2018年05月21日

説明不要!新世代の天才!Rhythm Shaw他若き才能たち!

インドのコンテンポラリー・ミュージックを聴いているといろいろな意味で驚かされることが多いのだけど、その驚きは大きく分けて2つの種類に分けられる。
ひとつ目は「さすがインド!こんなふうにインドの要素を入れてきたか!」っていうタイプのもの。
今まで紹介してきた中だと、Brodha VとかAnand Bhaskar Collectiveなんかがこれにあたる。
二つ目は「国籍とか関係なく、単純にスゲエ!」というタイプのもの。
インドのデスメタルポストロックのレベルの高さは今まで紹介してきた通りだ。
今回紹介するのは典型的な後者!
インドの若手凄腕ミュージシャンを紹介します。

最初に紹介するのはウエストベンガル州コルカタ出身、若干 22歳のギタリスト、その名もRhythm Shaw.
まずはそのプレイを聴いてみてください。


この若さにしてアコギもエレキも信じられない上手さ!
しかも凄いのはこれだけではない。
ギタリストと紹介したけど彼は実はマルチプレイヤーで、一人で全パートをプレイしているセッションなんかも凄い(ドラムだけはサンプリングパッドを叩いているが)。


彼のプロフィールを見てみると、影響を受けたミュージシャンとしてスティーヴ・ヴァイらと並んでNepal Shawという名前が出てくるが、調べてみたところこれは彼のお父さんらしく、幼少期からタブラをはじめとする各種楽器の英才教育を受けてきたようだ。
わずか11歳のときのタブラの演奏の様子がこれ。
地元のテレビ番組に出た時の映像で、演奏は25秒くらいから。スゲー!


こっちはお父さんとの共演! 
最初は古典的なスタイルで叩いているが、後半でお父さんのギターがスタイルを変えると、それに合わせていろんな叩き方を披露する器用さもすでに身につけている!
ギターとベースとキーボードだけでも十分びっくりなのに、そこに古典のセンスや技量が入ってくるともう誰も太刀打ちできない領域だ。
あとどうでもいいけど、小さい頃からRhythmと名乗っているところを見ると、どうやらリズムって本名(!)みたい。お父さんのネパールっていう国名が名前なのもびっくりしたけど(インドだと自然な名前なんだろうか)、珍名親子か。

他にもインドの若手天才プレイヤーは数多く、例えば若干21歳のベーシストMohini Dey.


スティーヴ・ヴァイとの共演も(演奏は1:00あたりから)!

こちらは24歳のフィンガースタイル・ギター(とこういうのを言うらしい)の気鋭Manan Gupta.


ニューアルバムでは歌も披露。インドのラウル・ミドンか。

彼らはいずれもプレイヤーとしては超一級品だが、その高すぎる技量ゆえに、テクニックばかりに耳を奪われてしまって、表現者・アーティストとしての評価には少し時間がかかるかもしれない。
ただいずれにせよ、彼らが若くしてその類い稀な才能を開花させていることに疑いの余地はない。
ふと思ったけど、タブラの超大御所ザキール・フセインのお父さんもまたタブラ・プレイヤーだし、シタールのシャンカール一家も然りだし、インドって子どもの頃からの音楽英才教育の伝統があるのかもしれないね。
それが古典音楽のみならず、現代音楽の世界にも広がってきているとも考えられる。
そのうちIT産業がそうなったみたいに、世界の音楽シーンのバックミュージシャンがほとんどインド人なんてことになるのかも。

それでは今日はこのへんで!

goshimasayama18 at 00:14|PermalinkComments(0)インドのロック 

2018年05月17日

紹介したアーティストの近況!海外公演など

今までに紹介したアーティストの近況をお届けします。
ムンバイのラッパー、DIVINEはカナダのトロントで行われるDesi Festへの出演が決まった模様。
DesiFest
ヒンディー語のラッパーが海外公演というのは興味深いが、これはどうやら現地在住のインド人やインド系移民を主なターゲットとしたイベントのようだ。
過去の映像を見るとインド系でないお客さんもそれなりにいるようなので、日本でいうと代々木公園で行われている「ナマステ・インディア」とか「タイフェスティバル」みたいな要素もあるのかもしれない。
デシ・ヒップホップすなわちインド系ヒップホップは、もともと海外在住の南アジア系アーティスト(例えばパキスタン系アメリカ人のBohimia)によって勃興したムーブメント。
このイベントでも、他の出演者はカナダやアメリカ在住の南アジア系であるThe PropheC(バングラ)、Roach Killa(ヒップホップ)、Parichay(ボリウッド)、Amar Sandhu(ヒップホップ)、Haji Springer(ヒップホップ)らが中心。
ここ数年で急速に発展したインド国内のヒップホップを代表するアーティストであるDIVINEは、カナダではまだまだ「未知のアーティスト」だと思うが、その彼にオーディエンスがどんな反応を示すのか、ちょっと気になるところではある。

グジャラート州アーメダーバード出身のポストロックバンド、aswekeepsearchingは現在ヨーロッパツアー中。
aswekeepsearchingTour
こちらはドイツや東欧中心で、これはおそらくはインド系移民向けというよりも現地のポストロックファン向けのものなのではないかと思う。
ヒンディー語で歌っているバンドでも、こういう音響至上主義的なバンドの場合、海外のファンもツアーができる程にいるということなのだろう。
(実際、aswekeepsearchingはロシアのレーベルと契約している)

先日お伝えしたムンバイのデスメタルバンド、Gutslitのアジア弾丸ツアーに向けたクラウドファウンディングは遅々として進まず、$5,000に対して5月16日現在でまだ$710。
先日Facebookで「ドバイまでのチケットを買ったぜ」という報告があったが、ドバイは最初の公演地。
果たしてツアーの最後から2番目の日本へは無事たどり着けるのか。
また続報をお届けします。
日本公演に向けてぜひサポートがしたい!という方はこちらからどうぞ。
GutslitTour
ところで彼らのツアータイトルの下にある"Bobs and Vegene Edition"という謎の言葉。
これは調べてみたら、ネット上のネタにされている"Boobs and V◯◯◯◯◯"(つまり「オッパイと◯◯◯◯」)のミススペリング。
マヌケなインド人の男性たちが、SNSやネット上のニュースで女性に対して卑猥なことを言おうとして、思いっきり間違って書いてしまったものがネタにされているということらしい。
デス/グラインド系のバンドらしく悪趣味で下品なツアー名をつけたかったのだろうけど、あんまり性差別的な言葉はこのご時世マズいし、そこでちょっとアホを揶揄したようなツアータイトルにした、ってところだろうか。
予算もないのに17日間で16公演の弾丸ツアーを企画するバンドにしてはよく考えられているなあ、という気もする。

というわけで、本日はインドのミュージシャンの海外での展開の例をいくつか紹介してみました。
考えてみれば、日本のミュージシャンでも、海外在住の日本人・日系人向けに海外公演を行う演歌歌手なんかもいれば、コーネリアスとかギターウルフみたいにコアな音楽性で海外でも音楽ファンに受け入れられているアーティストもいる。
インドのアーティストも同じようなもので、一部のアーティストは人種や国境を越えて評価されるだけのクオリティーがあるということなのだろう。
最近ではBabymetalみたいに日本のガラパゴス的な音楽がそのまま海外でも人気を博す例もあるわけで、インドのミュージシャンもこれからますますグローバルな評価を受けてゆくことと思う。(というか、そうあって欲しい)
そのときに、「ああ、あのアーティストなら昔から知ってたよ」みたいな謎の優越感に、インド人たちといっしょに浸りたいものである。 

三者三様、今日紹介したそれぞれのアーティストの代表曲はこちらから。




それではまた!

2018年05月13日

忘れた頃にJ19 Squadから返事が来た!(その1)

このブログの熱心な読者(いらっしゃるのでしょうか…。いたら手を上げてください)なら、かれこれ1ヶ月半くらい前にラージャスタン州のギャングスタ・ラッパー集団J19 Squadを取り上げたことを覚えているかもしれない。

インドの伝統文化を色濃く残す砂漠の土地ラージャスタンの香りをぷんぷんさせながら、同時に平気で銃をぶっ放すとんでもないワルでもあるJ19 Squadに興味津々となったアタクシは、さっそくインタビューを申し込み、いくつかの質問を送った。
その日のうちに彼らから「Much love, bro. すぐに答えるぜ」との返信が来たが、その後の音沙汰がないまま時は流れゆき、そろそろ1ヶ月になろうかというとある日、完全にあきらめかけた頃に彼らから返事が来た。
その回答を読んで、もう少し質問したいことが出てきたので、改めてメッセージを送る。
「Much love, bro. すぐに答える」
…が、またしても返事は来ない。

催促を送ること一度、二度。
「すぐに返事するぜ、bro.」

まだ次の返事は来ていないのだけど、せっかくいただいた1回目の内容をずっと寝かせておくのも何なので、ここでひとまずこれまでのインタビューの模様をお届けします。
その前に、彼らの音楽をおさらい!

彼らの地元「ブルーシティ」ことジョードプルへの愛に溢れた曲。
"Mharo Jodhpur"


ワルさで言えばこの曲が一番"Bandook".
2:30からの英語のセリフ「You know why we are doing this? We are doing for our streert, our people, our city man. Ain't no body gonna stop us. Hahahaha. Yeah, You know who we are, J19 Squad!」ってとこがイカしてる!
最後のSquad!でキメるとこ、好きだなあー。
笑顔で銃をぶっ放す女の子たちも、なんかよく分からないけどキュート!


ボブ・マーリィへのトリビュートと題された、"Bholenath".
やってることはシヴァ神を祀った寺院でのひたすらな大麻の吸引で、ボブはどこ?って感じがするんだけど。それにインドでも大麻は一応違法なはずだけど、こんなに堂々とビデオで吸っちゃってて大丈夫なのだろうか。


これらのビデオを見てわかる通り、彼らの魅力を一言で表すとすれば、ラージャスタン土着の男っぽさと、ヒップホップ由来のの"サグい"(Thug=ワルい)感じの共存。
果たしてそんな彼らの素顔はどんななのか?

質問に答えてくれたのはメンバーのPK Nimbark.
インドのヒップホップシーンの中でも未知の地、ラージャスターニー・ラップの話を存分に聞かせてくれました!

凡「インタビューに協力してくれてどうもありがとう。まず最初に、”J19 Squad”ってどういう意味?
ビデオだと大勢の仲間たちが写ってるよね。
全部で19人のメンバーがいるの?JはジョードプルのJ?」

J「J19 Squadはラージャスタン州、ジョードプルのヒップホップデュオだ。インドのヒップホップシーンの中で、ラージャスタンを代表(represent)している。Young HとPK Nimbarkの2人で結成されたんだ。ビデオに写っているのは地元の俳優やモデルで、彼らはJ19 Squadに所属しているわけではない。そう、JはJodhpurのJで19は俺たちのエリアコード(郵便番号のようなものか?)だ。」

なるほど。
いかにも地元のギャングの仲間って感じだった彼らは役者さんたちで、あくまで演出だったということか。
マジで怖い人たちではないのかも。
ちょっと安心だけどまだ油断はできない。

凡「音楽的にはどんな影響を受けたの?あなた方の音楽はすごくオリジナルだと思うんだけど。もし海外やインドのアーティストの影響を受けていたら教えて」
J「そうだな。俺たちはジョードプルの別々の地域の出身なんだけど、学校に通ってた頃から音楽に夢中だった。磁石のように音楽に引きつけられているんだ。
Young HはアメリカのラッパーのTIにインスパイアされていて、俺はEminemだな」

おお!ここでもエミネムの影響。
TIはサウスのギャングスタラッパーで、トラップの創始者と言われることもあるアーティスト。
やはり二人ともワイルドなイメージがあるラッパーが好みなのか。
DIVINEがクリスチャンラッパーのLacrae、Big Dealがケンドリック・ラマーのようなコンシャスラッパーに影響を受けていることとは対照的だ(まあこの2人もエミネムからの影響は公言してるけど)。

凡「トラックを作って、リリックを書いて、ラップして、って全部自分たちだけでやってるの?」

J「そうだ。俺たちの曲は全部自分たちによるオリジナルの作品だ。Young Hが曲を作っている。彼がミキシングやマスタリングをやっているんだ。歌詞は2人で協力して書いている。”Go Down”と”Raja”は俺たちの曲じゃなくて、”Go Down”はSir Edi、”Raja”はRapperiya Balam(原文ママ)によるプロデュースだ。」

なるほど。
ここで名前が出てきたRapperiya Baalamは朴訥としたフュージョン・スタイル(伝統音楽と現代音楽のミックス)で美しき故郷ラージャスタンについて歌うシンガー。


Rapperiyaの素朴さとJ19 Squadのワイルドさが郷土愛で結びついたこの曲"Raja"は、彼らだけがたどり着くことができたインディアン・ヒップホップのひとつの到達点!と個人的には思います。



さて、そろそろ彼らの最も気になる点について聞かねばなるまい。
彼らのビデオは非常に暴力的。
銃をバンバンぶっ放したりしているけど、これはマジなのか。
確信をついた質問をしてみた。

凡「あなたたちのミュージックビデオがとても気に入っているんだけど、”Bandook”はまさにリアルなギャングスタ・ライフって感じだよね。これはあなたたちの実際の生活がもとになっているの?それともフィクション的なものなの?」

J「そうだな。Bandookはじつにクールなギャングスタ・ソングだが、それが俺たちのライフスタイルってわけじゃない。俺たちはもっとふつうに暮らしているよ。これがフィクションなのか実際に起きうることなのかっていうのは言えないな。実際のところ、このビデオはラージャスタン人のライフスタイルに基づいている。彼らはとても慎ましくて親切だけど、もし誰かが楯突こうっていうんなら、痛い目に合うことになるぜ。ラージャスタンの王族に仕えたラージプートの戦士のようにね。」

彼らの回答に出てきたラージプートは、ラージャスタン州の誇り高き戦士(クシャトリヤ)カーストのこと。7世紀〜13世紀にかけてこの地方に王国を築き、幾度も西方からのイスラム勢力のインド亜大陸への侵入を防いだ勇猛さで知られる。
彼らのミュージックビデオを見てもわかる通り、今でもとにかく地元愛の強い土地柄なのだ。
それと、この回答を聞いて正直ちょっとほっとした。
いくらジョードプルと日本で距離が離れているとはいえ、平気で銃をぶっ放すような連中に「俺たちがフェイクだって言うのか!」とか怒られたらさすがにちょっとビビるからね。

次に、彼らについてもうひとつ気になっていたことを聴いてみた。

凡「あるときはヒンディー語で、あるときはラージャスターニー語でラップしているよね。どうやってラップする言葉を決めているの?」

J「俺たちはヒンディー語でラップを始めた。でもラージャスターニー語はインドのヒップホップじゃ全然使われていなかったから、俺たちがここで本物のラップを紹介しようって決めたんだ。(地元に)ヒップホップミュージックのシーンを作るためにね。実際にいまシーンを作っているところだよ。これからもデシ・ヒップホップのシーンのためにはヒンディーで、地元のシーンのためにはラージャスターニーで、両方の言語で曲を作っていくつもりだ」

なるほど!
彼らは愛する地元ジョードプルに、同じく彼らが心から愛するヒップホップを根づかせるために地元の言語で歌っていたのだ。
ビデオでの暴力的な表現は、ヒップホップのギャングスタ・カルチャーを地元の勇猛なラージプート文化と融合して、ラージャスタン風に翻案したものということなのだろう。
ものすごいギャングスタのように見えて、案外周到に計算された表現様式なのかもしれない。
それからここで出てきたデシ・ヒップホップというのは海外の移民を含めたインド系アーティストのヒップホップを指す言葉。
彼らはラージャスタンにヒップホップを広めるとともに、より大きなマーケットでの成功も視野に入れているようだ。

そんな彼らのインタビューその2がお届けできる日は来るのか?
あまり期待はしないでお待ちください。
20年前からインド人にすっぽかされるのは慣れてるんだけどさ。 

2018年05月10日

雑誌「POPEYE」6月号「僕の好きな音楽」インドのページ!

ポパイ表紙
本日発売の雑誌「POPEYE」6月号の音楽大特集「ぼくの好きな音楽」のインド音楽のページに情報提供させてもらいました!

ポパイ記事
「POPEYE」と言えば「シティボーイのための雑誌 」を標榜しているお洒落カルチャー誌。
よくそんなところのライターさんがこんな辺境ブログを見つけてくれたものだと思ったけど、ええいままよ、といろんな音楽を紹介してしまいました。

「POPEYE」からこのブログにたどり着いた方、軽刈田 凡平(かるかった・ぼんべい)と申します。
以後、お見知りおきを。
 記事で紹介していた音楽をもうちょっと深く知りたい方向けに、Youtubeとブログの記事をリンクしてみますんで、良かったらどうぞ。
アーティスト名の前の数字は、POPEYEの記事についてる番号です。

1.AMBUSHは、のっけからまだ記事に書いてないバンドです。
今年新しいアルバムを出すらしいので、そのタイミングで改めて紹介するつもり。

北東部アッサム州出身のバンドで、音はもろレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンだけど、硬派な姿勢も本家同様。
この曲は、インドのマジョリティーであるアーリア系やドラヴィダ系から差別な扱いをうけ、法的にも不利な立場に置かれている北東部人々の権利を訴える内容だ。


2.Anand Bhaskar Collectiveは、サウンドガーデンのようなオルタナティブ・ロックに乗るインド声楽系のヴォーカルが絶妙なバンド。
この曲が記事に書かれていたHey Ram.

彼らについて書いたブログ記事はこちらからどうぞ。


3.aswekeepsearchingはグジャラート州出身の繊細にして壮大なサウンドを奏でるポストロックバンド。
歌詞のヒンディー語の響きがまたいい感じの情緒なのです。

紹介の記事はこちら

4.Gutslit、こんどはムンバイのデスメタル!

黒ターバンのベーシストがかっこいいぞ。
こういうコアな音楽になればなるほど、国境って無くなってくるんだなあ、と感慨もひとしお。
なんと彼らはクラウドファウンディングで資金を集めて来日公演を含めたアジアツアーを計画中!という記事はこちら
他にも北東部のデスメタルバンドへのインタビューなんかもしてます。

5.Parekh & Singh
彼らのこともまだ記事にしてないや。
とてもポップでお洒落な雰囲気の音楽。

こんなふうに、インドらしさを全く出さず、無国籍的にセンスとポップさで勝負しているアーティストも結構います。

6.GURBAX
ここで痛恨の誤植!
POPEYEの記事ではGRUBAXとあるけど、正しくはGURBAX.

ヒンドゥー的要素を取り入れたトラップミュージックで、記事はこちら
記事ではインドのクラブシーンの盛り上がりが感じられる映像も見られます。
他にインドの要素の入ったトラップでは、Su Realもオススメ

7.インドのエミネムことBRODHA V
インドではヒンディー語をはじめとする各地域の言語でラップするアーティストも多いけど、彼のラップは英語なので聴きやすいと思います。
英語とはいえ、サビで急にヒンドゥーの聖歌になるところが小粋かつ気持ちいい。

インドのラッパーへのエミネムの影響というのは本当に大きく、今まで記事にした中だと、Big DealJ19SquadBKもエミネムからの影響を公言していた。
まあ、そもそも今世界中で活躍しているラッパーで、彼の影響下にない人のほうが少ないのかもしれないけど。

記事に書いてある「インドの音楽は長らく鎖国状態にあり…」というのは、インドの音楽マーケットは長らくインドの映画音楽が中心に(というかそればっかり)流通していて、一般大衆がいろんなジャンルの音楽を聴く機会が非常に限られていた、っていうことを指してます。
これが21世紀に入った頃から、インターネットの普及とともに、一気に世界中の音楽にアクセスできる裾環境になり、いろんな音楽を聴く人、自分もやりたい!って人が増えてきて、結果的にとっても面白いことになっている、っていうのが今のインドの音楽シーンの状況です(ざっくり言うと)。

インドには他にも面白い音楽がたくさんあって、まだまだ全然紹介しきれていないのだけど、今回のPOPEYEの特集的な感じのものでいうと、例えばインド音楽の側からのヒップホップへのアプローチとか、インドのポップスのラテン化傾向のなんていうのはわりと面白いんじゃないかと思います。

今月のPOPEYE、他のページでは私のような駄ブロガーではなく、ビースティーズのマイクD、細野晴臣、トミー・ゲレロ、コムアイ、ウェス・アンダーソンといった古今東西のセンスいい感じの人たちがお気に入りの音楽を紹介していて、読み応えたっぷり、オススメです。

それにしてもこの特集を読んでつくづく感じたのは、「俺最近こんなマニアックでセンスのいい音楽聴いてるんだぜ」ってイキがりたい文化って、洋の東西も老若男女も問わずまだまだ盛んなんだなあ、ということ。もちろん本当にその音楽が好きだというのが大前提なのだけど。
ちょっと嬉しくなっちゃいましたよ。
私なんかまだまだ。
これからも精進します。 

goshimasayama18 at 00:42|PermalinkComments(0)インドよもやま話 

2018年05月07日

ここまで熱狂するか!インドのプロレス団体Ring Ka King!

今まで、このブログではインドと音楽をテーマにいろいろなことを書いてきたわけだが、アタクシの幼少期から学生時代にかけて、音楽以外で大きな影響を受けてきたものといえば、それはプロレス。

「超獣」「不沈艦」「黒い呪術師」「皇帝戦士」「人間魚雷」「殺人医師」。
…大仰な異名のガイジンレスラーが暴れまわっていたあの頃、リングはまさに戦いのワンダーランドだった(遠い目)。

インドとプロレスといえば、まず思い出すのはもちろん「インドの狂える虎」タイガー・ジェット・シン。
新宿伊勢丹前猪木夫妻襲撃事件、ザ・ファンクスとの流血マッチ等、数々の伝説を残し、ブッチャー、シークと並んで昭和の3大ヒールと称されることはみなさんご存知だろう(ご存知でなくても別にいいけど)。
今でも新宿伊勢丹と聞くと、オシャレでハイソなイメージよりも、シンの襲撃事件を思い出してしまう40代以上の男性は多いと聞く。

まあとにかく、インドとプロレスを結びつけるものはタイガー・ジェット・シンくらいしか無かったアタクシは、長らくインドとプロレスを脳の別々の場所に記憶して生きてきた。

ところが数年前、この2つの記憶に新たな接点が生じる出来事があった。
それは、「スラムドッグ$ミリオネア」の原作者でもあるインド人作家、ヴィカス・スワループの「6人の容疑者」という小説を読んでいたときのこと。
登場人物の一人で、無教養でお人好しのアメリカ人観光客「ラリー・ペイジ」が、インド人女性との結婚詐欺に引っかかったときに、いきなりこんなことを言い出したのだ。
「俺は泣き虫じゃない。最後に泣いたのはずっと昔、1998年のことだ。WWEの有名な“ヘル・イン・ア・セル”の試合で、マンカインド(またの名をミック・フォーリー)がジ・アンダーテイカーに負けたときだ。あのときは胸がしめつけられたみたいに苦しくて、母さんの膝に抱きついて思いっきり泣いた。」

WWEは、ご存知の方も多いと思うが、世界最大の規模を誇るアメリカのプロレス団体。ストーリーやキャラクター重視の「スポーツ・エンターテインメント(ショーとしてのプロレス)」を掲げ、世界中で人気を博している。

著者のスワループは外交官で、大阪のインド領事館の総領事を務めたこともあるエリート中のエリートだ。
そんな彼の著作に、アメリカ市民の中では無教養な庶民の娯楽とされるアメリカン・プロレスについてのずいぶん具体的な記述が出てきたので、非常に驚いたものだった。
確かに「マヌケなアメリカの貧乏白人」の独白としては良くできたセリフだが、このやたらと具体的な記述のニュアンスをインドの読者は理解できるのだろうか?スワループはWWEマニアなのか?
大いに違和感を感じたのを覚えている。

とはいえそんなことはまた忘れたまま月日は流れ、つい数ヶ月前にこのブログでも取り上げた、インド北東部トリプラ州出身のラッパー、Borkung Hrangkawl(BK)のスポークンワードを聴いたとき、またしてもびっくりした。

この中で確かにBKはこう言っている。


“Don't mind me saying this but is this is some kinda freak show. Its' like we are Rey Mysterio and you're the Big Show.”


このラップはインドの主要地域(メインランド)に差別され続ける北東部諸州の状況を訴えるためのものだ。
ここで取り上げられているレイ・ミステリオは90年代から00年代にかけてWWEで活躍したメキシコ系の小柄なレスラーで、体格的には軽量級ながらも、華麗な跳び技を活かしてヘビー級のチャンピオンベルトを巻いたこともある人気選手だ。
一方のビッグ・ショーも同時期にWWEで活躍した213cm、200kgの巨漢レスラー。
このラインは「人口も少なく権力も弱いトリプラ州の俺たちがインドの主要地域にモノ申すのはまるでレイ・ミステリオvsビッグ・ショーの試合みたいだ」という文脈ということになる。

これは「規模は小さくても見くびるな。お前を倒す力はある」という意味なのか、それとも「筋書きのあるWWEの試合ならともかく、現実の社会では弱者が強者に勝つことはできない。それなのにこんな残酷ショーを続けるのか」という意味なのか。
いずれにしてもとても印象的なリリックだ。


とは言うものの、果たしてこのラップの主なリスナーであるインドの人たちは、こうしたWWEのレスラーのキャラクターまで理解して、リリックの意味を咀嚼することができるのだろうか。
分かる人にだけ分かればいい、ということだとしても、それなりの割合で「分かる人」がいなければこんな表現はしないだろうし、そもそもBK本人が相当なWWEファンでなければこんな表現は思いつかないはずだ。
BKもまた、WWEマニアなのか?

これまた驚きと違和感を感じたものだった。

そしてその驚きと違和感は、徐々に疑問に変わっていった。
「ひょっとすると、インド人はプロレスが大好きなのではないだろうか?」

そう考えてみると、確かにいろいろと思い当たるふしがある。
インドの男性俳優ってみんな無駄にマッチョだし、少し前まではほとんどの娯楽映画に必ずアクションシーンが入っていた。
キャラの立ったマッチョマンがリング上で戦いとドラマを繰り広げるアメリカン・スタイルのプロレスを、インド人が好きにならないはずがない。

問題は、そのWWEをインド人がどれくらい見ることができるかということだが、インドでも中流階級へのケーブルテレビの普及は凄まじいというし、今やWWEはインターネットで視聴することも可能だ。

インドでプロレス熱が高まっているとしても不思議ではない。

さらに、最近のWWEでは「ジンダー・マハル」や「グレート・カリ」といったインド系レスラーが活躍していると聞く。
世界中をマーケットとするWWEでこれだけインド人レスラーがプッシュされているということは、それだけインドの市場(もしくは在米インド系移民。アメリカのプロレスはイタリア系、メキシコ系などの移民社会を代表するレスラーが活躍してきた歴史を持つ)が意識されているということだ。


これはもしかしたらインドにもプロレス団体があるのかもしれない。
例えばメキシコという国は、先住民の伝説をもとに幾多のマスクマンを生み出し、独創的なプロレス「ルチャ・リブレ」を生み出したが、インドも独自のアクの強い文化には事欠かない。
インド人が本気でプロレスを始めたら、すごいことになるのではないか。
そう思って探してみたら、驚くべき団体を発見!

マハーラーシュトラ州、プネーを本拠地とする団体、その名もRing Ka King!

完全なWWEスタイルのエンタメ・プロレスで、とにかく観客の熱狂が凄い!


このRing Ka King(「リングの王」という意味のようだ)は、元プロレスラーにして、アメリカで2番手のプロレス団体「TNA(現Impact Wrestling)」の創設者としても知られるジェフ・ジャレットが設立した団体らしい。
WWEに代表されるアメリカン・スタイルのプロレスを完全に踏襲して披露している。

この動画は2012年の団体立ち上げ時のもの。
選手はインドのレスラーに加えて、WWEやTNAでかつて一線級の人気を博していた錚々たるレスラーが名を連ねており、ジェフの力の入れようが伺える。
アタクシも新日でも活躍していたスコット・スタイナーが入場してきたときはちょっと興奮してしまった。

セクシーな女性達のボリウッド・ダンスから始まり、国民的スポーツであるクリケットのスター選手が出てくるオープニングは、WWE的エンタメ・プロレスの見事なインドへの翻案。


実況が英語ではなくヒンディー語なのは、アメリカでプロレスが「無教養な層の大衆娯楽」であるという位置付けをインドでも獲得しようとしているものと考えられる。

試合(23:48から!)を見ると、まだまだインド人レスラーはレスリングが下手だし、試合自体も非常に大味で、下手なアメリカン・プロレスといった内容だが、観客は大いに盛り上がっている。
 

仕掛け人のジェフ・ジャレットは、GFW(Global Force Wrestling)という団体も創設し、数年前に新日本プロレスとも提携してリングにも上がっていたので(その後、この団体は消滅した模様)最近のプロレスファンでもご存知の方がいるかもしれない。
WWEの独占状況が続くアメリカのプロレス界に対抗して、ジェフがインドや日本といった魅力ある市場を開拓しようとしているようにも見える。
(一方で、業界トップのWWEは成長する中国市場を見越して中国人レスラー王彬(ワン・ビン)を獲得している)
 

この熱狂ぶりと潜在的な市場規模(人口)から考えたら、インドはアメリカ、日本、メキシコに次ぐ第4のレスリング大国になるポテンシャルも十分にあるのではないかと思う。

インドの文化的多様性を考えると、例えばコルカタのリクシャー引きとか、ヒンドゥー原理主義者とか、イスラムのテロリストとかいろんな面白いレスラーが出てきても良さそうなものだけど、出てくるレスラーはせいぜいパンジャーブ出身とかアピールする程度。
さすがに政治や差別や宗教が関わる問題はタブーなのだろう。
WWEでは湾岸戦争のときに悪役レスラーとしてフセインのそっくりさんが出てきていたけど、インドのプロレスでパキスタン系レスラーが悪役として出てきたらやだな。


このRKKはインド西部マハーラーシュトラ州(ムンバイと同じ州)の大学都市プネーを拠点にしている団体だが、なにしろ国土が広く言語や文化も多様なインドのこと、いずれインドも、かつてのアメリカのように各地にプロレス団体が乱立するようなことになるのかもしれない。 


…今日もついつい熱くなってしまったけど、本や音楽をきっかけにインドのプロレス界を覗いてみたという話でした。
最後にもうひとつだけ。
小説の中にプロレスが出てきた話といえば、インドとはまったく関係のないけど、インドネシアの小説「虹の少年たち」を読んでいたら、こんな文章に出くわして驚いたことがある。
びっくり度合いで言ったら、こっちのほうが衝撃は大きかったな。

ようやく、僕の後ろにスペースができ、身動きが取れるようになった。僕はこの一瞬を逃さず、残っているすべての力を振り絞ってサムソンの股間のところに一直線にキックを繰り出した。それはまるで、一九七六年に日本のプロレスラーであるアントニオ猪木がモハメド・アリと対戦した時に見せたあの必殺のキックのようだった。

なんの前振りもなく、猪木の「アリ・キック」が比喩として使われている!
インドネシア人は「あの必殺のキック」と言われて、「ああ、あれのことね」と分かるのだろうか。
この小説の中で、唐突にプロレスに関する記述が出てきたのはこの1箇所だけ。
あの「世紀の凡戦」と言われた一戦を、インドネシアの人たちはどのように捉えたのだろうか。

だんだん何を話しているのか分からなくなってきたけど、RKKとインドプロレス事情、音楽じゃないけど面白そうなので、今後も注目してゆきたいと思います。


それからT.J.シンや、馬場の生涯唯一の異種格闘技戦の相手ラジャ・ライオン、グレート・カリ(ジャイアント・シン)、ジンダー・マハルといったインド系レスラーたちについても、いつかは掘り下げて取り上げてみたいと思います。


それではまた!


ムダにマッチョなインド人俳優
渋谷でやってた「インド映画祭」で飾られてた、ムダにマッチョなインド人俳優たちの写真。


goshimasayama18 at 00:12|PermalinkComments(0)インドよもやま話 | プロレス