欧米の「インド風ロック」と「インドのロック」の違いレペゼン俺の街! 各地のラッパーと巡るインドの旅

2018年02月14日

ソカ、レゲトン…、ラテン化するインドポップス

最近のインドのメインストリーム音楽の中で気になっている曲がひとつあるので今回はそれを紹介。
前々から、インドとラテン系って、いわゆるイケメンの直球的なかっこのつけ方(及び顔の濃さ)とか、リズムへのこだわりとか、似ているところがあるよなあと思っていたのだけど、ここに来て、パンジャービー語、スペイン語、英語の3ヶ国語を使ったインド製ラテンポップスというのが誕生!

これが最近のボリウッドソングでよくあるヒップホップ経由のラテンテイストとばっちり合った至極の出来!
非スペイン語圏のスペイン語ポップスというのも珍しいのではないだろうか。

それでは聴いてみてください。Badal ft. Raja Kumari, Dr.Zeusで "Vamos"
 
どうっすか?かなり違和感なくラテンにしてインドでしょう?
しかも、ヒップホップでもロックでもなんでもインド風にしてしまう彼らが、この曲についてはごくごく自然なラテンテイスト。
スペイン語の部分は「さあパーティーだ」とか「君はイケナイ女の子だぜ」とか「こっちにおいでよ」的なことを言っているだけなので、スペイン語の必然性が無いっちゃあ無くて、響きと本格的なラテン風味が欲しかったってことなんだろうか。

メインで歌ってるBadalは1995年生まれ(若い!)のシンガーソングライター。
女性シンガーのRaja Kumariは、アメリカ国籍の南インド系シンガー/ラッパーで、最近はDIVINEとのコラボレーションをはじめとして、インド国内で引く手数多の活躍をしている。
Dr. Zeusはこの中ではいちばんのベテラン。バーミンガム出身のパンジャーブ系シンガー/プロデューサーで、90年代の世界的バングラブームの頃から活躍し始め、2014年以降はボリウッドの音楽も手がけている。
アメリカやイギリスからの逆輸入組を含めた インド人3人が集まって、誰もラテン系のルーツを持っていないのにスペイン語まじりのヒット曲を出すっていうんだから面白い。(Youtubeにアップされて1週間で1,000万ビューに届く勢い!)
しかも英語こそが進歩と教養の象徴みたいに思っているインド人が、かなり大衆的な曲でスペイン語を取り入れてるっていうのに非常に驚いた。

さらに、驚いたと同時にちょっと感動した。
なんで感動したかっていうと、アタクシの非常に乏しいラテン系の音楽の知識からすると、この曲に代表されるボリウッドのヒット曲のラテンの要素って、ジャンル的にはレゲトンとかソカに近いものだと思う。
で、プエルトリコ生まれのレゲトンはひとまず置いておいて、ここで注目したいのはトリニダード・トバゴで生まれた「ソカ」だ。
trinidad-and-tobago-location-on-the-caribbean-map
 カリブ海に浮かぶ島国の中で最も南に位置するトリニダード・トバゴは、実は人口の約4割がインド系。
移民としてやってきた彼らは、奴隷として連れてこられたアフリカ系を超える同国最大のエスニック集団で、今でもこの国の人口のなんと2割弱がヒンドゥー教徒だ。 
「ソカ(Soca)」はソウルとカリプソの頭文字を合わせた造語とされるが、それだけでなく、こうした背景のあるこの島に息づくインドのリズムもブレンドされてできた音楽と言われている。
(よりインド系のコミュニティーに根ざした「チャトニー」という音楽もある。"Chutney"はインド料理でおなじみの「チャツネ」のこと)
昔のソカはインドの音楽とは似ても似つかないんだけど、ヒップホップ等を経由した今日のソカと、同じようにヒップホップやラテンのリズムの影響を受けた今日のインドのポップスが、結果的になんだかすごく似たような感じになってきている。
本国を遠く離れたカリブのインド系移民が暮らす島の音楽と、インドのポップスが、長い時間をかけて同じような方向性になってきている。
これって、「つながった!」って感じがして、ちょっと感動しませんか? 

ソカといえば、バルバドス出身のインド系シンガーRupeeのこんなスマッシュヒット(一発屋ともいう)もあった 。
 

ソカ/レゲトン系で最近のヒット曲といえばこの曲。
グラミー賞3部門ノミネートのLuis Fonsi ft. Daddy Yankeeの"Despacito". 再生回数はなんと48億回!
 
スペイン語圏を超えてヒットしたこの曲はインドにもしっかり届いたようで、こんなカバーを見つけた。

バーンスリー(インドの横笛)やタブラを用いたカバーなんだが、まず何に驚いたかって、このiPadの使い方!なんだこれ?
これだけでこの記事の他の内容がどうでも良くなるくらいの驚き!
最新のテクノロジーを使っているのに出てくるフレージングはどうしようもなくインド。ハイテクと伝統をごくあたりまえのように繋げてしまう。
iPadのこんな使い方を思いつくのはインド人だけ!
日本で雅楽やってる人で、iPadでひちりきみたいな音出そうって思う人絶対にいないもん。
カバーやiPadの使い方のアイデアの面白さだけじゃなくて、1:40くらいからの本気出してバカテクになるところも凄い!

インドの人たち、よっぽどDespacitoが気に入ったようで、この曲をインド人がカバーしているやつを探すと、とにかくいろんなバージョンがヒットする。
君たちいったいどれだけこの曲好きなんだ。続いては学生ノリが微笑ましいラップカバー!
 
楽しそうだなー。
みんなけっこう歌上手いし。
ラテンものに北インド的歌い回しがハマるってことを再認識させられる出来だ。

さらに正統派(?)のパンジャビ語カバー! (曲は40秒くらいから)
 
あれ?これがオリジナルだったっけ?これなんてボリウッド映画の曲だっけ?って言いたくなるほどのしっくりきてる!
最初に書いた「インドとラテンのイケメンのかっこつけ方が同じ」って話もこのビデオを見ていただければ誰でもご理解いただけるでしょう。

最後にお届けするのはインストのこのバージョン!

タブラが入ってるのは最初に紹介したのと同じだけど、ハルモニウムとギターに歌(1:40あたりから)が入るととたんにロマっていうかジプシーっぽいノリが出てくる。
そういえば フラメンコで有名なロマの人たちも、もともとのルーツはインドのラージャスタンあたりと聞く。
ってことは、西のスペインと東のカリブ、スペイン語圏がインドをキーワードに西と東でつながったってことだ!
そういえば、最初に見た"Vamos"のRaja Kumariもフラメンコっぽい格好していたし。

と、思いっきり妄想とこじつけによるものかもしれないけれども、インドから東西のスペイン語圏がつながった!っていうのがすごく面白いと思った次第でございます。

インド系はヒンドゥー、スペイン系はカトリックと、セクシー系にかっこつけてるくせに宗教的にはけっこう保守的なところも似てると言えば似てる。
人口の増加率を考えると 、21世紀はインドとラテン系の世紀になるかもしれないよ。

訂正と追記(2019年4月3日)
もとの記事を書いてから1年以上たった今、この記事の誤解に気がついて訂正します。
書き出しに「最近のインドのボリウッド音楽の中で気になっている曲がひとつあるので」と書いていましたが、"Vamos"は映画音楽ではありませんでした。
たぶん、最初に書いたときに、かなりお金がかかったプロダクションと映像だったので、無意識のうちにボリウッド音楽だと誤解していたものと思います。
なので、「ボリウッド」の部分を「メインストリーム」に訂正しました。

言い訳をすると、90年代頃から、インドでは、映画音楽でもインディー音楽でもない、非映画音楽の商業音楽というのが少しずつ大きくなってきて、今に至ります。
このブログで紹介したアーティストだと、Anushqa(「新世代R&Bクイーン、Anushqa!」)なんかがその範疇に入ります。
インドのサブカルチャー系のメディアは、基本的に非映画音楽であってもメジャーよりのものをあまり載せない傾向があるので(日本もそういうところ、あるよね)、あまりそっち系で名前を見かけないこの楽曲はてっきり映画音楽なのかと思ってました。

このへんの音楽も、かなり手の込んだ面白い楽曲(世界的な流行とインド文化の融合的な)が多いので、いずれもっと紹介してみたいと思います。

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