ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その1)ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その3)

2019年11月14日

ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その2)

これまでの「ヨギ・シン」シリーズはこちらから!
1.「謎のインド人占い師 Yogi Singhに会いたい」


2.「謎のインド人占い師 Yogi Singhの正体」


3.「あのヨギ・シン(Yogi Singh)がついに来日!接近遭遇なるか?」


4.「ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その1)」


11月11日(月)、ブログに新たなヨギ・シンとの遭遇情報が寄せられた。
「タカノY」さんからの情報は、7日(木)にイチさんが二重橋付近で目撃したターバン姿の「ヨギ・シン2」と思われる男との遭遇報告だった。
昨日、14:30頃丸の内中通り明治生命本社裏で出会いました。上下黒のスーツにターバンといういでたちでヨギと名乗っていました。英会話は苦手ですが言ってることの内容はブログに書かれていることと同じ内容でした。私の場合は好きな色を当て、お金の話をされたので直感的にノーマネーを繰り返し足早に立ち去り被害には会いませんでした。
満を持してと言うべきか、今回の一連の報告のなかで、初めて「彼」がその名前を明かしている。
これまで、同様のトリックを使うインド人占い師が海外でその名を名乗っていたことから、便宜上「ヨギ・シン」と呼んできたが、これで「彼」が正真正銘のヨギ・シンであることが判明した。
「彼」はヨギとしか名乗っていないが、シク教徒の男性は、必ず「シン」(Singh)という名前も持つことになっているからだ。
(例:タイガー・ジェット・シン、ランヴィール・シンなど。Singhは日本では通例シンと書かれるが、原音に近く書くならスィンもしくはスィンフ、スィング)
お金を払わずに立ち去ることができたという事例も初の報告だ。
聞けば、タカノYさんはかつて海外旅行中に現金を取られたことがあったそうで、今回も反射的に警戒心が働いたようだ。

ここで、これまでに報告のあった11月6日以降の7件の事例をA〜Fのアルファベットで地図にプロットしてみた。
ヨギ・シン遭遇地点2

A地点は、11月6日(水)に最初の遭遇報告があった場所で、「イチさん」がスーツ姿でターバン無しの「ヨギ・シン1」に声をかけられた東京国際フォーラム前だ。

B地点は、翌日7日(木)に「イチさん」が、スーツにターバン姿の「ヨギ・シン2」を目撃した二重橋付近。

C地点は、A地点と同じ国際フォーラム前で、「Nさん」が8日(金)に声をかけられている。
「ヨギ・シン1」か「ヨギ・シン2」かは不明だが、ターバン姿であれば印象に残るはずなので、おそらくタイプ1の「彼」ではないかと思う。

D地点は日生劇場前。
Nさんと同じ8日(金)に、TKさんが声をかけられた場所だ。
こちらもタイプ1か2かは不明だが、「あなたの顔からエネルギーが出ている」という声のかけ方はイチさんの報告と同様であり、タイプ1の可能性が高い。
今回の報告事例でもっとも南側での遭遇となる。

E地点は、10日(日)に「みょ」さんが遭遇した場所で、報告事例の中でもっとも北に位置している。
後のやりとりで、F地点のタカノYさんの報告と同様、ターバンを巻いたタイプ2であることが判明。
この事例では、「みょ」さんの機転で生まれた年を1年サバを読んで伝えると、「彼」は実際の誕生年ではなく、「みょ」さんが言った年を的中させたという。
これで、彼に真実を言い当てる超能力があるのではなく、発言した言葉を的中させているだけだということが分かった(それでも十分に不思議ではあるが)。
興味深いことに、「みょ」さんは占いのあとに「黒い石」をもらったという。

実は、「黒い石」については以前Twitter経由で複数の方から報告をいただいたことがある。
その時の報告によると、20年ほど前に、バンコクの安宿街カオサンの裏通りで、近親者の名前や数字を「彼」に次々と当てられたそうで、しかも、「彼」による予言(NYに行くことになる、恋人ができる、等)がその後実際に的中したそうだ。
その後、その石は紛失してしまったそうだが、もしかしたら「みょ」さんがもらったものと同じようなものだったのかもしれない。
2019年5月19日のTweet参照)

F地点は、先ほど紹介した10日(日)にタカノYさんが「彼」と出会った場所。

この地図を見て分かる通り、これまでの遭遇情報は、すべて線路の西側である。
9日(土)の捜索では、八重洲、日本橋、銀座といった線路東側のエリアも回ってみたのだが、どうやら「彼」は線路の東側には一度も足を踏み入れていないようだ。
彼の出没範囲は、かなり狭いエリアに限られているということが分かった。
この範囲内を重点的に捜索すれば、おそらく確実に「彼」と出会えるはずだ。

私は、緊張感とともに、奇妙なプレッシャーを感じた。
ひとつめは、これまでおそらく(当事者以外)誰も知ることができなかった謎を、自分の手で解明してしまうかもしれないという緊張感。
「撰ばれてあることの恍惚と不安、二つ我に有り」というやつだ。
そしてより大きな重圧は、果たして、自分がやろうとしていることが「彼」らのためになるのだろうか、という疑問だった。
大谷幸三氏の「インド通」によると、「彼」らは、インドでは自らの生業を恥じるほどに低い身分の存在だという。
そうした人々が秘密としてきたことを、(読者数の少ないブログとはいえ)自分なんかが興味本位で暴き、白日のもとに晒してしまってよいのだろうか。

一方で、私なりの考えもあった。
英語による海外でのヨギ・シン遭遇報告を読むと、ほとんどの報告で、「詐欺(scam)」という言葉が使われている。
「メルボルンでこういう手口の詐欺が頻発、気をつけて!」というように。
詐欺と呼ぶ側の気持ちも分かる。
最初に有料であることを提示せず、頼んでもいないサービスを提供したあとで料金を請求する(しかも、支払った金額では足りないと主張し、それ以上の料金を求める)という行為は、インドではよくある話でも、欧米や日本の感覚では詐欺と呼ばれても仕方がない。

けれども私は、ヨギ・シンの洗練された話術やテクニックに、単純に詐欺として片付けてしまうには惜しい何かを感じていた。
誰にも価値を認められぬまま消え去ろうとしている「伝統」とでも言うべきものが、そこにはある。
世界中のネット掲示板で、すでにヨギ・シンについては少なくない情報が書かれている。
(報告の件数の多さのわりに、書かれているのはその名前と不思議な手口くらいだが)
遅かれ早かれ、「彼」の存在はもっと広く知られ、その謎が暴かれる日が来るだろう。
それならば、「彼」をただの詐欺師として見ているのではなく、その洗練された技法にある種の敬意を持っている自分こそが、この仕事をやるべきなのではないだろうか。
こんな考えは思い上がりだろうか。
そんなことを思いながら、私は再び丸の内に向かった。

その日は仕事の休みを取っており、ほぼ終日をヨギ・シン捜索に時間を費やすことができた。
午前中の捜索は、空振り。
昼時に一件別の場所での用事を済ませ、昼食を食べ終わった頃に、「イチさん」からメッセージが届いていることに気づいた。
なんと、国際フォーラム付近で、ヨギ・シン1ともヨギ・シン2とも違う第三の「彼」が現れたというのだ。
メッセージには、通行人に声をかける30代〜40代くらいに見えるインド人風の男の写真が添付されていた。
その男は濃い色のスーツに身を包み、もみあげから口のまわりまで短い髭を生やしている。 
その姿を目に焼き付けると、私は最寄駅から電車に乗り、国際フォーラムを目指した。

「彼」に会ったら聞きたいことは、すでに心に決めていた。
「彼」のコミュニティーについて。
「彼」の家族について。
そして、「彼」自身について。
聞くだけではなく、私が彼らの伝統に対してリスペクトの気持ちを持っていることも伝えたかった。
できれば、連絡先を交換したりもしたい。
例えば日本の「ナマステ・インディア」みたいなイベントに彼らが出演したら、「彼」は詐欺師扱いではなく、正当な敬意と称賛を得られるのではないだろうか。
そんなアイデアを「彼」に伝えられたら、そして、実際に日本でのイベントで、ヨギ・シンの占いの実演ができたら、どんなに素晴らしいだろう。

東京駅で電車を降り、丸の内南口から東京国際フォーラムを目指す。
線路沿いの道を南に歩くと、やがてガラス張りの国際フォーラムの威容が目に入る。
イチさんから送られて来た画像には、国際フォーラム周辺と思われる歩道で、通行人に声をかけている「彼」の姿が映っていた。
目指すべき人物像は分かっている。

まずは、線路を背に、北側から国際フォーラム周囲の歩道を、ゆっくりと反時計回りに回ってゆく。
多くの人が行き交うフォーラム北側の通りに、「彼」の姿はない。
左に曲がり、フォーラム西側の道に入ると、人通りはぐっと少なくなる。
注意しつつ南下するが、ここにも「彼」はいない。
フォーラムの南側まで来たが、「彼」は見当たらなかった。
イチさんの報告から到着まで2時間あまり。
その間に「彼」は姿を消してしまったのか。
またしても間に合わなかったのだろうか。

南側の通りから、東西二つの建物に別れた国際フォーラムの中庭に入る。
ここにはたくさんのベンチが並んでいて、人通りも多く、以前から「彼」がいてもおかしくないと思っていた場所だ。
この時も、中庭のベンチは半分ほどが埋まっており、フォーラム内のさまざまなホールやショップに向かう人々が行き交っていた。
慎重に、中庭全体に、視線を巡らせてゆく。

ふと、前方20メートルほどのところに、私と同じように、何かを探すかのように周囲を見渡しながら歩いている人物がいることに気がついた。
ダークカラーのスーツ姿を着た、短い髭に覆われた顔の南アジア系の男が、あたりに視線を配りながら、ゆっくりとこちらに向かって歩いて来る。
さきほどイチさんが画像を送ってきた男に、とてもよく似ている。

間違いない。 
第三の「彼」だ。
その男は、近くを歩いていた初老の男性に突然声をかけた。
呼びかけられた男性は、少し驚いた表情を見せた後、困惑したような笑みを見せながら、何かを断るしぐさをした。
もし急に見知らぬ外国人に「あなたの顔からエネルギーが出ている」とか「好きな色や数字を教えて欲しい」と声をかけられたら、きっとこんな反応をするはずだ。 
あるいは、英語が得意でなく、分からないと答えたのかもしれない。
私はゆっくりと「彼」に近づいていった。

「彼」は拒否の姿勢を示した初老の男性を引き止めるのをあきらめ、再びこちらに向きを変えた。
そのとき、「彼」と私の目があった。
私はここぞとばかりに顔からエネルギーを出そうとした。
その気持ちが通じたかのように、「彼」がこちらに向かって歩いてくる。
5メートル、4メートル、3メートル…。
私は「彼」に敵意はないことを示すべく微笑みかけた。
「彼」はもう手を伸ばせば触れられそうな距離にいる。
「彼」は私の顔から出ているエネルギーに気づいてくれただろうか。
その時、「彼」が口にしたのは、あのフレーズではなく意外な言葉だった。
"How are you?"


(つづく、またはintermission)

つづきはこちら


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goshimasayama18 at 00:13│Comments(0)ヨギ・シン 

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