雑誌「POPEYE」6月号「僕の好きな音楽」インドのページ!紹介したアーティストの近況!海外公演など

2018年05月13日

忘れた頃にJ19 Squadから返事が来た!(その1)

このブログの熱心な読者(いらっしゃるのでしょうか…。いたら手を上げてください)なら、かれこれ1ヶ月半くらい前にラージャスタン州のギャングスタ・ラッパー集団J19 Squadを取り上げたことを覚えているかもしれない。

インドの伝統文化を色濃く残す砂漠の土地ラージャスタンの香りをぷんぷんさせながら、同時に平気で銃をぶっ放すとんでもないワルでもあるJ19 Squadに興味津々となったアタクシは、さっそくインタビューを申し込み、いくつかの質問を送った。
その日のうちに彼らから「Much love, bro. すぐに答えるぜ」との返信が来たが、その後の音沙汰がないまま時は流れゆき、そろそろ1ヶ月になろうかというとある日、完全にあきらめかけた頃に彼らから返事が来た。
その回答を読んで、もう少し質問したいことが出てきたので、改めてメッセージを送る。
「Much love, bro. すぐに答える」
…が、またしても返事は来ない。

催促を送ること一度、二度。
「すぐに返事するぜ、bro.」

まだ次の返事は来ていないのだけど、せっかくいただいた1回目の内容をずっと寝かせておくのも何なので、ここでひとまずこれまでのインタビューの模様をお届けします。
その前に、彼らの音楽をおさらい!

彼らの地元「ブルーシティ」ことジョードプルへの愛に溢れた曲。
"Mharo Jodhpur"


ワルさで言えばこの曲が一番"Bandook".
2:30からの英語のセリフ「You know why we are doing this? We are doing for our streert, our people, our city man. Ain't no body gonna stop us. Hahahaha. Yeah, You know who we are, J19 Squad!」ってとこがイカしてる!
最後のSquad!でキメるとこ、好きだなあー。
笑顔で銃をぶっ放す女の子たちも、なんかよく分からないけどキュート!


ボブ・マーリィへのトリビュートと題された、"Bholenath".
やってることはシヴァ神を祀った寺院でのひたすらな大麻の吸引で、ボブはどこ?って感じがするんだけど。それにインドでも大麻は一応違法なはずだけど、こんなに堂々とビデオで吸っちゃってて大丈夫なのだろうか。


これらのビデオを見てわかる通り、彼らの魅力を一言で表すとすれば、ラージャスタン土着の男っぽさと、ヒップホップ由来のの"サグい"(Thug=ワルい)感じの共存。
果たしてそんな彼らの素顔はどんななのか?

質問に答えてくれたのはメンバーのPK Nimbark.
インドのヒップホップシーンの中でも未知の地、ラージャスターニー・ラップの話を存分に聞かせてくれました!

凡「インタビューに協力してくれてどうもありがとう。まず最初に、”J19 Squad”ってどういう意味?
ビデオだと大勢の仲間たちが写ってるよね。
全部で19人のメンバーがいるの?JはジョードプルのJ?」

J「J19 Squadはラージャスタン州、ジョードプルのヒップホップデュオだ。インドのヒップホップシーンの中で、ラージャスタンを代表(represent)している。Young HとPK Nimbarkの2人で結成されたんだ。ビデオに写っているのは地元の俳優やモデルで、彼らはJ19 Squadに所属しているわけではない。そう、JはJodhpurのJで19は俺たちのエリアコード(郵便番号のようなものか?)だ。」

なるほど。
いかにも地元のギャングの仲間って感じだった彼らは役者さんたちで、あくまで演出だったということか。
マジで怖い人たちではないのかも。
ちょっと安心だけどまだ油断はできない。

凡「音楽的にはどんな影響を受けたの?あなた方の音楽はすごくオリジナルだと思うんだけど。もし海外やインドのアーティストの影響を受けていたら教えて」
J「そうだな。俺たちはジョードプルの別々の地域の出身なんだけど、学校に通ってた頃から音楽に夢中だった。磁石のように音楽に引きつけられているんだ。
Young HはアメリカのラッパーのTIにインスパイアされていて、俺はEminemだな」

おお!ここでもエミネムの影響。
TIはサウスのギャングスタラッパーで、トラップの創始者と言われることもあるアーティスト。
やはり二人ともワイルドなイメージがあるラッパーが好みなのか。
DIVINEがクリスチャンラッパーのLacrae、Big Dealがケンドリック・ラマーのようなコンシャスラッパーに影響を受けていることとは対照的だ(まあこの2人もエミネムからの影響は公言してるけど)。

凡「トラックを作って、リリックを書いて、ラップして、って全部自分たちだけでやってるの?」

J「そうだ。俺たちの曲は全部自分たちによるオリジナルの作品だ。Young Hが曲を作っている。彼がミキシングやマスタリングをやっているんだ。歌詞は2人で協力して書いている。”Go Down”と”Raja”は俺たちの曲じゃなくて、”Go Down”はSir Edi、”Raja”はRapperiya Balam(原文ママ)によるプロデュースだ。」

なるほど。
ここで名前が出てきたRapperiya Baalamは朴訥としたフュージョン・スタイル(伝統音楽と現代音楽のミックス)で美しき故郷ラージャスタンについて歌うシンガー。


Rapperiyaの素朴さとJ19 Squadのワイルドさが郷土愛で結びついたこの曲"Raja"は、彼らだけがたどり着くことができたインディアン・ヒップホップのひとつの到達点!と個人的には思います。



さて、そろそろ彼らの最も気になる点について聞かねばなるまい。
彼らのビデオは非常に暴力的。
銃をバンバンぶっ放したりしているけど、これはマジなのか。
確信をついた質問をしてみた。

凡「あなたたちのミュージックビデオがとても気に入っているんだけど、”Bandook”はまさにリアルなギャングスタ・ライフって感じだよね。これはあなたたちの実際の生活がもとになっているの?それともフィクション的なものなの?」

J「そうだな。Bandookはじつにクールなギャングスタ・ソングだが、それが俺たちのライフスタイルってわけじゃない。俺たちはもっとふつうに暮らしているよ。これがフィクションなのか実際に起きうることなのかっていうのは言えないな。実際のところ、このビデオはラージャスタン人のライフスタイルに基づいている。彼らはとても慎ましくて親切だけど、もし誰かが楯突こうっていうんなら、痛い目に合うことになるぜ。ラージャスタンの王族に仕えたラージプートの戦士のようにね。」

彼らの回答に出てきたラージプートは、ラージャスタン州の誇り高き戦士(クシャトリヤ)カーストのこと。7世紀〜13世紀にかけてこの地方に王国を築き、幾度も西方からのイスラム勢力のインド亜大陸への侵入を防いだ勇猛さで知られる。
彼らのミュージックビデオを見てもわかる通り、今でもとにかく地元愛の強い土地柄なのだ。
それと、この回答を聞いて正直ちょっとほっとした。
いくらジョードプルと日本で距離が離れているとはいえ、平気で銃をぶっ放すような連中に「俺たちがフェイクだって言うのか!」とか怒られたらさすがにちょっとビビるからね。

次に、彼らについてもうひとつ気になっていたことを聴いてみた。

凡「あるときはヒンディー語で、あるときはラージャスターニー語でラップしているよね。どうやってラップする言葉を決めているの?」

J「俺たちはヒンディー語でラップを始めた。でもラージャスターニー語はインドのヒップホップじゃ全然使われていなかったから、俺たちがここで本物のラップを紹介しようって決めたんだ。(地元に)ヒップホップミュージックのシーンを作るためにね。実際にいまシーンを作っているところだよ。これからもデシ・ヒップホップのシーンのためにはヒンディーで、地元のシーンのためにはラージャスターニーで、両方の言語で曲を作っていくつもりだ」

なるほど!
彼らは愛する地元ジョードプルに、同じく彼らが心から愛するヒップホップを根づかせるために地元の言語で歌っていたのだ。
ビデオでの暴力的な表現は、ヒップホップのギャングスタ・カルチャーを地元の勇猛なラージプート文化と融合して、ラージャスタン風に翻案したものということなのだろう。
ものすごいギャングスタのように見えて、案外周到に計算された表現様式なのかもしれない。
それからここで出てきたデシ・ヒップホップというのは海外の移民を含めたインド系アーティストのヒップホップを指す言葉。
彼らはラージャスタンにヒップホップを広めるとともに、より大きなマーケットでの成功も視野に入れているようだ。

そんな彼らのインタビューその2がお届けできる日は来るのか?
あまり期待はしないでお待ちください。
20年前からインド人にすっぽかされるのは慣れてるんだけどさ。 

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