).
彼女はインドの女性が社会で直面する困難をテーマとした曲をこれまでも数多くリリースしていて、この"Shakti"でもそうした姿勢は一貫している。
歌詞の中には「3月8日(国際女性デー)にだけ女性に注目する企業にはウンザリ」とか「自分らしく生きたいだけなのに、何をしても細かく詮索される」なんてフレーズもあり、インドのみならず共感できる女性も多いんじゃないだろうか。
Aditiはミュージックビデオの中で、女子高生からサリー姿、OL風、カジュアルまであらゆる女性を演じながら、女性が思うままに好きなように生きることを歌う。
こうした内容は、以前紹介した" Marriageable Age"とも共通したものだが、サウンド的にはインド的な要素がさらに取り入れられ、よりオリジナルなものになっている。


古典音楽を思わせるメロディーラインに対して歌詞が英語なのは、子供時代にニューヨークで南インド古典音楽のカルナーティックを学んでいたというAditiならではのセンスだろう。
映像を手掛けたのは、俳優や映画音楽なども手がけるRonit Sarkar.
映画的な感覚を活かした作風に、映画界とインディペンデント音楽シーンのさらなる接近を感じる。



2. JBabe "Punch Me in the Third Eye"


JBabeはチェンナイのスタイリッシュなロックバンドF16sのギターヴォーカルJosh Fernandezによるソロプロジェクト。
F16sと比べてかなり激しいパンクロック的なスタイルのサウンドだ。
このミュージックビデオは、両親に堅苦しいお見合いを設定された若い男女の、親に隠している本当の姿がテーマとなっている。
親子や世代による価値観の相違はインドの映画や小説でも頻繁に扱われている題材で、ロックやR&Bを好む若者たちにとっても切実な問題なのだろう。
監督は、最近ブッとんだミュージックビデオを相次いで手掛けているLendrick Kumar.
この記事(↓)で紹介しているF16sのミュージックビデオも必見だ。
 





3. Takar Nabam "Good Night (In Memory of Laika)"


3位にランクインしたのは、インド北東部の最果て、アルナーチャル・プラデーシュ州出身のシンガーソングライターTakar Nabam.
この楽曲とミュージックビデオは、1957年にソビエトで有人宇宙飛行に向けた実験のためにロケットに乗せられた、歴史上初めて宇宙に達した生き物である「宇宙犬ライカ」に捧げられたものだ。
そのロケットは地球に帰るための設計はされておらず、ライカは宇宙空間に達した数時間後に船内の温度上昇により死亡したと言われている。
ライカについては、吉田真百合さんという漫画家の『ライカの星』という作品を読んでものすごく感動したところだったので、このミュージックビデオにも大いに心揺さぶられた。
最後に出てくる'Please forgive us'というメッセージに、動物を大事にする文化の強いインドらしさを強く感じさせられる。

インドのインディペンデント音楽シーンでは、以前からアニメーションによるミュージックビデオがけっこう作られていたが、コロナウイルスによるロックダウン以降、密になる撮影が難しくなったことから、さらにアニメ作品が目立つようになった。
アニメ大国日本の感覚で見ると、まだまだチープさもあるかもしれないが、それでもセンスの良い作品もかなり多くなってきている。



4. Kamakshi Khanna ft. OAFF "Duur"


Kamakshi Khannaはデリー出身のシンガーソングライター。
この曲はムンバイの電子音楽アーティストOAFFとのコラボレーションとなっている。
これまで面白いミュージックビデオを数多く発表しているOAFFにしては少し地味に感じられる作品だが、インドのインディペンデント音楽シーンでは、このクールさこそが評価されるのだろう。
(OAFFの面白い映像作品は"Perpetuate", "Grip"など)
チル系の「印DM」(インドの電子音楽)というか、歌モノのトリップホップ的なサウンドも今のインドっぽい。



5. Jayesh Malan "Full / Circle"


12分もあるこの作品は、ミュージックビデオというよりも、環境音楽/環境映像のショートフィルムと呼ぶ方がふさわしいかもしれない。
Jayesh Malaniはマディヤ・プラデーシュ州ボーパール生まれのマルチインストゥルメンタルプレイヤーにして映像作家。
ビートのないギターと自然の音を含んだサウンド、そして美しい映像は、1日の終わりにアロマでも焚きながら見たら疲れが取れそう。
それにしても、YouTubeでたった1100再生ほどでしかない作品をきちんと探してきてランキングに入れるRolling Stone Indiaの慧眼はなかなかのものだ。



6. Dhruv Vishvanath "Fly"


Dhruv Visvanathはデリー出身のギタリスト。
ふだんはアコースティックギターをフィンガースタイルで弾くことが多いが、この曲では超ファジーなエレクトリックギターを披露している。
「キッチンでたった一人で反乱を起こすタマゴ」のコマ撮りアニメがかわいらしい。
ちなみにサムネイル画像の右下に見える日の丸のようなマークは、インドで食品につけることが義務付けられている「ノンベジタリアン製品」を意味するもので、ベジタリアン製品の場合は緑色になる。
なかなか芸が細かい。
インドではコマ撮りアニメのミュージックビデオにも凝った作品が多くて、例えば人気ロックバンドThe Local Trainの"Gustaakh"なんかはなかなかのものだ。



7. Komorebi "Chanda"


宮崎駿などの日本文化からの影響を公言しているデリーの電子音楽アーティスト、その名もKomorebiの"Chanda"もアニメーションのミュージックビデオ。
「月」を意味する'Chanda'というタイトルは、KomorebiことTarana Marwahの亡き祖父Karamchandから取られているとのこと。
すでにこの世にはいない人を思うエッチングのようなタッチの映像が幻想的だ。
曲もため息が出るほど美しい。



8. Sanjeeta Bhattacharya, Aman Sagar  "Khoya Sa"


アメリカの名門音楽大学バークリーを卒業したSanjeeta Bhattacharyaは、R&Bの影響を感じさせる洗練された音楽でこのランキングの常連となっているアーティスト。
一昨年もマダガスカルの女性ラッパーNiu Razaと共演した"Red"が、Rolling Stone India選出のベストミュージックビデオ第1位に選ばれている。
彼女は楽曲ごとに、オーガニックソウル、ラテン音楽、ラップとスタイルを変えてきたが、この"Khoya Sa"は、新機軸のヒンディー語のR&B。
ミュージックビデオのではなんと同性愛者を自ら演じている。
インドでも映画や音楽で性的マイノリティが扱われることが増えてきているとはいえ、まだまだ保守的な要素が強いインドでは、かなり挑発的な作品と考えて良いだろう。
インドのインディペンデントシーンでは、一般的なインド社会と比べてかなり「攻めた」作品も散見されるが、こうした点もまた魅力のひとつである。





9. Kayan "Be Alright"


KayanはロックバンドKimochi Youkaiやエレクトロニック・デュオNothing Anonymousでも活躍する(どちらもかなりセンスいい!)ムンバイの女性シンガーAmbika Nayakのソロ名義。
このミュージックビデオは、インドでも最近目立つようになった80年代〜90年代風の映像が特徴的だが、アナログなノイズやレトロフューチャーっぽい分かりやすいクリシェをあえて使わずに、画面の色味や歌詞のフォントやファッションで往時を現したところにセンスを感じる。



10. Ankur Sabharwar "Better Man"


Ankur Sabharwarはデリーのロックアーティスト。
こちらは50年代〜60年代の洋画の怪奇映画を思わせるモノクロの映像で、サウンドも洋楽ポップス風。
サビで転調するところがいい。
楽曲も映像も、インド人のレトロ欧米趣味の好例といえそうな作品だ。



というわけで、Rolling Stone Indiaが選んだミュージックビデオ10作品を紹介してみました。
ご存知の通り、インドには映画のシーンをそのまま使った映画音楽のミュージックビデオもたくさんあるし、映画音楽ではなくてもより商業的な音楽の豪華絢爛なミュージックビデオだって結構作られている(例えばメインストリーム・ラッパーのYo Yo Honey Singhなど)。
そうした映像作品と比べると、かなり低予算な感じも否めないけれど、それでもインディペンデントなアーティストたちがこうした面白い音楽や映像を作っているということはきちんと押さえておきたい。

今年の傾向としては、1位のAditi Rameshや2位のJBabeのように、インドの現代社会で若者が感じている問題を映像化した作品や、アニメ作品(コマ撮り含む)が多かったのが特徴と言えるだろう。
モノクローム映像を使った映像や、レトロな風合いを感じさせる映像も目立っている。

とはいえ、やはりRolling Stone Indiaらしく、「欧米的洗練」が重視されたセレクトとなっていて、それが悪いわけではないのだが、いつかまた違う視点で選んだ軽刈田によるお気に入りミュージックビデオ特集の記事も書いてみたいと思った。


過去にRolling Stone Indiaが選んだ各年のミュージックビデオも面白いので、よかったらこちらからどうぞ。

2020年はShashwat BulusuとDIVINEとRaghav Meattleが良かった。


2019年は正直あんまり記憶にないが、しいて言えば寿司が出てくるF16sのミュージックビデオが印象に残っている。


2018年の白眉はRitviz.
思えばこの年あたりから、レトロ的表現が目につくようになった。





--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり



軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

2018年の自選おすすめ記事はこちらからどうぞ! 
2019年の自選おすすめ記事はこちらから
2020年の軽刈田's Top10はこちらから
2021年の軽刈田's Top10はこちらから

ジャンル別記事一覧!

 

goshimasayama18 at 00:08|PermalinkComments(0)

2021年11月30日

MTV EMA 2021を振り返る Best India ActはDIVINEが受賞!

少し前の話題になるが、今年もMTV Europe Music Award(以下、MTV EMA)が11月15日に開催された(今年の会場はハンガリーのブダペスト)。

主要部門では、最優秀ポップ賞・最優秀グループ賞をBTSが、最優秀アーティスト賞・最優秀楽曲賞をEd Sheeranが、最優秀ビデオ賞をLil Nas Xが受賞したのだが、そのあたりの話は私よりも詳しい人がいくらでもいるだろうからそちらにまかせる。

MTV EMAでは、こうした主要部門以外にも様々なローカルアクトが選出される。
ヨーロッパ各国のアーティストはもちろん、Best Japanese ActとかBest Australian Actみたいに国ごとに選ばれるものもあれば、Best African ActとかBest Caribbean Actみたいに地域単位で選出されるものもある。
このブログが注目するのはもちろんBest India Actということになる。
 (ところでBest Indian ActではなくIndia Actなのは何故だろう)

ちなみに南アジアに関しては、選出されるのはBest India Actのみで、パキスタンやバングラデシュやスリランカのアーティストは対象外のようだ。
イギリスあたりにはパキスタンやバングラデシュ系の人も多いし、国別に選ぶのが難しければ、せめてBest South Asian Actとしても良いのではないかと思うのだが、どうだろうね。

とにもかくにも、今年のMTV EMA Best India Actにノミネートされたのはこの5組だった。


DIVINE


ソロとしては昨年に続いて2度目、2018年にRaja Kumariとのデュエットで選出されたのを含めれば、3回目のノミネートとなる。
DIVINEはこのブログでも何度も紹介しているムンバイのストリートラッパーで、映画『ガリーボーイ』(作中のキャラクターMC Sherのモデルとなった)以降、一躍人気アーティストの座に躍り出た。
2021年の彼は、Netflix制作の映画"The White Tiger"の主題歌となった"Jungle Mantra"や、メタリカのトリビュートアルバム"Blacklist"に収録された"The Unforgiven"などのごく限られたリリースしかなかったので、おそらくこのノミネートは昨年12月に発表されたアルバム"Punya Paap"を評してのものだろう。
このアルバムで、DIVINEはこれまでのストリートラッパーから脱却し、この"3:59AM"や表題曲"Punya Paap"などの内面的なテーマの楽曲や、ボリウッド的パーティーラップの"Mirchi"などの新しい作風に挑戦した。

DIVINEのこれまでについては、こちらから。





Kaam Bhaari x Spitfire x Rākhis

同じくムンバイのラッパーのKaam Bhaariも昨年に続いて2度目のノミネート。
今回はインド中部マディヤ・プラデーシュ州の小都市チャタルプル出身のラッパーのSpitfireと、ビートメーカーRākhisとの共演での選出となった。
この曲は『ガリーボーイ』の主演俳優Ranveer Singhが設立したヒップホップレーベルIncInkからのリリース。
同作にはKaam Bhaariもラッパー役でカメオ出演しており、Spitfireもサウンドトラックに参加している。
Rākhisは先日紹介したビートルズのトリビュートアルバム"Songs Inspired by The Film the Beatles and India"にも参加していたKiss NukaことAnushka Manchandaの兄弟でもある。



Raja Kumari

Raja Kumariはインド系(テルグ系)アメリカ人で、アメリカの音楽シーンでソングライターとして活躍(関わった作品がグラミー賞にノミネートされたこともある)したのち、近年ではラッパー/ソングライターとして拠点をインドに移して活動している。
まだまだ保守的な気風が残るインド育ちの女性にはなかなか出せない、タフな雰囲気が印象的なフィメールラッパーである。
この曲では、彼女のシグネチャースタイルでもあるインド古典音楽のリズムにルーツを持つラップを披露している。
彼女も『ガリーボーイ』に審査員役でカメオ出演しており、偶然かもしれないが今年のヒップホップ系のノミニーは全員『ガリーボーイ』関係者ということになる。
公開後そろそろ3年が経とうとしているが、あの映画がインドの音楽シーンに与えたインパクトの大きさを、改めて感じさせられる。
ちなみにDIVINEとRaka Kumariは『ガリーボーイ』にエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされていたNYのラッパーNasのレーベルのインド支部であるMass Appeal Indiaに所属している。



Zephyrtone

ZephyrtoneはSayanとZephyrの二人の幼なじみによって2015年に結成されたエレクトロニック音楽ユニット。
2017年には"Only You"がMTV Asiaでフィーチャーされるなど、これまでにも高い評価を得ている。
AviciiやZeddの影響を受けているとのことで、さもありなんというサウンドのEDMポップだ。
この曲では、コルカタのラッパーEPR Iyerとのコラボレーションを実現させている。



Ananya Birla

2016年にデビューしたムンバイ出身の女性シンガー。LAのマネジメント事務所と契約を結んでおり、Sean Kingston, Afrojackなどの欧米人アーティストとの共演を果たすなど、グローバルに活動している。
インドで初めて英語の曲でプラチナムヒットを獲得したシンガーであり、現在までの5曲のシングルでプラチナムを獲得している。
この曲はDaft Punkやシンセウェイヴ的な雰囲気を濃厚に感じさせる仕上がりだ。
彼女の活躍は音楽界に限らず、インドの地方でマイクロファイナンスを展開するなど、社会活動家としても積極的に活動しているようだ。
ところで、彼女の名字を見て、もしやと思って調べてみたら、やはりインドの大財閥であるAditya Birla Groupの社長の娘だそう。



…と、お聴きいただいて分かる通り、MTV EMAのBest India Actにノミネートされるのは、「グローバルな(つまり、欧米的な)ポップミュージックとして洗練されたアーティストで、かつ映画音楽以外のもの」という基準があるようだ。
ヒップホップ3組とEDMアーティストと洋楽的女性シンガーという組み合わせは、現在のインドのインディペンデント音楽シーンを表すという意味でも、的確であるように思う。

この中から、投票によってBest India Actに選ばれたのはDIVINE.
彼がこれまでインドの音楽シーンに及ぼしてきた影響や、アルバム"Punya Paap"の内容を考えれば、納得の結果と言えるだろう。

個人的な好みから言わせてもらうと、ZephyrtoneとAnanya Birlaは典型的な洋楽っぽいサウンドではあるものの、彼らならではの個性にちょっと欠けているように感じられる。
インドの人たちが「自分の国からもこんなに洗練されたアーティストが出てきた」と評価するのは分からなくもないが、同じような音楽をやっているアーティストは世界中にたくさんいるわけで、発展著しいインドの音楽シーンを象徴する「現象」としては面白くても、印象にはあまり残らないなあ、というのが正直なところ。
その点、ヒップホップ勢は、言語によるところも大きいが、いずれもインド的なオリジナルの要素を強く感じさせるサウンドだった。
(もっとも、投票したのはほとんどが海外在住者を含めたインド人だろうから、こうした外国人の視点からの「インドらしさ」は選考には影響していないだろう)


また、ストリート出身(っぽい)DIVINEとKaam Bhari, 海外出身のRaja Kumari, 都会の富裕層っぽいZephyrtone, ガチで大富豪のAnanya Birlaというノミニーのラインナップも、現在のインドの音楽シーンを象徴していると言える。


正直に言うと、インド国内でもどれくらい注目されているのか分からないMTV EMAだが、インドのインディペンデント音楽(ここでは、「非映画音楽」くらいの意味に受け取ってほしい)を対象としたアワードはあまりないので、今後も定点観測を続けてみたい。


2018年のMTV EMAの記事はこちらから!



2019年は書き忘れていたみたいですが、2020年のMTV EMAについてはこちらから!




--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり



軽刈田 凡平のプロフィールこちらから



goshimasayama18 at 20:57|PermalinkComments(0)

2021年09月29日

J-WAVE 'SONAR MUSIC'出演! オンエアした曲、紹介したかったけどやめた曲など


9月29日(水)J-WAVEであっこゴリラさんがナビゲートする「SONAR MUSIC」にて、たっぷりとインドの音楽を紹介させていただきました!

めちゃくちゃ楽しかったー!
1時間近く、時間はたっぷりあったはずなのに、伝えたいことがあって、ちょっと喋りすぎちゃったかな…と少し反省もしてますが、自分の好きな音楽(そしてほとんどの人が知らないであろう音楽)をラジオを通してたくさんの人に伝えられるというのは何度経験してもすごくうれしいもの。

当日オンエアした曲をあらためて紹介します! 



Su Real "East West Badman Rudeboy Mash Up Ting"
デリーのEDM/トラップ系プロデューサー!


Ritviz "Chalo Charlein feat. Seedhe Maut"
プネーのインド的EDM(印DM)プロデューサーとデリーのラップデュオの共演!


When Chai Met Toast "Yellow Paper Daisy"

ケーララ州のフォークロックバンド!


Pineapple Express "Cloud 8.9"
ベンガルールのプログレッシブ・メタルバンド、インドの古典音楽との融合!


Drish T "Convenience Store(コンビニ)"
ムンバイ出身の日本語で歌う(!)シンガーソングライター!


Siri "Gold"
ベンガルールの女性ラッパー!


Seedhe Maut "Nanchaku ft. MC STAN"
デリーのラップデュオにプネーの気鋭の存在MC STANがゲスト参加!


MC STAN "Ek Din Pyaar"
プネーのラッパー!



今回の選曲は、インドでの人気や知名度よりも、純粋にサウンド的にかっこよかったり面白かったりするアーティストを集めたという印象。
この"SONAR MUSIC"は毎回かなり面白い特集を組んでいる音楽番組なだけに、リスナーの皆さんの反応が気になるところでしたが、気に入ってもらえたらうれしいです。


(ここからはちょっと余談)
6月の宇多丸さんのTBS「アフター6ジャンクション」、先月のSKY-HIさんの"IMASIA"に続いて、3本目のラジオ出演(全部ラッパーの番組!)となったわけだけど、ラジオで紹介する曲を選ぶのって、毎回かなり悩む。
インドの音楽やインドという国にとくに興味のないリスナーのみなさんにも「インドの音楽って面白い!」と思ってもらいたいし、できれば楽曲だけじゃなくて、興味深いエピソードなんかも話したい。
いかにもインドっぽい音がいいのか、インドらしからぬ欧米のポップスみたいな曲がいいのかも悩みどころだ(結局、毎回両方を選曲している)。
ラジオでは、私が出演するコーナーの前後に、当然ながら日本やアメリカやイギリスの完成度の高いポピュラーミュージックが流されているわけで、いずれにしてもそこに埋もれない曲を選びたい。
さらに欲を言えば、番組やパーソナリティーのカラーにあった曲が紹介できると、なお良い。

SONAR MUSICのナビゲーターのあっこゴリラさんの曲は以前から聴いていて、"DON'T PUSH ME feat.Moment Joon" みたいな曲で、女性やマイノリティが社会で感じている生きづらさを、きちんと表現しているのがかっこいいと思っていた。
日本語のリリックでは表現が難しいこういう社会的なテーマを、ヒップホップのフォーマットのなかでかっこよく表現するというのは、センスも勇気も必要なことだ。

だから、このブログでも度々話題にしているような、日本とはまた違う形で保守性や排他性が残るインドの社会の中で女性としての意見を表明しているフィメール・ラッパーのことを紹介したかったし、それに対するあっこゴリラさんの意見を聞いてみたかった。

ところが、「コレ!」という曲がなかなか見つからない。
インドにもフィメール・ラッパーはそれなりにいるのだが、ブログで文章を添えてミュージックビデオを紹介するぶんには良くても、ラジオでオンエアするとなると、曲としてはちょっと弱かったりするのだ。
メッセージは最高なのだけど、ラップのスキルがいまいちだったり、インドのアーティストにしては完成度の高いトラックでも、もしアメリカのトップアーティストの曲が流れた後だったら、そこまで魅力的に響かなかったりする。

できればインドらしいインパクトがあり、かつラップのスキルも十分で、メッセージも強烈な曲があれば良いのだが…と思っていたら、ぴったりの曲があった。

インド系アメリカ人で最近はインド国内での活躍がめざましいRaja Kumariをリーダーとして、ベンガルールのSiri, メガラヤのMeba Ofilia, ムンバイのDee MC,といったインドじゅうのフィメールラッパーが共演した"Rani Cypher"だ。

いかにもインド的なコーラスも耳を惹きつけるし、サビの女性に対する「忘れないで、あなたはクイーン(タイトルの'Rani'は女王の意)」というメッセージも素晴らしい。
ラップが英語でいわゆる洋楽リスナーにも聴きやすいのも良いし、冒頭で'As a woman in this industry, we have to work harder, we have to be better, we have to do so much more'という語りが入っているのでコンセプトが分かりやすい。
在外インド人であるRaja Kumariとインド各地の異なるバックグラウンドのフィメール・ラッパーのコラボレーションというのもぜひ触れたいポイントだ。

これは紹介したい楽曲の最右翼。さあリリックを細かくチェックしようと思ったら。
冒頭のヴァースで、ヘイターたちへのメッセージとして、こんなリリックをラップしていたのでびっくりした。

'I Nagasaki on them haters, ground zero'

マジか…。
これって明確に「ヘイターどもはナガサキのグラウンド・ゼロみたいにぶっ潰してやる」って意味だよね。

ラップの中で語呂のいい言葉を選んだのだろうが、さすがにこれはない。
(このリリックをラップしているのはSiriで、彼女に対しては、きちんと抗議しておきます。返事が来たらまたご報告します) 

この曲に関して言えば、この部分のリリック以外はコンセプトもサウンドも最高だし、こうしたリリックが含まれていることを注釈したうえで紹介しようかとも思ったのだけど、せっかく大勢の音楽ファンにとって未知のインド音楽を紹介するのに、ネガティブな話はしたくないので、残念だがこの"Rani"はリストから外すことになった。

インド社会の悪い意味での保守性のもとで女性たちが苦しんでいる現状に対して、ラップという新しい手段で声を上げることは、とても素晴らしいことだと思う。

問題は、虐げられている人々を鼓舞するために、別の虐げられた人たちが傷つくような表現をするっていうのはそもそもどうなのか、という話だ。

彼女の他の曲もたくさん聴いたが、彼女は決して露悪的な表現を好むラッパーではないと認識している。
(ヒップホップ的な範囲での強がりやディスりはもちろんあるが)
おそらく彼女にとって原爆投下は遠い国の歴史上の出来事で、いまだに犠牲者やその家族が、直接的、間接的に苦しんでいることを単純に知らないのだろう。

もちろん、彼女のしたような表現がインドで一般的に許容されているわけではなく、同じくベンガルールを拠点に活動するラッパーのSmokey The Ghostはこんなふうにフォローしてくれている。



(Smokeyはこの後、今回の一件について「原爆の悲劇はインドでもよく知られているし、これは単なる『特権的な無知』に過ぎない」との解釈を伝えてくれた)


いろいろ考えた結果、結局、フィメール・ラッパーの曲はSiriの"Gold"という曲を選んだ。
彼女の無知は責めるべきだし、この"Raani"のリリックは論外だが、彼女が本来伝えようとしているメッセージの価値はゆるぎないし、インドの女性ラッパーのなかでも音楽的にとくに秀でていると考えてのことだ。

まあとにかく、こうやって誤解や失敗を繰り返しながら国と国との関係とか、人と人との関係ってのは良くなっていくものだと信じている。 

言いたいのは、リスペクトを大事にしよう、ってこと。

最後に、今回紹介したアーティストについて、これまでに書いた記事を貼り付けておきます。



Su Real



Ritviz



When Chai Met Toast
 


Pineapple Express
 


Drish T



Seedhe MautとSiriが所属しているAzadi Records.
 


MC STANについては、書こう書こうと思ってまだ書いてない!
近々特集したいと思ってます。



--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり





2018年の自選おすすめ記事はこちらからどうぞ! 
2019年の自選おすすめ記事はこちらから

2020年を振り返る独断で選んだ10曲はこちらから


ジャンル別記事一覧!

 

goshimasayama18 at 23:59|PermalinkComments(0)

2021年07月07日

Karan Kanchanの活躍が止まらない!(ビートメーカーで聴くインドのヒップホップ その2)


うれしいことに、ここ最近、俺たちのKaran Kanchanの快進撃が止まらない。
Karan Kanchanはムンバイを拠点に活躍しているビートメーカー。

なぜ「俺たちの」なのかというと、彼はジャパニーズ・カルチャーに大きな影響を受け、その結果、日本にも存在していない'J-Trap'というジャンルを「発明」してしまったという、愛すべきアーティストなのである。

(彼について紹介した記事)


J-Trapはトラップのダークでヘヴィなビートに、三味線っぽい音色や和風の旋律をちりばめた、極めてオリジナルな音楽だ。
この"Tokyo Grime"のラッパーはXenon Phoenix.
外国人の目線から見た不穏なイメージの東京がめちゃくちゃクール!

こちらは"Daruma Dub"
インド人仏教僧Bodhidharma(サンスクリット語)を語源とするおなじみのダルマが、日本のポップカルチャーの影響を受けた最新のダンスミュージックとしてインドに帰還したと思うと、なんだか不思議な縁を感じる。

インドでは、K-Popがメインカルチャーとして受け入れられている一方で、アニメやマンガを中心とした日本文化は、コアなファンを持つサブカルチャーとして確固たる位置を占めている。
K-Popのグループがインドの雑誌の表紙を飾ったり、ボリウッドの人気歌手がK-Popシンガーと共演して多くの耳目を集めている一方で、インディーミュージックシーンでは、日本語名のアーティストや、日本語タイトルの楽曲が数多く存在しているのだ。
こうした日韓のカルチャーの受け入れられ方の違いは、東アジアの一員として非常に興味深い。

(関連記事をいくつか貼り付けます)






シーンを見渡せば、他にも、ジブリの映画や久石譲の音楽をフェイバリットに挙げ、ミュージックビデオにトトロの人形を登場させたドリームポップバンドのEasy Wanderlingsや、80年代の日本のアニメをモチーフにしたミュージックビデオ(楽曲のタイトルは"Samurai")をリリースしたSayantika Ghoshなど、日本文化の影響を受けたインディーミュージシャンは枚挙にいとまがない。
Karan Kanchanは、そのなかでも、非常に強く日本のカルチャーの影響を感じさせるアーティストの一人なのである。


この"Monogatari"のイントロの語りは、三味線奏者の寂空-JACK-によるもの。
じつは、この二人を引き合わせたのは私、軽刈田。
Kanchanの「コラボレーションしてくれる三味線奏者を探してほしい」というリクエストをSNSで拡散したところ、寂空が手をあげてくれたのだ。
この曲では、三味線とトラップのコラボレーションに先駆けて、語りでの共演となった。
寂空が所属するバンド'Shamisenist'は、今後アメリカのレーベルColor Redからのデビューが予定されており、ひとまわり大きくなった日印のアーティスト同士の新たなコラボレーションにも期待したい。

J-Trapという類まれなるスタイルを確立したKaran Kanchanは、前回の記事で紹介した「ムンバイのストリートラップシーンの帝王」DIVINEとの共演を皮切りに、瞬く間にインドのヒップホップ・シーンを代表するビートメーカーとなった。

Karan Kanchanは、ソロ名義でJ-Trapの作品を制作するかたわら、DIVINEを中心としたムンバイのストリートラップ集団Gully Gangのビートを数多く手掛け、次々に注目作をリリースしていった。

DIVINEのニューアルバムでは、ストリート路線から脱却し、内面的なテーマを扱うようになった彼に合わせてディープでメロウなビートを提供。
かと思えば、DIVINE同様にMass Appeal Indiaからのデビューを決めたGully GangのD'Evilには、初期ガリーラップを思わせるパーカッシブなビートを用意し、ムンバイの個性を巧みに表現した。

近年のKanchanの活躍の舞台はムンバイを飛び越え、デリーのラッパーと共演する機会も広がっている。
この"Dum Pistaach"ではデリーのラップデュオSeedhe Mautと共演し、ヘヴィ・ロックの要素を導入した新境地を開いた。
アメコミとインド神話とジャパニーズ・カルチャーが融合したようなビジュアルもクール!
デリーを拠点に活躍するメジャー寄りの人気ラッパーRaftaarの楽曲にも制作陣として名を連ねている。
2019年にリリースされたこの曲の再生回数は4,500万回を超えている。

彼の活躍は国境すら超えはじめており、最近では、Netflixで全世界に配信された『ザ・ホワイトタイガー』の主題歌の"Jungle Mantra"で、盟友のDIVINE、そしてアメリカの人気ラッパーVince Staples、Pusha Tとの共演を実現させている。


ここ最近の彼の活動で特筆すべきは、活躍の場を広げているだけではなく、ビートのスタイルも多様化させていることだろう。
以前はトラップ系のヘヴィなビートをシグネチャー・スタイルとしていたKanchanだが、最近ではよりコードやメロディーを重視したサウンドにも挑戦している。
Pothuriと共演した"Wonder"では、Daft Punkを思わせるようなポップでエレクトロニックなR&Bのビートを披露。


Gully Gang一味の出身で、やはりMass Appeal Indiaの所属となったShah Ruleの"Clap Clap"では、印象的なピアノのメロディーと、ドリル的に上下にうねるベースが印象的。


とにかく活躍が止まらないKaran Kanchan、売れてくるにつれて彼は日本のカルチャーを忘れてしまったのか?と少々寂しい気持ちにもなるが、最新曲の"Marzi"は、新境地のChill/Lo-Fi系のビートを大胆に導入した最高に心地よいサウンドを届けてくれた。

Lo-Fi/Chill Hop系のビートは、日本のビートメーカーNujabesやアニメ作品との関わりから、日本のカルチャーとの関わりが深い。
(この話題についてはこの記事に詳しい。beipana「Lo-fi Hip Hop〔ローファイ・ヒップホップ〕はどうやって拡大したか」

言うまでもなくこのミュージックビデオはあの有名なLo-Fi Study Girlのオマージュ(正面から映しているのは珍しい!)で、机の上のチャイがインドらしさを感じさせるが、窓の外の景色や室内の様子は、日本のようにも、どこか他の国のようにも感じられるのが今っぽい。
ヘヴィはトラップ・サウンドから出発したKaran Kanchanが、メロウなLo-Fiビートでジャパニーズ・カルチャー的な世界に帰ってきてくれたと思うと、なんとも感慨深い。

(関連記事。インドのYouTubeチャンネル'Anime Mirchi'が作ったインド風Lo-Fi Study Girlにも注目)



ここでこの記事を終わりにしてもよいのだけど、せっかくなのでKaran Kanchan本人に、ここ数年の大活躍とスタイルの深化、そしてパンデミック下での生活についてインタビューをしてみた。
その様子は次回!
お楽しみに!

(Karan Kanchanインタビュー)


--------------------------------------

「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」

更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
Twitter:
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

Facebook:
https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり


軽刈田 凡平のプロフィール
こちらから

凡平自選の2018年のおすすめ記事はこちらからどうぞ! 
凡平自選の2019年のおすすめ記事はこちらから

ジャンル別記事一覧! 


goshimasayama18 at 21:16|PermalinkComments(0)

2021年06月01日

K-pop meets 'I-Pop'! インドと韓国のコラボレーションは新しい扉を開くのか?


5月21日にリリースされたArmaan Malik, Eric Nam, KSHMRのコラボレーションによる新曲"Echo"の評判が良い。

6月1日の時点でYouTubeの再生回数は1,000万回以上。
ヒット映画の音楽ともなれば億を超えることも珍しくないインドでは決してずば抜けた数字ではないが、映画と関係のない音楽としては大健闘していると言っていいだろう。 


この楽曲に関わった人物を整理してみよう。
Armaan Malikはムンバイ出身のシンガー。
代々インド映画の音楽を作ってきた一家に生まれたArmaanは、幼い頃から古典音楽を学び、アメリカの名門バークリー音楽大学で学んだのち、EDM, R&B, そしてもちろん映画音楽などの分野で活躍している。
インド映画のプレイバック・シンガーにはよくある話だが、彼もまた多くの言語で歌っており、ヒンディー、英語、ベンガル語、テルグー語、マラーティー語、タミル語、グジャラーティー語、パンジャービー語、ウルドゥー語、マラヤーラム語、カンナダ語の楽曲をレコーディングしたことがあるという。


この"Chale Aana"は2019年のボリウッド映画"De De Pyaar De"の挿入歌で、作曲はArmaanの兄であるAmaal Mallik. (兄のAmaalは、弟と違って姓のアルファベット表記の'L'が2つある)

この曲の再生回数は1.6億回とケタ違いだ。
彼が歌う他の映画音楽では、5億再生を超えているものもある。

映画音楽以外の活動も見逃せない。
2020年のMTV Europe Music Awardsで、近年勢いづくヒップホップ勢を抑えてBest India Actを受賞した"Control"は、"Echo"同様にインドらしさをまったく感じさせない「洋楽的」なポップソングだ。

Armaanは、映画音楽という大衆音楽と、洋楽的なポピュラー・ミュージックという、対照的なふたつのジャンルの第一線で活躍しているシンガーなのだ。


Eric Namはアトランタ出身の韓国系アメリカ人シンガー。
011年に名門ボストン・カレッジを卒業し、ニューヨークのデロイト・コンサルティングで勤務するというエリート中のエリートだった彼は、YouTubeへのカバー曲動画の投稿や韓国でのオーディション番組への参加を経て、ミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせた。

シンガーとしては、韓国語と英語の両方で楽曲をリリースしており、海外ツアーを行うなど、すでに国際的な活躍をしている。

この"Honestly"を聴けば分かる通り、そのサウンドはK-popのイメージを裏切らないきらびやかなダンスポップ。
声の質もArmaanに近く、ヴォーカリストとしての相性がぴったりなのがこの曲からも分かるだろう。


"Echo"のプロデュースを務めたKSHMRことNiles Hollwell-Dharはカリフォルニア出身のインド系アメリカ人のEDMアーティストだ。
名前の通り、カシミール地方出身のヒンドゥー教徒の父を持つ(母親はインド系ではないようだ)。
2003年に高校の友人と結成したヒップホップユニットThe Cataracsで活動したのち、2014年にKSHMRの名義でEDMに転向。
UltrasやTommorowlandなどの大規模フェスでもプレイし、2016年、2017年、2020年にはDJ Magの世界トップDJの12位に輝いているEDMシーンのトップスターの一人だ。

活動の場が違うので簡単には比較できないが、ジャンル内の評価で言えば、このKSHMRが3人の中でもっとも大きな成功を収めていると言えるかもしれない。
(再生回数で言えば圧倒的にArmaan Malikだが)

この曲はインドで行われたアジア最大のEDMフェス'Sunburn'のテーマ曲として作られたもの。

インド国内のマーケットを意識した作品では、このようにビジュアルにもサウンドにもインドらしい要素を取り入れており、最近ではインド国内のアーティストとのコラボレーションも多い。


…長くなったが、要は、この曲でコラボレーションした3人には、非常に多様性に富んだ背景があるということである。
国籍としては、インド、韓国、アメリカ。
音楽ジャンルとしては、フィルミ(インド映画音楽)、インド古典音楽、R&B、K-pop、EDM...
こうした多様性のある3人のコラボレーションなのだから、ものすごい化学反応が起きて、斬新なフュージョン音楽が生まれるのではないかと期待していたのだが、誤解を恐れずに言えば、出来上がった作品は、ポップミュージックとしての質は高いものの、音楽的な冒険はせずに、手堅くまとめたという印象だ。
"Echo"には、Armaanの古典音楽的な歌い回しも出てこなければ、KSHMRの得意なフュージョンの要素もない。
ミュージックビデオの映像も、K-Pop的な派手さや伝統的なインドのイメージとは無縁な、率直に言うとかなり地味なものである。

Eric Namは、Rolling Stone Indiaにこう語っている。
「"Echo"は3人のアジア人がグローバルな舞台で団結した重要な例なんだ。僕らの仲間がもっと増えたらいいのにって思ってる。僕たち(引用者注:アジア人)全体を代表してやってのけることができる人たちの、もっと大きなネットワークが欲しいんだ。僕らは、自分たちみたいなカルチャーに関わる人たちを、もっと大きなスクリーンで見たいと思って成長してきた。でも、伝統的に、そういう場所は僕らにオープンじゃなかったんだ。ようやく、少しずつオープンになってきてはいるけどね。それから今、人種間や社会的な緊張がこれまでになく高まってきている。だから、僕らにとって、今こそこういうことをやるのに最高の時なんだよ」

この言葉の中の、「アジア人にもショービジネスが少しずつオープンになってきている」というのはK-popの成功を、「人種間や社会的な緊張が高まっている」というのはコロナ以降のアジア人差別を指しているのだろう。
"Echo"をこのタイミングでリリースしたのは、5月がアメリカ合衆国における「アジア系アメリカ人および太平洋諸島出身者月間」(Asian American and Pacific Islander Heritage Month)であることも意識していたという。

だからこそ、彼らは偏見にもつながるステレオタイプと裏表な典型的なアジアの要素を前面に出すのではなく、あえて無国籍なポップミュージックを作り、音楽の質そのもので勝負しようとしたのだろう。
しかし、無国籍なポップミュージックとは、結局のところ、欧米の白人が作ったジャンルを意味している。
今のところ、インド国内と韓国の一部のファンには高い評価を得ているようだが、この方法論が世界でどこまで通用するのか、応援しつつ見守ってゆきたい。

ところで、記事のタイトルに'K-pop meets "I-pop"'と書いたが、'I-pop'とはこの曲を紹介するにあたり、インドの媒体が多用している言葉。
インドは英語が話せる人材も多いし、最近ではArmaanのようにバークリーなどの欧米の一流の音楽大学に進学する若者も増えている。
I-PopがK-Popのように、世界で評価される日が来るのだろうか。
その時に、"Echo"はエポック・メイキングな楽曲として思い出されるものになるはずだ。


関連記事:






参考サイト:
https://rollingstoneindia.com/exclusive-armaan-malik-eric-nam-and-kshmr-collaborate-on-new-single-echo/

https://www.bollywoodbubble.com/bollywood-news/exclusive-armaan-malik-on-echo-taking-i-pop-global-dabbling-with-wanting-to-breakout-and-fear-of-rejection/




--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」

更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり
軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

凡平自選の2018年のおすすめ記事はこちらからどうぞ! 
凡平自選の2019年のおすすめ記事はこちらから

ジャンル別記事一覧! 
  


goshimasayama18 at 20:56|PermalinkComments(0)

2021年05月10日

次世代の主流になりうるか? インドの「アンダーグラウンド・メインストリーム・ポップ」!


ご存知の通り、インドのポピュラーミュージックの主流は映画音楽である。

ところが、21世期に入った頃から、少しずつ状況が変わり始めた。
インドの経済成長による衛星放送の普及、そしてインターネットの発展にともなって、人々が様々な音楽を聴く機会が増えてきたのだ。
2010年代になると、そうした音楽を好む若者たちのなかから、多くのラッパーやロックバンドや電子音楽アーティストが登場した…というのは、いつもこのブログで紹介している通りである。

とはいえ、インド全体の音楽シーンのなかでインディペンデント・ミュージックが占める割合はまだまだ少ない。
都市部の若者を中心にファンやリスナーを獲得しているものの、圧倒的な規模や予算で市場を席巻する映画音楽には遠く及ばない。
やはり、いまでもインドの音楽シーンは、映画音楽を中心に回っているのだ。

それでも、桁違いの人口規模を誇るインドのインディーミュージックシーンはびっくりするほど多様だ。
なかには、インドらしさをまったく感じさせない、アメリカやイギリスのチャートの上位を賑わせそうなポップサウンドを作っているアーティストたちもいる。
いわば彼らは「世界のメインストリームの音楽を作っているインドのアンダーグラウンド・アーティスト」というわけだ。

今のところ、彼らの音楽はまだポピュラリティを獲得しているとは言い難いが、質の高い音楽を作っているアーティストも多い。
といわうけで、今回はそんなアーティストたちを紹介したいと思います。


手始めに、先日紹介した「日本語で歌うインド在住のインド人シンガー」Drish Tとも共演していたAnimeshの"Pressure on It"を聴いてみて欲しい。
ファンキーなリズムに乗ったキャッチーなメロディーは、ちょっとBruno Marsのアップテンポな曲を思わせるところもある。
ヴォーカルのFranz Dowlingはオーストラリアのブリスベン在住のシンガーだそうで、国籍を超えたコラボレーションであるという点もとても今っぽい。
AnimeshはDrish Tと同じチェンナイのKM Music Conservatory(A.R.ラフマーンが作った音楽学校)に通う学生とのことで、彼女と同年代なら、まだ20歳くらいということになる。
これから洗練されてゆけば、かなり面白い存在になりそうだ。


続いて紹介するのは、同じくチェンナイのポップアーティストKevin Fernandoが、プロデューサーのAshwin Vinayagamoorthyと女性シンガーのNivedita Lakraと共演した"Foxy".
Kevin Fernandoという欧米風の名前は、おそらく彼がクリスチャンの家庭に生まれたことによるものだろう。
プロデューサーのAshwin Vinayagamoorthyは、ふだんはタミル語映画の音楽を手掛けている人物のようだ。
ラフマーンも然り、いつもは地元のマーケットを意識した音楽を作っていても、こういう欧米ポップス的な引き出しも当然のように持っているというのが現代インドの商業音楽家の強みだろう。


3月にデビュー曲の"Summer Nights"をリリースしたばかりのAneeshは、ムンバイのエレクトロニック・ミュージックのプロデューサー。
ちょっとラテンっぽいリズムを取り入れた楽曲は今の気分にぴったり。
AneeshはAviciiやJonas Blue, KSHMRなどのEDMアーティストの影響を受けているという。
この曲のヴォーカルは、テキサス在住のシンガーソングライターBrandon Chaseで、ここでも国境を超えたコラボレーションが行われている。
インドのインディペンデントシーンには、欧米での生活や留学を経験したアーティストも多く、英語圏のシーンとの心理的・言語的な距離は我々が想像するよりもずっと近い。
他のアジア圏のアーティストと比較して、彼らのこうした点もグローバルな成功へのアドバンテージとなるはずだ。


Chirag Todiはインド西部グジャラート州アーメダーバードのプログレッシブロックバンドHeat Sinkのギタリスト。
ソロ作品の"Desire"ではファンキーな心地よいグルーヴを聴かせてくれている。
男性ヴォーカルはムンバイのバンドSecond SightのPushkar Srivatsar, 女性ヴォーカルはデリーのTania Nambier.
この曲はRolling Stone Indiaが選ぶ2020年のベストシングルにも選ばれていて、こうしたファンキーかつクールなグルーヴはインドの音楽好きに好まれているようだ。


もっとローカルなところだと、例えばこのAdhiraj Mathur.
まだ無名なミュージシャンで、情報はほとんど無いのだが、この曲は「シャワーを浴びているときに思いついて、ベッドルームでミキシングとマスタリングして、iPhoneでミュージックビデオを撮影した作品とのこと。
アナログビデオ風の映像の加工も最近インドのミュージックビデオでよく見られる傾向。
こうした映像が撮れるビデオカメラの時代には生まれていなかった若い世代が、アナログ的な要素を積極的に取り入れているのが興味深い(そもそも、もし生まれていたとしても、当時のインドにはこうした家庭用の映像機材はほとんど出回っていなかったはずだ)。
渋谷系の日本のミュージシャンが60年代や70年代の洋楽の影響を強く受けていたように、自分たちが持ち得なかった過去へのあこがれがひとつの原動力になっているのだろうか。


ムンバイのエレクトロニック系プロデューサーChaitxnyaの"You Broke Me First Flip"は女性ヴォーカルもの。
アーティスト名は'Chaitanya'と読むのだと思うが、おそらくは同名異人との混同を避けるために、名前を独特の綴りにするというのは、インドの有名人によく見られる手法だ。


ここまで紹介したアーティストたちは、インドのなかでもまだまだ無名で、YouTubeの再生回数も数百回から数千回、もっとも多いChirag Todiでもせいぜい15,000回程度の、ごくマイナーな存在に過ぎない。
オリジナリティーあふれるサウンドで、インドのインディペンデントシーンでより高い評価を確立しているアーティストたちも、コアなジャンルではなく、現代メインストリーム的な楽曲を手掛けている例が散見される。

例えば、日本にも存在しない和風のトラップ・ミュージックである'J-Trap'というジャンルを開拓し、最近ではヒップホップのビートメーカーとしても大活躍しているKaran Kanchan.
DIVINEのようなビッグネームとのコラボレーションでは、YouTubeで1,000万回を超える再生回数を叩き出している彼は、R&BシンガーRamya Pothuriとコラボレーションして、こんなキャッチーな曲をリリースしている。
ぶっといビートのイメージが強かったKanchanが、ここまでスムースかつポップな曲を手がけるのは非常に新鮮!
彼のビートメーカーとしての引き出しは非常に多く、最近ではDIVINEがコロナ禍で奮闘する人々に捧げた"Salaam"でのメロウなサウンドや、Shah RuleがMass Appeal Indiaからリリースした"Clap Clap"でのピアノを導入したビートが印象に残っている。


インディペンデント・シーンでの評価の高いムンバイのシンガーソングライターTejasは、この"Down and Out"でAviciiの"Wake Me Up"を思わせるカントリーっぽいメロディーと四つ打ちのビートの融合を試みている。
このブログでもこれまでにPrateek KuhadRaghav Meattleといった才能あふれるアーティストを紹介してきたが、彼の楽曲からもインドのシンガーソングライターのレベルの高さを改めて感じさせられる。


今回紹介したような「アンダーグラウンド・メインストリーム・ポップ」はまだ小さな潮流だが、彼らのポップセンスと、英詞での表現が得意という特性がうまく化ければ、インド国内のみならず、グローバルな市場で幅広いリスナーを獲得することも夢ではないように思う。
インドのインディー音楽に注目する立場としては、インドならではのユニークなサウンドを作っているアーティストも大好きが、こうした世界に通用するサウンドを作ろうとしているアーティストたちも応援したい。

彼らの今後の活躍に期待!




--------------------------------------
「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」

更新情報や小ネタはTwitter, Facebookで!
https://twitter.com/Calcutta_Bombay

https://www.facebook.com/軽刈田凡平のアッチャーインディア-読んだり聴いたり考えたり   
軽刈田 凡平のプロフィールこちらから

凡平自選の2018年のおすすめ記事はこちらからどうぞ! 
凡平自選の2019年のおすすめ記事はこちらから

ジャンル別記事一覧! 


goshimasayama18 at 20:14|PermalinkComments(0)