音楽フェス化するホーリーインドのコメディアン事情をほんのすこし紹介!

2018年03月04日

逆輸入フィーメイル・ラッパーその1 Raja Kumari

これまでに何度かインドのラッパーを記事にしてきたが、ここ数年のインドのヒップホップシーンの成長は著しいものがあり、メインストリームのボリウッドのラップだけでなく、ストリート色の強い各地のローカルなラップシーンがどんどん形成されてきている。(というのは以前書いた通り)

ところが、活躍しているのはまだまだ男性が中心で、女性ラッパーの数は非常に少なく、その数少ない女性ラッパーも、インド育ちというわけではなくて、イギリスやアメリカで生まれたり育ったりしたアーティストだ。
(インド国内でもこの現状を気にしている人がいるみたいで、こんな記事も見つけた)

今回紹介するRaja Kumariもその中の一人で、彼女はカリフォルニア生まれのテルグ系(つまりアーンドラ・プラデーシュ州あたり)インド人。
インド人といっても国籍はアメリカ合衆国なのでインド人というよりもインド系アメリカ人と呼ぶべきか。
いわゆる「在外インド人」のことをインドではNRI(Non-Resicent Indians)と呼ぶが、彼女のように外国籍の場合はPIO(Persons of Indian Origen)と呼ばれたりもする。

Raja Kumariという名前は、本名のSvetha Yellapragada Raoが発音しにくいことからつけられた名前で、サンスクリット語で"Princess"を意味する言葉だ。
Fugeesでヒップホップに出会った彼女はアメリカでラッパーとしての活動を始め、Gwen StefaniやFall Out Boy、Iggy Azaleaといった有名アーティストとのコラボレーションを経た後、活動の中心をインドに移して活躍している。
アメリカ仕込みの本場のラップやR&Bが歌える彼女はインドで引く手数多で、このブログでも紹介してきたDIVINEやBadalとの共演で注目を集めている。



確かに、都市部の若者の価値観が変わってきているとはいえ、インド生まれでこの小慣れた「ビッチ感」(褒め言葉ですよ)が出せる人材はなかなかいないだろうから、重宝されるのも納得。
一方で、やはりというか、Youtubeのコメント欄を見ると「彼女はインドの文化を破壊している」みたいなコメントもあったりする。

ソロで出している曲はこんな感じ。

格好はインドっぽいけど、曲や歌は極めてアメリカの女性ラッパー/R&Bシンガー的だ

続いての「Believe in you」では子供時代の映像も入って、インド色が大幅に増加。

アメリカのR&B側から見ると、リズムとかトラックにインドを感じるのかもしれないけど、インドの音楽ばっかり聴いている側から言わせてもらうと、やっぱり歌は完全にアメリカのR&Bのものだと感じる。

さらに曲調でもインド色をぐっと出してきた「Meera」

R&B的な歌い回しとインドっぽい歌い回しが交互に出てくる面白い曲で、最大の聴きどころは2:40頃から始まるインドのリズムとラップの融合!

欧米のアーティストとの共演はこんな感じだ。
デトロイトの女性シンガー、Janine the Machineとの共演。High Placesという曲。


カリフォルニアの女性シンガーソングライター、Eden XOとの共演。

多少ださいが気にしないで聴いていただくと、途中で1:30頃から、ここでもインドっぽい節回しの英語ラップが始まる。このラップについては後で詳述。

踊りながら演奏するフュージョンバイオリニストとして一部で有名らしい、Lindsey Stirlingという人との共演。

ビデオには出てこないが後ろのスキャットがRaja Kumariと思われ、一瞬バイオリンとの掛け合いもある。これもこういう音楽の常で曲がださいのはご愛嬌。

ソングライティングでのコラボはWikipediaから曲目のリストが見られるので、興味のある方はYoutubeなどで聴いてみてください。
ちなみにIggy AzaleaとかFall Out Boyとの共作曲は1億ビュー越えとなっている。

ところで、こうして続けて見てみると、彼女はインドでの作品ではアメリカの本場のR&B的要素を、欧米のミュージシャンとの共演ではインド的な要素を求められていて、それぞれのケースでそれが彼女の強みになっていることが分かる
さらに、彼女が「本場色」の強いラップ/R&Bを歌ってきているにも関わらず、ビジュアル的なイメージでは常に非常にインドの要素を強く打ち出していることもとても印象に残る。
ストリートっぽい格好をしているときもアクセサリーやなんかでインド色を加えていて、インドのラッパー達が、服装の面では完全に欧米化しているのとは非常に対照的だ。

DIVINEと共演している"City Slums"の歌詞では、こんなフレーズも出てくる。

I go harder than anybody 私は誰よりも強烈
Daughter of the king American dream キング・アメリカン・ドリームの娘
Phir bhi dil mein hindustani でも心はインド人のまま(※ここのみヒンディー語)
So don't misunderstand me だから誤解しないで
I do it for the people 私はみんなのために歌ってる
Yes I do it for my family, mainly そう、主に私のファミリーたちのために


"king American dream"っていうのは、自分の芸名(王の娘)とかけて、アメリカでミュージシャンとしてのキャリアをスタートしたことを表現しているんだろう。
でも心までアメリカに染まってしまったわけではないよ、心はインド人だし、インドのみんなのために歌ってるんだよ、ってことを言っている。
こうしたリリックや彼女のビジュアルイメージは、アメリカではアイデンティティの表明として、インドでは「私はアメリカ人になってしまったのではなく、あなたたちの仲間」というメッセージとして機能していると見ることもできるだろう。
というのも、アメリカに移住するインド人は、時として成功の象徴としてインドでのやっかみの対象になったり、頭脳流出として社会問題として捉えられることもあるからだ。

もっとも、彼女の「インドアピール」はマーケットのために作られたものというわけではなく、実際にアメリカ生まれながらインドの伝統を大事にする家庭に育てられたようで、このドキュメンタリーを見ると彼女のバックグラウンドがよく分かる。

とくに面白いのは1:30あたりからの部分。
彼女が幼い頃に習ったインドの伝統舞踊のリズムに英語を乗せるとラップになる!というところ。
彼女が言う通り、我々日本のリスナーにとってもSo exciting!な発見だ。
バンガロールでBrodha Vがヒンドゥーの讃歌のラップ性を見つけたのと同じことを地球の反対側から発見したとも言えるかもしれなくて、インドのヒップホップの固有性を考える上でもとても重要な視点ではないだろうか。

インドのリズムとラップのミクスチャーというのは非常に面白いテーマなので、いずれもっと掘り下げて書いてみることにします。

このRaja Kumariさん、今後インドではますます活躍することと思うけど、アメリカ生まれである彼女がアメリカに再逆輸入されて、国籍上の母国でもこの個性が評価されてほしいな、と切に願っています。

さて、今回のタイトルで「その1」と書いたけど、じつは思い当たる人は他にもう1人しかいなくて、それはイギリス育ちのHard Kaurさんという人。
それはまた別のお話、ということで、今日はこのへんで! 


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