インド北東部ナガランドのクリスマスソング!2018年を振り返る

2018年12月26日

新世代R&Bクイーン、Anushqa!

このブログを始めてちょうど1年が経ったのだけれども、少し困っていることがある。
紹介するアーティストに、インド古典音楽の要素と欧米のロックの要素が入り混じったバンドが増えてきたので、先日記事のカテゴリーに新しく「フュージョン・ロック」というのを増やしたのだけど、ここに来て、今度はR&Bの分野でも、インド古典の要素を取り入れたアーティストが結構いることに気がついてしまったのだ。

ここはひとつ、新たに「フュージョンR&B」というカテゴリーを作るべきだろうか。
でもそれをやり始めると、「フュージョン・ エレクトロニカ」も「フュージョン・レゲエ」も作らなきゃいけなくなって、きりが無くなってしまうんだよなあ。
どうしたものか。

今回紹介するAnushqaは、まさにフュージョンR&Bと言えるサウンドを作り上げているアーティストだ。
まずは彼女のデビューシングル"Ecstacy"を聴いてみてください。

彼女の場合、インド的な要素は主にトラックのみで、歌唱についてはほぼインドの要素ナシというタイプだけど、ラップの部分のフロウには若干のインドらしさが感じられる(ような気がする)。

このAnushqaは、2015年にヴォーカリスト発掘をテーマにしたテレビ番組'The Stage'のシーズン1のファイナリストに残ったことをきっかけに音楽の世界に入ったという経歴の持ち主。
本名のAnushka Shahaneyとしてボリウッド映画のプレイバックシンガー(つまり女優が口パクで演じるミュージカルシーン専用の歌手)としても活躍していて、インドのベストセラー小説家チェタン・バガット(Chetan Bhagat)原作の映画、'Half Girlfriend'の挿入歌でその名を上げた。
映画を離れてソロのシンガーソングライターとして活動するときには、名前のkをqに変えて、Anushqaという名義を使っているようだ。
このユニークな綴りは、インドではよくあるアヌーシュカという名前をより識別されやすくするためだろう(ネット検索のときも便利!)。

こうした経歴からもわかるとおり、彼女はこのブログでいつも紹介しているインディーズ系のミュージシャンとは一線を画す、インドのショービジネスのかなりメインストリームに近いところで活動をしているアーティストということになる。

彼女のデビューのきっかけとなったようなオーディション番組は、インドでもかなりの人気を集めているようで、Slumdog Millionaireの原作者でもあるヴィカス・スワループの小説'Accidental Apprentice'でも、主人公の美人の妹がテレビのオーディションに出演するエピソードが出てくる。
オーディション番組でスター歌手になるというサクセスストーリーは、ちょうど70年代日本の「スター誕生!」みたいに、インドの新しい世代の憧れとして認識されているのだろう。
先天的な美貌がないと務まらない役者の世界と違って、「歌さえ上手ければ…」という夢を見させてくれるところも人気の秘密なのではないかと思う。
(その小説では、オーディション番組の裏側はセクハラやパワハラが横行するずいぶんとダーティーな世界として描かれていたけれど、実際のところはどうなんだろう。秋元康プロデュースのムンバイのMUM48も、プロジェクトが発表されたのち全く音沙汰がないが、インド芸能界のこうした闇の部分によって頓挫してしまっているのだろうか)

話をAnushqaに戻そう。
彼女は幼少期からムンバイで(西洋の)クラシック音楽を学んで育った。
インドの先進的ミュージシャンの常で、彼女もまた海外への留学を経験している。
カナダの大学で心理学を学んでいたそうだが、音楽のキャリアを追求したいという気持ちが強くなり、'The Stage'へのエントリーへとつながったようだ。

彼女のインターナショナル・デビューとなったのはこの曲、'Something in Common'.

おそらくは海外のマーケットを意識してエキゾチックな雰囲気のビデオにしたのだろうが、ここで見られるエキゾチックさはインド独自のものではなく、イメージ優先のなんちゃってエキゾチック(だと思う。ちょっとどこかの部族の民族衣装っぽくも見えるけど、監督はイギリス人のようなのでそこまで意識していなさそう)。
結果的にMajor Lazer & DJ Snake feat. MØの'Lean On'にそっくりになっているんじゃないかっていう指摘もされているようだが、インドらしさでいえばむしろ'Lean On'のほうが上だ('Lean On'のほうはロケ地もインドのどっかのお城だし)。

とはいえエキゾチックなのはビデオだけで、彼女の歌唱については、今回もインドらしさよりも直球のR&Bテイストで勝負している。
このあたり、カルナーティック音楽をルーツにもつRaja KumariAditi Rameshとの明確な違いと言ってよいだろう。

映画'Half Girlfriend'の挿入歌'Stay A Little Longer'.
 
この曲は作詞は彼女が手がけているけど作曲は別の人。
バラード調の曲調に、サーランギーっぽい擦弦楽器の音が絶妙なインド風味を醸し出している。
お聴きの通りインドの映画挿入歌、すなわちメインストリームポップスもここ数年で大きく変わってきていて、一昔前のYo Yo Honey SinghやBadshahみたいなクサイ(もっとストレートに言うとちょっとださい)曲調からだいぶ垢抜けてきた。

このAnushqa、これからもシンガーソングライターとプレイバックシンガーの二足のわらじを続けるのかどうかは不明だが、いずれにしても新しい時代のインドの歌姫として活躍していくことと思う。
日本での公開が増えてきているインド映画でもその歌声を聴く機会があるかもしれないので、要注目です。

今回はここまで。
それでは!


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goshimasayama18 at 23:30│Comments(0)インドのR&B | インド映画

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