2020年10月

2020年10月29日

秋深し。女性シンガー特集!

日が落ちるのがすっかり早まり、木々の葉っぱも色づき始めてきた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?
今回は、こんな季節に聴くのにぴったりな、しっとりした女性シンガーの特集をお届けします!

このブログでは、これまで何度か男性シンガーソングライターを紹介してきたけど、インドには素晴らしい女性シンガーソングライターももちろんたくさんいるのです。


最初に紹介するのは、さわやかな秋晴れの日に公園を散歩しながら聴きたい曲。
プネーのシンガーソングライター、Nidaの"Butterflies"をどうぞ。

彼女は昨年"And I'll Love"でデビューしたばかりの期待の若手シンガー。
このブログでも激推ししている同郷のドリームポップバンドEasy Wanderlingsや、ムンバイのシンガーソングライターTejasなどの影響を受けて、ミュージシャンとしてのキャリアを本格的に追求するようになったとのこと。

デビュー曲はウクレレの響きもかろやかなポップチューンで、こちらもとても心地よい仕上がりになっている。


続いてお届けするのは、ムンバイを拠点に活動しているシンガーソングライターMali.
ハーモニカ奏者であるお祖父さんと共演した2018年のナンバー、"Play"をお聴きください。

歌声同様に涼やかな目もとが美しいMaliは、マラヤーリー(ケーララ系)のシンガー。
このミュージックビデオは、故郷ケーララに暮らす祖父のもとを尋ねるのんびりとしたロードムービー仕立てになっている。
全編にわたって心地よい秋の風が吹いているような1曲だ。
彼女は映画のプレイバックシンガーやジャズポップバンドBass In Bridgeを経て、現在はソロアーティストとして活動しており、最新曲"Absolute"でも、ヴォーカリスト、そしてソングライターとしての高い実力を遺憾なく発揮している。

記憶に新しいところでは、新型コロナウイルスによるロックダウンの真っ只中にTejasが発表した、前代未聞の「オンライン会議ミュージカル」"Conference Call: The Musical"にも主人公(Tejas)のガールフレンド役として出演していた。(登場は5:30あたりから)
字幕をOnにするとストーリーも追えるので、ぜひじっくりと観賞してみてほしい。



続いて、より都会的なサウンドの秋らしい1曲を紹介したい。
デリーを拠点に活躍しているTanya Nambiarによる"Big City"は1960年代にMarvin Jenkinsがリリースしたジャズの名曲のカヴァーだ。

彼女はクラブミュージックからロックまで、幅広い音楽性の曲を歌っているが、このカヴァーは都会の秋の夜にぴったり。
彼女はシンガー・ソングライターとして活動するかたわら、Su Realらクラブ系のアーティストのゲストヴォーカルとしても歌声を披露している。(この記事の"Soldiers"の女声ヴォーカルが彼女だ)



見た目もサウンドも、どこか懐かしい60年代のフォークソングを思わせるAnoushka Maskeyは北東部シッキム州出身のシンガーソングライター。

右利き用のギターをそのまま反対に持って(つまり、太い低音弦が下になる松崎しげるスタイル!)歌うのが彼女の特徴。

どことなく切なさを感じさせる歌声とメロディーは秋の夕暮れにばっちりはまる。
8月にリリースされた彼女のアルバム"Things I Saw in Dream"、そして最新EPの"C.E.A.S.e"はこの季節に聴くのにふさわしいサウンド。



最後に、これまで何度も紹介しているけど、秋のノスタルジックな気分にぴったりな曲といえばやっぱりこの曲。
Sanjeeta Bhattacharyaの"Natsukashii"を紹介して終わりにしましょう。

じめじめと昔を振り返るのではなく、カラッとさわやかに晴れた秋の空のようなSanjeetaの"Natsukashii".
すっかり肌寒くなってきたけれども、こんな音楽を聴きながら過ごすのもまた一興ではないかと思います。

…と、今回はセンチメンタルな気持ちを誘う女性シンガーの作品を特集してみました。
もちろんインドの男性シンガーソングライターたちも、負けず劣らずこの時期にふさわしい深みと切なさのあるサウンドを作っています。
興味のある方はこちらのリンクからどうぞ。





 


(10月31日追記)
この記事をTwitterで告知したら、Yosh(U.Owl / Vogmir)さんからゴアのシンガーソングライター、Dittyをお勧めいただいた。


改めて聴いてみたら凄くイイ!
とくにこの曲が白眉。

タイトルからもしやと思っていたけど、やっぱりアメリカのロックバンドDeath Cab for Cutieのことを歌った曲。
「思い出しちゃうからDeath Cab for Cutieはかけないで」っていうの、いい歌詞だな〜。
秋のセットリストにぴったりの切ない曲です。

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goshimasayama18 at 21:25|PermalinkComments(0)インドのロック | インドのR&B

2020年10月24日

11/8(日)、11/15(日) オンラインイベント 『STRAIGHT OUTTA INDIA インドあの街この街ヒップホップの旅』開催!



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TwitterやFacebookでもすでにご案内している通り、11月8日(日)と15日(日)に、オンライントークイベント『STRAIGHT OUTTA INDIA インドあの街この街ヒップホップの旅』を開催します!
(リアルタイムで見られない方もオンライン視聴可能ですが、申し込みは11月15日の昼12時まで)

"STRAIGHT OUTTA INDIA"というかなりヒップホップなタイトルに、テレビ東京のゆるい旅番組みたいな「あの街この街ヒップホップの旅」という副題をつけてみました。
ただいま全力で準備中なのですが、タイトルの通り、コアな音楽プログラムであり、気楽な旅番組&トーク番組でもあり、かつインド社会を扱った硬派なドキュメンタリーでもある、という内容になりそうです。
あとグルメ番組の要素も少しだけ入ってくるかな(インドのラッパーは地元の自慢の食べ物をリリックやミュージックビデオに入れがち)。

第1回の南・西編ではムンバイ、プネー、ゴア、ベンガルール、ハイダラーバード、タミルナードゥ、ケーララのラッパーたちを特集。
第2回の北・東編ではデリー、パンジャーブ、カシミール、ラージャスターン、ジャールカンド、ビハール、コルカタ、オディシャ、北東部に加えて、パキスタンとバングラデシュ、さらにヒップホップとインド古典音楽との融合についても特集します。

インドの地名を聞いてもよく分からないや、という人もいると思いますが、インディアン・ヒップホップの総本山ムンバイ、それぞれに個性的でクセが強い南部4州、パーティーラップとダークに二極化したデリー、ジャジーでクールなコルカタ、ポリティカルなカシミールや北東部など、それぞれに個性が際立っていて、どこも非常に面白い!
 
さらに、インドのヒップホップの歴史やサウンドの変遷といった音楽的な情報のみならず、各地の文化や地域性、名所旧跡(ちょっとした観光情報?)、伝統音楽とヒップホップの関係、宗教、社会問題など、インド特有のテーマにも果敢に突っ込んでゆきます。
なかなか知ることができない現地言語のリリックの内容も、可能な限り紹介予定。

大事なことなので太字で書きますが、この盛り沢山の内容で、たったの1,500円は安い!

インド文化入門としても、インド各地の知られざるカルチャーを知りたい方にも、お楽しみいただけること間違いなし!
まるで映画のようなミュージックビデオもあり、ヒップホップに興味がない方でもノープロブレムで楽しめます。

イベント詳細&お申し込みは、こちらから!


ZOOMのウェビナーを使ったイベントです。
「ZOOMってよく分からない」って人もいると思いますが(え?いない?)、相当機械音痴の私も使えているのであなたもきっと大丈夫なはず!
やったことない方は各自ググってみてください。

「インドとヒップホップ」というテーマのこのイベント、ちょっと唐突すぎて、あっけにとられている方も多いと思いますが、
「インドにもヒップホップってあるの?」という方も、
「ヒップホップは好きだけどインドはよく知らない」という方も、
「インドは行ったことあるけどヒップホップは聴かないなあ」って方も、
「去年公開された『ガリーボーイ』 なら見たよ!」って方も、
「インドもヒップホップもよく分からないけど、なんだか面白そう」という人も、誰も置いていかないつもりです。
ぜひ視聴してみてください!

ナビゲーターは、私、不肖軽刈田と、ムンバイ在住のシンガー/ダンサーで現地のラッパーとコラボした楽曲をリリースしたこともあるHiroko Sarah.
さらに、各回ともスペシャルゲストが参加!
第一回目はムンバイのヒップホップシーンの初期から活動しているラッパーのIbexに、現地のシーンの話をたっぷり伺います。
第二回目では、パキスタンの音楽シーンに詳しいbrowneyes (aka 黒子)さんに、私もHirokoさんも知らない現地のラッパーたちを紹介してもらいます。


いつもこの手のイベントをやった後は、このブログに紹介した曲やトークした内容を書いていますが、今回はあまりにも内容が盛り沢山すぎるので(2回合わせてブログの記事20本分くらいある)、とてもじゃないけど書けません。
濃すぎる内容は参加した人だけのお楽しみになりますので、ご了承ください!

イベントで紹介する曲は、当日までお楽しみにとっておきたいので、今回は、事前打ち合わせの結果、当日紹介しないことになった楽曲たちをいくつか貼り付けておきます。
つまり、イベントではこれと同等かそれ以上に面白い曲を紹介するってことです!


ちょっと前までムンバイを象徴するサウンドだった「ガリーラップ」を代表するDIVINEの"Yeh Mera Bombay".
ガリーラップはアメリカのストリートで生まれたヒップホップをそのままインドの路地(gully)に置き換えたムーブメントで、この曲はいろんなところで紹介してきたので、今回は別の曲を取り上げます。
ガリーラップからさらに広く、深く進化しているムンバイのシーンについては、かなり時間をかけて紹介予定です。


こちらはムンバイと同じマハーラーシュトラ州の大注目エリア、プネーのラッパーM.C. T.H.C.
前歯にグリルの入った印象的な見た目の彼は、シタールの音が入ったいかにもインドらしいトラックに乗せてかなりかっこいいラップをかましてくれていますが、この街にはさらに大注目のラッパーがいるので、残念ながら彼は落選。


バンガロールの大注目ラッパー、Hanumankind.
この短編映画のようなミュージックビデオも素晴らしいのだけど、今回は他のもっと個性的な曲を紹介することになりました。
ちなみにインドのヒップホップでサウスサイドと言ったら、アトランタとかではなくインド南部のことです。


ザ・インド!なパーティーラップも何曲か紹介しますが、こういう曲、多すぎて(笑)、この曲は残念ながら選外になってしまいました。


砂漠の中の美しい城塞都市、ジョードプルからは、平気で銃をぶっ放す超ギャングスタなJ19 Squadを紹介予定。
コワモテなこの曲も面白いんですが、ローカル色満載の他のミュージックビデオがもっと素晴らしかったので、そっちを紹介することになりました。


ジャジーで落ち着いたビートに、ローカル色満載のベンガル語ラップは、コルカタのシーンの典型的なサウンドですが、もっとかっこいい曲が他にあったのでこの曲はあえなく落選。

どうです?
インドのヒップホップ、面白いし、レベル高いでしょう?

じつは告知開始以来、かなり良いペースでお申し込みいただいていまして、ZOOMのプラン的に定員に達してしまうかもしれません。
ご視聴考えていらっしゃる方は、ぜひお早めにお申し込みください〜!
(アーカイブでも見られるので、リアルタイムでご覧いただけなくてもだいじょうぶです)

もう十分分かったよ、申し込むよ、って方は、さっきのリンクに飛ばなくても、ここからも可能です。



全力で準備を進めていますので、ぜひみなさんお楽しみに!!




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2020年10月18日

どうして誰もバングラー演歌をやらないのか

(最初に断っておくと、今回の記事は完全にたわごとです)

先日来、このブログの記事を書くためにパンジャービー/バングラー系の音楽を聴きまくっているうちに、自分の心と体に思いもよらない変化が起こった。

なんと、演歌が聴きたくなったのである。
自分はこれまで、インドの音楽にはまる前を含めても、ロックとか、いわゆる洋楽的なジャンルの音楽ばかり聴いてきた人間であり、失礼ながら、これまでの人生で一度たりとも演歌を聴きたいと思ったことはなかった。

ところが、パンジャーブ系の音楽をひたすら聴いているうちに、同じようにコブシの効いた日本の演歌(というか吉幾三)が、無性に聴きたくなってしまったのだ。

まさか自分がSpotifyで「吉幾三」を検索する日が来るとは思わなかった。
吉幾三から始まって、北島三郎、細川たかし、五木ひろし、氷川きよし、石川さゆり、都はるみ、etc...知っている名前を次々と入力して、演歌を聴きあさってみた。
聴けば聴くほど、「演歌は日本のバングラーであり、バングラーはインドの演歌だ」という確信は強くなっていった。

そして、演歌とバングラーを交互に聴いているうちに、自分の中に、とても素晴らしいアイデアが浮かんできたのだ。
それは、「バングラー演歌」というジャンルを作ったら、ものすごい金脈になるのではないか、ということだ。


演歌とバングラー/パンジャービー・ポップの歌い回しは、本当によく似ている。
例えば、この曲を聴いてみてほしい。

(参考楽曲:Aatish "Jannat")
念のために言っておくと、演歌っぽいパンジャービーの曲を何曲も探してこの曲を見つけたわけではない。
YouTubeで適当に検索した3曲目がこれである。

2曲目に行き当たったこの曲もかなり演歌っぽかった。
歌い回しだけでなく、イントロのガットギターのトレモロ奏法など、バングラー/パンジャービー歌謡は演歌っぽい要素には事欠かないのだ。


次に、演歌がいかにバングラーっぽいかを聴いてみよう。
この曲を演歌に含めて良いかどうかは意見が分かれると思うが、当人の意志とはまったく関係のないところで、最近のパンジャービー・ポップスの主流であるバングラーラップと演歌を繋ぐミッシングリンクとなっているのは間違いないだろう。



演歌とバングラーの共通点はサウンド面だけではない。
演歌の美学として、紅白歌合戦における北島三郎の「まつり」の演出や、小林幸子の巨大衣装など、祝祭性や過剰さを良しとする考え方がある。
こうした傾向は、パンジャービー・ポップスが持つボリウッド的な華やかさともバッチリはまるはずだ。

というか、こうして見てみると、演歌ってじつはかなりインドっぽいのではないだろうか。
この演出もダンサーも増し増しにしてゆく感覚は、ほとんどボリウッド映画のミュージカルシーンだ。

こんな感じのドール(Dhol)のビートや…


こんな感じのバングラー・ダンスは、

演歌が持つ祝祭感覚とぴったりだ。

「バングラー演歌」という発想が荒唐無稽だと思っていたあなたも、「ひょっとしたら…」と思い始めてきたのではないだろうか。

想像してみてほしい。
和太鼓の代わりにドール(Dhol)が打ち鳴らされる中、パンジャーブの民族衣装の大量のダンサーを引き連れて歌い上げる演歌歌手を。
そこには、マツケンサンバ的な、ミスマッチなのになぜか違和感がないという、不思議な説得力と恍惚感が生まれるはずだ。
そんな曲がヒットすれば、日本の景気も少しは良くなるだろう。

本場のバングラー歌手と共演したりすれば、日本だけではなくインドでも大ヒット間違いなしだ。
粋に着物を着こなした演歌歌手と、ターバン姿に伝統衣装のバングラー歌手の共演なんて、考えただけで心が躍る。
もちろん、バックには着物姿の踊り手とサリーのダンサーたち、そしてフンドシをしめた和太鼓の集団と、パンジャービーのドール奏者たちが華を添えるのだ。

演出のパターンは無限にある。
演歌のジャンルのひとつに「任侠もの」というのがあるが、こんな感じのパンジャービー・マフィア・スタイルと、着流し姿の古式ゆかしい任侠スタイルの共演なんかも見てみたい。

昨今、反社会勢力を扱った芸能への風当たりは強くなるばかりだが、これくらい荒唐無稽なら、馬鹿馬鹿しくて誰も文句は言わないだろう。

もちろん艶やかな女性歌手の共演も素晴らしいものになるはずだ。
日本からは、石川さゆりや丘みどりあたりに出てもらえれば、パンジャービー美人の歌手とならんでも、美しさでも歌唱力でも引けを取らないだろう。

演歌とバングラーのもうひとつの共通点といえば、どちらもラテン音楽への接近が見られることだ。
演歌では、こんなふうに唐突にラテンの要素が導入されることがたびたびある。


純烈、これまでノーチェックだったがこうやって見てみるとかなりボリウッドっぽいな…。

一方のバングラー/パンジャービー勢も、よりモダンな方向性ではあるが、最近こんなふうにラテン要素の導入が目立っている。

若手演歌歌手なら、これくらい現代的なバングラーの要素を取り入れてみても良いだろう。

演歌がバングラーを取り入れるメリットは、一時のブームには終わらない。
バングラーは、これまで何度も書いてきた通り、伝統音楽でありながら、ヒップホップやEDMなど新しいジャンルを貪欲に吸収し、今でも北インドのメインストリームを占めている。
一方、我が国の演歌は、サウンド面の刷新がなかなか進まず(ビジュアル的には、ホストっぽくなったりとそれなりの進化を遂げているようなのだが)、リスナーの高齢化が著しく、ジャンルとしての衰退に歯止めがかからない状態だ。

ところが、演歌はバングラーを経由することで、ヒップホップやEDMのような若い世代の音楽と、ごく自然に融合できるのだ。

例えば、こんなアレンジの演歌があってもいいじゃないか。
演歌がこれくらい斬新な音楽性を示すことができれば話題になること間違いなしだし、若い世代や新しい音楽に敏感な層も飛びついてくるだろう。
バングラーとの融合は、演歌にとって起死回生のカンフル剤となる可能性があるのだ。

と、バングラーと演歌を巡る妄想は膨らむばかりだ。
この記事が演歌関係者(もしくはバングラー関係者)の目に留まることを祈っている。
バングラー演歌、いいと思うんだけどなあ…。

演歌関係者のみなさん、ぜひこのアイデアを実現させてみませんか?





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2020年10月13日

2020年版 シク系ミュージシャンのターバン・ファッションチェック!




先日のバングラーの記事を書いていて、どうしても気になったことがある。
それは、ターバンの巻き方についてだ。
改めて言うまでもないが、ターバンというのは、インド北西部のパンジャーブ地方にルーツを持つ「シク教」の男性信者が教義によって頭に巻くことになっている例のあれのことである。
シク教徒はインドの人口の2%に満たない少数派だが、彼らは英国統治時代から軍人や労働者として諸外国に渡っていたため、インド人といえばターバン姿というイメージになっているのだ。
(実際はシク教徒以外にもターバン文化を持っている人たちもいるし、宗教に関係なく「盛装としてのターバン」というのもあるのだが、ややこしくなるので今回は省略)

シク教徒のミュージシャンのターバン事情については、以前も書いたことがあったのだけど、今回あらためて気づいたことがあった。


それは、インド国内のシクのミュージシャンは、ターバンを巻く時に、ほぼ必ず「正面から見ると額がハの字型になり、耳が隠れるボリュームのある巻き方」をしているということだ。

例えばこんな感じである。
今年7月にリリースされたDiljit Dosanjhの"G.O.A.T."のミュージックビデオを見てみよう。
 
前回も取り上げたDiljit Dosanjhは、このゴッドファーザーのような世界観のミュージックビデオで、タキシードやストリート系のファッションに合わせて黒いターバンを着用している。
我々がターバンと聞いてイメージする伝統的な巻き方なので、これを便宜的に「トラディショナル巻き」と名付けることにする。
額にチラリと見える赤い下地がアクセントになっているのもポイントだ。
「トラディショナル巻き」のいいところは、この下地チラ見せコーディネートができるということだろう。
それにしても、このミュージックビデオのマフィア風男性、ターバン を巻いているというだけでものすごい貫禄に見える。

トラディショナル巻き以外にどんな巻き方があるのかと言うと、それは「ラッパー巻き」(こちらも勝手に命名)である。
「ラッパー巻き」については、このUKのインド系ヒップホップグループRDBが2011年にリリースした"K.I.N.G Singh Is King"のミュージックビデオを見ていただけば一目瞭然だ。

「ラッパー巻き」の特徴は、耳が見える巻き方だということ(耳をほぼ全て出すスタイルもあれば、半分だけ出すスタイルもあるようだ)、正面から見たときの額のラインが「ハの字型」ではなくより並行に近いということ、そしてターバンのボリュームがかなり控えめであるということだ。

「ラッパー巻き」は、2000年代以降に活躍が目立つようになった在外パンジャーブ系ラッパーがよく取り入れていた巻き方である。
おそらく、よりカジュアルなイメージがヒップホップ系のファッションに合うという判断だったのだろう。

ところが、インド国内のシクのミュージシャンたち、とくにパンジャーブを拠点に活動しているバングラー系のミュージシャンやラッパーたちは、首から下のファッションはどんなに西洋化しても、ターバンの巻き方だけは頑なにトラディショナル巻きを守っているのだ。
音楽的には様々な新しいジャンルとの融合が行われているバングラーだが、ターバンのスタイルに関しては、本場インドでは、かなり保守的なようなのである。

とはいえ、彼らのターバンの着こなし(かぶりこなし)はじつにオシャレで、見ているだけでとても楽しい。
それではさっそく、インド国内のパンジャーブ系シンガーたちを見てみよう。

まるで「ターバン王子」と呼びたくなるくらい整った顔立ちと伸びやかな声が魅力のNirvair Pannuは、ちょっとレゲエっぽくも聴こえるビートに合わせて、いかにもバングラー歌手らしい鮮やかな色のターバンを披露している。(曲は1:00過ぎから)

明るい色には黒、濃いエンジには黄色の下地を合わせるセンスもなかなかだ。
映像やファッションに垢抜けない部分もあるが、それも含めてメインストリームの大衆性なのだろう。

パンジャーブ語映画の俳優も務めているJordan Sandhuが今年2月にリリースした"Mashoor Ho Giya"では、オフィスカジュアルやパーティーファッションにカラフルなターバンを合わせたコーディネートが楽しめる。
 
彼の場合、ターバンと服の色を合わせるのではなく、ターバンの色彩を単独で活かす着こなしを心掛けているようだ。
どのスタイルもポップで親しみやすい魅力があり、彼のキャラクターによく似合っている。

シンガーの次は、ラッパーを見てみよう。
バングラー的なラップではなく、ヒップホップ的なフロウでラップするNseeBも、やはりターバンはトラディショナル巻きだ。
 
彼のようなバングラー系ではないラッパーは黒いターバンを巻いていることが多いのだが、今年9月にリリースされた"Revolution"では、様々な色のターバンを、チラ見せ無しのトラディショナル巻きスタイルで披露している。

こちらのSikander Kahlonもパンジャーブ出身のラッパーだ。
この"Kush Ta Banuga"では、ニットキャップやハンチングを後ろ前にしてかぶるなど、いかにもラッパー然とした姿を見せているが、ターバンを巻くときはやっぱりトラディショナル巻き。

ターバンの色はハードコア・ラッパーらしい黒。
個人的には、トラディショナル巻きはチラ見せのアクセントをいかに他のアイテムとコーディネートするかが肝だと思っているのだが、彼やNseeBのように、あえてチラ見せしないスタイルも根強い人気があるようだ。

と、いろいろなスタイルのシク教徒のミュージシャンを見てきたが、ご覧のとおり、インド国内のシク系ミュージシャンは、音楽ジャンルにかかわらず、ターバンを巻く時は「トラディショナル巻き」を守る傾向があるのだ。

私の知る限り、インド国内で「ラッパー巻き」をしているのは、デリーのストリートラッパーのPrabh Deepだけだ。
彼は、ターバンの額の部分がほぼ真っ直ぐになるような、かなりタイトなラッパー巻きスタイルを実践している。

洗練されたストリート・スタイルと、いかにもラッパー然とした鋭い眼光が、ラッパー巻きのスタイルによく似合っている。
トラディショナル巻きは、どうしても伝統的なバングラーのイメージが強い巻き方である。
彼がラッパー巻きを選んでいる理由は、「俺はパンジャービーだけど、バングラー系ではない」という矜恃なのかもしれない。


ここまで、シクのラッパーたちの2つのターバンの巻き方、すなわち「トラディショナル巻き」と「ラッパー巻き」に注目してきたが、じつは、彼らにはもう一つの選択肢がある。
それは、「ターバンをかぶらない」ということだ。

時代の流れとともに手間のかかるターバンは敬遠されつつあり、最近では、インドのシク教徒の半数がもはやターバンを巻いていないとも言われている。

シクのミュージシャンでも、メインストリーム系ラッパーのYo Yo Honey SinghやBadshahもパンジャーブ出身のシク教徒だが、彼らに関して言えば、ターバンを巻いている姿は全く見たことがない。


Yo Yo Honey Singhが今年リリースしたこの曲では、スペイン語の歌詞を導入したパンジャービー・ポップのラテン化の好例だ。

Badshahの現時点での最新作は、意外なことにかなり落ち着いた曲調で、ミュージックビデオでは珍しくインドのルーツを前面に出している。
原曲はなんとベンガルの民謡だという。

音楽的な話はさておき、ともかく彼らはターバンを巻いていないのだ。
(そういえば、2000年前後に世界的なバングラー・ブームの火付け役となったPunjabi MCもターバンを巻かないスタイルだった)
ターバンを巻いても巻かなくても、それは個人の自由だし、まして信仰に関わることに部外者が口を出すのはご法度だ。
ターバンを巻く、巻かないという選択には、伝統主義か現代的かというだけではなく、宗派による違いも関係しているとも聞いたことがある。

ただ、そうは言っても、シクの男性は、やっぱりターバンを巻いてたほうがかっこよく見えてしまうというのもまた事実。
これもまたステレオタイプな先入観によるものなんだろうけど、成金のパーティーみたいなミュージックビデオであろうと、ギャングスタみたいな格好をしていていようと、ターバンを巻いているだけで、シクの男性は「一本筋の通った男」みたいな雰囲気が出て、圧倒的にかっこよく見えてしまうのだ。

ここまで読んでくださったみなさんは、ターバンが単なるエキゾチックなかぶり物ではなく、また信仰を象徴するだけの伝統でもなく、タキシードからヒップホップまで、あらゆるスタイルに合わせられる極めてクールなファッション・アイテムでもあるということがお分かりいただけただろう。

ターバンとファッションと言えば、少し前にGucciがターバン風のデザインの帽子を発表して、 シク教徒たちから「信仰へのリスペクトを欠く行為である」と批判された事件があった。

その帽子のデザインは、今回紹介した洗練されたシク教徒たちのスタイルと比べると、はっきり言ってかなりダサかったので、文化の盗用とかいう以前の問題だったのだが、何が言いたいかというと、要は、ターバンは、世界的なハイブランドが真似したくなるほどかっこいいのだということである。

ところが、ターバンは、センスとか色彩感覚といった問題だけではなく、やはり信仰を持ったシク教徒がかぶっているからこそかっこいいのであって、そうでない人が模倣しても、絶対に彼らほどには似合わないのだ。
(ドレッドヘアーはジャマイカのラスタマンがいちばんかっこよく見えるというのと同じ原理だ)
上記のCNNの記事にあるように、シク教徒たちにとって、ターバンは偏見や差別の対象に成りうるものでもある。
それでもターバンを小粋にかぶりこなす彼らの、自身のルーツや文化へのプライドが、何にも増して彼らをかっこよく見せている。
彼らが何を信じ、どんな信念を持って生きているかを知ることもももちろん大事だが、ポップカルチャーの視点から、彼らがいかにクールであるかという部分に注目することも、リスペクトの一形態のつもりだ。

というわけで、当ブログではこれからもパンジャービー・ミュージシャンたちのターバン・ファッションに注目してゆきたいと思います。
ターバン・ファッションチェック、毎年恒例にしようかな。


(追記:シク教徒のターバンは正確にはDastarと言い、巻き方にもそれぞれちゃんと名前がある。今回は、音楽カルチャーやファッションと関連づけて気軽に読めるものにしたかったので、あえて「トラディショナル巻き」や「ラッパー巻き」と書いたが、いずれリスペクトを込めて、正しい名称や巻き方の種類を紹介したいと思っている。また、パンジャーブの高齢の男性がラッパー巻きをしているのを見たことがあるので、ラッパー巻きは必ずしも若者向けのカジュアルなスタイルというわけでもないようだ。そのあたりの話は、また改めて。)


参考サイト:
https://en.wikipedia.org/wiki/Kesh_(Sikhism)




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2020年10月10日

バングラー・ポップの現在地!最新のパンジャーブ音楽シーンをチェックする

毎回インドの音楽シーンを紹介しているこのブログで、インドで絶大な人気を誇っているにも関わらず、あえて触れてこなかったジャンルがある。
それは、パンジャーブ州発祥の音楽「バングラー(Bhangra)」だ。
(一般的には「バングラ」とカナ表記されることが多いが、それだとバングラデシュと紛らわしいし、より原語に近い「バングラー」という表記で行きます)

バングラーは、1990年代以降、ヒップホップやエレクトロニック系の音楽と融合して様々に進化しており、インドの音楽シーンを語るうえで決して無視できないジャンルなのだが、あまりにもメインストリームすぎて、インディー音楽を中心に扱っているこのブログでは、正直に言うとちょっと扱いに困っていたのだ。

現代インドにおけるバングラーの位置づけを説明するためには、少し時代をさかのぼる必要がある。 
インド北西部に位置するパンジャーブ州は、ターバンを巻いた姿で知られるシク教徒が数多く暮らす土地だ。
800px-Punjab_in_India_(disputed_hatched)

インドがイギリスに支配されていた時代、シク教徒は労働者や警官として重用され、世界中のイギリス植民地に渡って行った。(この時代の香港が舞台のジャッキー・チェン主演の映画『プロジェクトA』にターバン姿の警察官が出てくるのはそのためだ。)

1947年にインド・パキスタンがイギリスから分離独立した後も、血縁や地縁を頼って多くのパンジャービー(パンジャーブ人)たちがイギリス、カナダ、アメリカ西海岸などに渡り、海外のパンジャーブ系コミュニティは拡大の一途を辿った。

パンジャーブ州の人口は約3,000万人で、インドの全人口のたったの2.2%に過ぎない。
シク教徒の人口も、全人口の1.7%でしかないのだが、こうした背景から、旧宗主国のイギリスでは、140万人にもおよぶインド系住民のうち、じつに45%をパンジャービーが占めており、その3分の2をシク教徒なのである。
つまり、パンジャーブやシクの人々は、欧米に暮らす移民との密接なコネクションを持っているのだ。

ここでようやく音楽の話が出てくるのだが、「バングラー」はもともと、パンジャーブの収穫祭で踊られていた伝統音楽だった。
海外に渡ったパンジャーブ系移民の2世、3世たちは、シンプルだが強烈なビートを持つ「バングラー」を、現地の最新のダンスミュージックと融合するようになる。
こうして生まれた新しいバングラーは、「バングラー・ビート」と呼ばれ、南アジア系ディアスポラの若者の間で絶大な人気を得た。
その人気はやがて南アジア系以外にも飛び火し、1998年にパンジャーブ系イギリス人シンガー/ラッパーのPanjabi MCがリリースした"Mundian To Bach Ke"は、Jay-Zによってリミックスされ、2003年に世界的な大ヒットを記録した。



現代的なベースやリズムが導入されているが、この曲の骨子は正真正銘のバングラー。
印象的な高音部のフレーズを奏でている弦楽器はトゥンビ(Tumbi)、祭囃子のようなシャッフルを刻んでいる打楽器はドール(Dhol)という伝統楽器だ。
バングラーの直線的なリズムは、ヒップホップやエレクトロニック系の西洋音楽との融合がしやすかったのも幸いした。

「バングラー・ビート」はインドに逆輸入されると、新しい音楽に目ざといボリウッド映画にも導入され、国内でも人気を博すようになる。
私が初めてインドを訪れた90年代後半には、"Punjabi Non-Stop Remix"みたいなタイトルのバングラービートのカセットテープ(当時のインドの主要音楽メディアはカセットテープだった)がたくさん売られていたのを覚えている。
だいたいがド派手なターバン姿の髭のオッサンがニンマリと笑っているデザインのジャケットだった。


例えばこんな感じのやつ。

世界的なバングラー・ブームはすぐに収束してしまったが、インド国内や海外のディアスポラでは、バングラー系の音楽(より歌モノっぽいパンジャービー・ポップスを含む)は、今でもポピュラー音楽のメインストリームを占めている。
(映画『ガリーボーイ』の冒頭で、主人公がパンジャービー・ラップを聴いて「こんなものはヒップホップじゃない」と吐き捨てるシーンがあるのは、こういった背景によるものだ。)

前置きが長くなったが、そんなわけで、インドのインディー音楽に興味がある私としては、商業主義丸出しで、かつ流行遅れのイメージのあるバングラー系音楽には、あまり興味を持っていなかったのである。

我々日本人にとってさらに致命的なのは、バングラーの歌い回しが「吉幾三っぽい」ということだ。
先ほどの"Mundian To Bach Ke"でもお分かりいただけたと思うが、バングラーのこぶしの効いた歌い回しはまるで演歌のようで、かつパンジャービー語の独特のイントネーションは東北弁を彷彿とさせる。
演歌+東北弁ということは、つまり吉幾三である。

演歌ファンと東北出身の方には大変申し訳ないのだが、そんなわけで、インディーロックやヒップホップ好きの感覚からすると、バングラーはどこか垢抜けないのだ。
(ちなみにパンジャーブ人から見ても、演歌は親しみを感じる音楽のようで、インド出身の演歌歌手として一世を風靡した「チャダ」はパンジャーブ系のシク教徒である。彼はミカン作りを学びにきた日本で演歌に出会い、惚れ込んで歌手になったという。)


そんなバングラーについて考え直すきっかけになったのは、パンジャーブ州の州都チャンディーガル出身のヒップホップユニット、Kru172だった。

彼らはラッパーとしてだけではなく、ビートメーカーとしても活躍しており、パンジャーブを遠く離れたムンバイのフィーメイルラッパー、Dee MCにもビートを提供している。


そんなヒップホップシーンで大活躍中の彼らが、なんと昨年"Back In The Dayz"というタイトルのバングラーのアルバムをリリースしていたのである。
アルバムのイントロ(Desi-HipHop創成期から活躍しているUKのパンジャービー系フィーメイルラッパーHard Kaurによる語り!)に続いて始まるのは、正真正銘のバングラー・サウンド!

静かに期待感をあおるクラブミュージック風のイントロに、トゥンビのサウンドがパンジャーブの風を運んでくる。
ところが、いざ本編が始まってみると、この歌い回し、このリズム、ヒップホップらしさのかけらもない、ど真ん中のバングラー・ポップだ!


コアなヒップホップヘッズと思われていた彼らが、こんなアルバムを出すなんて!
イントロの語りからも、アルバムタイトルからも、この作品は彼らがかつて聴いていた音楽への懐かしさを込めて作ったものであることがわかる。

そう、パンジャーブの人々にとって、バングラーは商業主義のメインストリームでも、垢抜けないダサい音楽でもなく、今でも「自分たちの音楽」なのだ。
というわけで、自分の勝手な先入観を恥じつつ、現代のバングラー・シーン、パンジャービー・ポップシーンがどうなっているのか、調べてみました!

YouTubeやSpotifyで調べてみたところ、現代のバングラーには、いまだに旧態依然としたものもあれば、垢抜けすぎてもはやどこにもバングラーの要素が無いものまでいろいろなタイプな曲があったのだが、今回は、適度に垢抜けつつも、バングラーっぽさ、パンジャービーっぽさを残したものを中心に紹介する。



まずは、パンジャーブのシンガーソングライターのSukh-E Muzical Doctorzが昨年リリースした"Wah Wai Wahh"という曲を聴いてもらおう。

インドらしさを全く感じさせないクールなギターのイントロに、いかにもパンジャービーなヴォーカルが入ると空気が一変する。
曲が進むにつれて、現代風にアレンジされたバングラーのリズムや、トゥンビ風のフレーズが加わるたびに少しずつパンジャーブ成分が強くなってゆくが、曲全体の感触はあくまでスムース。
濃くてアクの強いバングラーのイメージを覆すさわやかなパンジャービー・ポップだ。
(パンジャービー系のミュージックビデオは、色彩やダンスなど、出演者の「圧」が非常に強いことが多いので、映像に引っ張られそうになったら目を閉じて聴いてみることをおすすめする)

Sukh-E Muzical Doctorz(単にSukh-Eの名前でも活動している)は、現代パンジャービー/バングラーを代表するアーティストの一人で、この"Bamb"ではパンジャーブ出身の大人気ラッパーBadshahをフィーチャーしている。

Badshahはバングラー・ビート系の音楽出身のラッパーで、EDMなどを導入したスタイルで全国区の人気を誇るラッパーだ。(いわゆるストリート系のヒップホップ・アーティストとは異なるメインストリームのラッパー)
リズムやフレーズなど、どことなくラテン系ポップスにも似た雰囲気を持った曲。
以前も書いたことがあるが、インドのポピュラーミュージックのラテン化は非常に興味深い現象だ。



続いては、The Doorbeen Ft. Raginiによる2018年のリリース、"Lamberghini".
この曲は、なんとYouTubeで4億回以上の再生回数を叩き出している。

The Doorbeenは、デリーとパンジャーブ州のちょうど中間あたりに位置するハリヤーナー州Karnal出身のパンジャービー・ポップデュオ。
この曲はインドの結婚式のダンスパーティーの定番ソングとなったそうで、ランヴィール・シンとディーピカー・パードゥコーンのボリウッド大スターカップルもこの曲に合わせて踊ったという。
女性ヴォーカルの独特の歌い回しがかろうじてパンジャービーっぽさを残してはいるものの、EDMポップ的なリズム、洋楽的な男性ヴォーカル、そしてラップといった要素は非常に現代的。
土着的な要素を残しつつ、モダンな要素を非常にうまく導入している最近のパンジャービー・ポップの特徴がよくわかる1曲。

タイトルはもちろんミュージックビデオにも出てくるあのイタリア製のスポーツカーのこと。
ランボルギーニはアメリカのヒップホップのリリックにもよく登場することが知られている。
「スーパーカー」の代表格として、富を象徴する扱いなのだが、パンジャービー・ポップにもヒップホップ・カルチャーの影響があったのかどうか、興味深いところである。

EDMとパンジャービー・ポップの融合がうまいアーティストといえば、Guru Randhawa.
彼は映画音楽を手がけることが多いまさにメジャーシーンのど真ん中の存在。
この曲は映画"Street Dancer"でフィーチャーされていたものだ。

彼は他にも『ヒンディー・ミディアム』や『サーホー』といった日本でも公開されたヒンディー語映画の曲を手掛けていたので、インド映画ファンで耳にしたことがある人も多いはずだ。

ここまで、非常に欧米ポップス寄りの曲を紹介してきたが、もっとプリミティブなバングラーらしさを残した曲もある。
例えばDiljit Dosanjhの"Muchh"は、ドールのビートとハルモニウムが古典的な要素を強く感じさせるが、リズムの感触は非常に現代的。
最初に紹介したPanjabi MCの"Mundian To Bach Ke"と聴き比べてみてほしい。

このミュージックビデオからも、USのヒップホップ的な成金志向が見て取れる。
それにしてもガタイのいいシク教徒の男性はスーツ姿が映える。
ターバンとのコーディネートもかっこいい。

今回紹介したミュージックビデオは、いずれもYouTubeで6,000万ビューを超える再生回数を叩き出しており、バングラー/パンジャービー・ポップのメインストリームっぷりを改めて思い知らされた。

また、このジャンルのミュージシャンにとって、ボリウッド映画に採用されるということがひとつのゴールになっているようで、The Doorbeenについて書かれた記事では、わざわざ「彼らはまだボリウッドのオファーを受けていないが…」という但し書きがされていたのも印象に残った。 
(その後、彼らの"Lamberghini"は、その後2020年に公開された映画"Jai Mummy Di"の挿入歌として、本家と同じ綴りの"Lamborghini"というタイトルで、若干のアレンジを加えた形で使われ、無事ボリウッドデビューを果たしている。映画版の楽曲はMeet Brothersという別のパンジャーブ系プロデューサーの曲としてクレジットされているのが気になっているのだが…)

バングラー/パンジャービー系のミュージックビデオが、アメリカのヒップホップ同様に、「経済的成功」を重要なテーマにしているということも非常に興味深い。
(ミュージックビデオでやたらとパーティーをしていることも共通している)
インドの大ベストセラー作家、Chetan Bhagatの"2 States"(映画化もされている)はパンジャーブ人男性とタミル人女性の国内異文化ラブストーリーだが、この自伝的小説によると、パンジャーブ人は、金銭的な成功を誇示したり、パーティーで騒ぐことが大好きなようで、教養の深さや控えめな態度を好むタミル系ブラーミン(バラモン)とは対称的なカルチャーの持ち主として描かれている。

そう考えると、インド国産ヒップホップの第一世代であるYo Yo Honey Singhらのパンジャーブ系ラッパーたちが、アフリカ系アメリカ人の拝金主義的な部分をほぼそのままトレースしたことも納得できる。
そうした姿勢は、インド国内でも、より社会的なテーマを扱う第二世代以降のラッパーたちによって批判されるわけだが、それは音楽カルチャーの違いではなく、むしろ民族文化の違いよるところが大きかったのかもしれない。


今回改めてバングラー/パンジャービー・ポップを聴いてみて、さまざまな音楽を吸収する貪欲と柔軟さ、それでも芯の部分を残すかたくなさ、そしてどこまでもポジティブなヴァイブを再認識することとなった。
いつも書いているように、こうしたジャンルとは距離を置いたインドのインディー音楽も急成長を遂げているのだが、メインストリームもまた揺るぎない進歩を続けている。
メジャーとインディペンデント、インドのそれぞれのシーンの面白さは本当に尽きることがない。

インド国内の現代的なバングラーやパンジャービー・ポップがチェックしたければ、Speed Records, Geet MP3, 10 on 10 Records, White Hill Musicといったレーベルをチェックすると最新のサウンドが聴けるはずだ。
 

参考記事:
https://mumbaimirror.indiatimes.com/others/sunday-read/love-and-lamberghini/articleshow/67402308.cms




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2020年10月01日

インドNo.1ビートメイカーSez on the Beatの怒りと誇り (ビートメイカーで聴くインドのヒップホップ その1)



インドのヒップホップシーンのビートメイカーを紹介する記事を書くとしたら、誰が書いても最初にこの男を紹介することになるだろう。
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決して長くはないインドのヒップホップの歴史のなかで、大きな存在感を放っているSez on the Beatは、ビートメイカーという裏方的なイメージとは正反対の男だ。
彼はときに、ソーシャルメディアを通して、ラッパー以上に饒舌に自らの主張を発信している。

昨年、ボリウッド初のヒップホップ映画『ガリーボーイ』がインドで盛り上がっていた頃、彼は怒りをあらわにしていた。

理由は、この映画の重要なシーンで使用されたインド・ヒップホップ史に燦然と輝く名曲"Mere Gully Mein"(原曲はDIVINEとNaezyによる)のクレジットに彼の名前が記載されていなかったということだ。

他の国では想像できないことだが、インドでは、長らく(そして今日に至るまで)ポピュラー・ミュージックと映画音楽はほぼ同義であり、そして映画音楽が紹介される場合、最も大きく表記されるのは曲名でも歌手名でもなく、映画のタイトルだった。
次に曲名や主演俳優の名前(彼らはほとんどの場合、曲に合わせて口パクをするだけなのだが)が続き、シンガーの名前はごく小さく表記されるのみで(劇中では表に出てこない彼らは「プレイバック・シンガー」と呼ばれる)、作曲家やプロデューサーの扱いはさらに小さい。
(ただし、A.R.ラフマーン・クラスのビッグネームになれば話は別)
そもそも、映画のための一要素として作られる映画音楽と、アーティストの作家性が重視されるヒップホップやインディーミュージックは全く構造が異なっているのだ。

結局、Sezの名前がクレジットに入れられることでこの騒動は一件落着となったのだが、映画賞を総ナメにした話題作の影で、ボリウッドが作品のテーマでもあるインディー文化に敬意を示さなかったことは、少しだけ心に引っかかっていた。
(念のため書いておくと、監督のゾーヤー・アクタルはもともとヒップホップの大ファンで、Naezyのパフォーマンスを見てこの映画を企画したというし、主演のランヴィール・シンもヒップホップへのリスペクトを公言している。言いたかったのは、この映画の製作陣への批判ではなく、ボリウッドの構造的な問題のことだ)

SezがインドNo.1ビートメイカーであることに疑いの余地は無いだろう。
彼は、インド産ストリートラップのオリジネイターであるDIVINEやNaezyの初期の作品で、独特のパーカッシブなビートを開発し、「ガリーラップ」の誕生に大きく貢献した。
それ以前にもインドにラップは存在していたが、インドに本物のヒップホップを普及させた最大の功労者をラッパー以外で挙げるとしたら、間違いなくSezの名が挙がるはずだ。
彼の功績を辿ってみよう。


まだSez on the Beatと名乗る前、Sajeel Kapoorは、PCでゲームをしたり音楽を聴いたりすることが好きな少年だった。
Sajeelは、15歳ときにVirtual DJというソフトと出会い、マッシュアップやリミックスを作り始めるようになる。

当時はTiesto, Skrillex, David GuettaといったEDMやトランス系のDJを好んでいたそうだ。
音楽で成功できなかったときのために、父の勧めでデリー大学に進み、コンピューター・サイエンスを修めたというから、優秀な学生でもあったのだろう。

もともとヒップホップは単調に思えて好きではなかったが、インドのヒップホップシーン黎明期の梁山泊とも言えるOrkut(ソーシャルメディア)上のコミュニティ'Insignia'との出会いにより、徐々にシーンに傾倒してゆく。
ちょうどSajeelがヒップホップに転向した頃、インド音楽とEDMを融合したNucleyaの音楽が注目を集るようになった。
当時、インドではヒップホップはまだまだアンダーグラウンドな存在である。
Indian Express紙のインタビューによると、彼はそのときに少しだけ後悔したと正直に話している。
EDMはヒップホップよりもビートメイカーに注目が集まるジャンルでもある。
彼の強烈な自尊心や名声へのこだわりは、こうした経験から生まれたものなのかもしれない。


彼はデリーのヒップホップシーンの中心だったコンノートプレイスのIndian Coffee Houseでたむろしながら、シーンの発展のために、そして自身の研鑽のために、ラッパーたちに無償でトラックを提供していた。
2010年頃のことだ。

大学卒業後、音楽マネジメント会社Only Much Louderで働きながら、アッサム州出身のビートメーカーとStunnahBeatzというユニットを組んで活動していたSezに、やがてチャンスが回ってくる。
ムンバイのラッパーDIVINEに提供した"Yeh Mera Bombay"が人気を集めたのだ。



続く"Mere Gully Mein"は、Sez自身はあまり気に入ったビートではなかったそうだが、DivineとNaezyがムンバイのストリートの空気感を濃厚に感じさせるラップを乗せると、刺激的な音楽を求める若者たちに大歓迎された。


Sezのビートは、Divineのワイルドなラップとも、Naezyの苛立ちを感じさせるフロウとも抜群の相性だった。
ヒンディー語で裏路地を意味する"Gully"という単語は、インドのヒップホップを象徴する言葉となり、ついには大スターを起用したボリウッド映画まで作られるほどになったのだ。(先述の『ガリーボーイ』のことだ)

だが、Sezはこの「ガリーラップ」の成功にとどまるつもりはなかった。
彼は一時代を築いたガリービートに早々に見切りをつけると、その後はメロウなチルホップ系のサウンドやトラップ的なビートを導入し、インドのヒップホップシーンの最先端を走り続けている。

とくに、デリーの先鋭的ヒップホップレーベルAzadi Recordsから2017年にリリースされたPrabh Deepのアルバム"Class-Sikh"は、ガリーラップ以降のインドのヒップホップを方向付ける作品として、非常に高い評価を受けている。


ターバンと髭という伝統的なシク教徒の装いにストリートファッションを合わせ、ムンバイとはまた異なるデリーのストリートの空気感を濃厚に漂わせたPrabh Deepのラップは、Sezのビートと化学反応を起こし、瞬く間にインドのヒップホップシーンの新しい顔となった。


Azadi Recordsは、イギリスで音楽ビジネスに関わっていたMo JoshiとジャーナリストのUday Kapurによって、当時設立されたばかりの新進レーベルだ。
インディペンデントな姿勢にこだわり、ときにラディカルな政治的主張もいとわないAzadi Recordsは、商業主義を排した本物のヒップホップレーベルとして時代の寵児となった。


このレーベルは、Sezの活躍の舞台としてもうってつけだった。
デリーの二人組、Seedhe Mautに提供したトラックでは、珍しくインド古典音楽っぽいリズムやサウンドを導入している。



彼がAzadi Recordsでプロデュースたのは、デリーのラッパーたちだけではない。
アルバム"Little Kid, Big Dreams"を共作したカシミール出身のAhmerは、Sezの緊張感のあるビートに乗せて、過酷すぎる故郷の生活をラップしている。

美しい自然と厳しい現実を綴ったリリックの対比が、痛切な印象を与えるミュージックビデオだ。

Azadi RecordsでSezが作り出した叙情性と不穏さが共存したビートは、ガリーラップ以降のインドのヒップホップシーンのトレンドを方向付けたと言っても過言ではないだろう。

時計の針を少し戻すと、ガリービート以降、こうしたサウンドに至る前のSezが作っていた、メロウでチルなサウンドも素晴らしかった。
バンガロールのSmokey the GhostとAzadi所属前のPrabh Deepが共演した"Only my Name"はLo-Fi/Jazzy Beat的なサウンドが印象的。


ムンバイのラッパーEnkoreに提供した"Fourever"も美しさが際立っている。



最近のSezはまたビートの幅を広げてきており、昨年10月にバンガロールのフィーメイル・ラッパーSiriがリリースした曲には、また違ったタイプのビートを提供している。

英語でない部分の言語はカルナータカ州の公用語であるカンナダ語。


ここまで彼のトラックを聴いてお気づきの通り、ある時期以降、Sezが手掛けたビートの冒頭には、必ず'Sez on the Beat, boy.'というサウンドロゴが入っている。
これは彼の強烈なプライドと自信を表しているものと見て間違いないだろう。


時は流れて2019年12月、Sezは再び、怒っていた。
彼がFacebookに投稿した長い文章(https://www.facebook.com/sezonthebeat/posts/2534967219919080)を要約してみよう。

「ずっと言いたかったことを言わせてくれ。ヒップホップについて書いている音楽ジャーナリストたち。お前らがプロデューサーにはほとんど言及しないのはどういうことだ?
俺たちだって、ラッパーと同じくらい一生懸命音楽に取り組んでいる。
ラッパーは確かに表紙を飾る存在かもしれないが、同じように音楽を作っているアーティストが、ラップをしないから、ストーリーを語らないからといって十分に注目されないってのは悲しいことだ。
"Class-Sikh", "Bayaan"(Seedhe Mautのアルバム), "Little Kid, Big Dreams"と、俺はAzadi Recordsで3つのビッグプロジェクトに関わってきた。いずれもシングルじゃなくてアルバムだ。
ビートを作り、録音して、プロジェクトを監督してきた。
唯一俺がしなかったのは、ラップしたり、ストーリーを語ったりすることだけだ。
ジャーナリストもレーベルも、プロデューサーが注目されないのは自分たちのせいじゃないと言うだろう。
こんな状況はおかしいと何度もレーベル内で話して、怒りを表してきたが、何も変わらなかった。
俺に対してこんな扱いだったら、もっと無名なプロデューサーは名前すら出してもらえないだろう。
俺はアーティストにも文句を言いたい。ファミリーだのブラザーだのいいながら、お前らはインタビューで仲間のことにはほとんど触れない。
リスナーたちにも少し苦言を呈させてもらう。俺が作ったトラックを聴いているリスナーのうち、アーティストと同様にプロデューサーも気にしてくれているのは半分以下だ。
俺はこんな状況は早く変わって欲しいし、もっと早く指摘するべきだった。
ヒップホップはコミュニティだ。
ラッパーだけのものでも、レーベルだけのものでもない。

P.S. 俺はもうAzadi Recordsの一員ではない。新しいチームを作ったんだ。」



なんと彼は、蜜月と思われていたAzadiとの関係に終止符を打ち、出てゆくことを宣言したのだ。
彼の怒りの源は、『ガリーボーイ』のときと同様に、サウンド面でヒップホップシーンに大きく貢献しながらも軽視されている状況に対してのものだった。
傍目には十分な評価と注目を得られているように見えていたが、シーンのど真ん中にいる彼には、また別の感じ方があったのかもしれない。

Azadi Recordsを離れたSezは、MVMNTという新しいレーベルを立ち上げ、引き続き精力的なリリースを続けている。
8月には多くのラッパーをゲストに迎え、EP"New Kids on the Block vol.1"をドロップした。
このThara MovesはLuckというラッパーとの共演。


この"Kahaani"では、EDM系プロデューサーのZaedenをシンガーとして迎えるという珍しいコラボレーションに取り組んでいる。

ラッパーはEnkore, Yungsta, Little Happu, Shayan.

ムンバイのEnkoreとSiege, デリー近郊のRebel7, Yungsta, Smokeをラッパーに迎えた"Goonj"のリリックでは、Azadi Recordsとの間に金銭トラブルもあったことを示唆しているようだ。



これに対してAzadi Records側は、ムンバイのTienasがリリースした"Fubu"で、'I made it without SezBeat, bitch'とラップし、決別を宣言した。


インドのヒップホップシーンを代表するレーベルとビートメイカーの、なんとも後味の悪い結末だが、Sezは自身のレーベルでクールなビートを作り続けており、またAzadi Recordsも新しいプロデューサーの起用で勢いづいているので(Prabh Deepはセルフプロデュースによる良作をリリースしている)、結果的にはこれで良かったのかもしれない。

いずれにしても、Sezがこれまでインドのヒップホップシーンに残してきた功績は疑う余地のないものだし、今後どんな進化を遂げるのか、非常に楽しみな存在でもある。
Sezの告発に影響を受けたわけではないが、インドには優れたラッパーだけでなく、注目に値するビートメイカーも大勢いるので、今後も折りを見てビートメイカー特集を続けてゆきたい。


参考サイト:
https://www.facebook.com/sezonthebeat/posts/2534967219919080

https://scroll.in/magazine/912400/the-release-of-gully-boy-is-a-bittersweet-moment-for-a-stalwart-of-indias-hip-hop-movement

https://loudest.in/2019/08/05/interview-sez-hip-hop/

http://www.thewildcity.com/news/16976-sez-on-the-beat-releases-first-single-goonj-after-parting-ways-with-azadi-records

https://ahummingheart.com/features/interviews/sez-on-the-beat-and-faizan-khan-building-community-with-the-mvmnt

https://indianexpress.com/article/express-sunday-eye/hip-hop-producer-west-delhi-ended-up-amplifying-the-voice-of-a-whole-new-generation-5388380/




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