2020年12月

2020年12月29日

2020年度版 軽刈田 凡平's インドのインディー音楽top10


2017年末に始めたこのブログも、おかげさまで丸3年。
これまでは、毎年年始めにRolling Stone India誌が選んだインドの音楽年間トップ10を紹介してきましたが(それもやるつもりですが)、今年は、軽刈田が選ぶインドのインディーミュージック年間トップ10を選んでみたので、発表してみたいと思います。


いつも偉そうに音楽を紹介してるけど、広大なインドのインディーミュージックを全て聴き込んでいるわけでもなく、言語も分からず、しばらくインドの地を踏めていない自分の興味や好みによるセレクトではありますが、映画音楽や古典音楽以外のシーンで何が起きているのかを知るきっかけにはなるはず。

ノミネートの条件は、今年インドでリリースされた楽曲、アルバム、ミュージックビデオであること。
選考基準はセールスでも再生回数でもなく、完全に主観!
とはいえ、一応いまのインドのシーンを象徴する楽曲を選んだつもりです。
全10選ですが、とくに順位はありません。


DIVINE "Punya Paap"

今のインドのインディー音楽について書くなら、どうしたってヒップホップから始めることになる。
DIVINEについては何度も書いているのでごく簡単に紹介すると、彼はムンバイ出身のラッパーで、ストリートラップ(いわゆるガリーラップ)シーンの初期から活動していた大御所(インドはシーンの歴史が浅いので、キャリアはまだ10年程度だが)。
2019年に公開された映画『ガリーボーイ』の「MCシェール」のモデルになったことをきっかけに知名度を上げ、今では米ラッパーNasのレーベルのインド部門である'Mass Appeal India'の所属アーティストとして活動している。
かつてストリートの日常をテーマにした「ガリーラップ」で人気を博していた彼は、最近では内面的なリリックやコマーシャルなパーティーラップなど、新しいスタイルに取り組んでいる。
この曲は彼のクリスチャンとしての宗教的な部分を全面に出した作品となっており、ガリーラップ時代とはまた別の気迫を感じさせる意欲作。
同じく今年リリースした"Chal Bombay"や"Mirchi"はかなりコマーシャル寄りな楽曲で、セルアウトと言われようと変わり続けるシーンになんとか食らいついてゆこうというベテランの意地を感じる。
最新アルバム"Punya Paap"では多彩な音楽性に挑戦しているが、どんなビートでも変わらないアクの強い独特のフロウを、彼のシグネチャースタイルと見るか不器用と見るかで評価が分かれそうだ。

DIVINEが音楽性を多様化させる一方で、最近ではBadshahやYo Yo Honey Singhといったコマーシャルラッパーたちは、従来アンダーグラウンドラッパーが使っていたような抑えたビートを選ぶことが多くなっている(これはムンバイ在住のHiroko Sarahさんの鋭い指摘)。
インドのヒップホップ界のメジャーシーンとインディーシーンの垣根はますます低くなってきているようだ。



MC STΔN  "Ek Din Pyaar"

DIVINEがインドのストリートラップの第一世代だとしたら、ヒップホップの新世代を象徴しているのがこのMC STANだろう。
マハーラーシュトラ州プネー出身の21歳。
メディアへの目立った露出もないまま、卓越したスキルとセンスを武器にYouTubeから人気に火がついた(と思われる)。
人気ラッパーEmiway Bantaiにビーフを仕掛けるなど、悪童的なキャラクターが先行していた彼は、2019年末にリリースした"Astaghfirullah"で、イスラームの信仰を全面に出したことでそのイメージを刷新。
内面的なテーマも扱う本格ラッパーという評価を決定的なものにした。
その後、再びこの"Ek Din Pyaar"(自身の悪評もネタにしている)のような不道徳路線に戻って数曲をリリースした後、つい先日また宗教色の強い"Amin"を発表したばかり。
こうした聖と俗の振れ幅、確かなラップスキルとセンス(トラックメイキングも自身で手掛けている)、ビジュアル、そして人気や知名度から見ても、彼こそがインドのヒップホップ新世代を象徴する存在と考えて間違いない。

今年のインドのヒップホップシーンは、他にもMass Appeal IndiaからリリースされたIkkaの"I"(これはコマーシャルラッパーのアンダーグラウンド回帰の好例)や、売れ線を完全に無視してエクスペリメンタルに振り切ったTienasの"A Song To Die"など、佳作ぞろいだった。
インドのヒップホップシーンの変化の激しさと面白さは今後もしばらく続くだろう。


Prateek Kuhad "Kasoor"
今年は世界中の音楽シーンが新型コロナウイルスの影響を受けた1年だったが、かなり早い段階からロックダウン政策が取られていたインドでは、この逆境を逆手にとって優れた作品をリリースするアーティストが目立った。
このPrateek Kuhadの"Kasoor"のミュージックビデオは、オンラインで集めた映像(恋愛にまつわるテーマへのリアクション)を編集して、非常にエモーショナルな作品に仕上げている。
ミュージックビデオの好みで言うなら、個人的にはこの曲が今年のNo.1。
この曲は他のアーティストたちにも響いたようで、インドを代表するEDMプロデューサー/シンガーソングライターのZaedenは、さっそくこの曲のカバーバージョンを発表していた。
Prateek Kuhadはインドのシンガーソングライターを代表する存在で、音楽ファンの支持も厚く、つい先ごろアメリカの名門レーベルElektraと契約したことを発表したばかり。
今後の活躍がもっとも期待されるアーティストの一人だ。



Tejas他 "Conference Call: The Musicall!"


コロナによる活動の制限を逆手にとって発表された作品のなかで、もっとも見事だったのが、この"Conference Call: The Musicall!"
インドには、Jugaad(ジュガール)という「今あるものを使って工夫してやりくりする」文化があるが、この曲はコロナ禍で急速に一般化したオンライン会議をミュージカルに仕立て上げ、さらには兼業ミュージシャンが多いインドの音楽シーンを皮肉をこめてテーマにした、まさに音楽的ジュガール。
シンガーソングライターTejas Menonが中心になって制作されたこのミュージックビデオは、ストーリーも面白いし楽曲も良くできていて、ミュージカルとしても純粋に楽しめる作品になっている。
全世界の音楽関係者が絶望したり、大真面目に「逆境に立ち向かおう」と訴えているときに、こういう面白い作品をしれっとリリースしてしまうのがインド人の素晴らしいところだ。



Aswekeepsearching "Sleep"

グジャラート州アーメダーバード出身で、現在はベンガルールを拠点に活動しているポストロックバンドが今年4月に発表したアンビエント・アルバム。
この作品に関しては、楽曲単位ではなくアルバムとしての選出。
ロック色の強かった前作"Rooh"とはうってかわって静謐でスピリチュアルな作風となったが、これがコロナウイルス禍でステイホームを余儀なくされた時代の雰囲気にばっちりはまった。
アンビエントとはいえ、トラックごとに個性豊かで美しい楽曲は飽きさせることがなく、個人的な感想を言うと、夜人気のない道をランニングしながら聴くと不思議な高揚感が感じられて大変心地よく、一時期愛聴していた。
インドには、ポストロックやアンビエント/エレクトロニカのような音の響きを重視したジャンルの優れた才能アーティストが多く、これからも注目してゆきたい。



Whale in the Pond "Dofon"

コルカタの「ドリームフォーク」バンドWhale in the Pondがリリースした"Dofon"は、核戦争による世界の終末を迎えた人類を描いたコンセプトアルバム。
この作品もアルバムとしての選出としたい。
"Aaij Bhagle Kalke Amra Nai"はアルバムの冒頭を飾る楽曲で、ベンガル語の方言であるシレッティ語(Sylheti)で歌われているが、アルバムには"Kite/Loon"のように英語で歌われている曲も多く収録されている。
サブスク全盛の現代に、世紀末的なテーマのコンセプトアルバムとはなんとも前時代的だが、この作品はソングライティング、構成、伝統文化との融合など、あらゆる面から見て大傑作。
昨今のインドのアーティストには珍しく、ウェブサイトを通じてフィジカルリリースをしていると思ったら、なんと「CDは時代遅れなのでついていません」との注釈が書かれていて、アルバムがダウンロードできるリンクのついたブックレット(コンセプトやビジュアルアート、歌詞が掲載されている)のみを販売しているとのこと。
こうしたセンスを含めて、伝統的な部分と革新性を併せ持った、才能あふれるバンドだ。



Heathen Beast "The Revolution Will Not Be Televised But It Will Be Heard"

インドのインディーミュージックの激しい面、政治的・社会的な面を煮詰めたような作品。
Heathen Beastはコルカタの無神論ブラックメタル/グラインドコアバンド。
このアルバムでは、ヒンドゥー・ナショナリズム的な政権や排外主義政策、腐敗した宗教界、警察権力、メディアを激しく糾弾している。
社会性/政治性を抽象化せずに、ここまでストレートにメッセージを打ち出しているアーティストは、いまどき世界的にも貴重な存在。
メンバーは過激すぎる作風から、正体を明かさずに音楽活動を続けている(インドでは反体制的なジャーナリストの殺害事件なども多い)。
正直、この音楽性なのでアルバムを通して聴くのは結構しんどいが、強烈なアティテュードにある種の清々しさを感じる作品だ。




Sayantika Ghosh "Samurai"

もう1枚、コルカタ出身のアーティストから。
シンセポップ・アーティストSayantika Ghoshの"Samurai"は、80年代レトロフューチャー的なサウンド/ビジュアルや、内面的な歌詞、日本のアニメの影響など、昨今のインドのインディーシーンの鍵となるテーマが散りばめられた作品。
ブログでも取り上げた通り、近年インドでは、"Ikigai"とか"Natsukashii"のように日本語のタイトルを冠した曲が散見されており、日本人としては気になる傾向だ。
Sayantika Ghosh現在は活動拠点をムンバイに移しているとのこと。
ソングライターとしての能力も高く、今後もっと評価されて良いアーティストだ。

今年は彼女の他にもNidaの"Butterfly"Maliの"Absolute", ラップに挑戦したSanjeeta Bhattacharyaの"Red"など、女性シンガーソングライターの自然体の魅力あふれる秀作が多い一年だった。




Ritviz "Chalo Chalein feat. Seedhe Maut"

RitvizはSpotifyでも高い人気を誇っているインド風EDM(いわゆる「印DM」)アーティスト。
インド的な要素と現代的なダンスミュージックを融合するだけでなく、ポップな歌モノとしても上質な作品を発表し続けている。
ポップかつノスタルジックな色彩のミュージックビデオは、彼の音楽にも今の気分にもぴったりはまっている。
共演のSeedhe Mautはデリー出身のストリートラップデュオで、この一見ミスマッチなコラボレーションにもインドのヒップホップの多様化・一般化を見ることができる。
Ritvizは"Raahi"のミュージックビデオでは同性カップルを取り上げており、こちらもLGBTQの権利向上に意識が向いてきた昨今のインドのインディー音楽シーンを象徴する作品だった。
ローカルな要素を多分に含んだ彼の音楽が、今後インド国外でも人気を得ることができるのか、注目して見守りたい。

「印DM」には、他にもNucleya, Su Real, Lost Storiesなど、期待できるアーティストが盛りだくさんだ。



Diljit Dosanjh "Born To Shine"

個人的な話になるが、2020年は私にとってバングラー/パンジャービー・ポップの面白さとかっこよさを再発見した年でもあった。
これまで、「バングラーは北インドのコマーシャルなポピュラー音楽」という認識でいたので、インディーミュージックをテーマにしたこのブログでは、ほとんど取り上げてこなかった。
なぜか演歌っぽく聴こえる歌い回しが野暮ったく感じられるというのも敬遠していた理由のひとつだ。
ところが、バングラーをパンジャーブ地方のローカルミュージック、あるいは世界中にいるパンジャーブ系移民のソウル・ミュージックとして捉えつつ、新しい音楽との融合に着目すると、これが非常に面白いのだ。
例えばこのDiljit Dosanjh.
ターバン姿でグローバルに豪遊するミュージックビデオは、2020年のバングラー作品として100点満点を付けてあげたい。
派手好き、パーティー好きで、物質的な豊かさを見せびらかしがちなパンジャービーたちのカルチャーが、カリフォルニアあたりのヒップホップのノリと親和性が高いということも再認識。
初期のインド系ヒップホップシーンを牽引したのがパンジャービーのラッパーだったのは、必然だったのかもしれない。



ここに選べなかったアーティストについても、いくつか触れておきたい。
10選の中に南部出身のアーティストが選べなかったのが痛恨だが、あえて選ぶなら、ケーララのフォークロックバンドWhen Chai Met Toastが今年リリースした楽曲は良いものが多かった。
インドのシンガーソングライターは近年本当に豊作で、非常に悩んだのだが、ここに入れられなかったアーティストから一曲選ぶなら、Raghav Meattleの"City Life".
この曲は物質主義的な都市生活への違和感をテーマにしているが、コロナウイルス禍以降にリリースされたことで、ビンテージ調の映像とあいまって、失われた活気ある生活への追憶のようにも感じられるものになった。
また、過去の作品の再編集なので対象外としたが、ベテランシンガーSusmit Boseのキャリアを網羅した"Then & Now"は、史料的な価値が高いだけでなく、初期ディラン・スタイルのウエスタン・フォークとしても上質な作品だった。
テクノアーティストOAFFの"Perpetuate"のミュージックビデオは、音楽的に新しい要素があるわけではなかったが、日常とサイケデリアをシンプルな映像エフェクトで繋いだ手腕に唸らされた。
コロナに翻弄された1年ではあったが、総じて優れた作品の多い1年だったと思う。

私の座右の銘は「好きなときに好きなことを好きなようにやる。飽きたらやめる」なので、このブログも飽きたら躊躇うことなくやめてしまおうと常々思っているのだけど、インドのインディーミュジックシーンますます面白くなってきており、いつまでたってもやめられそうにない。
というわけで、2021年もご愛読よろしくお願いします!




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2020年12月26日

2020年を振り返る コルカタの音楽シーン特集

先日に続いて、2020年を振り返る記事。
昨年(2019年)は、映画『ガリーボーイ』 の公開もあって、ムンバイの、とくにヒップホップシーンに注目した1年だったが、今年(2020年)は佐々木美佳監督の『タゴール・ソングス』や、川内有緒さんの『バウルを探して 完全版』の影響で、ベンガルの文化に惹きつけられた1年だった。

もうすでに耳にタコの人もいるかもしれないが、ベンガルとはインドの西ベンガル州とバングラデシュを合わせた、ベンガル語が話されている地域のこと。
ベンガルmap
(この地図は『タゴール・ソングス』のウェブサイトからお借りしました)

イギリスによる分割統治政策によって多くのムスリムが暮らしていたベンガル地方の東半分は、1947年のインド・パキスタン分離独立時に、イスラームを国教とするパキスタンに帰属する「東パキスタン」となった。
しかし、言語も異なる東西のパキスタンを、大国インドを挟んだ一つの国として統治することにはそもそも無理があった。
西パキスタンとの格差などを原因として、東パキスタンは1971年にバングラデシュとして再び独立を果たすことになるのだが、それはまた別のお話。
(バングラデシュの音楽シーンについても、最近かなりいろいろと分かってきたので、また改めて紹介する機会を持ちたい)
私にとっての2020年は、分離独立前からこの地方の中心都市だった、インドの西ベンガル州の州都コルカタの音楽シーンが、とにかく特徴的で面白いということに気付づいてしまった1年だった。

コルカタのシーンの特徴を2つ挙げるとしたら、「ベンガル地方独特の伝統文化(漂泊の歌い人にして修行者でもあるバウルや、タゴールに代表される詩の文化)の影響」と「イギリス統治時代に首都として栄えた歴史から来る欧米的洗練」ということになる。
さらには、独立運動の中心地であり、また独立後も社会運動が盛んだったこの街の政治性も、アーティストたちに影響を与えているようだ。


まずは、近年インドでの発展が著しいヒップホップから紹介したい。
地元言語のベンガル語でラップされるコルカタのヒップホップの特徴は、落ち着いたセンスの良いトラックと強い郷土愛だ。
コルカタを代表するラッパー、Cizzyの"Middle Class Panchali"聴けば、ムンバイのストリート・ラップ(例えばDivine)とも、デリーのパンジャーブ系エンターテインメント・ラップ(例えばYo Yo Honey Singh)とも違う、コルカタ独自の雰囲気を感じていただけるだろう。

ジャジーなビートにモノクロのスタイリッシュな映像は、まさにコルカタならでは。
タイトルのPanchaliは「民話」のような意味のベンガル語らしい。

CizzyがビートメーカーのSkipster a.k.a. DJ Skipと共演したこの曲"Change Hobe Puro Scene"('The scene will change'という意味)では、インド最古のレコードレーベル"Hindusthani Records"の音源をサンプリングしたビートを使った「温故知新」な一曲。

コルカタのランドマークであるハウラー・ブリッジから始まり、繁華街パークストリート、タゴール、リクシャー(人力車)といったこの街の名物が次から次へと出てくる。

MC Avikの"Shobe Cholche Boss"もコルカタらしい1曲。

コルカタのアーティストのミュージックビデオには、かなりの割合でハウラー・ブリッジが登場するが、サムネイル画像のワイヤーで吊られている橋は、コルカタのもうひとつのランドマーク、ヴィディヤサガル・セトゥ。
ハウラー・ブリッジと同じく、この街を縦断するフーグリー河にかかっている橋だ。
コルカタにはまだまだ優れたヒップホップアーティストがたくさんいるので、チェックしたければ、彼らが所属しているJingata Musicというレーベルをチェックしてみるとよいだろう。



コルカタといえば、歴史のあるセンスの良いロックシーンがあることでも知られている。
その代表的な存在が、ドリームポップ・デュオのParekh & Singh.
イギリスの名門インディーレーベルPeacefrog Recordsと契約している彼らは、インドらしさのまったくない、欧米的洗練を極めたポップな楽曲と映像を特徴としている。

ウェス・アンダーソン的な映像センスと、アメリカのバークリー音楽大学出身の音楽性は、世界的にも高い評価を得ており、日本では高橋幸宏も彼らを絶賛している。

「ドリームフォーク・バンド」を自称するWhale in the Pondも、インドらしからぬ美しいメロディーとハーモニーを聴かせてくれる。

今年リリースされたコンセプト・アルバム"Dofon"では、地元の伝統音楽(民謡)なども取り入れた、ユニークな世界観を提示している。

過去に目を向けると、コルカタは1960年代から良質なロックバンドを輩出し続けていた。
なかでも70年代に結成されたHighは、インドのロック黎明期の名バンドとして知られている。

この曲はカバー曲だが、彼らはインドで最初のオリジナル・ロック曲"Love is a Mango"を発表したバンドでもある。

同じく70年代に結成された伝説的バンドがこのMohiner Ghoraguli.
ベンガルの詩やバウルなどの伝統とピンク・フロイドのような欧米のロックを融合した音楽性は、インド独自のロックのさきがけとなった。

彼らの活動期間中は知る人ぞ知るバンドだったが、2006年にボリウッド映画"Gangster"でこの曲がヒンディー語カバーされたことによって再注目されるようになった。
中心人物のGautam Chattopadhyayは、共産主義革命運動ナクサライト(のちにインド各地でのテロを引き起こした)の活動に関わったことで2年間州外追放措置を受けたこともあるという硬骨漢だ。

こうした政治運動・社会運動との関連は、今日のコルカタの音楽シーンにも引き継がれている。
例えばインドで最初のラップメタルバンドと言われるUnderground AuthorityのヴォーカリストEPRは、ソロアーティストとしてリリースしたこの曲で、農民たちがグローバリゼーションが進む社会の中で貧しい暮らしを強いられ、多くが死を選んでいるという現実を告発している。
タイトルの"Ekla Cholo Re"は「ひとりで進め」という意味のタゴールの代表的な詩から取られている。 


ブラックメタル/グラインドコアバンドのHeathen Beastは、無神論の立場から、宗教が対立し、人々を傷つけあう社会を痛烈に糾弾している。

この曲では、ラーマ神の出生地と言われるアヨーディヤーに建てられていたイスラームのモスクをヒンドゥー至上主義者たちが破壊した事件を扱っている。
今年リリースされた"The Revolution Will Not Be Televised, But Heard"でも、ヒンドゥー・ナショナリズムや腐敗した政治に対する激しい批判を繰り広げた。


電子音楽/エレクトロ・ポップのジャンルでもコルカタ出身の才能あるアーティストたちがいる。
今年リリースした"Samurai"で日本のアニメへのオマージュを全面に出したSayantika Ghoshは、郷土愛を歌ったこの"Aami Banglar"では、伝統楽器の伴奏に乗せて、バウルやタゴール、地元の祝祭や、ベンガルのシンボルとも言える赤土の大地を取り上げている。

一見、歴史や伝統には何の興味もなさそうな現代的なアーティストが、地元文化への愛着をストレートに表現しているのもコルカタならではの特徴と言える。

コルカタ音楽シーンの極北とも言えるのが、ノイズ・アーティストのHaved Jabib.
これまで数多くのノイズ作品を発表してきた彼の存在は以前から気になっていたのだが、そのあまりにも前衛的すぎる音楽性から、このブログでの紹介をためらっていた。
今年彼がリリースした"Fuchsia Dreamers"は、ムンバイのノイズ/アンビエントユニットComets in Cardigansとコラボレーションで、混沌とした音像のなかに叙情的な美しさを湛えた、珍しく「音楽的」な作品となった。
これまでに彼がリリースした楽曲のタイトルやアートワークを見る限り、動物愛護や宗教紛争反対などの思想を持ったアーティストのようだが、彼はインターネット上でも自身のプロフィールや影響を受けたアーティストなどを一切公表しておらず、その正体は謎につつまれている。

と、気になったアーティストのほんのさわりだけを紹介してみたが、とにかくユニークで文化的豊穣さを感じさせるコルカタのシーン。
来年以降もどんな作品が登場するのか、ますます楽しみだ。

最後に、これまでに書いたベンガル関連の記事をまとめておきます。













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2020年12月23日

2020年度版 インドのクリスマスソング特集! 古代アラム語で歌われるクリスマスキャロルからバングラーまで



2年前に、インド北東部ナガランド州のクリスマスソングに関する記事を書いた。
典型的な「インド人」とは異なる、モンゴロイド系の民族が多く暮らすインド北東部は、他の南アジアとは異なりヒンドゥー/イスラーム文化の影響が少なく、19世紀以降の宣教によって、今では多くの住民がキリスト教を信仰している。
ナガランドは人口の9割がクリスチャンであり、地元の伝統と西洋のポップミュージックやキリスト教信仰を融合したユニークなクリスマスソングが存在しているのだ。
 
(詳細はこちらの記事で↑)
今回は、ナガランド以外に視野を広げて、あらためてインドのクリスマスソングを調べたので、紹介してみます。
今年リリースされた曲でとくに印象に残ったのはこの2曲。

まず紹介するのは、インドを代表するEDM系プロデューサーからアコースティックなシンガーソングライターへの転身を遂げたZaedenが、女性シンガーNatania Lalwaniをフィーチャーしてリリースした"For Christmas".

シャッフル気味のアコースティックギターに、ファルセットボイスで歌われるポップなメロディー。
インディー音楽とはいえ、とうとう典型的なクリスマスのポップチューンがインドでも作られるようになったと思うと感慨深い。
途中からレゲエっぽいリズムが入ってくる展開も洒落ている。

インドでは、近年の経済成長や海外文化の流入に伴い、都市部を中心に「欧米的なオシャレなイベント」としてのクリスマスが根付きつつある。(一方で、既存の宗教の原理主義的な信奉者や偏狭なナショナリズムの支持者からは反発もあるわけだが)
イエス・キリストの誕生日やサンタクロースがやってくる日としてのクリスマスではなく、愛する人と過ごす日としてのクリスマスが描かれたこの曲は、都市部の現代的な若者たちのクリスマスのイメージを踏襲したものと見てよいだろう。


続いて紹介するのは、人口の75%がキリスト教を信仰するインド北東部メガラヤ州の州都シロンからの1曲。
Shillong Chamber Choirが今年リリースしたクリスマスアルバム"Come Home Christmas"に収録された"Go Tell It On The Mountain"だ。

Shillong Chamber Choirは、2001年に結成された室内合唱団で、人気テレビ番組'India's Got Talent'での優勝(2001年)を含め、国内外で多くの賞に輝いている。
地元の民謡っぽい旋律に続いて、ファンキーにアレンジされた賛美歌/ゴスペルの"Go Tell It On The Mountain"が英語で歌われるが、途中で歌が耳慣れない言語に変わることに気がつくはずだ。
これはなんとイエス・キリストが話していたと言われる「古代アラム語」だそうで、「マルチリンガルなクリスマス・アルバム」として制作された今作に合わせて、今ではほとんど話者のいないこの言語を「救い主が生まれたことを世界に告げよ」と歌うこの曲に採用したとのこと。
多言語社会のインドでは、複数の言語で歌われる曲も珍しくはないが、賛美歌に古代アラム語を持ってくるというのは、クリスチャンの多い北東部ならではの発想だろう。

この"We The Kings"では、ウルドゥー語とペルシア語が採用されている。

非常に美しいミュージックビデオは、イスラエルのサンドアーティストIlana Yahavによるもの。
正直に言うと、私は普段合唱団が歌うような音楽は全く聴かないのだが、このアルバム"Come Home Christmas"に関しては、ファンキーにアレンジされたゴスペルから荘厳な賛美歌まで、さまざまな言語の美しい響きとともに、なんの違和感もなくポップミュージックとして楽しむことができた。
非常にユニークな、長く聴くことのできるクリスマス・アルバムだ。


今年のリリースではないものの、インドならではの面白いクリスマスソングを他にも見つけることができたので、合わせて紹介します。

ムンバイのポップバンドSanamは、いくつかのクリスマスソングをカバーして発表している。
彼らは古いボリウッド映画の曲を現代的にカバーし、YouTubeから人気が出たバンド。
彼らは映画音楽のみならず、100年前のベンガルの詩人タゴールの作った歌などもカバーしており、近代化著しいインドで、歌を通して古き良きものと現代を繋ぐ役割を担っているのだろう。
そんな彼らがカバーしたクリスマスソングは、ポップスではなく、伝統的な聖歌/賛美歌だ。

おそらく彼らはクリスチャンではないと思われるが、彼らのクリスマスソングを聞くと、流行の消費主義的なイベントとしてのクリスマスではなく、信仰こそ違えど、我々よりも大きな存在に帰依する人々への共感とリスペクトが込められているように感じられる。
物質主義的な部分が強くなって来たとはいえ、インドは信仰の国だ。
サンタクロースやクリスマスケーキになじみのない人々も、偉大なGuru、イエス・キリストの生誕を祝う気持ちは十分に理解できるのだろう。

続いて、北インドのポピュラー音楽シーンのメインストリームであるバングラー(Bhangra)のクリスマスソングを探してみたところ、意外にも多くの動画がアップされているのを見つけてしまった。
バングラー・ユニットのGeeta Brothersは、その名も"Punjabi Christmas Album"というアルバムをリリースしている。

陽気な男たちが打ち鳴らすドール(Dhol. 両面太鼓)、コブシの聞いた歌い回し。
彼らはバングラーの故郷パンジャーブ州に住んでいるわけではなく、イギリスに暮らす移民たちらしい。
パンジャービー系の人々は、移民が多く、コミュニティーが世界中に広がっているからこそ、世界中の文化と伝統音楽の融合が行われているのだろう。

こちらはマレーシア、クアラルンプールのパンジャービー・コミュニティー。


クリスマスソングに合わせてバングラー・ダンスを踊りまくっている動画とか、クリスマスソングのバングラー・リミックスもかなりたくさんヒットする。





彼らがクリスチャンなのか、はたまたヒンドゥーやシクなのかは知る由もないが(ターバンを巻いている人たちはシク教徒のはず…)、なんとも陽気で楽しくて素晴らしいではないか。
「お祝いだ!太鼓叩いて踊ろうぜ」って感じのノリが最高だ。

クリスマスを信仰に基づいてお祝いする人も、パーティーとして楽しむだけの人も、今年は例年になく困難な状況を迎えているが、何はともあれ感謝の心を忘れずに、遠く離れた人々との繋がりも感じながら過ごすことができたら素晴らしいことだ。
みなさん、メリー・クリスマス。
素敵なクリスマスをお過ごしください。




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2020年12月19日

2020年のインドの音楽シーン総決算!(MTV Europe Music AwardsとSpotify編)



今回は2020年のインドの音楽シーンを振り返る話題をお届けしたい。

MTV Europe Music Awards 2020が11月9日に行われ、Best India ActにシンガーソングライターのArmaan Malikが3月にリリースした"Control"が選出された。

Armaan Malikはムンバイ出身のポップシンガーで、この曲は彼が英語で歌った初めての楽曲。
Malikはこれまでに映画のプレイバックシンガーとして、インドの10言語で歌ったことがあるそうだが、今後は英語ヴォーカルの都会的シンガーとしても売り出してゆくのかもしれない。

MTV EMAのBest India Actは、過去3年間ラッパーの受賞が続いていたため、シンガーソングライターの受賞は2016年のPrateek Kuhad以来となる。
(過去3年の受賞者は、2017年Hard Kaur, 2018年Big Ri and Meba Ofilia, 2019年Emiway Bantai)
今年もMalik以外のノミネートは全員ラッパーだったというのが時代を感じさせられる。
ちなみに他のノミネートされたアーティスト/楽曲は以下の通りだった。

Prabh Deep "Chitta"
デリーのPrabh Deepはインドのアンダーグラウンド・ヒップホップシーンを牽引するAzadi Recordsの看板アーティスト。


DIVINE "Chal Bombay"
言わずと知れたムンバイのGully(ストリート)ラッパーで、米ラッパーNazのレーベルのインド部門'Mass Appeal India'の所属になって以降、活動を活発化させている。
この曲では、これまでのストリート・ラップから、売れ線のラテン風ラップに大きく転換したスタイルを披露した。



SIRI ft. Sez on the Beat "My Jam"
ベンガルールのフィーメイル・ラッパーSIRIと、インドを代表するビートメイカーであるSezによるコラボレーションで、リリックは英語とカンナダ語のバイリンガル。
フィーメイル・ラッパーでは2017年にHard Kaurが受賞しており、2018年、2019年には惜しくも受賞を逃したもののRaja Kumariがノミネートされていた。

Kaam Bhari "Mohabbat"
ボリウッド映画『ガリーボーイ』への出演も記憶に新しいムンバイの若手ラッパー。
『ガリーボーイ』の主演俳優ランヴィール・シンが立ち上げたレーベルIncInkと契約し、女性シンガー/ラッパーNukaとのコラボレーションを行うなど、ここにきて活躍の場を広げている。


結果的にシンガーソングライターのArmaan Malikが受賞したとはいえ、ここまでラッパーのノミネートが多かった年はこれまでになかった。
いまひとつノミネートや選考の基準が分からないMTV EMAの各国部門だが、インドのヒップホップ勢の躍進ぶりを感じさせられるセレクトではある。
(ちなみに今年のMTV EMA Best Japan ActはOfficial 髭男dism. おそらくインドの映画音楽や日本のアイドルポップのようなローカルな大衆音楽ではなく、欧米的な視点から見たセンスの良い楽曲を選出しているものと思われる。)


一方で、Spotify Indiaが発表した、2020年にインド国内と海外で最も多く聴かれたインドのインディーアーティストのトップ10を見ると、また違った印象を受ける。

ランキングを見る前に、インド国内でのSpotifyの位置づけを説明しなければならないのだが、インドでは、Gaana, JioSaavn, Wynk Musicといった国内の音楽ストリーミングサービスがシェアの7割を占めており、Spotifyは15%ほどのシェアしかない後発サービスに過ぎない。
Spotifyの利用に年額で1,189ルピー(1,700円弱)かかるのに対して、Gaanaは年額299ルピー(400円強)で利用できる。
インド国内の音楽ストリーミング企業は、各地の言語でのサービス提供や、国内の楽曲を充実させることに注力しており、低額の利用料金でローカル色の強い国内市場を押さえ込んでいる。
つまり、インドのSpotifyユーザーは、音楽にお金をかける意志があり、海外の音楽も積極的に聴こうとしている熱心な音楽ファンということになるのだ。

前置きが長くなったが、こちらが2020年にSpotifyで最も多く聴かれたインドのインディーアーティストtop10だ。
2020Spotify
国内でも海外でも、RitvizやNucleya, Zaedenといったいわゆる印DM(インド風EDM)がかなり聴かれていることが分かる。

ヒップホップのアーティストは海外で9位に入ったEmiway Bantaiただ1人のみ。
ラッパーが席巻したMTV EMAのノミネーションとは全く異なる結果となった。
ムーブメントとしては熱く盛り上がっているように見えるインドのヒップホップだが、コアな音楽ファンの間でも、量としてそこまで聴かれているわけではないようだ。
(もしかしたら音楽にそこまでお金をかけない、「地元のヤンキー」みたいな層が熱心に聴いている可能性もなくはないが…)
これは、ラップバトル番組が盛り上がっているように見えて、ヒットチャート上位にはなかなかヒップホップが食い込んでこない日本の状況とも似ているかもしれない。

それにしても興味深いランキングである。
Ritviz(海外で2位、国内で1位)のセンスの良さには以前から注目していたが、ここまでの人気とは思わなかった。
Prateek Kuhad(海外で1位、国内で2位)はアメリカのレーベルElektraと契約するなど、インド国内にとどまらず活躍の場を広げており、数多いインドのシンガーソングライターのなかでも卓越した存在のようだ。


海外と国内で若干の傾向の違いも見られる。
海外では、国内のランキングには入っていないLost Storiesが4位にランクインしており、より印DM好まれているようだ。
一方、国内では、Dino James, Anuv Jain, Ankur Tewari, Bhuvan Bamといったシンガーソングライターが存在感を放っているのが印象的だ。
国内10位のWhen Chai Met Toastは英国フォーク風のセンスを持ったロックバンド。
なんというか、国内チャートは、全体的に「育ちの良さ」が感じられるランキングではある。


両方にランクインしているアーティストは5組。
印DMのRitviz, Nucleya, Zaedenと、シンガーソングライターのPrateek Kuhad以外では、ヒンディー・ロックバンドのThe Local Trainがランクインしている。
彼らも洋楽的センスとインド的大衆性の融合に優れたバンドで、インドのリスナーのツボを抑えた音楽性ということになるのだろう。




インディーミュージックに限定せず、インド国内で最も多く聴かれたアルバムとアーティストのランキングを見ると、やはり映画音楽が圧倒的な強さを誇っていることが分かる。
top5India2020

いつもこのブログで大々的に紹介しているインディー音楽は影も形もない。
映画音楽/プレイバックシンガー以外で唯一ランクインしたのはBTSで、インドでのK-POP人気の強さを改めて感じさせられる。

面白かったのは、インドの音楽ストリーミングサービスJioSaavnが始めた、インド各地の言語で歌うアーティストを紹介するキャンペーン"We Are India"ついて書かれたこの記事。


とくに興味深いのは、この記事の中でJioSaavnのディレクターが「インドのミレニアル世代は、自分たちの母語で歌われる音楽や、現代的なレンズを通して彼らの文化を再現するアーティストを好む傾向がある」と述べていること。
ご存知のように、インドは地域ごとに無数の言語が存在する国だ。
ある記事によると、公用語だけで22言語、その他の言語も含めると200言語、さらに1600の方言が存在しているという(正確な言語や方言の数は、専門家でも分からないだろう)。
かつては、マーケット規模やプロモーションのための媒体、流通経路などの関係で、主要な言語の音楽ばかり聴かれる傾向があったが、インターネットの普及により、よりマイナーな言語の音楽でも、容易にリスナーに届けることができるようになったのだ。
ネットやストリーミングサービスの普及により、シーンが集約するのではなく、より多様化しているというわけである。

「現代的なレンズを通して彼らの文化を再現するアーティスト」というのは、まさにインドの伝統的な要素をEDMと融合させたRitvizらの「印DM」などを指している。
この記事では、映画音楽のインディーミュージックの垣根が曖昧になってきていることなどにも触れられており、いずれにしてもインドの音楽シーンはますますその面白さを増していると考えて良いだろう。



…と、たまにはシーン全体を俯瞰した記事を書いてみました!
個人的には非常に面白かったのだけど、みなさんいかがでしたでしょうか。
それではまた!


https://www.valuechampion.in/credit-cards/music-streaming-apps-which-one-should-you-choose

https://inc42.com/resources/hottest-music-streaming-apps-in-india-2020/

https://www.statista.com/statistics/922400/india-music-app-market-share/

https://rollingstoneindia.com/armaan-malik-prabh-deep-divine-mtv-europe-music-awards-ema-best-india-act/

https://indianexpress.com/article/entertainment/music/spotify-wrapped-2020-top-10-most-streamed-tracks-in-india-7074966/

https://www.financialexpress.com/brandwagon/jiosaavn-celebrates-excellence-in-regional-music-through-we-are-india-campaign/2045717/

https://net.keizaikai.co.jp/archives/23747


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2020年12月10日

インドのアニメファンによるYouTubeチャンネル"Anime Mirchi"の強烈すぎる世界!


これまでも何度か特集しているとおり、インドにおいて日本のカルチャーは一定のファン層を獲得している。
ここでいう「カルチャー 」というのは、主にアニメのことで、インドのインディーミュージシャンの中には、日本のアニメ作品からの影響を公言しているアーティストがたくさんいるのだ。




そんなインドのアニメファンが運営している、かなり面白いYouTubeチャンネルを発見してしまった。
それが、今回紹介するこの'Anime Mirchi'である。
('Mirchi'とはインド料理にもよく使われる唐辛子のこと)


このチャンネルの素晴らしいところは、単にアニメのみを扱っているのではなく、インドのインディペンデント・ミュージックと日本のアニメ・カルチャーの融合にも積極的に取り組んでいることである。

中でも唸らされたのが、この'Indian lofi hip hop/ chill beats ft. wodds || Desi lofi girl studying'と題された動画だ。


Lo-Fiヒップホップは、創成期の代表的ビートメーカーである故Nujabesが、アニメ作品『サムライ・チャンプルー』のサウンドを手掛けたことなどから、アニメとのつながりが深いジャンルとされている。
とくに、パリ郊外に拠点を構えるYouTubeチャンネル'ChilledCow'が、"lofi hip hop radio - beats to relax/study to"に勉強中の女の子のアニメーションを使用してからは、ローファイサウンドと日本風のアニメの組み合わせがひとつの様式美として確立した。

Lo-Fi HipHopについてはこのbeipanaさんによる記事が詳しい。
 
この「勉強中の女の子」(当初はジブリの『耳をすませば』 のワンシーンが使われていたが、著作権の申し立てによってオリジナルのアニメに差し替えられた)は、国や文化によって様々なバージョンが二次創作されており、Anime Mirchiが作成したのはそのインド・バージョンというわけである。
(インド以外の各国バージョンはこの記事で紹介されている)

さらに面白いところでは、「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」をヴェイパーウェイヴ、シンセウェイヴ的に再構築するという狂気としか思えないアイディアを実現したこんな音源もアップロードされている。

ヒンディー語版?のドラえもんのテーマ曲をリミックスした映像は超ドープ!


ここ数年話題となっているヴェイパーウェイヴというジャンルを簡単に説明すると、「80年代風の大量消費文化を、追憶と皮肉を込めて再編集したもの」ということになるだろう。
「シンセウェイヴ」は、同様のコンセプトでシンセサウンドとレトロフューチャー的なイメージが主体となったものだ。
これらの動画のサウンドを手掛けている'$OB!N'というアーティストは相当なアニメファンらしく、あの『こち亀』の主人公の両津勘吉をテーマにしたこんな曲を自身のSoundcloudで発表していたりもする。
$OB!N · Ryotsu
他にも、このAnime Mirchiには、アニメのなかのドラッグ的な効果を感じるシーンを集めた'Anime on Ganja'なんていう想像の斜め上すぎるシリーズの動画もアップされている。

こんなふうに書くと、サブカルチャーをこじらせたマニアックなYouTubeチャンネルのようなイメージを持つかもしれないが(まあ、それは間違いないんだけど)、このチャンネルが面白いのは、アニメだけではなく、ボリウッドやハリウッドなどの王道ポピュラーカルチャーにも目配りができていることである。
例えば、昨年日本でも公開された『ガリーボーイ』や『ロボット2.0』の予告編そっくりの動画を、アニメ映像をマッシュアップして作り上げるなんていう、これまたぶっとんだアイディアの動画もアップされているのだ。
オリジナルの予告編と合わせて紹介してみたい。

これは『DEVILMAN crybaby』の映像で作った、ボリウッドのヒップホップ映画『ガリーボーイ』予告編のパロディ。


こっちがオリジナル。


こちらは『ジョジョの奇妙な冒険』をマッシュアップして作ったスーパースター、ラジニカーント主演のタミル語映画『ロボット2.0』の予告編。


そしてこちらがオリジナル。

映像のシンクロ率は『ガリーボーイ』ほどではないが、こちらもかなりの完成度。もしかすると、『ガリーボーイ』『ロボット2.0』という映画のセレクトも、日本公開された作品を選んでくれているのかもしれない。

同様の発想で、アニメの映像を使って『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の予告編を作ったり、「もしアニメがボリウッドで制作されたら」というシリーズを作ったりと、とにかく独特すぎる動画が盛り沢山。
さらに凝ったところだと、『バーフバリ 伝説誕生』の映像を編集して、アニメ映画の予告編風の動画を作っていたりもする。
 
カタカナ入りの字幕も全てこの動画のために作成されたものだ。
『バーフバリ』はコアなアニメ作品同様、コスプレまでする熱心なファンを持つ映画だが、こうして見てみると、かなりアニメ的なシーンや演出が多いということに気づかされる。
この映像は、『バーフバリ』の日本で大ヒットし、新しいファン層を開拓したことに対するトリビュートとして制作されたものだそう。

インドのインディーミュージックの紹介を趣旨としているこのブログとしては、最近のアーティストの作品に日本のアニメの映像を組み合わせた動画に注目したい。

これはSmg, Frntflw, Atteevの共作によるEDM"One Dance"に新海誠の『言の葉の庭』の映像を合わせたもの。


デリーのラッパーデュオSeedhe MautとKaran Kanchanの"Dum Pishaach"にはHELLSINGの映像が重ねられている。

この2曲に関しては、オリジナルのミュージックビデオも(ほぼ静止画だが)アニメーションで作られており、"One Dance"はSF風、"Dum Pishaach"はアメコミと日本のアニメとインドの神様が融合したような独特の世界観を表現している。


"Dum Pishaach"のビートメイカーKaran Kanchanは大のアニメ好き、日本カルチャー好きとしても有名なアーティストだ。


著作権的なことを考えると微妙な部分もあるが(というか、はっきり言ってアウトだが)、ここまで熱心に日本のカルチャーを愛してくれて、かつ私が愛するインドのインディーミュージックにも造詣が深いこのチャンネル運営者の情熱にはただただ圧倒される。
インドにおけるジャパニーズ・カルチャーと、日本におけるインディアン・カルチャー。
いずれもコアなファンを持つ2つのジャンルをつなぐ'Anime Mirchi'に、どうかみなさんも注目してほしい。


'Anime Mirchi' YouTubeチャンネル


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2020年12月05日

インドのボブ・ディラン Susmit Boseの50年

今年で活動50年を迎えたインドの伝説的アーバン・フォークシンガー、Susmit Boseが、キャリアを網羅したコンピレーション・アルバム"Then & Now"を発表した。
(インドでは、ボブ・ディランのような英語のポピュラー・ミュージック的なフォーク音楽を、ローカルの民謡と区別して「アーバン・フォーク」と呼ぶ)

これが大変素晴らしくて、先日からヘビーローテーション中なのだが、この作品の魅力をどう伝えたものか、正直ちょっと迷ってしまっている。
このアルバムは、1978年にリリースされた彼のファーストアルバム"Train to Calcutta"と、活動を再開した2006年以降の楽曲をバランスよく収めたものだ。
収録されているほとんどの曲は、ギターの弾き語りにハーモニカという初期ディラン・スタイルのシンプルなフォークソングで、そこに目立った個性や派手さがあるわけではない。
それでも、彼の歌声とメロディー、ギターのアルペジオや古い録音のノイズまでもが、なんとも心地よく、愛おしいのだ。
飲食店に例えると、目立って美味しい名物メニューがあるわけではないが、そこで過ごす時間そのものに価値があるような、落ち着く老舗の居酒屋や喫茶店といった趣きだ。




1950年、Susmit Boseは、デリーに暮らすベンガル系の古典音楽一家に生まれた。 
父は北インド古典ヒンドゥスターニー音楽のミュージシャンで、All India Radioのディレクターを務めていた。
幼い頃のSusmitも、将来は古典音楽の道に進み、いつの日かPundit(師匠)と呼ばれることを夢見ていたという。
ところが、14歳のときに聞いた、アメリカのフォーク歌手ピート・シーガーが、彼の夢を変えてしまった。
そして、まもなくして知ったボブ・ディランの音楽が彼の人生を決定づける。

彼は保守的な父に隠れてギターを練習し、やがて自作の曲を作り始めた。
欧米ではベトナム反戦運動、そしてヒッピームーブメントの時代。
インド国内でも、ウエスト・ベンガル州で発生したナクサライト運動(毛沢東主義を掲げるラディカルな革命運動で、テロリズム的な暴力闘争に発展した)など、社会運動のうねりが起きていた。

インドの60〜70年代ロックシーンを扱った"India Psychedelic: the story of rocking generation in India"という本の中で、Susmitはこう語っている。
「私は60年代と70年代、つまり分断の時代に育ったんだ。人類にとって恥ずべきベトナム戦争もあった。私は欧米の人たちと同じように、平和や普遍性や精神性について歌う必要があると感じていた。世界は一つで、調和しているという感覚さ」

デリーでも、繁華街コンノート・プレイスのディスコ'The Celler'で、アーバン・フォークを歌う人なら誰もが出演できる「フォーク・イヴニング」が行われ、人気イベントとなっていた。

デリー大学のキャンパス、公園、さらにはカルカッタの音楽シーンの中心だったレストラン'Trincas'など、Susmitは歌えるところならどこにでも出向いて歌った。
英語の新しい音楽をこころよく思わない父に勘当され、しばらくネパールのカトマンドゥで過ごしたこともあったという。
だが、1971年に彼がリリースした最初の曲、"Winter Baby"がラジオから流れ、高く評価されるようになると、父は抱きしめて迎え入れてくれたそうだ。

 

インドの国営放送Doordarshanの依頼で、"We Shall Overcome"(勝利を我等に)のヒンディー語版"Hum Honge Kamyab"を録音し、ときの首相インディラ・ガーンディーの前でパフォーマンスしたこともあったという。
当時の欧米の社会運動を象徴するこの曲が、インドでは国営放送によって制作され、強権的な政策で知られたインディラ・ガーンディーの前で歌われたというのは皮肉だが、詩人のGirija Kumar Mathurが訳したこの曲は、政府に反対する人々にも支持され、今もインドで愛されている。

それでも、時代の流れは彼に味方しなかった。
インドのライブスポットは、過激化する社会運動を警戒し、反体制的な傾向のあるミュージシャンの出演を渋るようになっていた。
また、夜間外出禁止令もミュージシャンたちの活動の幅を狭めることとなった。
Susmitも、自作のアーバン・フォークではなく、派手な衣装を着て他の歌手のヒットソングやポピュラーソングを歌わなければならなかったという。

1978年にようやくファースト・アルバム"Train To Calcutta"を発表。



The WIREの記事によると、この作品はインド人歌手による最初の英語で歌われたアルバムとのことである。
だが、彼がメッセージを届けたいと思っていた大衆は、英語ではなく、ヒンディー語の歌を聴きたがっていた。
Susmitは、それでも英語で歌った理由について、こんなふうに語っている。
「私が育った時代、英語はエンパワーメントの言語であり、文化だった。私の家は伝統的な家庭だったけれど、イングリッシュ・ミディアム(英語で教育する学校)で育った自分にとって、英語で歌うのは自然なことだった。『英語だからダメだ』なんていうのはヒンドゥー・ナショナリズム的なレトリックさ。英語を受容することは、寛容なインドの美点でもあるんだ…」

しかし、この時代にインドで活動していた多くのロックミュージシャン同様、Susmitも生きるために音楽以外の仕事に時間を取られていったようである。
その後、20世紀中に彼がリリースしたのは、ネルソン・マンデラをテーマにした1990年の作品"Man of Conscience"のみとなっている。

70年代にインドで活躍した「早すぎたロックミュージシャンたち」は、そのほとんどが生活のために音楽活動をあきらめ、また夢を追い続ける数少ない人々は、海外に活路を求めた。


だが、Susmitはインド国内で音楽活動を決してあきらめなかった。
2006年に久しぶりにリリースしたアルバム"Public Issue"が批評家から高い評価を受けると、再び音楽活動を活発化させてゆく。
2007年には早くも次作"Be the Change"をリリース。
2008年にはバウルのミュージシャンとのコラボレーションによる実験的作品"Song of the Eternal Universe"、2009年には北東部のミュージシャンたちと共演した"Rock for Life"といった意欲作を次々と発表する。
(いかにもベンガル人らしく、Susmitは自身のルーツとして、欧米のフォークミュージックだけではなく、バウルの歌やタゴールの詩、またガーンディーの思想も挙げている)



彼のキャリアを網羅した"Then & Now"のリリースのきっかけとなったのは、昨年公開されたコルカタのミュージシャンたちのボブ・ディランへの憧れを描いたドキュメンタリー映画"If Not for You"だった。



ファーストアルバムの"Train to Calcutta"は5,000枚のみプレスされ、Susmitの手元には一枚も残っていなかった。
だが、この映画の監督Jaimin Rajaniはなんとかしてアルバムの所有者を探し出し、その音源を使って今回の"Then & Now"のリリースに漕ぎつけたという。
"Train to Calcutta"は、知る人ぞ知る名盤として、海外では10万円近い値がつけられていたが、彼のおかげで誰もが手軽に聴けるようになったのだ。

Susmitが音楽を始めた頃とは違い、今ではインターネットで多くの人々が欧米の音楽に触れることができるようになった。
インドの若者たちが自らの主張や社会へのメッセージを音楽に乗せて訴えることも決して珍しくはなくなった。
ただし、今となってはその音楽は、アーバン・フォークではなくヒップホップであることがほとんどだが…。

今では時代遅れとも言えるシンプルな形式のフォークにこだわり続けることについて、Susmitはこう語っている。
「自分はウディ・ガスリーやピート・シーガーやボブ・ディランの『ガラナ』を引き継いでいるのさ。
シンプルであることにフォークの精神があるんだ」

「ガラナ」とは、インドの古典音楽の流派を表す言葉だ。
かつて古典音楽の大家になることを目指していたSusmitは、50年にわたる音楽活動を経て、今ではディラン・ガラナの名演奏家になったと言えるだろう。

彼が憧れたピート・シーガーとは、のちに文通を通して知己を得て、ニューヨークのハドソン川でセッションしたこともあったという。
二人がウディ・ガスリーの"This Land is Your Land"(『我が祖国』)を演奏した時、Susmitは'From California to New York island'という歌詞を'From Gulf of Cambay to the Brahmaputra'と歌ったという。
Cambayはインド西部グジャラート州の地名、Brahmaputraはインド北東部を流れる川の名前である。
驚くピートに、Susmitはこう言った。
「ウディ・ガスリーはアメリカのためだけにこの曲を書いたわけじゃないだろう?」

Susmitにとって、アーバン・フォークは、国籍に関係なく20世紀の世界が共有した、普遍的な「古典音楽」だったのかもしれない。
ディランがノーベル文学賞を受賞し、フォーク・ミュージックが持つ価値が改めて世界に知れ渡った今、ディラン・ガラナの大家として、Susmitの音楽は、それこそ国籍を問わずもっと評価されても良いのではないだろうか。



参考サイト:
https://www.nationalheraldindia.com/interview/interview-susmit-bose-the-rebel-musician-with-a-difference

https://scroll.in/article/977684/in-then-now-susmit-boses-social-blues-create-a-time-warp-to-reach-the-counterculture-years

https://thewire.in/the-arts/susmit-bose-train-to-calcutta-protest-music


https://www.thehindu.com/entertainment/music/the-songs-that-bind/article23821610.ece
 



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