2021年04月

2021年04月26日

驚愕のサウンドトラック・メタル! Friends from Moonの壮大すぎる世界!



インドはメタル大国である。
鉱物資源の話ではない。
音楽のヘヴィメタルのことだ。(音楽ブログなんだから当たり前か)

ボリウッド映画や古典音楽やヨガのイメージからは想像しづらいかもしれないが、経済発展とグローバリゼーションの果実のひとつとして、インドでは多くのメタルバンドが結成されている。
そのなかには、GutslitやGirish and the Chroniclesのように、かなりレベルの高いバンドも存在している。




前述の2バンドや、Kryptos, Systemhouse33, Demonic Resurruction, Amorphiaのように、海外ツアーを行うバンドも出てきているものの、単独で(インド国内においても)ホールやアリーナを埋めることができるようなバンドは、まだ登場していない。


その理由は単純だ。
欧米のバンドがリードしてきたヘヴィメタルシーンでは、インドや日本を含めたアジアのバンドのスタイルは、既存のジャンルの模倣になりがちだ。
どれだけ演奏技術が高く、楽曲が良くても、オリジナリティが低ければ、カリスマ的な人気を得ることは難しい。

ヘヴィメタルシーンにおいてアジアのバンドが注目を集めるためには、欧米のバンドにはない個性を打ち出すことも有効だ。
つまり、自国のユニークな文化をサウンドに持ち込むことで、オリジナルなスタイルを打ち出すことができるのだ。
日本で言えばBabymetal、インドでもSitar MetalやBloodywoodが、その手法で注目を集めることに成功している。


そんな世界とアジアのヘヴィメタルを取り巻く状況のなかで、インドから、ステレオタイプなインドらしさをまったく打ち出すことなく、完全に新しいジャンルを生み出すことに成功したバンドが登場した。

その名は、つい先頃デビューEP "The Spectator"をリリースしたFriends from Moon.
「バンド」と書いたが、Friends from Moonの実態はデリーのヒンディー・メタルバンド(英語ではなくヒンディー語で歌うメタルバンド)AarlonのギタリストRitwik Shivamのソロプロジェクトである。

Friends from Moonの音楽的特徴を一言で表すなら、まるで映画音楽のような壮大なサウンドをヘヴィメタルに取り入れた「シネマティック・メタル」もしくは「サウンドトラック・メタル」と呼ぶのがふさわしいだろう。
これまでも、シンフォニックな要素を効果的に取り入れたメタルバンドは少なからずいたが、それでもFriends from Moonのサウンドが前例のないものであることは、デビューEP"The Spectator"のオープニングトラック、"A Hope Forever"を聴けば簡単に分かるはずだ。


ストリングス、ブラス・セクション、ピアノが織りなすドラマティックなサウンドは、まるでSF映画かファンタジー映画のサウンドトラックを思わせる。
ネタばらしをしてしまうと、この8分にわたる大曲は、なんと最後までメタルの要素が一切ないまま終わってしまう。
これまでもアルバムの1曲目にSE的な「序曲」を入れるバンドは珍しくなかったが、ここまで大仰かつ本格的な「序曲」は50年に迫るヘヴィメタルの歴史上、初めてのことだろう。

満を辞して、2曲めの"Saruman the Black"で怒涛のメタルサウンドが披露される。

シネマティックなイントロに続いて、怒涛のメタルパートに雪崩れ込むが、1曲めからの流れで聴くと、この凶暴なメタルサウンドも、激しさを表現する音楽的演出のひとつとしてすんなりと受け入れられるのではないだろうか。
デス声ではなくクリーンな声で歌われるパートが、典型的なメタルのスクリームではないことも、彼らの音楽の聴きやすさにつながっている。
"Saruman the Black"はトールキンの『指輪物語』("The Lord of the Rings")の登場人物にちなんだタイトルとのこと。
この曲にはイタリアのGabriele Paolo Marraによる一人ブラックメタルプロジェクトHowling in the Fogが参加している。

3曲目の"Salton Sea"はプログレッシブ・メタル的な変拍子を導入した曲。
この曲にはAarlonを含む複数のバンドで活動していたヴォーカリストのPritam Goswami Adhikaryが参加。
Salton Seaとはカリフォルニア州に位置する塩湖の名前のようだ。


EPの最後を飾る"We are the Drifters"は静かなピアノの響きから始まる。

再びヘヴィメタル的の要素を排したこの曲で、彼らのデビューEP、"The Spectator"は幕を閉じる。
4曲のみながら、28分のボリューム。
Spectator(観客/目撃者)というタイトルの通り、リスナーはFriends from Moonのサウンドが紡ぐ物語的な世界にただただ身を浸し、圧倒されることになる。

このあまりにも特異な作品が登場したことに、世界はまだほとんど気付いていないようだが、このアルバムは今後いったいどのような評価を受けるのだろうか(それとも気づかれないまま終わってしまうのか)。
いずれにしても、Ritwik Shivamがこれまでにないジャンルの扉を開いたことは間違いない。
彼らが今後どんなサウンドを展開してゆくのか、興味は尽きない。


参考サイト:
https://www.rsjonline.com/reviews/friends-from-moon-is-excitingly-cinematic-on-debut-ep.html

https://rollingstoneindia.com/reviewrundown-march-2021-project-malabaricus-drastic-naman-winterchild/


 

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2021年04月18日

日本人によるヒンディー語のオリジナル・インド古典フュージョン! Hiroko & Ibex "Aatmavishwas -Believe In Yourself-"



前回の記事「日本語で歌うインド人シンガーソングライター」 Drish Tの反響が非常に大きかったのだが、今回は逆方向から同様の衝撃を与えてくれる楽曲を紹介したい。




以前、"Mystic Jounetsu"(『ミスティック情熱』)でコラボレーションしていたムンバイ在住の日本人ダンサー/シンガーHiroko Sarahとムンバイのヒップホップシーンの創成期から活動するラッパーのIbexによる新曲"Aatmavishwas -Believe In Yourself"は、なんと全編がヒンディー語で歌われている。
つまり、今回は「ヒンディー語で歌う日本人シンガーソングライター」の作品というわけだ。
さっそくミュージックビデオを見ていただこう。



前作のIbexによる日本語混じりのラップも衝撃だったが、今回はそれを上回る衝撃!
歌詞のこと、古典音楽の要素をふんだんに取り入れたアレンジのこと、ミュージックビデオのダンスや衣装のこと、気になることがありすぎる!
ということで、コロナウイルス感染者の急増により、再びロックダウン下にあるムンバイのHirokoさんに、インタビューを申し込んでみた。

Hirokoさんとは、最近では昨年11月のインドのヒップホップを紹介しまくるオンラインイベント'STRAIGHT OUTTA INDIA'で共演しているものの、インタビューは昨年5月のロックダウン中にリリースされた楽曲の特集以来。

前回のインタビューもロックダウンの真っ最中だったので、Hirokoさんに「ロックダウンを呼ぶ男」とか言われつつ(笑)、新曲の話題を中心にいろいろと話を伺った。


ー新曲の"Aatmavishwas -Believe In Yourself-"はまた新しい方向性の作品になりましたね!
制作の経緯を教えてください。

「以前からインド・フュージョンの楽曲やヒンディー語の歌の作品を制作したいと思っていたんですが、ようやく形にできました!
なんとなくインストはこんな感じにしたいというイメージがあって、そこからまずボーカルメロディーを作曲しました。実は最初はテンポがゆっくりめのIndian Fusion R&Bのつもりで作曲していたのですが、歌詞を書いたら予想外にパワフルになったので、BPMを上げてアップテンポなダンスナンバーに仕上がりました。
タブラのビートも入れることは決めていたのですが、せっかくだからインド古典音楽の要素を入れてみようと思って、こういう形になりました。
カタックダンサー(古典舞踊のひとつ。Hirokoは今年カタックダンスのB.A. 学士を取得した)としてのインド古典音楽へのリスペクトもあって、今回タブラは現代音楽風にアレンジはせず、古典要素をメインに取り入れることにしたんです」

ロックやダンスミュージックなどに古典音楽の要素を取り入れた音楽は、インドでは「フュージョン・ミュージック」と呼ばれている。
日本の伝統音楽と現代音楽の融合にも言えることだが、こうした「フュージョン」は、よほどセンスよくやらないと、逆にダサいものになってしまうというリスクを孕んでいる。
とくに、今回はダンスホール的なリズムにヒンディー語の歌とラップ、さらにはタブラのビートまで乗るという盛り沢山の作品だ。


「Ibexにはラップで参加してもらうことを最初から決めていましたが、彼のシグネチャースタイルであるダンスホールのビートを取り入れて、古典のタブラビートと合わせてアレンジしたら面白いなと考えました。
タブラの他に、シンセサイザー音源ですがインドの打弦楽器サントゥールも取り入れています。イントロや私のボーカルパートのインストに入っているこのサントゥールの美メロがお気に入りです。
サントゥール部分は、ムンバイ在住のサントゥール奏者の友人Takahiro Araiくんに聴いてもらい、アドバイスをもらいました。
アドバイスをもらったのは『ラーガ(インド古典音楽の旋律を構築するための規則)に基づいたメロディーにするべきか』というポイントで、『この曲は古典音楽ではなくフュージョンなので、ラーガを気にせず独創的にすればよいのではないか。ラーガを気にするあまり野暮ったい音楽になってしまう可能性もあるし』という結論になりました。
ボーカル、ラップ、ダンスホールのドラムビート、タブラ、サントゥール、ベースと、要素だけ見るとこれでもか!ってくらい色々入ってるんですよね。バランスにはすごく気をつけましたが、これでもか!くらいがインド的なんですよ(笑)」

それぞれのサウンドの良さを最大限に引き出しつつ、お互いがぶつからないように相当意識したそうで、ミックスやマスタリングにはかなりこだわったとのこと。
日本のサウンドエンジニアのAki Ishiyamaさんに何十回とリテイクをしてもらい、ようやくこのサウンドが完成したそうだ。

こちらはアドバイスをくれたというムンバイのTakahiro Araiさんのサントゥール演奏の映像。


インドの古典音楽や古典舞踊は一生をかけてその真髄を追求しなければならないほどに深みのあるものだが、Hirokoさん同様、現地に住んでまでその道を追求する姿勢には尊敬の念を抱かざるを得ない。
それにしても、古典のみならず、ラッパーとの共演やフュージョンにも果敢に取り組むHirokoさんのいい意味での異端っぷりは際立っている。


ーこれまではHirokoさんが日本語で歌ってIbexが英語でラップしていましたが、今回は全てヒンディー語ですよね。Hirokoさんにとってヒンディー語で歌うことは新しいチャレンジだったと思いますが、ヒンディー語での作詞やメロディーに乗せることなど、苦労した点やとくにこだわった点はありますか?

「カタックダンスの師匠とお話しする時はヒンディー語なので、 以前からプライベートレッスンでヒンディー語は学んでいました。以前ライブでボリウッドのヒンディー語ソングのカバーを歌ったことはありますが、自分で作詞したのは初めてでした。
歌詞はまず英語で作詞してから、ヒンディー語に訳しました。ヒンディー語の歌詞をリズムに乗せるのは、あまり難しくなかったです。どの言語でも、歌詞をリズムに乗せるのが楽しくて好きなんです。
こだわった点は、ラップではないけれど、歌詞のほぼ全体で韻を踏むようにしたところです。
インドの人ってたぶん韻を踏むのが好きなんだと思うのですが、インドでは、ラップ以外の歌の歌詞や詩などでも韻を踏んでいるものが多いんです。響きも綺麗ですしね。
苦労したのは発音です。
ヒンディー語は喋るのも難しいですが、メロディーとリズムに乗せながら発音まで意識するのは難しくて、毎日家で歌って録音して、それをIbexやヒンディー語の先生にチェックしてもらって、また直して、を繰り返しました。
日本語だとわりと柔軟性があるというか、『あなた』を『あーなーたー』と歌っても違和感なく、意味が通じますよね?でも、ヒンディー語は微妙な発音の違いで意味が変わったりするので、例えば『सोचते(考える、思う)』の発音は『ソーチテ』で、リズム重視で『ソチーテ』と歌ってしまうとインドの人には違和感があるようで、そこを指摘されました。
その後、歌詞に『सोचते』が入った曲ばかり聴いて研究しました(笑)」


ーサウンドについても、タブラが大胆にフィーチャーされていて、かなり古典テイストを入れてきていますよね。とくにタブラは非常に印象的です。タブラ奏者のGauravにはどんなリクエストをしていたのでしょう?

「Gauravには、とにかく現代アレンジはせず、古典(セミクラシカル)テイストのタブラビートにしてほしいと依頼しました。
あと、基本のリズムはTeen taal(16拍子)でとお願いしました。ドラムのビートがダンスホール・スタイルで変則的に入っているので、Teen Taalの四つ打ち的リズムが合うという確信があったんです。
最初にGauravからあがってきたサンプルが、なぜかKeherwa taal(8拍子)ベースだったのですが、聴いてみたらインストのドラムのビートと似ていて、多分合わせてくれたんだろうなぁと思ったのですが、それだとタブラのビートがかき消されてしまうので、そこはTeen taalにしてとお願いしました。
あと、Ibexのラップがパワフルなので、そこからのトランジションにパワフルなタブラパターンを入れてもらいました。
また、一番のこだわりはイントロのTihaiと、中盤のタブラソロとBolです。ここは思いっきり古典の雰囲気を出して、ミュージックビデオでは私もカタックダンスを踊ろうと考えました」


タブラ奏者はGaurav Chowdhary.
Hirokoさんの『負けないで』のカバーにも参加していたものの、本格的なフュージョン作品への参加は今回が初めてだったという。
低音を支えるダンスホール・レゲエのビートと、高音域を中心に細かいリズムを刻むタブラの音色の立体的な融合がこの曲を際立たせている。

'Tihai'と'Bol'については、少し説明が必要だろう。
Tihaiというのは、北インド古典音楽のリズムのキメの部分で使われる技法で、恥ずかしながら何度聞いてもよく理解できないのだが(なんとなくは分かる)、Hirokoさんいわく「Tihai(ティハイ)は北インド古典音楽で、あるひとまとまりの完結を表すもので、同じコンポジションを三回繰り返してから、サム(一拍目)で終わるもの」とのこと。
「このページの解説がわかりやすくて面白い」とHirokoさんにこのリンクを紹介してもらったのだが、分かったような、分からないような…。
 

'Bol'とは、タブラで用いられる「口で発するリズム」のこと("Aatmavishwas"では2:20からの部分で取り入れられている)。
タブラの音色は全て、'Dha'とか'Na'とか'Tin'といった声で表現することができる。
タブラ奏者は師匠から口頭でリズムを教わって修行し、自分の叩くリズムを全て声でも表現することができるのだ。
Bolで表現したリズムをその通りにタブラで叩くパートはタブラ演奏の見せ場のひとつで、この曲のソロはまさにそうした構成になっている。

タブラとの共演について、ラッパーのIbexに聞いてみた。

ータブラのビートに乗せたラップのフロウがすごくナチュラルに聞こえますが、特に気をつけたとこはありますか?

「そうだな、この(ダンスホールの)スタイルは俺のオリジナルなラップ・フロウで、自分の感覚や気持ちをリリックといっしょにビートに乗せるようにしている。この曲でも同じように、俺のフロウが自分のシグネチャー・スタイルである(ダンスホールの)ビートにばっちりはまったんだ」

ーインドにはダンスホールっぽいフロウでラップするラッパーはほとんどいないと思うのですが、ヒンディー語でダンスホールっぽくラップするのは難しいのでしょうか?

「ダンスホールには独特のヴァイブがあって、インドで次に来る流行になるだろうね。俺はショーン・ポールとかスノーみたいなアーティストを聴いてラップを始めたから、ダンスホール・フロウは自然と出てくるんだ。でもダンスホールやレゲエのフレイヴァーに合わせてヒンディーでトースティング(レゲエ版のラップ)をするラッパーは少ないね。
ダンスホールはヒップホップのラップのフロウに比べて、メロディーの要素が多いから、より難しいのは間違いないと思う。言葉をひねったり、工夫したりしなきゃならないから、より作るのが複雑になるんだ」

ダンスホール・レゲエやレゲトン風のビートは、アンダーグラウンドからメインストリームまで、インドのヒップホップでも広く導入されているが、Ibexの言葉の通り、ダンスホール風のフロウを披露するラッパーは意外にもほとんど見当たらない。
Ibexは2月にリリースした"Mama Sitaphal"でもヒンディー語のダンスホール・ラップを披露していて、こちらもかなりクールな仕上がり。

ヒンディー語は言葉の響きもダンスホールにばっちり合うと思うし(どちらも吉幾三っぽく聞こえるときがある)、ヒンディー・ダンスホールはこれから注目したいジャンルである。

続いて、"Aatmavishwas"アレンジについて、再びHirokoさんに聞いてみた。

ーアレンジもかなり凝っていますよね。とくに、静かなイントロから始まってリズムが入ってくるところとか、ソロでタブラのBolからラップが入ってくるところが印象に残りました。どんなふうに曲の構成を考えたのでしょう?

「ありがとうございます!私のメロディーに合わせて、インストのアレンジは日本のアレンジャー PEPE BEATSさんにお願いしましたが、私がMusic Directorとして曲全体の構成を考えました。
まず私のボーカルパート(メインコーラス、ヴァース、ブリッジ)のメロディーを完成し、その後にIbexラップパートを入れ、メリハリをつけるため間にBolとタブラソロ、という感じに構成していきました。タブラ奏者のBolとラップは似ているところもあって、掛け合いは絶対面白いなと思ったので、Bol→タブラソロ→ラップという流れにしました。
静かなサントゥールのイントロから始まって、アップテンポになるところもこだわりましたね。
また、イントロに入っているタブラのTihaiですが、カタックダンスでも曲の最初にあのようにTihaiが入るんです。
インド古典音楽や舞踊界隈の方なら『おっ』と思っていただけるかも」
 
 
ー歌詞の内容についても教えてください。訳を読む限り、かなりポジティブなメッセージですね。

「タイトルの"आत्मविश्वास Aatmavishwas"は'self confidence (自信)'という意味のヒンディー語で、 歌詞は私とIbexの実生活での経験を紡いだものです。
人生で似たような経験をした人や困難な状況にある人達に勇気を与えるパワフルな歌詞になっています。
  
'自分を信じて。
自信をもって、あなたのままでいて。
あいつらが何を言おうがどう思おうが気にしないで。
誰もあなたに強制はできない。
誰もあなたを変えられない。
だってあなたはパーフェクトだから'
(※メインコーラスとヴァース部分より)

実はこの歌詞を書いた時、私はとある人から精神的ハラスメントを受けていて、ストレスから身体を壊して自宅で二週間くらい寝込んでいたんです。
だいぶ身体が回復してきた頃に、いきなりぱーっと歌詞が降ってきて一気に書き上げました。
書き上げたら気分がスッキリして、前へ進むぞー('आगे बढ़ो Move ahead'. このフレーズはこの曲のリリックでも使われている)という気持ちになり、そこからはストレスも無くなっていきました。
私が歌詞を書く時は、なぜか気分が落ちていたり大変な出来事があった時が多くて(笑)、ネガティブな感情を昇華して歌詞を書く感じなんです。」


YouTubeの字幕をONにすると、日本語や英語でも字幕を見ることができるので、ぜひ映像やメロディーといっしょに歌詞も味わってみてほしい。
歌詞はこのサイトでも翻訳つきで読むことができる(https://genius.com/Hiroko-and-ibex-aatmavishwas-believe-in-yourself-lyrics)。
Ibexに、ラップのパートについても聞いてみた。

「この曲は俺たちが2人とも、本当にストレスの多いときに書いたものなんだ。俺はロックダウンの最中にこのリリックを書いた。世界中が最悪の時を過ごしていて、俺は本当に自由になりたかったし、心を開いて自分自身を取り戻す必要があった。この歌詞を書くプロセスを通して、音楽がポジティブさと希望をもたらしてくれたんだ。
このリリックを純粋な形で引き出してくるのは大変だったよ」


サウンドだけでなく、ミュージックビデオもインドらしさを感じさせつつも、非常にクールに仕上がっている。
映像へのこだわりについてHirokoさんに聞いてみた。

ー『ミスティック情熱』のときは、日本のポップカルチャーを想起させるような映像が多かったですが、今回はインドの伝統的な要素が目立ちます。映像で意識したことを教えてください。

「楽曲がインド古典の要素を取り入れていたので、映像もインドの伝統的な雰囲気を入れたいと思いました。
ただ、古典の雰囲気だけではなく、Ibexのラップパートのダンスホール・フレイヴァーや、カタックの衣装から現代風な衣装までの七変化など『どんな私も私だよ!だからありのままを見てね』というコンセプトのもと、色々なイメージの映像を入れつつ、全体的にはまとまった映像作品にすることを意識しました。
北インド風なロケーションが多いですが、実はムンバイのみで撮影しています」

ミュージックビデオで踊っているのは、Ibexの"Mama Sitaphal"にも参加しているムンバイのダンスホール・ダンサーSanikaとAditi.
二人ともダンスホールをルーツに持つダンサーだが、Sanikaは南インドの古典舞踊バラタナティヤムも学んでいるそうで、Ibexのラップ・パートではダンスホール、Hirokoさんのヴォーカル・パートではセミクラシカルと、多彩なダンスを見せてくれている。
カタックダンスのパートはHiroko、ダンスホールのパートはSanika, セミクラシカルのパートはHirokoとSanikaの共作によって振付が行われたという。


ーダンスと音楽や歌詞との関係について教えてください。

「イントロやタブラソロでタブラと一緒に踊っているのは、ピュア・カタックダンスです。
ミュージックビデオのイントロで入っているグングルー(足につける鈴)の音は、撮影中踊っていた私の本物のグングルーの音なんですよ。
また、歌の前半私のヴァースで私と二人のダンサーが踊っているのは、古き良きボリウッド映画のようなセミクラシカル・スタイルのダンスです。
古典舞踊のムドラー(象徴的な手の形やしぐさ)を取り入れつつ、アレンジした振付になっています。
例えば、
『क्योंकि आप एकदम सही हो
(Because you are perfect)
(だってあなたはパーフェクトだから)  』
という部分は、カタックダンスのアビナヤ(表示的な意味を持つ舞踊。詳しくはExcite辞書「インド舞踊」参照。https://www.excite.co.jp/dictionary/ency/content/インド舞踊/)でも使っているムーブメントを取り入れました。
このミュージックビデオでは、シンガーである私とダンサーである私のそれぞれの個性を最大限に活かすことができました」 

リリック同様に、ダンスも古典的なものと現代的なものが有機的に融合しながらそれぞれが意味を持ち、強いメッセージを発信しているのだ。
その撮影はかなりハードなものだった。
 
「撮影はムンバイの自宅から車で約3時間半の郊外にあるセットで行い、朝10時に自宅を出発して午後2時から撮影開始、夜9時半すぎまで撮影しました。その後、ハイウェイ沿いのDhaba(ロードサイドのレストラン)で皆で遅いディナーを食べて、帰宅は深夜2時半でした。
ハードスケジュールでしたが、とっても楽しかったです。
チームの皆のサポートのおかげで、撮影はスムーズに行うことができました。
特に、D.O.P.(撮影監督)のMohitとBTSフォト撮影担当のAkashは休む間もなくずっと撮影してくれていたので、かなり疲れたと思います。ちなみにフォトグラファーのAkashは、インドのラッパー Emiway BantaiやKR$NAのミュージックビデオ撮影にもいつも同行しているんですよ。
撮影日が二週間ずれていたらロックダウンで撮影できなかったので、ぎりぎり良いタイミングで撮影ができてよかったです」

完全なインディペンデントで製作されたにもかかわらず、クオリティの高い映像に驚いたが、EmiwayやKR$NAといったインドを代表する人気ラッパーのミュージックビデオの撮影にも携わるスタッフが関わっていたと聞いて納得。
それにしてもムンバイとデリーという異なる拠点を持ち、かつて激しいビーフを繰り広げていたこの2人が同じスタッフを使っているという情報にはちょっとびっくりした。



印象的な衣装にもかなりこだわったようだ。

「私の衣装は全て自前で、カタックダンスの衣装はステージで着ているものです。もともとダンサーなので衣装やインドジュエリーは色々持っているのですが、今回こだわりポイントとして、ウェスタンスタイルのジャンプスーツにインドジュエリーをコーディネートしてみました。
また、Ibexと私が一緒に登場するシーンでは、事前に打ち合わせして衣装のカラーコーディネーションをしました。
ラッパーのIbexは今回、インドの伝統的なブラッククルターに迷彩柄のスカーフでターバンを巻くという、これまでにない衣装も取り入れています。
ブラッククルターにターバンのIbexとダンスホールダンサー達のシーンはかなりクールな映像になっています。
タブラ奏者のGauravもインドの伝統的なパグリー(ターバンの一種)をかぶっており、ターバン萌えな皆様やインド映画ファンの皆様にも楽しんでいただける映像になっていると思いますよ!」


ー最後に、Hirokoさんの今後の予定を教えて下さい。

「いくつかのミュージックプロジェクトが進行中です。
Hirokoソロ(ヒンディー語)、チーム・ミスティック情熱の新曲(日本語・英語)などなど。
そして、前回の記事で紹介されていたインドで日本語で歌うシンガーソングライター Drish Tちゃんとも『コラボしたいね!』と話しています。
これからも、マルチリンガル・シンガー&ダンサーとして素敵な作品をたくさん作りたいと思います!」


すでにこの"Aatmavishwas"はインド国内のiTunesStoreのダンスミュージックチャートで2位、日本でもチャートインするなど高い評価を得ており、今後の活動にもますます期待が募る。
日本もインドもコロナウイルスが再び猛威を奮い始めており、心配は尽きないが、次回のインタビューはぜひロックダウンのない環境で行えたら…と心から願っている。




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2021年04月12日

インドで発見!日本語で歌うシンガーソングライター Drish T

日本人にとってうれしいことに、アニメや漫画といった日本のカルチャーは、インドのインディー音楽シーンでも一定の存在感を放っている。
Kraken, Komorebi, Riatsuなど、これまで何度も日本の影響を受けたアーティストを紹介してきたが、ここにきて、新たな次元で日本にインスパイアされたシンガーソングライターを見つけてしまった。

彼女の名前はDrish TことDrishti Tandel.
DrishT

ムンバイ育ち、若干20歳の彼女は、他のアーティストのように、曲に日本語のタイトルを付けたり、日本のアニメ風のミュージックビデオを作ったりしているだけではない。
なんと、彼女は日本語で歌っているのだ。

まずは彼女の曲"Convenience Store(コンビニ)"を聴いてもらおう。
(ちなみに、カタカナの「コンビニ」までがタイトルの一部だ)
 
大貫妙子を思わせる透明感のある声のキュートなポップス!
日本語の発音もとてもきれいだし、わざとなのかどうか分からないが、「忘れものはいないの?」という表現がユニークでかわいらしい。

彼女がすごいのは、この1曲だけ日本語で歌っているのではなく、「これまでに発表した全ての曲を日本語で歌っている」ということだ。
考えてみてほしい。
日本にも英語で歌うアーティストはいるが、全ての曲を日本語でも英語でもない、母語ではない言語で歌うアーティストがいるだろうか?

Drish Tは他のアーティストの楽曲にゲストヴォーカルとして参加することも多く、iTooKaPillと共演した"Portal"は、なんと日本語の「語り」から始まるエレクトロニック・バラードだ。
声質やトラックのせいもあると思うが、この曲はちょっと宇多田ヒカルっぽく聴こえる。

Animeshというアーティストとコラボレーションした"血の流れ(Blood Flow)"では、アンビエントっぽいトラックに乗せたメロウなヴォーカルを披露している。
インドの音楽シーンに突如現れた日本語シンガー、Drish T, 彼女はいったい何者なのか?
さっそくTwitterのダイレクトメッセージを通じてインタビューを申し込んでみたところ、「日本でインドの音楽のブログを書いている人がいるなんて思わなかった。喜んで質問に答えます!」とすぐに快諾の返事が来た。
それではさっそく、インド生まれの日本語シンガー、Drish Tインタビューの模様をお届けしよう。


ーまず最初に、あなたの経歴を教えてください。あなたはムンバイ在住の二十歳のシンガーソングライターで、カレッジで音楽を学んでいる、ってことであってますか?

「もちろん!私はムンバイで育ったけど、でも今はチェンナイにある、A.R.ラフマーンの音楽学校に通っていてディプロマ課程の2年目よ」

ーということは、現在はチェンナイに住んでいるんですか?

「そう。ここで学んで3年になる。でもロックダウンでみんな家に帰っていたから、最近になってやっと最終学年がスタートしたの」

ー学校が再開してよかったですね。いつ、どうやって作曲や歌を始めたんですか?

「最初は8年生(中学2年)のときにアコースティックギターを弾き始めた。叔父さんの古いギターを直したところだったから。でもすぐに歌うほうが好きだって気がついた。それで西洋風のヴォーカルを始めて、トリニティ(ロンドンの名門音楽カレッジ)のグレード5の試験を受けることにしたのよ。それから、KM音楽学院(KM Music Conservatory:前述のA.R.ラフマーンの音楽学校)を見つけて、芸術系の学校で12学年(日本でいう高校3年)を終えたあとに、ここに来たってわけ」

ーギターを始めた頃は、どんな音楽をプレイしていたんですか?

「そのころはポップ・パンクに夢中だったから、ポップ・パンクから始めたわ」

ー例えばGreen Dayとかですか?古くてすみません、あなたよりだいぶ年上なので(笑)。

「(笑) そう。6年生と7年生(中1)の頃、Green Dayの"Boulevard of Broken Dreams"がすごく人気だった。でもPanic! At The DiscoとかTwenty One Pilots, 5 Seconds To Marsの曲なんかも弾いてた!」

ーいいですね!私はGreen DayでいうとBasket Case世代でした。じゃあ、彼らがあなたに影響を与えたアーティストということですか?

「ええ。最初は彼らの曲をたくさん聴いていた。それからママの古いCDのコレクションで、ブライアン・メイとかマイケル・ジャクソンとかABBAとかQueenも!
それから、ちょっとずつ日本や韓国の音楽も聴くようになって、いまではそういう音楽から影響を受けているの!あとはカレッジの友達が作る音楽もね」

ーあなたが日本語でとても上手に歌っているので驚きました。日本語も勉強しているんですか?(ここまで英語でインタビューしていたのだが、この質問に彼女は日本語で答えてくれた)
スクリーンショット 2021-04-01 22.22.21

ーすごい!漢字もたくさん知ってますね。どうやって日本語で歌詞を書いているのですか?

「ありがとうございます(日本語で)!
日本語の歌をたくさん聴いているし、アニメとかインタビューとかポッドキャストとか、いろんなメディアを通して、言葉の自然な響きを学ぼうと努力してる。それで、歌詞を書こうと座ったら、考えなくても言葉が浮かんでくるようになった。今では日本語が私の内面の深い感情をもっともうまく表現できる言語よ。英語よりもね」

ーいつ、どうやって日本のカルチャーを見つけたんですか?

「9年生(中3)と10年生(高1)の頃、YouTuberをたくさん見ていたんだけど、ある時突然彼らが『デスノート』と『進撃の巨人』の話をするようになった(笑)。それですごく興味を持って、最初に見始たのが『四月は君の嘘』。音楽に関する話だったから。それからもっとたくさんアニメを見続けて、とても印象的で美しい言葉だから、日本語も勉強したいって思った。そういうわけで、Duolingoで独学を始めて、日本の文化に関する本もたくさん読んだ。
日本の文化でいちばん好きなのは、礼儀正しさと敬意ね。私はすべての人が敬意を持って扱われるべきだと信じているから、すぐに日本の文化に共感したの。
2019年には日本語能力試験(JLPT)のN4(4級)に合格したのよ!」

ーおめでとうございます!あなたの言ってること、分かる気がします。僕の場合は19歳のときにインドを旅して、それからずっとインドが好きなので。インドの好きなところは、活気があるところと文化の多様性ですね。僕の場合は、インドの言葉ができないってのが違うけど。勉強するべきだったかな…。

「それは素晴らしいわね!ヒンディー語はとても簡単だし、北インドで最も共通して話されている言語よ。私は南インドの言語を知らないから、今住んでいるチェンナイではちょっと苦労することもあるの」

お気に入りのアニメや日本のミュージシャンを教えてもらえますか?

「私のお気に入りの日本のアニメは、なんといってもジブリの映画!『ハウルの動く城』はお気に入りの一つよ。『ハイキュー!!』も大好き。登場人物たちを見てると、あたたかくてハッピーな気持ちになれるの。もちろん、『鬼滅の刃』『進撃の巨人』『僕のヒーローアカデミア』、最近では『呪術廻戦』もね。」

ージブリの作品はどれも素晴らしいですよね。もう『呪術廻戦』もご存知なんですね!日本では去年『鬼滅の刃』の映画が大ヒットして、次は『呪術廻戦』が来るんじゃないかってみんな話してますよ。

「ええ。『呪術廻戦』はインドでも私たちの世代にとても人気よ!
『NARUTO!』みたいなクラシックな作品ももちろん好き。
日本の音楽に関して言えば、大橋トリオ、久石譲、林ゆうき、Tempalay、Burnout Syndromes、Radwimps、米津玄師、神山羊、King Gnuをたくさん聴いているし、他にもお気に入りは大勢いる。挙げればきりがないわね(笑)」

ー(凄い…。知らないアーティストもいる…)韓国の音楽も聴いているって言ってましたよね。今ではK-Popは世界中で人気がありますが、日本の音楽と韓国の音楽の違いはどんなところだと思いますか?

「あ、百景を挙げるのを忘れてた!最近ではマスロックやプログレッシブロックもたくさん聴いているの。
そうね、K-Popはインドでも大人気よ。もちろん、BTSはとくにね。私も彼らの音楽は大好き。なによりいろんな意味で盛り上げてくれるから。でも、彼らみたいなグループはとても商業的だってすぐに気がついて、もっとインディー・ミュージックを聴くようになったの。そうね、日本の音楽のほうが、より誠実な感じがする。
あっ!なんてこと!toeとu-zhaanのことも言い忘れてた!」

ーK-Popは国際的なマーケットに向けたビッグビジネスって感じですよね。日本の方が人口が多いからかもしれませんが、日本のアーティストはもっと国内マーケット向けに音楽を作っていて、そのことがユニークなサウンドを生み出しているようにも思います。どっちのほうが良いということではなく、どちらも面白いですよね。
プログレッシブロックやマスロックが好きなら、デリーのバンドKrakenは知ってますか? 彼らも日本のカルチャーから影響を受けているバンドです。

「そう、日本の音楽はとてもユニークで、ほとんどの人がなかなかそのことを理解しないわね。でもインドの人たちも、少しずつ東アジアのカルチャーに対してオープンになってきている。
Krakenのことはちょっと前に知ったのだけど、彼らは本当にクールよ。私は日本とインドが私たちの文化を超えてつながるのが大好きなの!」

ーところで、iTooKaPill, Animesh, Ameen Singhなどのたくさんのミュージシャンと共演していますよね。彼らのことは知りませんでしたが、とても才能があるミュージシャンたちで驚きました。どうやって彼らと知り合って、コラボレーションすることになったんですか?

「ああ(笑)、彼らはミュージックカレッジの同級生なの。ここでたくさんの面白くて才能のある人たちと会えて、素晴らしいわ」

ー最高ですね。ところで、これまでずっと日本語で楽曲をリリースしてきましたが、インドの人々のリアクションはどうでしたか?彼らにとっては、意味がわからない言語だと思うのですが。

「そうね。実際、私の音楽をリリースすることにはためらいがあったんだけど、でもK-Popもインドで人気があるし、人々が新しい文化やカルチャーを受け入れるようになってきたって気付いたの。それで、みんなが歌詞を理解できるように、リリックビデオを作ったのよ。みんなのリアクションには、とても満足してる。日本語で歌っているから、音楽業界のインフルエンサーたちも注目してくれた。インドではとても珍しいことだから!」

ー『コンビニ』みたいな曲はどうやって書いたんですか?あの曲、すごく気に入っているのですが、日本の暮らしを想像しながら書いたんですか?

「ありがとうございます(日本語で)。私はよくパンケーキを焼くし、日本のコンビニに行くvlogをたくさん見てたから、自分でちょっとした世界を作ってみたくなったの」

ー歌詞の中で「忘れ物はいないの?」っていうところが好きです。「いない」って、人に対して使う言葉だから、なんだか詩的でかわいらしく聞こえるんです。まるで卵とかバターを友達みたいに扱っている気がして。

「歌をレコーディングした後に気が付いたんだけど、そのままにすることにしたの!それはすごくキュートな見方ね」

ー間違いだったんですか?わざとそうしているのかと思いました。

「ええ、間違いよ。でもそのままにしておいてよかった(笑)」

ー他の曲は、もっと心の状態を表したものが多そうですね。" Let's Escape (Nigeyo)"(逃げよう)も気に入っています。ギターが素晴らしくて。この曲は何から逃げることを歌っているのですか?

「そう、他の曲は心の状態について歌っているの。親友のAmeenがすごくクールなリフを弾いてくれて、共演しようって言ってくれたの。歌詞を書こうと思って座ったら、すぐに『逃げよう』って言葉が浮かんできた。歌詞全体は、宿命論的な心のあり方から逃げることについて書いているけど、いろんな解釈ができるわ。何らかの感情、場所、人からエスケープするとかね」

現時点の最新曲"Let's Escape(Nigeyo)"はAmeen Singhのマスロック的なギターをフィーチャーした楽曲で、彼女の新しい一面を見ることができる。
「本当は、2020年の夏に両親といっしょに日本を訪れて、いくつかの音楽大学をチェックする予定だったの。でもパンデミックが起こってしまって…。本当に、いつか日本で学んでみたいと思ってる」

ー日本にはまだ来たことがないんですか?

「ええ、まだないの。チケットも予約していたのに、全てキャンセルしなければならなかったのよ!」


と、最後まで日本への思いを語ってくれたDrish T.
彼女が安心して日本に来ることができる日が訪れることを、心から願っている。

彼女がコラボレーションしていたiTooKaPillやAnimeshも才能あるミュージシャンで、インドの若手アーティストの(というか、A.R.ラフマーンのKM音楽学院の)レベルの高さを思い知らされる。
というわけで、今回は「インドで日本語で歌うインド人シンガー」Drish Tを紹介しました!
次回は「インドでヒンディー語で歌う日本人シンガー」です !





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2021年04月03日

コロナ禍のインドでのホーリー系音楽フェス事情!

色のついた粉や水をぶっかけあう奇祭として有名なインドのホーリー。
ヒンドゥー暦11月の満月の日に行われるこのお祭りは、今年は3月28〜29日が開催日にあたっていた。


(これは2017年に制作されたホーリーの様子を紹介した動画:Get an Up-Close Look at the Colorful Holi Festival | National Geographic)

以前このブログでも紹介したように、ここ数年、都市部ではホーリーは音楽フェスと一体化し、伝統と現代が融合したいかにもインドらしいパリピ的イベントとしても祝われている。

だが、見ての通りホーリーは密な状態で色粉や色水をかけあう濃厚接触しまくりのお祭りだ。
昨年のホーリーの時期には、インドでは新型コロナウイルスによる全国的なロックダウンが行われており、さすがにこの手の音楽フェス系のイベントは軒並み中止されていた。
さて、今年。
全国的なロックダウンこそ解除されたものの、まだまだコロナウイルスが猛威を振るっているなか、当然今年も音楽フェス系のホーリーイベントは開催されないんだろうな、と思っていたのだが、私はまだまだインドを理解していなかった。

さて、フェスの話題に入る前に、今年のホーリーのインドの街の様子を見てみましょう。

ホーリーを祝うにしても、マスクをしたりフィジカルディスタンスに気を遣ったりしているのかな、と思ったら…(サムネイルの画像でオチが分っちゃうけど)。


めっちゃ密で盛り上がってるんですけど…。
日本で若者がこんな騒ぎをしようものなら、社会的袋叩きにあうこと必至だが、インドではオッサンもオバサンもみんなでこの盛り上がり。
かつて岡本太郎は、諏訪の御柱祭を見て興奮し、「木落とし」(氏子を乗せた「御柱」を3傾斜の30度の急斜面に落とすアレ)に参加しようとして、周囲に「先生、死んじゃいますよ」と止められ、「死んでもいいじゃないか、祭りだろ!」と言い返したという。
大好きなエピソードなのだが、今年のホーリーもインド人たちの「死んでもいいじゃないか、祭りだろ!」スピリットが充満していて素晴らしい。
それにこのお祭りが神妙で厳粛なものではなく、聖なる大馬鹿騒ぎだというのも素晴らしい。

インドのこの盛り上がりを見ると、良し悪しとは別の次元で、我々日本人に決定的かつ根本的に欠けている何かを突きつけられるような気がする。

というわけで、今年のインドでは、ホーリー系音楽フェスもほとんど平常運転!
(ここまで記事を書いて、アフタームービーや参加者のSNS投稿などがないかチェックしてみたところ、不思議と1件もヒットせず、もしかして土壇場で中止になった?とも思ったのだが、中止になったという報道やプレスリリースも見当たらず、ちょっと狐につままれたような状況でいる。まあとにかく、今年行われたはずの各種イベントを紹介します)

2019年まではデリーで行われていたこの手のフェスの老舗Holi Mooは、今年はインドの音楽フェスのメッカであるゴアで開催された。
HoliMoo

デリー開催のときは国内のインディーミュージック系のアーティストが主に出演していたが、今年はゴアの土地柄か、海外のトランスやトラベラー系アーティストが多く出演している。
メインアクトはインド系イギリス人タブラ奏者/電子音楽アーティストで、ボリウッド映画の音楽も手掛けたことがあるKarsh Kaleが務めたようだ。


デリーのJawaharlal Nerhu Stadiumで行われるNeon Holi Festivalは、エレクトロニック系のDJから、ローカルなバングラー、ストリートフードまで、幅広い内容を取り揃えている。

neonholifes

イベントの内容はこんな感じ。
About the Event

Neonrings India in Association with #Dewine Club and Lounge is proud to announce its 5th annual Holi Music Festival- Neon Holi Festival 2021' with a blend of Music, Art & Colors. Thousands of people, dressed in white, come together to share in music, dance, performance art and visual stimulation.

Holi is the biggest & widely celebrated festival of India. It’s a Festival of Colors, Happiness & Madness and that's what you get @Neon Holi Festival 2021

Entertainment is also a part of the Festival with day filled with electronic , commercial and Live music to be played on a massive Stage. As well as the huge range of drinks on offer, the Festival also offers the visitors the chance to enjoy some fantastic Delhi's popular delicacies, street food and snacks.


About Neon Holi Festival | Dilli ki #Safest Holi


• 1 Massive Stage | 5+ Hours of Non-stop Music | Sanitized Arenas

• Organic Colours | Water Guns

• Celebrity Guests | Celebrity DJ’s | Punjabi Artists

• Dhol Dhamaka | Bhangra Acts | Moko Jumbies

• Rain Dance

• Thandai | Holi Snacks

• COLOUR Room | Photo Booths

• Food-Stalls | Bar 

• Beautiful Holi Décor | Photo booth

• Professional video coverage of the event

• VIP lounge | Family lounge

• Media coverage

• Live Streaming in UK and Europe.


https://insider.in/neon-holi-festival-2021-mar29-2021/eventより)

めちゃくちゃ盛り沢山で面白そう。
Celebrity Guests, Celebrity DJ'sというのがどのクラスの人たちなのか気になる。
'Sanitized Arenas'とあるように、会場の消毒をしているようで、一応の感染対策をしているらしいことがうかがえる。


インドでは根強い人気を保っているトランス系のアーティストをメインに据えたイベントも多い。
「世界で3番目の規模のEDMフェスティバル」を主催するSunburnは、ホーリーに合わせてイスラエル出身のトランスデュオVini Viciのデリー、ベンガルール、ゴアの3都市ツアーを決行。
HoliViniVici


デリーで行われたHolidelic Space Walkは、ご覧の通りいかにもオールドスクールなトランス的なフライヤーのデザインだ。
ヘッドライナーはスペインのアーティストPsynonima.
HolidelicSpaceWalk

かつてビートルズが修行に訪れたヨガの聖地リシケーシュでも、トランス〜チルアウトの90年代ヒッピー系トラベラーカルチャー的なイベントが行われていたようだ。
HoliRishikesh

欧米のサブカルチャーがインドに抱いていた幻想が、一周回ってインドに根付いたわけで、これはこれで面白い文化の還流と言える。


それにしても、紀元前から行われていたと言われているホーリーが、こんなふうに現代的にアップデートされて親しまれているというのは、単純にすごい。
日本で言えば、盆踊りがクラブイベント化したり、炭坑節のEDMバージョンが作られたりしているようなものだろうか。
しかもそれが若者に大々的に受け入れられているというところに、インド文化の伝統の強さと懐の深さを感じる。(たぶん、日本人よりも圧倒的に踊ることが好きな国民性も影響しているのだろうが)

調べてみると、ホーリーを祝う音楽のダンスミュージック化は、インディーミュージックの分野にとどまらず、ボリウッド的メインストリーム・ポップスでも多くの曲がリリースされているし、宗教音楽的なものをDJがダンサブルにマッシュアップした音源も見つけることができる。
どうやらDJというカルチャーが、インド文化のあらゆる側面に浸透しているようなのだ。




こちらはボリウッド系ヒットソングのDJミックス。
タイトルに「ボリウッド」とあるが、Panjabi MCの"Mundian To Bach Ke"なども入っているので、ここでいうボリウッドは「北インド言語のヒット曲」という意味か。

なりふり構わないアゲっぷりがいかにもインドらしくて素晴らしい。


というわけで、結局最後まで今年のホーリー系音楽フェスが開催されたのかどうか分からず、もやもやする記事になってしまったが、続報分かったらまたお届けします!


過去のホーリーに関する記事:








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