インド少数民族アート・ミーツ・ブルース!!「Brer Rabbit Retold」Yeh mera Bombay, not Mumbai!

2018年01月08日

ムンバイのHip Hopシーンを代表するスラム出身のラッパー DIVINE

さてさて、本日紹介しますのは、ムンバイを代表するラッパー、DIVINEさん。

以前紹介した通り、インドはデリー、バンガロール、ムンバイと街ごとにカラーが違うシーンがあるのだけど、DIVINEさんはムンバイを代表するラッパー。
おさらいするとムンバイのシーンはエンタメ色、アート色よりもかなりストリート色が強いのが特色。

まずはレペゼンムンバイって感じのこの曲から!



かっこいい!

この曲は2014年にRolling Stone India誌でベストビデオに選ばれたとのこと。
Yeh mera Bombayっていうのは、「This is my Bombay」って意味。

ご存知の通りボンベイはアタクシの名前にもさせてもらっているインド最大の都市ムンバイの1995年までの名前。
この曲に出てくるムンバイは高層ビルが並ぶ超近代的なオフィス街やオシャレ都市ではなく、貧しい人々が暮らす下町エリアだ。
高級スーツを着たビジネスマンでもボリウッド俳優でもなく、チャイ屋のオヤジとか、通りに面した床屋の客とか、オートリクシャーの運転手なんかが「これが俺のボンベイだぜ!」と連呼する。

ヒンディー語、偉そうなこと言っているくせにに全然分からないんすけど、この曲に関しては英語に翻訳しているサイトがあった。

このサイトの通りだとすると、拙い訳ですが歌詞はこんな感じ。


 (ヴァース1)
 俺の真実は道端の塵に隠れている
 新しい1日 だが通りはいつもと同じ
 このあたりには花も咲かない イバラが繁るだけ
 自分のプライドを売り渡すよりもストリートで生きていたい
 俺はこの街と結婚したんだ この街角が俺の恋人

 (ヴァース2)
 俺を傷つけてみな どうせ届かないだろうけど
 お前が従業員なら雇ってるのは俺の友だち
 俺の言葉こそ この炎が燃え上がる理由
 最近じゃ俺はゴヴィンダのポット※みたいに爆発寸前
 俺の母さんを馬鹿にしたら張り倒すぜ

 (ヴァース3)
 このジャングルの陰の部分
 ここじゃ政治家はヤギの群れの中の畜殺者
 俺たちは自分たちのための戦士
 救い主とは名ばかり ここじゃ警官はチンピラと同じ
 これが俺のボンベイ 誰もがそう言う

 (ヴァース4 英語)
 ここがバッチャン※2の住む街 テンドゥルカール※3もプレイしてる
 アンバーニーの※4金もある 芝居じゃない本物のスラムドッグ
 テロリストの攻撃だってあるが
 俺たちは街を再建するだけ 競技場のジャマイカ人※5よりも速く
 ハトの群れ 道路の窪み ヤシの木陰
 俺は日曜日のチキンみたいにスラムに住んでる
 クリケットやってる奴らの代表
 とにかく金を手にするために必要なことをするだけ

 (ヴァース5)
 もし本を手にしていないなら 手には自分自身の気持ちを持ってるってこと
 この国の王様 この街にはタージ※6がある
 食えなくてもいいって奴もいる 友だちはみんな仕事を持ってる
 若いの、ここじゃ誰もが成功を望んでる
 線路、おばあちゃんの杖、オフィスの蜘蛛、スラム街、オートリクシャー
 この街みたいな場所は他にない
 信じないなら誰かに聞いてみな

 俺はこの街を愛している 名前を変えたって 昔と同じボンベイさ


※1どうやらムンバイのお祭りで行われる組体操みたいなものみたいです  
※2 名優アミターブ・バッチャン。
※3 クリケットの大スター選手
※4 ムケーシュ・アンバーニー。インドの実業家。フォーブス誌による世界長者番付の2008年度版で第5番目の長者になったインド最大の民間企業であるリライアンス・インダストリーズの会長。
※5 ウサイン・ボルトのことと思われる。
※6 ムンバイの歴史ある超高級ホテルのタージ・マハル・ホテルのこと。アグラの霊廟タージ・マハルの名を冠したこのホテルはイギリス統治下のボンベイで、インド人であることを理由にホテルへの宿泊を断られた大富豪ターターが、それならば自分でホテルを作ろうと建設した。



ところどころ訳が意味不明なのは、韻を踏むためか、俺の英語力不足のせいだと思う。
問題だらけの街だけど、ここが俺の故郷なんだぜ、っていう街への愛着を歌った曲。

あえてボンベイと昔の名前を使っているのはリズムに乗せやすいからかな。
途中でボンボボンボンボボンベーイ!(カタカナで書くと超間抜け)っていうキメが出てくるけど、ムンムムンムンムムンバーイ!じゃ締まらないもんね。
最後のヴァースは自身の生い立ちのことと思われる。


続いては2016年のこの曲!



こちらもヘヴィーなトラックでかっこいい!

ヒンディーの部分は分からないけど、I was raised in the gutter, I know what is hunger, I’m the voice of the streets ってところから、ストリートで育ってきたことを歌っているものなんじゃないかと思います。


続いて他のアーティストとコラボしている曲をいくつか紹介!



これは同じくムンバイのラッパーNaezyとやってる曲。
ビデオはYeh mera Bombayと同じムンバイの下町練り歩きパターンで、地元意識の強いひとなんだなと思う。

Naezyはいつかきちんと紹介したいムスリムのラッパーです。



こっちはアメリカ生まれのインド系シンガー、Raja Kumariとの共演。
彼女もとても面白い存在なので、いずれ紹介します!


DIVINEの本名はVivian Fernandes.

本名が西洋風の名前なのはクリスチャンの家系だからで、DIVINEという名前も敬虔なクリスチャンであることが理由で名乗っているそうだ。
ムンバイのアンデリー(Andheri)という地区のスラムで生まれ育ち、家庭環境はというと、小さい頃に父親が出て行ってしまい、母と兄は海外に出稼ぎに行っていたため、祖母に育てられたという。

学校の友達が50 centのTシャツを着ていたことがきっかけでラップに興味を持った彼は、祖母のCDプレイヤーで50centやEminemのCDを聴いてラップを覚えた。
やがてアメリカのクリスチャンラッパー、Lecraeが神についてラップをしているのを聴いて衝撃を受け、自分でも同様のラップを作り始めたのがキャリアのスタートとなったようだ。

最初は英語でラップしていたが、やがてヒンディー語に切り替えてスタイルを確立した。
ムンバイのあるマハーラーシュトラ州の公用語はヒンディー語ではなくてマラーティー語だけど、彼の育った地区ではヒンディーが話されていたようで、このへんは多言語国家インドの大都市ならではと言える。

友達が次々と安定した仕事につく中、ラップを続けていた彼はソニーと契約を結び、スターへの道を歩むこととなった。

これは大会場でのライヴシーンもある2017年のミュージックビデオ。
でもあいかわらず下町練り歩きもしているけど。



最近ではトラックメーカーNucleyaとコラボしてPaintraっていうボリウッド映画の曲もやっている。



インドでは、「メジャー」イコール「映画の曲」みたいなところがあるから、ムンバイのスラムからHip Hopドリームを叶えたってことなのかもしれない。


締めは、インドのウェブサイト、VERVEのインタビューから、DIVINEのこの言葉で。

“Hip-hop is a lifestyle and you can embody it through dance, by making music or through the console, using any language that comes naturally. Being a fan or a manager or writing about it makes you a part of the movement too. It doesn’t matter how you contribute to the culture as long as you do what feels right to you.”

−ヒップホップは生き方だ。ダンスでも歌や演奏やDJでも、自然と湧き上がってくるどんな言語を通してでも、誰もが具体化することができるんだ。ファンになることや、マネジメントに関わることや、ヒップホップについて書くことでもこのムーブメントの一部になることができる。自分にとって正しいと感じることをする限り、君がこのカルチャーにどんなふうに貢献してるかなんてことは関係ないのさ。


(追記)
DIVINEが育った場所がスラムだといっても、ムンバイの最底辺の環境というわけではない。
ラジカセすら持てない家族、屋根も壁もない路上で暮らす人々、学校にも通えない子どもたちも大勢いるわけで、貧しい環境であることは間違いないだろうが、さらに下の境遇がいくらでもいるのがインドの大都市だ。
彼らがラップなりロックなり、自分の言葉で自分の思いを世の中に吐き出せる日がいつか来るのだろうか。

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