2018年01月

2018年01月28日

デスメタルバンドから返事が来た!Alien Godsのギタリストが語るインド北東部の音楽シーン

こんばんは、軽刈田凡平です。


こないだのブログで、インド北東部7州「セブン・シスターズ」にどうやら多くのデスメタルバンドがいるらしい、ということを取り上げた。

インドの中でも辺境とされ、自然豊かなこの地域で、どうしてそんなに激しい音楽が流行っているのか。

探ってみるためにいくつかのバンドにメッセージを送ってみたところ、Top 10 Indian Death Metal Band9位の、アルナーチャル・プラデーシュ州イーターナガル出身のAlien Godsからさっそく返事が来た!


メッセージをくれたのはギタリストのTana Doni.

「俺たちに興味を持ってくれてありがとう。どんな方法でも喜んで協力するよ」

と、なんかいい奴っぽい。

ではさっそく、インタビューの様子をお届けします。

 

凡「まず最初に、Youtubeやなんかを見ていて、インド北東部にたくさんのメタルバンドがいることに驚いたんだけど」

Tana「アルナーチャルには他にもいいバンドがたくさんいるよ。よかったら紹介するよ」

と教えてくれたバンドは、

プログレッシブ・ブラックメタルとのふれこみのLunatic Fringe


マスロックバンドのSky Level. 
 

現代的なヘヴィーロックで、なかなか面白いギターを弾いている。


ロック系ギターインストのAttam. 彼は近々アルバムを出すという。

 

凡「イーターナガルとかアルナーチャル・プラデーシュ州のメタルシーンについて教えてくれる?」

Tana「正直言って、シーンはアンダーグラウンドなものだよ。北東部にはいろんなジャンルが好きな人がいるから。でもマニプル州は他の北東部の州よりシーンが発展しているかな」

凡「どんなところで演奏してるの?」

TanaGovermental hall(公民館のようなところか)とか、Community Ground(屋外の公共の場所か)とか」

なんと。田舎ながらもシーンがあって、愛好家が集うライブハウスみたいなものがあるのかと思ったら、本当に好きな人たちがなんとか場所を借りて続けている状況のようだ。

 

凡「Alien Godsはブルータルなサウンドが印象的だけど、どんなバンドに影響を受けたの?」

Tana「実は俺は3枚目のアルバムができてから加入したから、よく分からないんだよね。今のメンバーでオリジナルメンバーはボーカルだけなんだ」

またしてもびっくり。でもそれって代わりになるレベルのプレイヤーが身近にいるってことだよね。アングラとはいえそれなりにプレイヤー人口はいる様子。

凡「じゃあ、あなた自身はどう?いつ、どんなふうにこういう音楽と出会ったの?」

Tana「最初はパンクロッカーだった。2007年、高校生の頃のことさ。Blink182Sum41が好きだった。それからハードコア・パンクに興味を持つようになったんだ」

凡「へえー!でもインドってあんまりパンクが盛んじゃないように思うけど」

Tana「インドにもいい感じのアンダーグラウンドのパンクシーンがある。”The Lightyears Explode”はチェックすべきだよ。彼らとは地元のフェスで共演したんだ」

 

The Lightyears Explodeはこんなバンド。
 

ポップなサウンドに内向的な歌詞。なかなかいいじゃないですか。

インドだと、メタルバンドはだいたいがとことんヘヴィーなデスメタル系なのに、パンクになるとポップになる傾向があるのかな。

 

凡「じゃあ、ポップ・パンクからハードコア・パンク、そこからデスメタルって感じなんだね」

Tana「デスメタルの前はブラックメタルだったよ。これが俺の最初のバンドなんだ」


ギターがメロディアスで、日本のメタル好きにも人気が出そうなサウンドだ。

Tana「それからAlien Godsに加入して、今ではSacred Sacrecyっていうバンドもやっている」


Sacred Secrecyはよりブルータルかつテクニカルな感じのバンドのようだ。
 

凡「好きなバンドとか、好きなギタリストは?」

Tana「いくつか挙げるなら、Cradle of Filth, Dimmu Borgir, Cannibal Corpse, Cryptopsy, Cattle Description, Strapping Young Ladかな」

凡「どれもデスメタルとかブラックメタルの大御所だね。実は僕、Strapping Young Ladのデヴィン(ヴォーカル/ギター。Steve VaiSex & Religionというアルバムでヴォーカリストを務めた)はヴァイと一緒のツアーで見たことがあるよ」

Tana「へえ!それはすごくラッキーだね!俺、Strapping Young Ladのコンサートを見るためだったら何でもするよ。彼はまさにレジェンドだね。ところで、マキシマム・ザ・ホルモンってバンドは知ってる?」

凡「もちろん、日本のバンドだよね。日本じゃヘヴィーな音楽はアンダーグラウンドだけど、彼らはすごく人気があるよ」

Tana「だろうね。だからこそ俺が住む北東インドまで彼らの音楽が届いてるんだと思う。彼らのスタイルは好きなんだ。すごく興味をそそるよ。いくつか日本のバンドでお勧めを教えてくれたらうれしいんだけど」

さて、困った。最近のこの手のジャンルは全然知らない。

凡「日本じゃメタルだともっとメロディアスなやつが人気なんだよ。X Japanとか、知ってる?」

Tana「うん。ってか知らない奴いる?」

あ、そうなの。日本の皆さん、インド北東部でもXは有名です。

彼にいくつか日本のバンドを教えてあげる。タナはかなりコアなメタルファンのようで、たとえば日本の老舗ブラックメタルバンドのSighも聴いたことがあると言っていた。

凡「それじゃあ、最後の質問。ミュージシャンとしての夢を教えてくれる?」

Tana「ワールドツアーだよ。俺はステージプレイヤーなんだ。スタジオに座ってるより、ツアーをしていたい」

凡「ありがとう。いつか日本でライブが見られたらうれしいな。またニュースがあったらぜひ教えて」

 

と、かいつまんで書くとこんな感じのインタビューだった。

インタビューを終えて、いくつかのことについて分かったし、いくつかのことについて反省もした。

まず分かったのは、セブン・シスターズ諸州では、けっしてデスメタルが盛んなわけではなく、世界中の他のあらゆる地域と同じように、メタルはアングラな音楽で、でも根強いファンがいるということ。

それから、ポップなパンクからハードコア・パンクに進み、そこからだんだんよりヘヴィーでテクニカルな音楽が好きになっていったという彼の音楽キャリアは、日本でも欧米でも、世界中のどこにでもあり得るようなものだということ。 

反省したというのは、自分の中のどこかに、こんなに辺鄙なところで(失礼)デスメタルをやってるなんて、なにかすごく面白い秘密があるんじゃないだろうか、と無意識に思ってたということだ。

そもそもデスメタルのミュージシャンにインタビューすること自体初めてだったけど、彼とやり取りをしていて、アルナーチャル・プラデーシュという、自分が全く行ったことがない場所の人と話しているという気が全然しなかった。

っていうか、まるでこの手の音楽が好きな日本の後輩と話しているような気さえした。

インターネットで世界中が繋がったこのご時世、ネットがつながる環境さえあれば、世界中のどこにでも、同じようなものに惹かれる人たちがいる。

流行っているポップミュージックは国によって違っても、コアな音楽には国境はない。彼と話をしていて、改めてそう認識した。

また、以前書いたように、インド北東部の人々は、インドのマジョリティーと文化的なバックグラウンドを共有しないがゆえに、よりダイレクトに欧米のカルチャーの影響を受けるのだろう。おそらくはそれがこの地域でデスメタルが盛んなように見える理由だ。

それから、「Strapping Young Ladのライブを見るためだったら何でもするよ」という彼の言葉と、ライブハウスが無いから公民館みたいな施設を借りてライブをやっているということにも、なんというかこう、ぐっと来た。

セブン・シスターズ出身の別のデスメタルバンドが、デリーでライブをやったときのインタビューでこんなふうに答えていた。

(地元でのライブとデリーでのライブの違いはどう?という質問に対して)「地元じゃ誰もヘッドバンギングなんかしないで、みんな座ってじっと見ているんだ。こっちだと音楽に合わせて体を動かしてくれて、デリーのほうがずっといいよ」

おそらく彼らは本当にこういう音楽が好きで、観客が盛り上がってくれなくても、演奏をすること自体の喜びを糧にして演奏を続けているのだろう。

もちろん自分だって、こういうブログをやるくらいだから、音楽は好きなつもりだ。でも「彼らのライブを見るためだったら何でもする」とまで言えるほど好きなミュージシャンがいるだろうか。

ミュージシャン目線で見ても、日本にはいくらでも演奏する場所がある。もし無かったら、自分たちでどこか場所を借りてまで演奏したい、自分たちでシーンを作りたい、自分たちのやっている音楽が理解されなくても、ずっと演奏を続けていたい、そこまで思っているバンドマンが日本にどれくらいいるだろう。

 

「ぼくが今生きてるのが世界の片隅なのか どこを探したってそんなところはない」と歌ったのはブルーハーツだったが、まさしくその通り。

音楽の世界に中心も片隅もなく、あるのは演奏する人、聴く人の心だけだ。セブン・シスターズのメタルバンドたちは、間違いなくヘヴィーミュージックのど真ん中で演奏を続けている。

Alien GodsのフロントマンSaidはこう語る。

「俺たちはただ音楽が好きなだけなんだ。俺たちは名誉や金のために音楽をやっているわけじゃない。すぐれた音楽を演奏する喜びを感じたくてやっているんだ…」

彼らの音楽が好みじゃないって人たちも、この言葉には感じるところがあるんじゃないかな。



2018年01月26日

インドのメインストリームヒップホップ1 Yo Yo Honey Singh

凡平です。
2
回にわたってむさ苦しい音楽を紹介してきたので、今回は「なんとかメタル」から離れて、ヒップホップのアーティストを紹介することにしたい。 

これまで、ヒップホップでは大衆音楽とは距離を置いた、ストリート寄りのBrodha VさんとかDIVINEさんを紹介してきたけど、今回は「これぞインドのメインストリーム!」ってなラッパーを紹介させていただきます。

というわけで、本日紹介するのはこの方、Yo Yo Honey Singhさんです。

 590694-honey-singh

ヨー・ヨー・ハニー・シン。

この名前を聞いて、まずみんな何を思うかってえと、芸名がださい…ってことだと思う。

Singhの部分が本名なわけだけれども、人間、自分の名前にヨー・ヨー・ハニーってのをつけたがるもんだろうか。

みなさんも自分の名前にちょっとヨー・ヨー・ハニーをつけてみてほしい。

自分がプロのミュージシャンになるとして、その名前で行こうってのはなかなか思わないんじゃないかなあ、って思うけど、まあそんなことはどうでもいいや。

まずはこの曲、2012年の曲でBrown Rang

   

再生回数は20181月の時点で4,400万回。

Brodha VDIVINEがせいぜい80万回くらいだから、文字通り桁が違う。それも二桁だ。

このビデオは2012年にYouTubeで最も見られたビデオってことになっている(たぶん当時はもっと再生回数の多い動画が上がっていたものと思われる)。

この曲はパンジャーブ語で歌われているんだけど、パンジャーブ語話者はインドとパキスタンに9,500万人程度。

じゃあパンジャーブ語話者だけがこの曲を聴いてるのかっていうと、そうとも限らなくて、ヒンディー語(話者26,000万人)を含めて似た構造を持っている北インド系の言語を母語とする人たちを中心に、歌詞を聴いて理解できる層というのはインドに相当数いるのではないかな。

で、そこまで人気のあるビデオってだけあって、内容も今まで見てきたインドのラッパーたちとは大違いで、下町をTシャツで練り歩いていたりはしない。

なんかゴージャスな感じのところでビシっとキメた格好で綺麗なおねえちゃんと絡んでいる。

まあこういう成金感覚も非常にヒップホップ的ではあるよな。

曲はヴォコーダー処理されたようなヴォーカルとか、同時代の欧米を意識しつつも歌い回しなんかはインドっぽいところを残しているのが印象的だ。

Brown Rangというのは、英語とおそらくはパンジャーブ語のミックスで、「茶色い肌」という意味だそうで、これは自分たちインド人のことを指していると考えて間違いないだろう。

「茶色い肌の彼女、みんな君に夢中で何も手につかないぜ、色白の女の子なんてもう誰も相手にしないのさ」という歌詞で、これを非常に現代的なサウンドに乗せて歌うところがニクい。

インドにはかなりいろいろな肌の色の人がいるが、昔から色白こそが美の条件とされている。
映画に出てくる女優も男優もかなり肌の色が薄い人ばかり。

そういうインドで、最先端のサウンドに乗せて「茶色い肌こそ魅力的なのさ」と歌うこの曲は、色白でない大多数の若者達にとって、とても魅力的に響くってことなのだろう。


続いてはこの曲。2013年のBlue Eyes.

 

なんかDA PUMPっぽい空気感を感じるビデオではあるが、この曲の再生回数もすでに14400万回!

1年前に「茶色い肌が魅力的さ」と歌ってたくせに、今度は「君の青い瞳が最高」みたいな曲。でも、白人の女の子を口説く内容の曲ということに、格別に都会的というか進歩的な雰囲気があるのかもしれない。

同じようにヴォコーダーを使ったコーラス部分が結構現代的なのに比べて、ラップのところがどうもちょっと野暮ったいんだけど、それもまた魅力といえば魅力、のような気もしないでもない。

 

もう少し最近の曲だとこんな感じになってる。

2016年のSuperman.

   

今度は曲調がヒップホップというよりEDMっぽい感じになってきた。 

「ベイビー、アイム・ア・スーパーマン!」とあいかわらず一定のダサさがある部分が、やっぱり幾ばくかの安心感になっていると思うのですが、いかがでしょう。
 

YoYo Honey SinghことHirdesh Singhはパンジャーブ州のシク教の一家に生まれ、イギリスの音楽学校で学んだ後、デリーを拠点に音楽活動をしている。

パンジャーブと言えば、90年代に世界的にもちょっと話題になったインド発祥の音楽、バングラの発祥の地だ。2011年にボリウッド映画「Shakal pe mat ja」の音楽を手がけた後、音楽活動のみならず俳優としても活躍している。パンジャーブ語だけでなく、ヒンディーで歌う事も多いようだ。

シク教は、インド北東部パンジャーブ州で16世紀に生まれた宗教。当時の(そして今も)インドの二大宗教であるヒンドゥーとイスラムの影響を受けつつ、他の宗教を排斥せず「いずれの信仰も本質は同じ」という考えを持ち、インドを中心に3,000万人の信者がいる。シク教徒の割合はインド全体では2%程度だが、ターバンと髭が目立つせいかもっといるように感じるし、パンジャーブ州では今でもじつに6割がシク教徒だ。

男性はひげを伸ばしてターバンを巻くことになっていて、ラッパーでも若手の社会派として人気のあるPrabh Deepなんかはターバンを巻いている。デスメタルバンドGutslitのベーシストも、そんな音楽やってるのに律儀にターバン(色は黒)は巻いているが、Yo Yo Honey Singhはターバン、全然巻いてないね。

若手シク教徒がターバンについてどう思っているのか、気になるところではある。
 

ここから先は完全に想像というか妄想だけど、彼の場合、おそらくイギリス留学が脱ターバンのきっかけになったのではないかな。

おそらく、シク教徒のターバンには、「自らすすんで戒律を守る」ということとは別に、コミュニティの中でかぶらないわけにはいかない、みたいな部分もあるのだと思う。

イギリスに留学したことで、初めてそうした因習から自由になり、ターバンを脱ぎ捨て、一人の若者として最新の音楽を学んでそれをインドに持ち帰る。
その無国籍なサウンドに、若干のインド的な要素をブレンドして、欧米コンプレックスを払拭するような歌詞を乗せて歌う。
Yo Yo Honey Singhの音楽はある意味非常に現代のインド的な音楽だと思うのだけど、いかがでしょうか。

今日はこのへんで!



goshimasayama18 at 22:14|PermalinkComments(0)インドのヒップホップ 

インド北東部でいったい何が!? Death Metal from “7 Sisters States”

前回、「インドのペイガン・メタル」なんていう濃いものを書いてしまったので、今回は軽くて洒落ているものを書こうと思っていたら、ああ、なんたること、また濃くてむさ苦しいネタを見つけてしまった…。

 

「インド北東部7州」といってピンと来る人は、相当インドが好きな人かインド人くらいだと思うので、まずはインドの地図をごらんください。

 インド地図

 

この菱形に近いインドの地図の東側のコルカタのさらに東、ちょうどバングラデシュに抉られるようになった東の端の、ちぎれてしまいそうな部分。

ここに、英語で”Seven Sisters”と呼ばれる7つの州がある。

アルナーチャル・プラデーシュ州、アッサム州、メーガーラヤ州、マニプル州、ミゾラム州、ナガランド州、トリプラ州の7つの州のことだ。

 インド北東部

いずれの州も北インドのアーリア系とも、南インドのドラヴィダ系とも違うモンゴロイド系の民族が暮らしていて、インドの大部分とはまったく違う文化や言語を持った地域だ。

それぞれの州ごとに、異なる言語や文化があり、さながらこの地域は民族のモザイクのような様相となっている。

気候の面でも、どちらかというと乾燥したインドの大地とは異なり、密林が広がる山岳地帯が多く、メーガーラヤ州のマウシンラムという村は年間で最も雨が降った場所(1985年。26,000mm)とされている。

この地域は中国、バングラデシュ、ミャンマー、ブータンと国境を接していて、私がよくインドに行っていた’90年代後半〜’00年代初頭頃は外国人の立ち入りが禁止されていた、まさしくインドの辺境中の辺境。

ちょっと景色や人々を見てみると、こんな感じだ。

 
メガラヤ州の絶景
Meghalaya-–-Visiting-the-cleanest-village-in-the-world-CP

マニプル州の谷間の街
manipur

ミゾラム州の州都、アイザウル
mizoram aizawl-city


 ナガランドの人々
Nagaland-People

 アッサムの茶畑。まるで静岡みたい。
assam-719

 

それぞれ独自の文化を保った人たちが豊かな大自然の中で暮らすのどかな地域っといった印象を受けるね。

Seven Sistersはインド辺境の古き良き文化が残る純朴な7姉妹といったイメージだ。
ところがしかし。

 

前回の記事を書いている時に、YoutubeThrashDeath Assaultという物騒な名前のユーザー(どうやらインドのヘヴィーメタル愛好家のようだ)が、Top 10 Indian Death Metal Bandという動画を挙げているのが目についたので、なんとなく見てみることにした。

それがこちら。

 

 

ちゃんとバンド名といっしょに出身都市の名前が出てくる親切仕様になっていて、アタクシのような人間にはありがたい。

へえ、インドにそんなにたくさんデスメタルバンドっているんだ、ムンバイとかバンガロールみたいな大都市、国際都市のバンドがたくさん出てくるのかなあ、と思ったて見ていたら、さにあらず。

耳慣れない地名が次から次へと出てくる。しかも、明らかにモンゴロイド系の顔のメンバーがいるバンドが出てくる出てくる。

 

紹介されているバンド名、出身都市、出身州を並べてみるとこんな感じ。

1. IIIrd Sovereign アイゾール(ミゾラム州) 

2. Gutslit : Mumbai ムンバイ(マハーラーシュトラ州)

3. Plague Throat シロン(メーガーラヤ州)

4. Demonic Resurrection ムンバイ(マハーラーシュトラ州)

5. Godless ハイデラバード(アーンドラ・プラデーシュ州)

6. Sycorax ダージリン(ウエスト・ベンガル州)

7. Agnostic グワハティ(アッサム州)

8. Killibrium ムンバイ(マハーラーシュトラ州)

9. Alien Gods イーターナガル(アルナーチャル・プラデーシュ州)

10. Wired Anxiety ムンバイ(マハーラーシュトラ州)

 

と、なんと例のインド北東部、セブン・シスターズ出身のバンドが4つも入っている。6位のSycoraxの出身地である紅茶で有名なダージリンも、州こそ違うが地理的にはかなり近いところにあり、じつに10バンド中半分がインド北東部出身ということになる。

9位のAlien Godsの出身地イーターナガルなんて、調べてみたら、人口35,000人のこんな町だ。

 itanagar-head-145

いったい何故、こんなにのどかな地方でデスメタルを?

しかも、全部、メロディアスだったりシンフォニックだったりしないゴリゴリの骨太な感じのやつだ。

 

ひょっとするとこれは選んだ人がこのへんの地方の人で、恣意的なランキングなんじゃないかと、今度は、www.toptens.comというサイトの「Top 10 Metal Band in India」という記事を見てみた。

Top 10といいながら144位までランキングされていて、まずそもそもインドにそんなにメタルバンドがいるってことに驚いた(最後のほうは「High School Band」とかも出てくるからなんとも言えないが)んだが、このランキング(デスメタルに限らない)でも、東北7州のバンドはTop10入りこそ逃したものの、100位までで21組もいる。

参考までに書くと、セブン・シスターズの人口は4,500万人。インド全土の人口の3.7%に過ぎない。州のGDP、一人当たりGDPも比較的低い州ばかりだ。

豊かな自然や独自の文化があり、楽器なんかもそうそう流通してなさそうな(買うお金だってバカにならないし)これらの州で、いったいなぜデスメタルが流行っているのか。

ナガランドなんかは、昔は首刈りの風習があって、一人前の大人の男と認められるには余所者の首を刈ってこないといけない、っていう習慣があったところなので、なんかこう、残虐性に惹かれる文化があるのだろうか。

それとも、この地域は歴史的にゲリラ的な独立闘争運動が盛んだったことから、インド政府に隷属せざるを得ない怒りのようなものが蓄積されているのだろうか。

 

ひとまず、どんなバンドがいるのか見ながら考えてみようか。

とはいえ、あんまり動く映像があるバンドが多くないんだよなあ。

まずは、インドのデスメタルバンド10選の3位、メーガーラヤ州のPlague Throatをどうぞ。
 

このバンドはドイツのフェスティバルでの演奏経験もあるようだ。

しっかし、デスメタルとはこういう音楽と分かっていながら、どうしても酒を飲みすぎて猛烈な頭痛と吐き気を催し、トイレでのたうちまわっている状態のように聴こえてしまって仕方がない。

デスメタルだなあ!とは思うけど、あまりにも類型的すぎてなんとも言えないなあ。まあ、それだけ良くできているとも言えるが。

 

続いては、インドのデスメタルバンド10選の9位、アルナーチャル・プラデーシュ州イーターナガル出身のAlien Godsのコルカタでのライブの様子がこちら。
 

あんなのどかなところ出身なのに、なぜこんなことに。

田舎のお母さん、心配してるよ。まあそれ言ったらSlipknotの故郷のアイオワだってど田舎なわけだから言いっこなしかもだけど。

 

今度はデスメタルから離れまして、インドのメタルバンド100選から18位のバンド、アッサム州のXontrax.


音は激しいけど、なんか短髪のメンバーがすごく真面目そう。

邪悪な感じがあんまりしないな…。もっともてそうな音楽やれよ、って言いたくなる感じ。

 

続いて、インドのメタルバンドベスト10041位、ミゾラム州のComora、お聴きください。


おお、ちゃんとした(?)ミュージックビデオだ。

こちらもサウンドは激しいけど、なんかすっげえ朴訥。山の中で民族衣装を着て演奏してる…。なぜこのシチュエーション、この格好でこの音楽なのか。

 

続いて、メタルバンドベスト10058位、首刈りがかつて行われていたというナガランドのIncipitというバンド。


これ、メタルじゃないじゃん。なんかジャーニーみたいな爽やか感じのロック。

メンバーやっぱり朴訥としてるなあ。

 

うーん、ランキング下位のバンドになってくると、朴訥ばかりが気になって、なにが彼らをメタルに駆り立てているのか、映像を見てもよく分からない。

 

ここから先は完全にアタクシの推測。

高野秀行の「西南シルクロードは密林に消える」って本によると、2002年ごろのナガランド州ディマプルという町の様子はこんなふうだったという。

 

何よりも意外だったのは、その若者たちのファッションだ。Tシャツか派手な柄のシャツをだらっと着流し、下は膝小僧が見え隠れするくらいの長さのハーフパンツ。頭にはバンダナを巻くかアポロキャップをかぶり、素足にジョギングシューズをはいている。いわゆるヒップ・ホップ系のストリート・ファッションというやつだ。

女の子もまちがってもサリーなど着ておらず、茶髪が多く、服装もTシャツにジーンズなどで、これまた日本の今時の若い子と変わらない。

(中略)

「ナガ人はクリスチャンだから、インド人よりずっとアメリカナイズされているんだ」

 

そう、インド全体では2%に満たないキリスト教徒だが、セブン・シスターズ諸州では人口の2割ものクリスチャンがいる。人口規模が圧倒的に多いアッサム州にヒンドゥー教徒が多いので、地域全体では2割にとどまっているが、ナガランド、ミゾラムでは9割、メーガーラヤでは7割以上がクリスチャンだ。

 

歴史的にヒンドゥー文化圏外だったこの地域では、もともとはヒンドゥー信仰よりもアニミズム(精霊信仰)が盛んだった。

そこに、西洋の宣教師たちがこぞって布教に訪れたことで、住民の多くがクリスチャンに改宗し、現在に至っている。

セブン・シスターズ諸州では、キリスト教への改宗によって精神的な面での欧米化が早くから進んでおり、かつ文化的にもいわゆるインド的なものへの共感がしづらい文化的背景であることから、ボリウッドの影響も少なかったと思われる。

おそらくだが、インターネットの発展などで、同時代の欧米の文化に接することができるようになったとき、セブン・シスターズの若者たちは、インドのポップカルチャーであるボリウッド的なものよりも、アメリカを始めとする欧米の文化のほうに魅力を感じたのではないだろうか。

その中の一部の若者たちはデスメタルのような激しいサウンドに惹かれ、結果的にインドの他の地域よりも、デスメタルバンドの数が顕著に多い、ということになった、とは言えないだろうか。

ちなみにこの地域、他国と国境を接する軍事上の要衝でもあるため、道路や電気といったインフラは意外と整備されているようで、楽器(エレキギターとかね)の入手や演奏は以外と容易だったのかもしれない。

とはいえ、やっぱりこの推論にはちょっと無理があるような感じもする。

 

こうなったら、便利なこのご時世、SNSを通じて直接彼らに聞いてみたいと思います。
いったいどんな返事が返ってくるのか、乞う御期待!



2018年01月21日

神話炸裂!インドのペイガン・メタル!

こんにちは、伊藤政則です(ウソ)。

前回、映画「バーフバリ」についての記事で、神話的なものがインド人の感性に深く根ざしているのではないか、ってな話を書いたのだけど、今回はそれに関連して一席。

インドの若者って実は結構メタル好き率が高いのではないかと思っていて、以前紹介したRolling Stone India誌が選ぶ2017ベストアルバム10とか、ベストミュージックビデオ10の中にも、今どきしれっとゴリゴリのデスメタルやスラッシュが選ばれるくらい。

というわけで、今回紹介するのはインドのペイガン・メタル!

とは言ってみたものの、みなさん、ペイガン・メタルって言葉はご存知ですか?

知らねえよなあ。

知らなくて普通です。

 

ヘヴィ・メタルという音楽は、その創生期から反キリスト教的、悪魔主義的なイメージを打ち出していたのは周知の通り。Black Sabbathとかね。

でもそれって、おそらく当初は反社会的、アンチモラルな感じで、かつ不気味でやばい感じのイメージ作りだったと思うんですよ(単なる悪趣味という気もしないでもない)。

ところがだんだん、本気で悪魔崇拝をし始めて、ビバ悪魔!地獄最高!ってな音楽を作る奴らが出てきた。

いわゆるブラック・メタルというやつですな。

屍体を模した白塗りのメイクをして(コープス・ペイントという)、トゲトゲのいっぱいついた黒い服を着て「地獄からやってきた悪魔だぜ!ギャー!」ってなお歌を歌う。

ひどい連中になると、悪魔主義の思想を行動に移して教会に放火したり、殺人を犯したりする奴も出てくる。何て奴らだ。

 ブラックメタル
 典型的なブラックメタルバンドはこんな佇まい

ところが、そのうち彼らは気づいたんでしょうな。

「あれ?悪魔って、キリスト教の中の概念じゃん。アンチ=キリストって言ってるのに、キリスト教が考え出した概念を歌ってるのっておかしくね?」と。

 

そこで彼ら(註:ブラック・メタルの本場、北欧のバンド達のことです)は考えた。

「キリスト教の考えた概念である悪魔について歌うんじゃなくて、キリスト教伝来以前の俺たちの独自の文化や信仰をメタルにしよう!これこそが真の反権威、反宗教だ!」と。

こういう思想の音楽をペイガン・メタルという。

同じような発想でできたジャンルにヴァイキング・メタルというのもあって、もちろん食べ放題のことを歌詞にしているのではなく、俺たちの古代の英雄たる海の覇者をメタルにしようって寸法だ。

 

で、インド。

北欧で「独自の文化」をブラック・メタル、デス・メタル的サウンドに乗せた連中がいたのと同じように、インドでも独自の文化、具体的には神話的ヒンドゥー世界をメタルにしたバンドっていうのがいる。

彼らはVedic Metalというジャンルで呼ばれていて、VedicというのはVedaの形容詞。世界史で習ったリグ・ヴェーダとかのヴェーダだ。

Vedic Metalというのはインドの古典である神話、伝承、哲学なんかをテーマにしたバンドということ。

 

前置きが長くなりました。まずはこちらをお聴きください、Rudra” Hymns from the Blazing Chariot”


 「オーム!」のマントラとタブラのイントロから、怒涛のメタル・サウンドに!

どうやらインドの超大作古典文学「マハー・バーラタ」をテーマにした曲の模様。

このビデオ、バーフバリみたいなドラマ部分もイカす。

考えてみれば、神々の戦いを描いたヒロイックな神話はヘヴィーメタルの題材にぴったりだよなあ。

ちなみにRudraというのはインド神話に出てくる暴風神とのこと。

Wikipediaによると、なになに、「『リグ・ヴェーダ』の中では彼はアスラとも呼ばれ、アスラ神族が悪魔とされる時代以前の名残りをとどめている。」

おおっ!インドのペイガン・メタルにぴったりのバンド名じゃないか!

 

続いての曲。The Down Troddence で、その名も”Shiva”


彼らは”Folk Metal”として紹介されることも多いようで、フォークっていっても南こうせつとかさだまさしじゃなくて、民間伝承メタルという意味だろう。

 

続いてDevoid”Brahma Weapon”

「神の武器」とでも訳したら良いのかな。

 

 

だんだんおなかいっぱいになってきたので、次で最後!

Bhairav ”Kaal ratri”

 

いつ歌が始まるのかと思っていたらなんとインストだった。230秒くらいからの展開が結構すごい。


さて、欧米のペイガン・メタルバンドが宗教的権威たるキリスト教への反発から悪魔主義、ペイガニズムに傾いていったのは最初の方に書いた通り。
それじゃあインドのVedic Metalはどういうところから出てきたのか。 

インドの最近の小説なんかだと、欧米文化に憧れつつも、物質主義的、功利主義的な考え方に反発する若者の気持ちというのが描かれていて、欧米で生まれたエクストリームミュージックにヒンドゥーの神話という組み合わせは、そういう西洋へのアンビバレンツな感情というところから出てきたものなんじゃないだろうか。
西洋から生まれた音楽のある種の究極と言えるデスメタル的なサウンドに乗せて、自分たちの文化的・宗教的なルーツを誇らしげ歌うというのは、矛盾と言えば矛盾だけどなんだかとっても面白い。

単に手近にあるものでこういうサウンドにふさわしいモチーフがヒンドゥー神話だったってだけかもしれないけれど。

 

本日の各バンド、改めて紹介します。

Rudraはインドではなくシンガポールのインド系のバンドで1992年結成。

あ!いきなりインド本国のバンドじゃなかった!インド系ではあるけど…。それにかなりの歴史があるバンドでした。
 rudra

かなり早い段階からこの音楽性を導入していたようで、幾度かのメンバーチェンジの末、現在はKathir – Vocals&BassShiva – DrumsSimon – GuitarsVinod – Guitarsのメンバーで活動している。

メタルとインド舞踊の融合といったかなーり斬新な試みもしているようだ。




The Down Troddence
2009年結成のケララ州のバンド。

the down troddence
このバンドには名前を見るとムスリムのメンバーも在籍しているみたいだ。

ヒンドゥー的なテーマを扱っていても反イスラム的な思想というのはないみたいで、そう考えるとインドの音楽シーンというのは本当に健全。

この”Shiva”のビデオはIndiGo South Asian Music Awardsのベストミュージックビデオ賞を受賞したとのこと。

 

Devoidはムンバイのバンドで、2005年に結成。
 devoid

反体制、宗教、戦争をテーマにしたデス/スラッシュ・メタルバンドらしいが詳しくは不明でした。

 

Bhairav2009年にデリーで結成されたバンドで、シヴァ神への絶対的な帰依を拠り所にしているという。
bhairav
音楽的には80年代のスラッシュメタルに影響を受けているようだ。

 

日本に縄文メタルとか無いし、アメリカにもインディアンメタル(あれ?インドのメタルになっちゃったけど)というのは無い(知る限りでは)。

「メタル」というすでにそれ自体が強烈な個性を放つジャンルすらも自らの伝統的世界観に取り込んでしまうインド。さすが、懐が深いなあ。

 

と思ったら、モンゴルのメタルバンドというのも凄かった!

https://gakkimania.jp/freak/1174

 

いやはや世界は広いっすな。

 

 

追記:Vedic Metalのジャンルに括られるバンドとして、チェコのCult of Fire、ウクライナのAryadevaといった東欧のバンドもいる。

面白いところでは、ロシアのバンドでKartikeya というのがいて、彼らはインドの古典声楽(マントラみたいなもの?)と共演した楽曲なんかも発表している。"Kannada - Munjaaneddu Kumbaaranna"という曲。
 

なんかもう独特の世界だ(このバンド、普段は普通のデス声で歌っている)。間奏のギターソロは筋肉少女帯の橘高みたいだし。

なぜ非インド人である彼らがVedic Metalを標榜しているのかは不明だが、おそらくはインド-ヨーロッパをつなぐアーリア人主義的なものがあるのではないかと思われる。この考えを突き詰めるとナチズムに行き着くわけで(実際にブラック・メタルバンドには親ナチを表明しているバンドもいる)、Vedic Metalにはこういった危険な側面もあることも頭に入れておきたい。

入れておいてどうする、とも思うけど。



2018年01月20日

「バーフバリ」の何に驚いたかっていうと…


なにかと話題になっているバーフバリ2部作の完結編「王の凱旋」。

上映館もだいぶ少なくなってきたようではあるけど、まずは前編の「伝説誕生」で「おおっ!」と思った話をひとつ。

 

この映画、そもそも日本ではマイナーなテルグー語映画だっていうこととか、ハリウッドばりのVFXとか戦闘シーンとか、長すぎる回想シーンとか、気になるポイントはたくさんあって、いろいろ書きたいところなんだけど、個人的にいちばんびっくりしたのは主人公シヴドゥがヒロインのアヴァンティカに一目惚れしてアプローチをかけるこのシーン。

 

川べりに横になり、戦いで傷ついた手を清流の水にひたす女戦士アヴァンティカ。その傷を癒すかのように美しい小魚たちが寄ってくる。そこにシヴドゥが水の中をにやにやしながら泳いでやって来る。シヴドゥは魚たちに混じって、ペンでアヴァンティカの手に美しい模様を描く。アヴァンティカは自分の手に水中で模様を描かれたことをまったく気づかない。

その夜、アヴァンティカは自らが属する軍のアジトで王妃救出作戦に立候補。しかし、彼女の手の美しい模様を見たリーダーは、そんな色気づいてる奴には任せられんとこれを却下する。

ここで初めて模様に気がついたアヴァンティカ。誰だ、こんな余計なことした奴は。やった奴、ぶっ殺す。翌日、アヴァンティカは木の上から件の川に向かって弓矢を構えて不届き者が現れるのを待つ。すると、またしても彼女の背後に全く気づかれずに回り込んだシヴドゥは、竹筒からきれいな色の小さなヘビを出して彼女の腕につたわせる。ヘビは腕から弓をつたって矢にからみつき、首をもたげてアヴァンティカをじっと見つめる。ヘビに気を取られるアヴァンティカ。その隙にシヴドゥはまたしても気づかれぬように彼女の肩に美しい模様を描くのだった…。

我に返ったアヴァンティカは振り返るが、そこにはもうシヴドゥはいない。肩の模様に気がついたアヴァンティカは、描いたものに対する怒りを新たにするのだった…。

 

…何ですかこれ?どうゆうことですか?ちょっと分からなかったんですけど。

手とか肩に絵描かれて気づかないなんてことあるかよ。

水の中で描けるインクはどんな素材なのか。あとあのかわいいヘビ、いつの間に言うこと聞くように仕込んだんだ。

…といった無粋な突っ込みは止めにしよう。

 

だってこれ、神話的表現ってやつなんでしょう。

大昔から伝わる神話だから、こういうありえないようなエピソードも入っているんでしょう。

 

と思ってたら、違った。

この「バーフバリ」は「インドに昔から伝わる伝説の映画化」ではなくて、神話風の世界を舞台にした、言ってみれば「新作の神話」。

つまり、この場面も昔話みたいなやつの映像化ってわけじゃなくて、現代の監督やスタッフが考えて撮ったシーンだった…。

「果敢な女戦士に気づかれないように愛の表現を伝える一枚上手の主人公と、それに反発するヒロイン」っていうシーンを表したいんだったら、いろんな方法があると思う。

でも、これだけ最新のVFXを駆使した映像を撮る洗練されたスタッフたちが、これがベストって考えて、撮ったってことでしょう。

これはいったいどういうことなのか。

 この映画、当然ながら、決してキワモノ的人気を博したわけではなくて、正真正銘のインドの大ヒット映画。

南インド映画にしては珍しく北インドを含めたインド全域でヒットしたって話だし、海外でも非常に良好な興行成績だったと聞く。

ということは、ITやら医者やらで活躍している在外インテリインド人たちも含めて、あらゆる地域、階層のインド人にとって、このシーン違和感なく受け入れられたということ。


きっとインド文化の中で生まれ育たないと分からない、DNAレベルでの詩的かつ神話的な何かが、このシーンにはあるような気がする。

どれだけIT産業が発展しても、どれだけ在外インド人たちが国際的に活躍しても、遺伝子に組み込まれた神話的なセンス。

次回は、そんな神話感がどうしようもなく迸っている音楽の話を書こうと思います。

それでは!



2018年01月17日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2017年ベストミュージックビデオ10選(後編)

前回の続きです。

Rolling Stone Indiaが選ぶ2017年のベストビデオ10選、今日は6位から10位を紹介!

このへんになるとなんか思わせぶりなアートっぽい?のが目立ってくる。

 

6. Sandunes: “Does Bombay Dream of NOLA” ムンバイ エレクトロニカ
 

叙情的なエレクトロニカに白黒のアニメ。

ニューオリンズの神秘主義(ヴードゥーみたいなやつか?)に基づいた世界観を表しているそう。

このサウンドにニューオリンズと来たか。

いろんなところから玉が飛んでくるな…。

 

7. Thaikkudam Bridge: “Inside My Head” コチ ロック
 

Thaikkudam Bridgeはいつかきちんと紹介しようと思っていたケララ出身のヘヴィーロックバンドで、これはいつもはマラヤラム語で歌っている彼らが英語で歌った一曲。

普段はもっとインドっぽい歌い回しが目立つバンドなんだけど、英語だと洋楽的メロディーラインが際立ってくるね。

使用言語によるメロディーラインへの影響ってのはインドの現代音楽の興味深いテーマかもしれない。

インドの言語で洋楽的メロディーっていうのは有りでも(3位のThe Local Train然り)、逆はまずないっていう。

あまりにも唐突な内容の映像だったので、思わず3回くらい見ちゃったのだけど、ジャングルを舞台にしたストーリーで登場人物は以下の4人。

A:ジャングルの中を徘徊する若い男

B:ナイフを持った男。男Aを見つけて尾行する

C:毒蛇に首を咬まれた男

D:男Cの連れ。なんとかして手当てをしないとって状況

4人とも、どうしてジャングルの中にいるのかとか、どういった関係なのかとかいったことは一切示されない。こういうの不条理っていうの?不親切っていうの?

この4人が極限的状況で、助け合ったり裏切ったり、といった内容のミュージックビデオ。

なかなか日本のバンドではできないセンスではある。

確かにプレデターみたいな密林の映像は緊張感があるし、密室劇的な面白さや、人間存在の本質を深く洞察した哲学的な部分(とか言ってみた)はあるかもだけど、いったい何?何故?という疑問は最後まで拭えず。

うーむ。深いのか、何なのか。

 

8. Black Letters: “Falter” バンガロール ロック
 

曲はアンビエント調だけど、自称オルタナティヴロックバンドということで、ジャンルはロックにしてみた。

海、人、魚の叙情的な映像だが、内陸部のバンドらしく海なのに魚は淡水魚(金魚)っていうこだわりの無さっぷりが気にならないこともない。

 

9. When Chai Met Toast: “Fight” コチ ロック
 

こちらもケララ出身のロックバンドで、曲によってはバンジョーが入る曲なんかもあって、無国籍な感じのポップをやっている。

映画にしろ何にしろ、インドの男性観ってマッチョだけどナイーヴという先入観があったのだけど、最近の音楽をやってる人たちだとこういうポップな感じもアリになってきたのか。

このビデオ、映像のセンスに関しては、なんとなくバンドブーム頃〜90年代初期の日本のバンドっぽいテイストって気もするなあ。

 

10. Chaos: “All Against All” ティルヴァナンタプラム スラッシュメタル
 

またケララ!そしてメタル!
 このバンド名にしてこの曲名!
映像は泥の中で大勢の男たちがぶつかり合い、その近くで演奏するバンド!
無意味にビックリマークを多用してしまったが、理屈は抜きにしてメタルだぜこんちくしょう!っていう感じだけは強烈に伝わってくるじゃないですか。

この楽曲に合わせてどんなビデオを撮ろうかっていう打ち合わせの席で、「泥の中、100人くらいのほぼ裸の男達が左右から走ってきて、ぶつかり合い、取っ組み合うってのはどうでしょう?」「いいねー」っていうやり取りがあったんだろうか。
ちょと出オチ感のある内容ではある(途中で夜になったりはするけど)
 

 

はい、というわけで、今日は6位から10位までを見てみました。

こうやって続けて見てみると、やっぱりこれも媒体(Rolling Stone India)の特質なのかもだけど、極力インドっぽさを排した無国籍風な映像の作品が目立つという印象がする。
かつアーティスティックで内省的な作品ももてはやされる傾向があるんだな、と思いました。

イギリスからの独立後も、高級とされる場所だと英語こそが公用語っていう風潮のあったインドではあるけれども、こういうポップカルチャーの分野でも、非ドメスティックなものが高尚な趣味、みたいな、脱亜入欧って感じの価値観があるのかもしれない。


人様が作って、人様が選んだビデオを見ながら言いたいこと言ってアタクシはいったい何様なんでしょう?という気がしなくもないですが、ま、そんなことを思った次第でございます。



2018年01月15日

Rolling Stone Indiaが選ぶ2017年ベストミュージックビデオ10選

Rolling Stone India2017年のベストアルバムに続いて、2017年のベストミュージックビデオを発表した。(記事はこちら

 

選考基準は、映画の映像をそのまま使用した挿入歌・主題歌は除く楽曲ということのようだ。

ミュージシャン名と都市・ジャンルを添えて紹介します。

 

1.    Run Pussy Run: “Roaches” プネー ロック
 

同じくプネーのLMB Production所属の映像作家Anurag Ramgopalによる作品とのこと。

Rolling Stone Indiaによると「freak funk group」だそうで、他の曲もリズミカルでセンス良さげな歌と演奏のバンドだ。

 

ゴキブリっていえば、昔コルカタの安宿のドミトリーで、バックパックにものすごく大きなゴキブリがとまってたのを見つけて、サンダルで横から引っぱたいたら、びゅーんって飛んでって、少し離れたところの欧米人のリュックにくっついた。

荷物の持ち主が連れと談笑してたので、言いだすのもなんだな、と思って様子を見てたら、しばらくして気がついて「ギャーオ!コックローチ!」て大騒ぎしてた。

ゴキブリって国籍を問わずこの扱いなんだなあと思ったものです。

記事に、この昆虫が苦手な人は見ないでね、みたいなことが書いてあったけど、インドでもゴキブリ嫌い、虫嫌いって人がいるんだなあ、としみじみ。

 

 

2. Blushing Satellite: “Who Am I?” バンガロール ロック

 

アイデンティティの危機をテーマにしたビデオとのことで、正直、他の国のミュージックビデオで似たようなものを見たことがあるような気がするけど、こういう「イギリスかアメリカのバンドみたいな内省的なロックのサウンドで『自分とは何者か』という問いかけを歌う文化圏」にインドも入っているのだなあ、と再びしみじみ。

 

3. The Local Train: “Khudi”  デリー ロック

 

ヒンディーロックと言っているけれど、言葉がヒンディー語なだけでサウンドは英米風の爽快なロックだ。

バイクが好きで自分のバイクでいろんなところを旅したいと思っているデリバリーのアルバイトが、仕事の合間に聞いたこのバンドの音楽と、ちょっとした事故をきっかけに、仕事を投げ出して自由に走り始める、というストーリーと思われる。

曲のブレイクと映像を合わせる小技も効いている。

クオリティの高い映像はVijesh Rajanという映画監督による作品で、India Film Project Awardsのミュージックビデオ部門で‘Platinum Film of the Year 2017’ を獲得したとのこと。

 

4. Parekh & Singh: “Ghost” コルカタ ポップ

 

コルカタのバンドはこのブログ始めて以来初なのではないだろうか。とはいえ無国籍風の幻想的ポップソング。

 Peacefrogっていうロンドンのレーベルと契約しているこのバンドは、すでに日本での注目もそれなりにされているようで(ごめんよおじさんこの手の音楽に詳しくなくて)、こちらのサイトに詳しい。

なるほど、アタクシ映像にも詳しくないのだけど(何にも詳しくない笑)、このビデオはウェス・アンダーソン(ロイヤル・テネンバウムズとかダージリン急行の人か!)監督へのオマージュとのこと。

Rolling Stone Indiaによるとペットの犬を失った少女がいかに悲しみを乗り越えるかというストーリーとのこと。見ていて全然気づかなかった。(最初に持ってるのが犬の首輪だったのね)

自分の理解力の無さにだんだん心配になってきた…。


 

5. Pakshee: “Raah Piya” デリー フュージョンロック(インド音楽とのフュージョンね)

 

Rolling Stoneにしては珍しくインド色の強いバンドを扱っている。

ジャズ、フュージョン風な演奏とインド古典なヴォーカルの融合、と思っていたら途中でラップも入ってきてビックリ。

二人のヴォーカルはヒンドゥスターニーとカルナーティックというインドの北と南それぞれの伝統音楽のスタイルで歌っている。

映像に関しては、きれいだけど単にいろんな自然の中で演奏してるだけなんじゃ、という気がしないでもない。

それにしてもインドのバンドは6弦ベースが好きだなあ。

 
ベストアルバムと同様、映像のほうも極力インド的要素(ボリウッド的に大勢で舞い踊るみたいな)を排した、欧米的アーティスティックな作品が目立つセレクトとなっている。 

長くなりそうなのでまずはこのへんで!



2018年01月13日

Rolling Stone Indiaによる2017年ベスト・アルバム!

Rolling Stone India誌が選ぶ2017年のベストアルバム10枚が発表された。

昨年はロック、ポップス、ヒップホップともにインドのインディーズ(略して印ディーズ)始まって以来の豊作だったとのこと。

記事はこちら


順位は以下のとおり。

各ミュージシャンの出身地とジャンルも添えて紹介します!

 

1. Prabh Deep: Class-Sikh  デリー ヒップホップ

 アルバムタイトルを見てわかる通りシク教徒のラッパーで、これがデビューアルバム。
10月のリリース以来、大きな話題になっている作品。
デリーのヒップホップシーンはボリウッド系の華やかな(軽薄な)印象が強いけど、こうしたよりリアルな題材を扱ったシーンもちゃんとある。

知的かつ叙情的なトラックはデリーのトラックメーカーSez on the Beatによるもの。

2曲ほど紹介してみます。



 

2. Blackstratblues: The Last Analog Generation ムンバイ ロック(インスト)

 その名に違わぬ、ポストロックや打ち込みの要素を一切含まない70年代風ギターインスト!

 2017年のアルバムからのビデオがないので、こちらで聴いてみてください。

 一音一音に心地よさのあるギターがジェフ・ベックを思わせる、最近いないタイプのギタリスト。

 3位のTejasがゲスト参加している曲「Love Song To The Truth」もAOR風で、まったく「今」を感じさせないこのアルバムが2位っていうのも凄い!

 

3. Tejas: Make It Happen ムンバイ ロック(シンガーソングライター)

 70年代的な要素に現代的・都会的なニュアンスもあるロック。

 レニー・クラヴィッツとかMaroon5とかSuchmosあたりを思わせるところがある。
 

 

 

4. Skrat: Bison チェンナイ ロック

 こちらもニューアルバムからのビデオがなかったのでこちらから音をどうぞ。

 オルタナっぽかったり、例えばニュージーランドのDatsunsみたいな70年代ハードロックリバイバル的な雰囲気のある曲も。
 

5. Menwhopause: Neon Delhi ニューデリー ロック

 これも最新アルバムからビデオになっている曲があんまり良くなかったので、こちらから音だけ聴いてみてください。

 例えばFranz FerdinandRadioheadっぽいUK色が強い曲、流麗なピアノソロがある曲、ちょっとプログレっぽい曲など。

 

 

6. Gutslit: Amputheatre ムンバイ デスメタル

来た!ブルータル・デスメタルバンド!演奏も上手い!ドラムとかやばいよ。

シーク教徒のベーシスト(6弦ベース!)はメタルらしくターバンも黒で決めてる!

こんな常識や世間体なんかクソ喰らえみたいな音楽やってるのに、戒律を守ってターバンはちゃんと巻くんだなあとしみじみ。

インドのデスメタルは結構盛んらしく、他にも面白いバンドがいるのでいずれ紹介します。

 
 

7. Kraken: LUSH デリー ロック

なんと日本のアニメや文化から影響を受けているバンドとのこと。

デリーには他にも日本文化に影響を受けたTarana Marwahというエレクトロニカのミュージシャンもいる。

なにかと欧米志向の印象が強いインドでも日本のサブカルチャーは一定の存在感を放っているみたいだ。

ビデオも日本のジブリの森?


 

8. Joshish: Ird Gird ムンバイ ロック

ポスト・プログレ(post-prog)バンドとして紹介されていて、そういうジャンル名は聞いたことがないけど、ポスト・ロックと呼ぶにはプログレ色が強くて、そう呼ぶのがいちばんしっくりくるバンド。

リズムチェンジや変わったコード感のバッキングが印象的。

 

9. Disco Puppet: Princess This バンガロール エレクトロニカ

インドのエレクトロニカは他のジャンルと比べてもかなりレベルが高いと思っているのだけど、これまた素晴らしく不思議な雰囲気のバンド。
アンビエントっぽかったり、ドラムンベースっぽいところがあったり。

中心人物のShoumik Biswasは同じくバンガロールのポストロックバンドSpace Behind The Yellow RoomのドラマーとカルカッタのポップロックバンドMonkey In Meのドラマーも勤めているとのこと。

カルカッタってずいぶん遠いけど大丈夫なのか。


 

10. Aswekeepsearching: Zia  アーメダーバード ポストロック

個人的にこのバンドは凄く良いと思うなあ。10位じゃなくてもっと上でいいのに!

心地よい静かなパートから激しい部分まで、詩的かつ映像的なサウンドが素晴らしい。インドはポストロックが結構盛んなようだけど、酒も飲めないグジャラート州にこんなバンドがいるなんて!
 

Rolling Stoneという媒体の性質なんだろうけど、無国籍というかインド色の薄いものが多い中、社会派の1位と日本風味の7位が際立っているというのがアタクシの印象。
それにしてもヒップホップから70年代ロック、デスメタル、ポストロックまでというバラエティーの広さは凄い。

世界的な視点で見たときに、各バンドのサウンドに圧倒的なオリジナリティーや革新性があるかと言われるとそういうわけでもないけど、日本でもよくあるように、「まるで本場」みたいなサウンドが評価されてのランクインと思われる。
あんまりインド色の強いサウンドは敬遠してみました、みたいなね。 

あとなんか頭が良さそうなバンドが多いよね。

バカです!ロックです!みたいなのは少なくともこの中にはいない。

Rolling Stone Indiaの好みなのか、インドでロックはけっこう上流説を裏付けるものなのか。

面白いバンドにもたくさん出会えたので、そのうち細かく紹介したいと思います!



2018年01月12日

Yeh mera Bombay, not Mumbai!

さて、今日は、前回ムンバイのラッパー、Divineの曲「Yeh mera Bombay」(This is my Bombay)を紹介したときに考えたことを少し書きたいと思います。

なぜYeh mera MumbaiではなくYeh mera Bombayなのか?って考えたときに、ひょっとしたら音の響き以上の理由があるかもしれない、と思ったのがことの発端。

もっかい聞いてみましょう。



曲の最後(2:15あたりから)に、ムンバイでなくボンベイと呼ぶことを説明するかのように、英語で「I love my city. You could change the name. But you know what it is. Same old Bombay」という語りが入ることに注目。


前回書いたように、ボンベイは1995年にムンバイに改称された。

この頃から、ムンバイでは、通りの名前から駅の名前にいたるまで、イギリス植民地時代の名称がインド固有の名称にどんどん改称されていて、植民地時代の名称を一掃する運動が進められている。

そんなわけで、久しぶりにムンバイに行く人のために、新旧の通りの名前一覧のサイトもあったりする。



海辺の大通り「マリン・ドライブ」みたいな、かなり有名な通りの名前でも、構うこたねえって感じでインド由来の名前にがんがん変えられていて、ムンバイの玄関口の駅の名前も、1996年には「ヴィクトリア・ターミナス」から、かつてこの地方を支配していたマラータ王国の創始者の名を冠した「チャトラパティ・シヴァージー・ターミナス」に改称され、さらに2107年にはチャトラパティ・シヴァージー・マハーラージ・ターミナス駅に改められている。

「マハーラージ」は「偉大な王」を意味する尊称なのだけど、いくらなんでもここまでしなくてもいいんじゃないか、という意見が地元でも囁かれていたりもする。


これが世界遺産にも登録されているその駅舎(wikipediaから)。
CHATRAPATI_SHIVAJI_MAHARAJ_TERMINUS



植民地時代の呼称から地元の言語への変更はインド中で行われていて、カルカッタはコルカタに、マドラスはチェンナイに、ITで有名なバンガロールはベンガルールに改名された。

この動きは一見良いことのように思えるけれども、ムンバイの場合、この地名改名運動を主導しているのがナショナリズム政党であるシヴ・セーナーだというのがややこしいところ。

インドのナショナリズムは、一般的にはヒンドゥー・ナショナリズムと呼ばれるもので、いわゆる「ヒンドゥー至上主義」。

簡単に説明すると、母なる大地インドはヒンドゥー教徒のものだという考えで、イスラム教を敵視し、キリスト教は堕落した西洋の文明をインドにもたらす害悪、と考える排外主義的な側面が強い。

(以前紹介したSu Realの記事でも少し触れた通り)

ところが、このシヴ・セーナーのややこしいところは、ヒンドゥー至上主義だけではなくてマラータ至上主義という側面が非常に強いこと。

これは、ムンバイを含むマハーラーシュートラ州、その中でもマラーティー語を話す人たちのナショナリズムで、攻撃の矛先は他州から移住してくる人たちにも向けられる。

ムンバイでは、このシヴ・セーナーと対抗すべく、中央で政権を握るBJP(インド人民党。これもヒンドゥー・ナショナリズム色が非常に強い政党とされている)も州のマジョリティーであるマラータ人の歓心を買うために、植民地時代の地名を改名しているというから、きりがない。

しかも、改名するにしても、その地域になんの関係もない女神の名前とかに慣れ親しんだ地名が変えられることもしばしば。

当然、こういう動きに批判的な意見もあって、「こんなバカバカしいことやめようぜ」という記事もあったりする。

現代インド文学の大作家、ロヒントン・ミストリーの小説「かくも長き旅」でも、パールシー(ゾロアスター教徒)である主人公とクリスチャンの友人が、シヴ・セーナーによってムンバイの地名がどんどん変えられてしまうことに対して、「故郷が無くなってしまうようだ」と嘆く場面が出てくるのだが、ナショナリズムの埒外にいる人間にとっては、かなり居心地の悪い状況なのだろう。

前回書いたように、DIVINEもクリスチャンで、マラーティーではなくヒンディー語が第一言語のようだ。

彼がムンバイではなくてボンベイをその曲名に選んだことには、スラムの生活改善よりも人気取りの地名変更ばかり行っている政府へのプロテストの気持ちが込められているのかもしれないと思った次第。



ふと思い出したけど、2010年から活動しているムンバイのヒップホップ/レゲエユニットのBombay Bassmentもムンバイではなくてボンベイをその名に選んでいる。



彼らはケニア出身のBobを中心メンバーとした面白いユニットで、いずれ紹介したいと思います。

インドの地名(駅名)改名についてはこの記事も詳しい。

BJPの主な支持基盤が、ビジネスマン、マールワーリー(ラージャスタン、グジャラートあたりをルーツに持つ商人カーストで経済的な力が強い)、ジャイナ教徒だなんて知らなかった。

それでは今日はこのへんで!

2018年01月08日

ムンバイのHip Hopシーンを代表するスラム出身のラッパー DIVINE

さてさて、本日紹介しますのは、ムンバイを代表するラッパー、DIVINEさん。

以前紹介した通り、インドはデリー、バンガロール、ムンバイと街ごとにカラーが違うシーンがあるのだけど、DIVINEさんはムンバイを代表するラッパー。
おさらいするとムンバイのシーンはエンタメ色、アート色よりもかなりストリート色が強いのが特色。

まずはレペゼンムンバイって感じのこの曲から!



かっこいい!

この曲は2014年にRolling Stone India誌でベストビデオに選ばれたとのこと。
Yeh mera Bombayっていうのは、「This is my Bombay」って意味。

ご存知の通りボンベイはアタクシの名前にもさせてもらっているインド最大の都市ムンバイの1995年までの名前。
この曲に出てくるムンバイは高層ビルが並ぶ超近代的なオフィス街やオシャレ都市ではなく、貧しい人々が暮らす下町エリアだ。
高級スーツを着たビジネスマンでもボリウッド俳優でもなく、チャイ屋のオヤジとか、通りに面した床屋の客とか、オートリクシャーの運転手なんかが「これが俺のボンベイだぜ!」と連呼する。

ヒンディー語、偉そうなこと言っているくせにに全然分からないんすけど、この曲に関しては英語に翻訳しているサイトがあった。

このサイトの通りだとすると、拙い訳ですが歌詞はこんな感じ。


 (ヴァース1)
 俺の真実は道端の塵に隠れている
 新しい1日 だが通りはいつもと同じ
 このあたりには花も咲かない イバラが繁るだけ
 自分のプライドを売り渡すよりもストリートで生きていたい
 俺はこの街と結婚したんだ この街角が俺の恋人

 (ヴァース2)
 俺を傷つけてみな どうせ届かないだろうけど
 お前が従業員なら雇ってるのは俺の友だち
 俺の言葉こそ この炎が燃え上がる理由
 最近じゃ俺はゴヴィンダのポット※みたいに爆発寸前
 俺の母さんを馬鹿にしたら張り倒すぜ

 (ヴァース3)
 このジャングルの陰の部分
 ここじゃ政治家はヤギの群れの中の畜殺者
 俺たちは自分たちのための戦士
 救い主とは名ばかり ここじゃ警官はチンピラと同じ
 これが俺のボンベイ 誰もがそう言う

 (ヴァース4 英語)
 ここがバッチャン※2の住む街 テンドゥルカール※3もプレイしてる
 アンバーニーの※4金もある 芝居じゃない本物のスラムドッグ
 テロリストの攻撃だってあるが
 俺たちは街を再建するだけ 競技場のジャマイカ人※5よりも速く
 ハトの群れ 道路の窪み ヤシの木陰
 俺は日曜日のチキンみたいにスラムに住んでる
 クリケットやってる奴らの代表
 とにかく金を手にするために必要なことをするだけ

 (ヴァース5)
 もし本を手にしていないなら 手には自分自身の気持ちを持ってるってこと
 この国の王様 この街にはタージ※6がある
 食えなくてもいいって奴もいる 友だちはみんな仕事を持ってる
 若いの、ここじゃ誰もが成功を望んでる
 線路、おばあちゃんの杖、オフィスの蜘蛛、スラム街、オートリクシャー
 この街みたいな場所は他にない
 信じないなら誰かに聞いてみな

 俺はこの街を愛している 名前を変えたって 昔と同じボンベイさ


※1どうやらムンバイのお祭りで行われる組体操みたいなものみたいです  
※2 名優アミターブ・バッチャン。
※3 クリケットの大スター選手
※4 ムケーシュ・アンバーニー。インドの実業家。フォーブス誌による世界長者番付の2008年度版で第5番目の長者になったインド最大の民間企業であるリライアンス・インダストリーズの会長。
※5 ウサイン・ボルトのことと思われる。
※6 ムンバイの歴史ある超高級ホテルのタージ・マハル・ホテルのこと。アグラの霊廟タージ・マハルの名を冠したこのホテルはイギリス統治下のボンベイで、インド人であることを理由にホテルへの宿泊を断られた大富豪ターターが、それならば自分でホテルを作ろうと建設した。



ところどころ訳が意味不明なのは、韻を踏むためか、俺の英語力不足のせいだと思う。
問題だらけの街だけど、ここが俺の故郷なんだぜ、っていう街への愛着を歌った曲。

あえてボンベイと昔の名前を使っているのはリズムに乗せやすいからかな。
途中でボンボボンボンボボンベーイ!(カタカナで書くと超間抜け)っていうキメが出てくるけど、ムンムムンムンムムンバーイ!じゃ締まらないもんね。
最後のヴァースは自身の生い立ちのことと思われる。


続いては2016年のこの曲!



こちらもヘヴィーなトラックでかっこいい!

ヒンディーの部分は分からないけど、I was raised in the gutter, I know what is hunger, I’m the voice of the streets ってところから、ストリートで育ってきたことを歌っているものなんじゃないかと思います。


続いて他のアーティストとコラボしている曲をいくつか紹介!



これは同じくムンバイのラッパーNaezyとやってる曲。
ビデオはYeh mera Bombayと同じムンバイの下町練り歩きパターンで、地元意識の強いひとなんだなと思う。

Naezyはいつかきちんと紹介したいムスリムのラッパーです。



こっちはアメリカ生まれのインド系シンガー、Raja Kumariとの共演。
彼女もとても面白い存在なので、いずれ紹介します!


DIVINEの本名はVivian Fernandes.

本名が西洋風の名前なのはクリスチャンの家系だからで、DIVINEという名前も敬虔なクリスチャンであることが理由で名乗っているそうだ。
ムンバイのアンデリー(Andheri)という地区のスラムで生まれ育ち、家庭環境はというと、小さい頃に父親が出て行ってしまい、母と兄は海外に出稼ぎに行っていたため、祖母に育てられたという。

学校の友達が50 centのTシャツを着ていたことがきっかけでラップに興味を持った彼は、祖母のCDプレイヤーで50centやEminemのCDを聴いてラップを覚えた。
やがてアメリカのクリスチャンラッパー、Lecraeが神についてラップをしているのを聴いて衝撃を受け、自分でも同様のラップを作り始めたのがキャリアのスタートとなったようだ。

最初は英語でラップしていたが、やがてヒンディー語に切り替えてスタイルを確立した。
ムンバイのあるマハーラーシュトラ州の公用語はヒンディー語ではなくてマラーティー語だけど、彼の育った地区ではヒンディーが話されていたようで、このへんは多言語国家インドの大都市ならではと言える。

友達が次々と安定した仕事につく中、ラップを続けていた彼はソニーと契約を結び、スターへの道を歩むこととなった。

これは大会場でのライヴシーンもある2017年のミュージックビデオ。
でもあいかわらず下町練り歩きもしているけど。



最近ではトラックメーカーNucleyaとコラボしてPaintraっていうボリウッド映画の曲もやっている。



インドでは、「メジャー」イコール「映画の曲」みたいなところがあるから、ムンバイのスラムからHip Hopドリームを叶えたってことなのかもしれない。


締めは、インドのウェブサイト、VERVEのインタビューから、DIVINEのこの言葉で。

“Hip-hop is a lifestyle and you can embody it through dance, by making music or through the console, using any language that comes naturally. Being a fan or a manager or writing about it makes you a part of the movement too. It doesn’t matter how you contribute to the culture as long as you do what feels right to you.”

−ヒップホップは生き方だ。ダンスでも歌や演奏やDJでも、自然と湧き上がってくるどんな言語を通してでも、誰もが具体化することができるんだ。ファンになることや、マネジメントに関わることや、ヒップホップについて書くことでもこのムーブメントの一部になることができる。自分にとって正しいと感じることをする限り、君がこのカルチャーにどんなふうに貢献してるかなんてことは関係ないのさ。
続きを読む