魅惑のラージャスターニー・ヒップホップの世界!Ska Vengersの中心人物、Taru Dalmiaのレゲエ・レジスタンス

2018年05月30日

ただのお洒落野郎にあらず!Ska Vengers!

以前、デリーのレゲエバンド、Reggae Rajahsを紹介したことがあるが、今回は同じジャマイカの音楽でもスカ!
同じくデリーを拠点に活躍するSka Vengersを紹介したい。
彼らのことはいつか紹介しないと、とずっと思っていた。
まずは彼らがどんな人たちなのか、見てもらいたい。
skavengers
ご覧の通り、今まで紹介してきたミュージシャンの中でも、抜群にオシャレで洗練された佇まいだ。
そしてSka Vengersというバンド名にもアタクシは少し衝撃を受けた。
もちろんこれは、音楽ジャンルのSkaとScavengerという単語を掛け合わせたものだけど、スカベンジャーと言えばごみをあさって生活している人たちのことを指す。
インドは富や教養や階級を、服装や態度や生活やあらゆる面でわかりやすく示す国。
そんなインドで、見るからに上流階級育ちっぽい彼らが、そんな下賤な名前を名乗るっていうのはかつてのインドでは考えられないこと。
あえて自分を低く見せるというロックな逆説的価値観がようやくインドにも根付いてきたのか、と思いつつも、裕福な連中がアウトロー気取りで何も考えずにスカベンジャーとか言ってるんじゃないの?とうがった見方をしていた。
正直、ナメててスマンカッタ。という話を2回くらいに分けて書かせてもらいます。

サウンドは例えばこんな感じに小粋で洗練されたスカ・サウンド。
あれ?古典じゃん、と思うかもしれないけど43秒あたりから曲が始まります。


これもまた前置きが長いビデオだが、1:40あたりから曲が始まる。


中心メンバーは男性ヴォーカルのDelhi SultanateことTaru Dalmiaと、女性ヴォーカルのBegum X。
イギリス人のキーボーディストを含む6人組で、かつてはReggae RajahsのDiggy Dangや、Yohei Sato、Rie Onaという日本人メンバー(!)も在籍していたようだ。
この世界水準なサウンドを武器にヨーロッパツアーなども行っており、あのイギリスのグラストンベリー・フェスティバルにも出演するなど、国際的な評価を得ている。
Ska Vengersはかつてドイツに住んでいたDelhi Sultanateが、現地で出会ったスカやレゲエといった音楽をインドでも演奏するために2009年に結成された。
海外在住経験のあるメンバーがそのジャンルのパイオニアになるというのは、これまでも見てきたようにインドのミュージックシーンではよくある話だ。

ちょっと変わったところでは、昔のボリウッドの曲をジャイプルの伝統的なブラスバンドのKawa Brass Bandと一緒にやっていたりもする。


ここまで見ると、単なる外国帰りの金持ち連中がインドらしからぬオシャレサウンドを演奏しているだけなんじゃないの?とつい勘ぐりなってしまうところだけれども、さにあらず。
彼らは自分たちの演奏するジャマイカン・ミュージックの本質を、単なるゴキゲンなダンスミュージックとしてではなく、抑圧や植民地主義、不正義と戦う術として位置づけて取り組んでいる。

そうした彼らの本質がもっとも強くストレートに出ているのがこの曲だ。
"Modi, A Message to You"
 
この曲は70年代に活躍したイギリスのスカ・バンド、Specialsの"Message to You Rudy"という曲のカバーというか替え歌で、インドの現首相ナレンドラ・モディへの痛烈な批判になっている。

モディが所属する「インド人民党」(BJP)は、ヒンドゥー・ナショナリズムを掲げる組織、「民族奉仕団」(RSS)が母体となって結成された政党だ。
RSSはインドの国父ガンディーの暗殺に関わり、一時期活動が禁止されていた歴史を持つヒンドゥー至上主義団体だ。

モディがインド首相に就任以来、その経済政策などで一定の支持を集めている反面、所属政党であるBJPは地方議会でヒンドゥー教で神聖視される牛の屠殺を禁止する法案を可決させたり、同党支持者の反イスラム的な姿勢を黙認したりしていることを批判されてもいる。
インドは人口の8割がヒンドゥー教徒だが、独立以来、政教分離(セキュラリズム)国家としての原則を守ってきた。
だがBJPは「母なるインドはヒンドゥーの土地」というヒンドゥー・ナショナリズム的な傾向を政治に持ち込み、小政党が分立するなかでマジョリティーであるヒンドゥー教徒を中心に支持を拡大し、ついに中央政権を奪取するに至った。
こうした政党を批判することは、インドではとても勇気がいることで、実際バンドはこの曲を発表したことで、殺害予告を受けたという。

このビデオの中で、モディは現代的な女性に伝統的な格好をさせて牢屋に入れ、ムスリムと握手すると見せかけて無視し、炎に包まれる街を見捨てる悪者として描かれる。
さらには小さい家を潰して工場を建て、人々にテント暮らしを余儀なくさせ、故郷グジャラートの経済だけを発展させるが(日本では美談となっているインドへの新幹線の輸出は、じつは首都デリーとモディの地元グジャラート州アーメダバードを結ぶ路線だ)、真実を追求するジャーナリストから逃げ回り、最後には両目をハーケンクロイツにされるという散々な扱いを受けている。

Delhi Sultanateは語る。
「グジャラート州で2002年(モディが州首相を務めていた時代)に恐ろしい暴動が起きた。この暴動で2,000人を超えるムスリムが虐殺されたと主張する人たちもいる。多くの人がこの暴動でモディが中心的な役割を果たしたと確信しているんだ」と。

この曲の背景を少し詳しく見てみよう。
2002年2月27日、アヨーディヤーからグジャラート州のゴードラー駅に到着した列車に何者かが火を放ち、ヒンドゥー教の巡礼者58名が死亡する事件が起きた。
アヨーディヤーはヒンドゥー教の伝承ではラーマ・ヤーナの主人公ラーマ神の生誕地とされている土地だ。
この地域が16世紀にムガル帝国の支配下に入ると、アヨーディヤーにはバブリー・マスジッドというイスラム教のモスクが建設された。500年近く昔の話である。

BJPは、このアヨーディヤーの地をムスリムから取り戻すことを掲げて選挙を戦い、多数派であるヒンドゥー教徒の支持を広げてきた。
そしてついに1992年、この歴史あるバブリー・マスジッドを狂信的なヒンドゥー教徒たちが破壊するという事件が起きてしまう(ちなみにバブリー・マスジッド以前にヒンドゥーの寺院があったという主張に歴史的な根拠はない)。
この破壊事件を主導したのは、RSSやVHP(世界ヒンドゥー協会)のメンバーをを中心とするサング・パリワールというヒンドゥー至上主義組織で、この事件をきっかけに起きた宗教対立でインド全土で1,200人もの死者が出ることとなった。
これが現代インドの宗教間対立の大きな火種となった「アヨーディヤー事件」である。

一部のヒンドゥー教徒たちは、2002年のゴードラー駅での列車放火事件をイスラム教徒によるアヨーディヤー事件への報復であると判断して暴動を起こし、1,000名を超える死者が出る大惨事となった。
犠牲者の多くはイスラム教徒だ。
この暴動の背後で、BJPの州政府関係者が、列車放火事件がイスラム教徒によるものだと断定した発言をしたり、イスラム教徒の住居や商店の場所を暴徒側に教えたりしていたという指摘がある。
彼らはその黒幕としてモディを批判しているというわけなのだ。

Ska VengersはBJPやモディのナショナリズム的傾向や、新自由主義的な政策に明確に反対を唱えている。
彼らにとって、スカやレゲエは単なる音楽では無い。植民地主義や新自由主義、あらゆる抑圧や専制から本当の自由を勝ち取るための闘争の手段なのだ。
バンドのもう一人のフロントマン、女性ヴォーカリストのBegum Xはこう語る。
「ジャマイカとインドは共通した歴史を持っているわ。どちらもいまだに植民地時代の影響に直面しているの」
TaruのステージネームであるDelhi Sultanateというのは13世紀から16世紀にかけてデリー地方を支配したイスラム教の「デリー諸王朝」のことだ。
彼はヒンドゥーとイスラムの習俗や伝統が融合し多様な文化が栄えたこの王朝を、多様性、寛容性の象徴として自らのステージネームにしている。

彼らの闘争は、バンドでの形態にとどまらない。
次回このDelhi SultanateことTaruのさらなる驚愕の活動を紹介する。
それJAHまた! 


goshimasayama18 at 23:23│Comments(0)インドのレゲエ 

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