2022年04月27日
突然変異? プログレッシブ・ドリームポップ Coral と Ruhdabeh
インドのインディーミュージックシーンは、その歴史の浅さに反してかなり多様である。
文化の多面性や爆発的な成長の勢いが、そのままシーンに反映されているのだ。
インドには、自分たちの伝統と西洋音楽を巧みに融合した「フュージョン」スタイルのアーティストもいれば、言われなければ南アジアのバンドだと全く気がつかない洋楽的なポップスを演奏しているアーティストもいる。
そのなかには、洋楽風ではあるが欧米にもなかなかいないような、ユニークな音楽をやっている人たちもいる。
今回特集するのは、まさにそういう突然変異的なアーティストたちで、あえてジャンル分けするならば「プログレッシブ・ドリームポップ」と呼べるようなアーティストを2組紹介したい。
まず1組目は、ムンバイを拠点に活動しているThe Second Sightだ。
もともとフォークっぽい音楽を奏でる男女2人組として出発した彼らは、今では4人編成のバンドとなり、それに合わせて音楽性もますます複雑化。
最近ではメディアにオルタナティブ・ソウル/R&B/フォーク/ジャズ・フュージョン・グループという全部盛りラーメンみたいな肩書きで呼ばれる存在となった。
例えば昨年11月に発表した彼らの現時点での最新アルバム"The Coral"収録の"Poison"はこんな感じだ。
浮遊感のあるメロディーやハーモニーはドリームポップっぽいのだけど、途中で複雑なリズムアレンジやドラマチックな展開があるところはプログレッシブ・ロック的。
それでも全体の質感はあくまでフォーク風の心地よさを持っているという、なんとも不思議なサウンドだ。
かと思えば、この"Fragile"ではベルベットのようにスムースなジャズポップを披露する器用っぷり。
変幻自在な音楽性を見せる今作のテーマは、気候変動、同性愛嫌悪(に対するプロテストということだろう)、ソーシャルメディア上の争い、メンタルヘルスと幅広く、メンバー以外にもRANJ(ベンガルールを拠点に活動する女性シンガー)、Warren Mendonsa(Blackstratbluesの名義で活躍するムンバイのギタリスト)、Princeton(ムンバイのラッパー)らが参加している。
個人的には、もうちょっとエッジの立った音色にしたほうが、さらに個性が際立ってかっこいいように思うのだが、いずれにしても彼らが唯一無二の音楽性を持つ面白いアーティストなのは間違いない。
彼らがこれからインド国内で、そして海外で、どんなふうに評価されてゆくのか、非常に楽しみな存在である。
続いて紹介するアーティストはRuhdabeh.
バンドではなく、ソロの女性シンガーだ。
この不思議な響きのアーティスト名は、10〜11世紀に成立したぺルシアの叙事詩『シャー・ナーメ』に登場する姫(ルーダーベ)の名前のようだが、今でも一般的に使われている名前っぽいので、単にファーストネームをそのまま使って活動しているのかもしれない。
彼女の柔らかくも一筋縄ではいかない音楽センスは、たとえばこの"Of Love"を聴いてもらえばすぐに分かるだろう。
彼女もムンバイを拠点に活動していて、2022年の2月にファーストEP"Dissonance and Peace"をリリースしたばかり。
プロフィールによると、Phoebe Bridgers, The Japanese House, Troye Sivan, Patrick Wilson, dodie, Lizzy McAlpine, AURORA, Billie Eilish, Mitski, Bruno Major, Billie Marten Simon & Garfunkel, Adele, Harry Stylesらの非常に多様なアーティストからの影響を受けているそうで、正直にいうと彼女が名前を挙げたアーティストを半分も知らないが、この夢見心地なサウンドはそれだけ複合的なバックグラウンドから生まれているということなのだろう。
このアルバムの収録曲では、叙情的な美しさをたたえたこのフォークポップもなかなか素晴らしい。
"feels like eternity".
以前も書いたとおり、インド国内で洋楽的サウンドの英語ポップスを歌っているアーティストは、ローカル言語で歌うアーティストに比べて苦戦している傾向がある。
英語が得意な人が多いインドでも、やはりポピュラー音楽は母語で聴きたいという人が多いのだろう。(このあたりの事情は、日本とも似ているのかもしれない)
彼女たちのような洋楽的な個性は、むしろ海外のマーケットでこそ評価される可能性を秘めていそうだ。
問題は、こうしたサウンドを好む海外のリスナーが、なかなかインドのアーティストまでチェックしないということで、Ruhdabehなんて、Spotifyの再生回数はまだ1,000回以下だし、YouTubeでの再生回数はたったの数十回だ。
いくらなんでも、ちょっともったいなさすぎる。
世界が彼女たちの存在に気づいた時に、「遅いよ!」と言える日が来るのだろうか。
別にそう言いたくてインドのアーティストを推してるわけじゃないんだけどさ。
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「軽刈田 凡平(かるかった ぼんべい)のアッチャーインディア 読んだり聞いたり考えたり」
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goshimasayama18 at 22:48│Comments(0)│インドのロック