2023年10月18日

ヨギ・シンとの対決(その1)


これまでのヨギ・シンに関する記事:



前回の記事:



謎のインド人占い師、ヨギ・シンが再び東京に出没している!
10月12日(木)にその情報を得た私は、翌13日(金)の仕事帰りに、さっそく同エリアを捜索した。
前回同様、遭遇報告は丸の内〜大手町のごく狭いエリアに限られている。
しかし、1時間ほどくまなく歩いても、怪しげな占い師の姿は見あたらない。
これまでの報告では、暗くなってからの遭遇事例はなかった。
時間帯が悪かったのかもしれない。


翌14日、土曜日。
この日は昼過ぎに捜索を開始した。
東京駅の丸の内北口を出た私は、大手町から丸の内エリアを歩き回ったのち、念のため4月に目撃情報があった銀座にも足を伸ばした。
しかし歩行者天国となっている銀座通りはかなりの人出で、また裏道は歩道が狭くて、いずれにしても彼の「占い」が満足にできる環境ではない。

再び丸の内エリアに戻ったが、ここも空振り。
そうこうしているうちに時刻は午後5時半を過ぎ、かなり暗くなってきた。
あきらめて家路に着こうと、東京駅のレンガ駅舎前の広場に続く横断歩道を渡ろうとした、ちょうどその時だった。

視線の先で、インド系の男性がベンチに座っている日本人の若者に声をかけている。
その男は、ターバンは巻いておらず、少し長い髪を後ろで留めていた。
細身で、身長は170センチ程度。
とても若く、歳の頃は二十代前半くらいだろうか、まだ学生のように見え、その手にはヨギ・シンの商売道具でもある手帳を持っている。

その姿は、ブログに情報を寄せてくれたSIさんの報告にあった「身長170〜175センチほどで、ヒゲなし、ターバンなしの清潔感のある好青年」とほとんど一致している。
怪しげな占い師の雰囲気はまったくなく、ハンサムで人の良い若者といった印象で、もしヨギ・シンを探していなければ、彼はフレンドリーな旅行者のように見えたことだろう。
しかし、よく見ると、ポケットには収まらない大きさの革製の手帳を手にしているのにカバンを持っていないのが不自然で、銀座で何人も見かけた南アジア系の観光客とは明らかに異なる雰囲気を醸し出していた。

声をかけられた若者は、困惑しながらも「悪い人ではなさそうだ」と感じたようで、若干こわばった笑顔で応じている。

そっと近づいて、数メートル離れたところに腰掛け、様子を見る。
気づかれないように視線を向けると、このヨギ・シンらしき若い男は、もみあげからあごや鼻の下まで、短く整えられた髭を生やしている。
このヒゲがSIさんの報告と一致しない唯一の点だが、華奢で物腰が柔らかい彼からは「ヒゲ面のインド人」として連想されるような押しが強い印象はまったくない。
彼の短いヒゲがSIさんの記憶に残らなかったとしても、不思議ではない。

座った場所からは二人の会話はかすかにしか聞こえないが、どうやら手帳を手にした男は「メディテーション」とか「カルマ」とか言っているようだ。
さらに彼は革製の手帳を開いて、写真を見せたり、何かを書いたりしている。
ヨギ・シンに間違いなさそうだ。
気づかれないようにするため、直視することも近づくこともできないのがもどかしい。

しばらくすると、日本人の青年が驚いたように「マジックみたいだ」と言うのが聞こえた。
彼がヨギ・シンであることはもう疑いの余地がない。
自分の鼓動が急速に早くなるのが分かった。
何年も探し求めていた光景が目の前で展開されていることが、あまりにも非現実的で、信じられなかった。

前回の遭遇では、こちらから声をかけて詮索したせいで、ヨギ・シンに怪しまれて逃げられてしまった。
今回は絶対に気づかれないようにしなくてはならない。
だが、この若いインド系の男は、目の前の青年と話すのに夢中で、周囲にまで注意が及んでいないようだった。
そっと立ち上がり、東京駅の駅舎と周囲の景色を撮影するふりをして、彼の姿を撮影することに成功。
短い動画も撮影することができた。
できるだけ落ち着いて行動していても、脈拍は階段をダッシュで駆け上がった後のようになっている。

しばらくすると二人は立ち上がり、簡単な別れの挨拶をして、別々の方向に歩いて行った。
日本人の若者が彼にお金を払ったかどうかは分からないが、少なくともしつこい要求に声を荒げたり、機嫌を悪くしたりはしていないようだ。
日本人青年は私の目の前を通り過ぎて信号を渡り日比谷方面へ、そしてインド系の男は反対に駅前広場のほうへ歩いてゆく。

日本人青年に声をかけて、今起きたことを詳しく聞くべきか、それともヨギ・シンらしき若者を追うべきか。
一瞬迷ったが、「本物」と会える千載一遇のチャンス。ここはヨギ・シンを追うしかない。
すっかり暗くなった広場で、気づかれないように、しかし見失わないようにインド系の男を目で追うことにした。

彼は広場の真ん中らへんまで歩くと立ち止まって周囲を見渡し、次に声をかける相手を探しているようだった。
私はさっきの日本人青年が座っていた場所に腰を下ろし、彼の様子を見ながら、退屈そうにスマホをいじるふりをしていた。

やはりこの場所が声をかけやすいスポットだったのだろうか。
他のベンチの近くをひと通り歩き回った彼は、なんとこちらに向かって近づいて来た!
どうやら次のターゲットを私に決めたようだ。
絶対に怪しまれないように、手元のスマホを凝視するふりをする。

ほんの2、3メートルのところまで彼が来た時、まるで今気づいたかのように顔を上げると、彼は人懐っこい笑顔で声をかけてきた。
その第一声は、もちろんあの言葉だ。

「You have a lucky face.」

この唐突な言葉にどう答えるのが正解なのかいまだに分からないが、私は「よく分からないけど、あなたの言葉をポジティブに受け取っているよ」といった感じで

「Thank you.」

と答えた。

彼は、笑顔で自分の額のあたりを指しながら「あなたの額からオーラが出ている」と言うと、「自分はmeditation studentだからそれが分かった。あなたはいい人だが、ときに考えすぎるところがある」
と続けた。

どれも過去の遭遇報告やネット上の投稿で読んだヨギ・シンのフレーズだ。
これは現実なのだろうか。
私は興奮とも緊張ともつかない精神状態だが、当然ながら彼はそのことを知らない。

笑顔だがテンポよく話を進めている彼は、こちらに言葉を挟む余地を与えないようにしているのだろう。
彼の英語にはインド人特有の訛りがあり、慣れていない人にはかなり聞き取りにくいだろうが、幸い私はインド人の英語には慣れているほうだし、何より彼がこれから何を話し、何をするのかを知っている。
次に発した言葉は、これまでの報告で読んだことがないものだったが、彼がしようとしていることはすぐに分かった。

「あなたの目を見せてくれ。あなたのことを読んでみる(caliculate youという表現を使っていた)」

ハンサムで人の良さそうな彼の目に胡散臭さはまったく感じられないが、彼はこれから私を騙そうとしているのだ。
いや、私がそう気づいていることを彼は知らないのだから、私が彼を騙そうとしているのだろうか。
彼は、私の目を見ながら、手帳を下敷きにして何かを書きつけている。
私の心を読んで分かったことを書いているという演出なのだろう。
彼はその紙を丸めて私に渡すと、それを手で握りしめるように言った。

いよいよ彼の「占い」が始まる。

「あなたの名前を教えてくれ(Can I have your good name?)」

この「グッドネーム」という言い方はインド人特有の言い回しで、ヒンディー語のフレーズを直訳したものだと聞いたことがある。

本名を答えると、日本人の名前に馴染みのない彼は、
「K...?」
と尋ねてきた。
「心が読めるなら、綴りも分かるはずだろう」とは言わない。
アルファベットを1文字ずつ発音して伝えると、彼は手帳を下敷きに、それを手元の別の紙に書き留めた。
最初に渡された紙はずっと握ったままで、彼がすり替えそうな兆候はない、。

次に彼は、
「何月生まれだ?」
と尋ねた。 

「1月(ジャニュアリー)」と答えると、彼は「ジャニュアリーだな」と確認してまたメモをする。

続いての質問は「好きな花は?」

何と答えようか迷ったが、バラ(rose)とかよりも文字数の多い花のほうがボロが出るかもしれないと思って「チェリー・ブロッサム」と回答。
彼はまた私の答えを復唱してメモを取る。
最初に渡された紙は、まだ私が握りしめている。

最後に彼は、
「あなたの望みは?」
と尋ねてきた。

「自分は十分幸せに暮らしているので、これ以上の望みはない」

と答えると、
「そうかもしれないが、健康とか、そういった望みが何かあるだろう(他にもいくつか例を挙げていたが、覚えていない)」と食い下がる。

適当に「じゃあ、健康(グッドヘルス)」と答えると、彼はまた確認して、メモを取る。

全ての質問を終えた彼は、わざとらしく、

「あなたは私が質問する前から、ずっとその紙を握っているね」

と聞いてきた。
こんなことを言うのは、彼がまだ若くて技術に自信がないからだろうか。

次の展開がわかっている私は、「イエス」と答えて紙を握っていた手を開いた。
その瞬間だ。
彼は、
「確かにあなたはこの紙をずっと握っていた」
と言って私の手のひらから一瞬紙をつまみ上げ、すぐに私の手に戻した。

このとき、注意深く観察していた私には、彼が手の中にもう一つ小さく丸めた紙を隠しているのが見えた。
そして、握った手の中指の内側のあたりに隠していたその紙を、素早く私が持っていた紙とすり替えたように見えた。

気づかれたことを知らない彼は、ペースを崩さずに「占い」を続けてゆく。
次に彼は、再びまるめた紙を握り、その拳をしばらく額にあてるよう指示した。
言われた通りにすると、今度は紙を握った手に息を吹きかけろと言う。

私が従うと、彼はようやく彼は握った紙を開くよう告げた。

予想通り、そこには1月(January)を意味すると思われるJanという文字、私の本名、そしてCherryという殴り書きと判別不能な3文字?が書かれている。

ヨギシンメモ


彼は自分の手元のメモを見せて、私の手のひらのメモと照らし合わせながら言った。

「ここに書かれているのはあなたの名前。生まれたのは1月。好きな花はCherry。(blossomまでは書かれていなかった)この一番下に書いてあるのは健康という意味だ。あなたが答える前からずっとこの紙を握っていたのに、答えが書かれているだろう」

最後の判読不能な文字について話した時、ちょっと気まずそうにも見えたのは気のせいだろうか。
反応しないのも不自然なので、適当にさっきの青年をまねて「マジックみたいだ」と言うと、彼は、
「マジックじゃない。メディテーションであなたの心を読んだんだ」
と答えた。


もうお気づきだろうが、彼のトリックはこういうことだ。
まず、私の目を覗き込んで、私の心を読んでいるふりをしながら、手元の紙に何かを書く。
当然ながら本当に私の心が読めているわけではないので、この時に書くのは何でもいい。というか、書いているふりだけすれば良い。

その紙を丸めて私に握らせてから、名前、誕生月、好きな花と望みを尋ねる。
彼は私の答えをメモしていたのだが、このときに大急ぎで2枚の紙に答えを書いていたのだろう。
(彼は手帳を下敷きのように使って、手元が見えないようにしていた)
1枚のメモを取るスピードで2枚分のメモを取るには、かなり素早く書かなければならない。
私が握っていた紙の文字が殴り書きで、最後の「健康」に至ってはまったく読めないほどだったのはそのためだ。
メモのひとつを気づかれないように丸めると、彼は私が手を開いた瞬間に「あなたはこの紙をずっと握っていたね」と確認するふりをして、私が握っていた紙とすり替えたのだ。

よくできているのはその後だ。
彼は私にもう一度紙を握らせると、ジェスチャーを交えてその拳を額にあてさせたり、息を吹きかけさせたりした。
この動きは、まるで特別な願いをこめるかのような印象的なものだ。
この一手間には、その前に紙をすり替えるためにした動きの記憶を消す効果がある。
紙を握った手を額に当て、さらにその手に息を吹きかけるという非日常的な動作に比べると、その前の「確かにこの紙を握っていたね」と一瞬手でつまむ動きは、道理にかなっていると言うか、ごく自然なものだから、その印象はすぐに薄れてしまう。

これまでヨギ・シンに会ったと報告した人たちは、みんな「自分はずっと紙を握っていた。すり替えるタイミングはなかった」と言っていた。
私が気づくことができたのは、何が起きるかを知っていたからだ。
彼らが二人以上でいる人に声をかけないのも、このトリックが他の一人に見破られてしまうリスクが高いからだろう。
全てのヨギ・シンがこの技を使うのかは分からないが、私が会ったヨギ・シンは間違いなくこのテクニックを使っていた。
ヨギ・シン、破れたり。

だが、私に見破られたことを知らない彼は、いつもと同じように、手帳に挟んだ写真を私に見せてきた。


(つづきはこちらから)




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goshimasayama18 at 21:28|PermalinkComments(0)ヨギ・シン 

2023年10月16日

ヨギ・シンふたたび東京に出現!



事態はいつも突然動く。
謎のインド人占い師ヨギ・シンのことである。

詳細は、こちらのリンクを読んでいただくとして(めちゃくちゃ長いのでお時間があるときにどうぞ)、かいつまんで話すと、世界中の都市に、不思議なインド人占い師が出没しているのである。
シク教徒と思われるその占い師は、街中で声をかけた人にまるめた紙を握らせてから、好きな色や好きな数字などを尋ねるという。
答えた後でその紙を開くと、信じられないことに、紙にはさっき回答した質問の答えが書かれているのだ。

「彼」は100年ほど前から世界中に出没していて、会った人の話によると年齢もさまざま。
多くの場合 'You have a lucky face.' と声をかけてくることで知られている。
「占い」のあとに寺院への寄付としてお金を要求すること、パンジャーブ出身の「ヨギ・シン」という名前を名乗ることといった共通点がある。つまり、同じような行為を世界中でおこなっている謎のグループが大昔から存在しているのだ。
私が調べたところでは、少なくともインターネット上や書籍にその謎に深く迫った情報はなかった。
21世紀に、誰も正体を知らない謎の集団がいる。
この不思議な事実に、私はどんどんのめり込んでいき、ブログに記事を書いた。
(このリンク先の1本目と2本目)

最初の事態が動いたのは2019年11月のこと。
彼らのことについて書いたブログに、丸の内で同じようなインド人の占い師に会ったというコメントが寄せられた。
その後数日の間に、多くの方から同様の情報が集まり、どうやら3人のヨギ・シンが丸の内付近で例の「占い」をしているらしいことが判明。
何度も足を運び、彼らの出没地帯の捜索を行ったところ、ついにヨギ・シンと思われる人物に遭遇!
しかし、接触方法を誤った私は、この怪しい占い師に思いっきり怪しまれ、逃げられてしまった。
こちらから声をかけてはいけなかったのだ。
私との遭遇以来、連日のように姿を現していたヨギ・シンたちは、二度と現れることはなかった。
痛恨の失敗である。


彼らとの接触の機会を失った私は、書籍やネットでの調査を開始した。
その結果、彼らのトリックは19世紀の本に書かれているマジックの技法で説明がつくこと(しかもそのトリックには「導師のからくり」を意味するインド由来の名前がつけられている)、彼らがシク教徒の保守的なマイノリティ・グループに属していること、インチキ占いでシク教徒の評判を落としていることに対して、同胞からも快く思われていないことなどが分かった。
しかし、そこで手詰まりである。

世界は新型コロナウイルスの蔓延を迎えた。
見ず知らずの人に至近距離で話しかけ、接触する彼らの「占い」は、感染リスクをともなう。
世界中で人の行き来が制限され、海外の都市で活動する彼らには致命的な状況になった。
果たして彼らはパンデミックを生き延びてくれるのか。
大いに心配だったのだが、コロナが一段落すると、昨年11月にパリで、今年の4月15日には銀座でヨギ・シンに遭遇したという報告が私のもとに届き、ほっと胸を撫で下ろしていた。

銀座の事例は、多くの人から報告が相次いだ丸の内の事例とは異なり、たった一人からの報告しかなく、捜索でも姿を見付けることができなかった。
おそらくはグループではなく単独での来日で、本業ではない小遣い稼ぎ的なものだったのかもしれない。


さて、次に事態が唐突に動いたのはつい先日、2023年10月12日。
ブログに「SIさん」という方から、同日に大手町で、同様の手口で占いをするインド人に遭遇したという報告が寄せられたのだ。
SIさんは、さらにX(旧ツイッター)で別にも同様の占い師に遭遇したという報告があると教えてくれた。
リンクを開くと、2日前の10月10日に、こんな投稿がされていたのだ。



間違いない。
ヨギ・シンだ。
私はSIさんにメールで遭遇時の詳しい状況を聞くと、快く返信してくれた。
ご本人の了解のもと、その内容を転載する。

遭遇場所は大手町の高層オフィスビル。
今回の「ヨギ・シン」は身長170〜175センチほどのターバンをしていない、ヒゲのない清潔感のある好青年といった印象だったそうである。
(一部、会社名や建物名については、軽刈田が固有名詞を変えています)


会議の合間の空き時間に上述のベンチで私は電子タバコを吸いながら休憩しておりました。
目線はスマートフォンにありましたが、人の気配を感じ隣に目をやったところ、すぐ横にはスーツを着たインド人が。
そのオフィスビルには大手商社や外資系IT企業が入っており、インド人が常日頃から出入りがあることはよく見かけておりましたので、なんの疑いもなく単なる人懐っこいタバコミュニケーションとして絡まれたのかと思っておりました。
彼の第一声は「You have a lucky face!」
(やり取りは全て英語でしたが以下日本語で書きます。)
そして続け様に自分の額を指差し、「君の額からいいオーラが出ている。来月良いことが訪れるよ!」と。
なんのことやらと思いながら適当に相槌と謝意を伝えると
「自分はMeditation studentです」と一礼。
どうやらこの類のスピリチュアルなことを学んできたので
オーラを感じることができると言いたいのでしょう。
そしておもむろに茶色い革製の手帳を取り出しました。
「僕のインドにいる師匠だ」と古びた写真を見せてきました。そこには白髪長髪・白髭の爺があぐらをかいて(座禅を組んで?)座っていました。あぐら姿勢でヒゲが股間付近まで伸びており、まるで印風麻原彰晃のようでした。
彼はおもむろに手帳の紙を破き、何かをそこに書き始めました。
そしてそれを渡され、「握りしめて一息吹きかけ、それを一度額にかざせ」と言う。とりあえず従ってやってみる。
何かが書かれた紙切れは右手に握りしめたままでした。
その後、「僕と君は今初めて会ったよね。お互いのこと何も知らないよね」ということを前提としてやたら強調してきます。(確かに1ミリも私はこのインド人のことを知りません)
インド人「名前を教えて」
私「○○(本名の下の名前だけ)です」
インド人「??」
(私の名前、長くて外国人にはやや難関なんです…)
私「スペルはこうかく」(アルファベット1文字ずつ言う)
インド人「次は誕生月を教えて」
私「12月です」
インド人「最後に1〜50の間で任意のラッキーナンバーを教えて」
私「4!」(頭の中で自分の誕生日の4日にするか妻の誕生日の5日にするか少し迷って答えました)
インド人「今教えてもらったことと、握っている紙に書いてることが一致してたら、来月いいことが起こるのは確実だよ」
そして私は手に握った紙を指示通り開いてみると、そこには
「(私の名前)/December/4」と書かれていました。
驚きです。ずっと紙切れは私の握り拳の中でしたし、
すり替えらにしてもどのタイミングですり替える余地があったのか、また、すり替えのためのミスディレクションもいつ行われたのか全く見当がつきません。
私が十分に驚きを見せた後、またまた茶色い革製の手帳を彼は開きました。
見せられたのは小学校低学年程度の子どもたちの集合写真。
それを見た瞬間すぐに察しがつきました。
インド人「僕は52人のインドの貧しい子どもたちを支援している。彼らは学校で勉強をしている。もし、彼らの教材の足しにするためにお金をくれたら彼らは君の幸運のために全員で祈りを捧げます」
正直私はそれが本当であろうが嘘であろうが、楽しませてもらったのでその占い代?手品代?としての対価は払ってもいいと思っていました。せいぜい1,000円程度ですが。
しかし生憎タバコを吸いに行っていただけなので財布を持ち歩いておらず、キャッシュが今ないことを伝えました。
インド人「ATMでおろしてもらえるなら待っている」
私「そもそも財布を持ち合わせていない」
インド人「お金持ち歩かないでどうやって今日一日ここまで来て過ごしていたの?」
私「時代はキャッシュレスでしょ。電子マネーオンリーよ。」
インド人「ではPayPalはやってる?もしくは子どもたちのために何か購入して欲しい」
私「PayPalはやっていない。購入はいいけど、何が欲しいの?」
インド人「彼らが学ぶツールにiPadを使いたいのでそれを買って欲しい。」
私「寄付にしては高すぎる。それは買えない。」
インド人「それ以上の幸運が来月君には返ってくるから、全然高くないよ。」
私「そういう問題ではなく、そもそも価格的にも買えないし、アップルストアに行く時間もない。」
インド人「ではもし私があなたのお母さんの名前を答えられたら買ってくれる?」
私「なぜお母さんの名前?意味がわからないが、そういう問題ではない。もっと手軽に1,000円程度で買えるもの。例えばコーヒー飲みたいとかチョコレートが食べたいとかそういうのだったらビルの中にも店があるし、すぐに買えるよ」
インド人「じゃあセブンイレブンに行かないか?」
私「OKそれならビルの中に入ってる」
やりとりののち、そのビルのB1フロアのセブンイレブンに入りました。
そこで彼はポッキーやキットカットなどと言ったチョコレート菓子を中心にセレクト。
途中途中で子どもが52人いるのでもう少し買ってもいいかと確認を取りながら図々しくカゴに詰めていきました。
最終的な会計は3,400円ほど。
会議の時間にすでに遅刻していた私は電子マネー決済だけして袋詰めの時間を待たず、レシートも受け取らぬままインド人をレジ前に残して足早にオフィスへ戻りました。
時刻は16:35頃。
計15分程度の時間でしたが、最終的な彼の謙虚さのない図々しい振る舞いや、会議までの時間が無いと言っているのに食い下がってくるところにイライラしました。
金額は大したこと無いものの、せっかく買ってあげるなら最後まで気分良く買いたかったものです。
もしかしたらその後レシートとともに返品し、現金化している可能性もなきにしもあらずですが、真相は不明です。
帰り際に、「メールアドレスを伝えるからなにか困ったことがあればまた連絡が欲しい」と言っていたのですが、すでに嫌気がさしていた私は断りをいれました。
軽刈田さんのことを知っていれば聞いておけばよかったなぁとも今は思っております。

'You have a lucky face'という第一声、「君の額からオーラが出ている」という言葉、そしてその後の不思議な「占い」。
さらには慈善団体への寄付を装ってお金の請求をすることなど、最後までヨギ・シンとは名乗らなかったようだが、明らかヨギ・シンの手口である。

さらにX(Twitter)に遭遇報告を上げていたRichardさんにも詳細を聞くと、以下のような返信が返ってきた。


これはターバン・ヒゲ無しで清潔感のある好青年だったというSIさんの報告とは明らかに違う人物だ。
今回も彼らは複数で行動しているらしい。
Richardさんのポストにコメントする形で遭遇報告をしていた「かぐばろん」さんからも返信があった。



これはおそらくSIさんが会ったのと同じヨギ・シンだろう。
「ペンパルがどうたら」というのはおそらくSIさんが書いていた「PayPalでお金を払ってほしい」という内容だと思われる。


今回の出没地点も、2019年同様に、大手町から丸の内のごく狭いエリアに限られているようだ。
この地域を重点的に捜索すれば、必ず会えるはずだ。
待ってろよ、ヨギ・シン。


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goshimasayama18 at 23:51|PermalinkComments(4)ヨギ・シン 

2023年10月15日

ヨギ・シン情報まとめ!

このブログ、過去の記事がとにかく探しづらいんです(すみません)。
この「アッチャー・インディア」は一応音楽ブログなのですが、音楽には全く関係のない謎の占い師「ヨギ・シン」の話題がいちおう最大のシリーズになっています。
ヨギ・シンの情報がここまでまとまっているのは世界でもこのブログだけ!
記事のリンクをまとめてみました。


まずは、とある本をきっかけに彼の存在を知り、その正体についての想いを馳せるプロローグ的な記事がこの2本です。
(100回記念特集)謎のインド人占い師 Yogi Singhに会いたい




その1年後、ヨギ・シンが東京に出没との情報を受けての捜索記、そして遭遇!
あのヨギ・シン(Yogi Singh)がついに来日!接近遭遇なるか?


ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その1)


ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その2)


ヨギ・シンを探して インド謎の占い師捜索記(その3)


彼らの「占い」について、インドのマジックという観点から調べて見たところ、これがめちゃくちゃ面白かったという話。
知られざる魔術大国インド ヨギ・シンの秘術にせまる(その1)


知られざる魔術大国インド ヨギ・シンの秘術にせまる(その2)


この日本に、かつてここまでヨギ・シンに迫った人がいた!今にして思えば、彼らの「トリック」についてはほぼここで解明されていたのではないかと思う。
探偵は一人だけではなかった! 「ヨギ・シン」をめぐる謎の情報を追う


インドのマジック続編。
日本語でここまでインド奇術の真髄と悲哀に迫った本があったとはびっくり。
インド魔術の神秘に迫る!山田真美さんの名著『インド大魔法団』『マンゴーの木』


ヨギ・シンはどこから来たのか。彼らはどんな人々なのか、その正体を考察してみたシリーズ。
ヨギ・シンの正体、そしてルーツに迫る(その1)



そして2023年、ついにヨギ・シンとの本格的な接触に成功!


ヨギ・シンとの対話(後編)

ヨギ・シンとの遭遇を終えて

ヨギ・シンとの遭遇から1ヶ月も経たないうちに、新しいヨギ・シンの出没情報が寄せられた!



また書いたら足していきますね。


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goshimasayama18 at 02:52|PermalinkComments(4)ヨギ・シン 

2023年10月14日

インドのヒップホップ事情 2023年版


今年(2023年)は、ムンバイの、いやインドのストリートラップの原点ともいえるDIVINEの"Yeh Mera Bombay"がリリースされてからちょうど10年目。
その6年後、2019年にはそのDIVINEとNaezyをモデルにしたボリウッド初のヒップホップ映画『ガリーボーイ』がヒットを記録し、インドにおけるラップ人気はビッグバンを迎えた。
以降のインドのシーンの進化と深化、そして多様化は凄まじかった。
インドのヒップホップは、今では才能あるアーティストと熱心なファンダムが支える人気ジャンルとして、音楽シーンで確固たる地位を占めている。
2023年10月。
一年を振り返るにはまだ早いが、今年も多くの話題作がリリースされ、シーンを賑わせている。
今回は、その中から注目作をピックアップして紹介したい。


『ガリーボーイ』に若手有望ラッパーとしてカメオ出演していたEmiway Bantaiは、今では最も人気のあるヒンディー語ラッパーへと成長した。
(いやナンバーワンはやっぱりDIVINEだよという声もあるかもしれないが)

6月にリリースしたアルバムのタイトルは"King of the Street".
かつて"Machayenge"シリーズで披露したポップな面は出さずに、タイトルの通りストリートラッパーとしてのルーツに立ち返った作風でまとめている。
その名も"King of the Indian Hip Hop"という7分にもおよぶ大作では、シンプルなビートに乗せて存分にそのスキルを見せつけた。

Emiway Bantai "King of Indian Hip Hop"

字幕をONにするとリリックの英訳が読めるが、全編気持ちいいほどにみごとなボースティング。
このタイトルトラックもミュージックビデオを含めて痺れる出来栄えだ。

Emiway Bantai "King of the Streets"


Emiwayは2021年にBantai Recordsというレーベルを立ち上げて、仲間のフックアップにも熱心に取り組んでいる。
アーティスト名にも付けられたBantaiは、ムンバイのスラングで「ブラザー」という意味だ。
所属アーティストたちによるこの"Indian Hip Hop Cypher"を聞けば、このBantai Recordsにかなりの実力者が集まっていることが分かるだろう。

Emiway Bantai x Baitairecordsofficial (Memax, Shez, Young Galib, Flowbo, Hitzone, Hellac, Minta, Jaxk) "Indian Hip Hop Cypher"


面白いのは、8分を超える楽曲の中にラッパーによるマイクリレーだけでなく、Refix, Memax(彼はラッパーとしても参加), Tony Jamesという3人のビートメーカーによるドロップソロ(!)も組み込まれているということ。
こういう趣向の曲は初めて聴いたが、めちゃくちゃ面白い取り組みだと思う。
ここに参加しているラッパーはEmiwayに比べるとまだまだ無名な存在だ。
ラップ人気が安定しているとはいえ、このレベルのラッパーでも一般的にはほとんど無名というところに、今のインドのヒップホップの限界があるようにも思える。


首都デリーのシーンからも面白い作品がたくさんリリースされている。
このブログでも何度も紹介してきた天才ラップデュオSeedhe Mautは全30曲にも及ぶミックステープ"Lunch Break"を発表。
(「ミックステープ」という言葉の定義は諸説あるが、この作品については彼ら自身がアルバムではなくミックステープと呼んでいる)

Seedhe Maut "I Don't Miss That Life"


このミックステープには、他にも2006年から活動しているデリーの重鎮KR$NAとのコラボ曲など興味深いトラックが収録されている。
徹底的にリズムを追求した2021年の"न(Na)"や、音響と抒情性に舵を切った昨年の"Nayaab"と比べると、ミックステープというだけあって統一感には欠けるが、それもまたヒップホップ的な面白さが感じられて良い。



コラボレーションといえば、思わず胸が熱くなったのが、パキスタンのエレクトロニック系プロデューサーTalal Qureshiの新作アルバム"Turbo"にムンバイのラッパーYashrajが参加していたこと。

Talal Qureshi, Yashraj "Kundi"


このアルバム、記事の趣旨からは外れるので細かくは書かないが、南アジア的要素を含んだエレクトロニック作品としてはかなり良い作品なので、ぜひチェックしてみてほしい。(例えばこのKali Raat
ところで、かつてインド風EDMを印DMと名付けてみたけれど、パキスタンの場合はなんて呼んだらいいんだろう?PDM?

Yashraj関連では、ベンガルールの英語ラッパーHanumankindとの共演も良かった。

Yashraj, Hanumankind, Manïn "Thats a Fact"


曲の途中にまったく関係のない音を挟んで(2:09あたり)「ちゃんと曲を聴きたかったらサブスクで聴け」と促す試みは、お金を払って音楽を聴かない人が多いインドならではの面白い取り組みだ。
Yashrajは軽刈田が選ぶ昨年のベストアーティスト(または作品)Top10にも選出したラッパーで、当時はまださほど有名ではなく、実力はあるもののちょっと地味な存在だったのだが、その後も活躍が続いているようで嬉しい限り。




今年は売れ線ラッパーの動向も面白かった。
パンジャービー系パーティーラッパーの第一人者Yo Yo Honey Singhがリリースした新曲は女性ヴォーカルを全面に出した歌モノで、このシブさ。

Yo Yo Honey Singh, Tahmina Arsalan "Ashk"


これまでのド派手さは完全に鳴りをひそめていて、あまりの激変にかなり驚いたが、ファンには好意的に受け入れられているようだ。
後半のラップのちょっとバングラーっぽい歌い回しはルーツ回帰と捉えられなくもない。
10日ほど前にリリースした"Kalaastar"という曲も、ポップではあるが派手さはない曲調で、今後彼がどういう方向性の作品をリリースしてゆくのかちょっと気になる。


Yo Yo Honey Singhと並び称されるパーティーラッパーBadshahは、ここ数年EDM路線や本格ヒップホップ路線の楽曲をリリースしていたが、「オールドスクールなコマーシャルソングに戻ってきたぜ」という宣言とともにこの曲をリリース。

Badshah "Gone Girl"


YouTubeのコメント欄はなぜかYo Yo Honey Singhのファンに荒らされていて「Honey Singhの新曲の予告編だけでお前のキャリア全体に圧勝だ」みたいなコメントであふれている。
かつてMafia Mundeerという同じユニットに所属していた二人は以前から険悪な関係だったようだが、いまだにファンが罵り合っているとはちょっとびっくりした。


ついついヒンディー語作品の紹介が続いてしまったが、インド東部コルカタではベンガル語ラップの雄Cizzyが力作を立て続けにリリースしている。
そのへんの話は以前この記事に書いたのでこちらを参照。
ビートメーカーのAayondaBが手掛ける曲には、日本人好みのエモさに溢れた名作が非常に多い。


続いてはデリーの大御所Raftaar.
この曲は今インドで開催されているクリケットのワールドカップのためにインド代表のスポンサーよAdidasが作ったテーマソングで、プロデュースは6月に来日して日本を満喫していたKaran Kanchanだ。



歌詞では、Adidasの3本線になぞらえて、過去2回の優勝を果たしているインド代表の3回目の優勝を目指す気持ちがラップされている。
クリケットは言うまでもなくインドでもっとも人気のあるスポーツだが、そのテーマ曲にラップが選ばれるほど、インドではヒップホップ人気が定着しているということにちょっと感動してしまった。
日本ならこういうスポーツイベントにはロック系が定番だろう。
Karan Kanchanのビートは非常にドラマチックに作られていて、これまでいろいろなタイプのビートを手がけてきた彼の新境地と言えそうだ。 

シンプルなラップはヒップホップファン以外のリスナーも想定してのものだろう。
もしかしたらスタジアムでのシンガロングが想定されているのかもしれない。
そういえばこのRaftaarもHoney SinghやBadshahと同様にMafia Mundeer出身。
その後のキャリアではメインストリームの映画音楽も手がけながら、わりと本格的なスタイルのラッパーとして活躍している。


Karan Kanchanが今注目すべきラッパーとして名前を挙げていたのがこのChaar DiwaariとVijay DKだ。
Chaar Diwaariは結構エクスペリメンタルなスタイルで、Vijay DKはMC STΔNにも通じるエモっぽいスタイルを特徴としている。

Chaar Diwaari x Gravity "Violence"


Vijay DK "Goosebumps"


Chaar Diwaariはニューデリー、GravityとVijay DKはムンバイを拠点に活動している、いずれもヒンディー語ラッパー。

Gravityもかなりかっこいいので1曲貼っておく。
Gravityは2018年にTre Essの曲"New Religion"に参加していたのを覚えていて、つまり結構キャリアの長いラッパーのようだが、最近名前を聞く機会が急激に増えてきている。

Gravity x Outfly "Indian Gun"


このへんの新進ラッパーについては改めて特集する機会を設けたい。



というわけで、今回は今年リリースされたインドの面白いヒップホップをまとめて紹介してみました。
南部の作品にほとんど触れられておらず申し訳ない。
11月には、インド系アメリカ人でEDM界のビッグネームであるKSHMRがインド各地のラッパーを客演に迎えた作品のリリースを控えている。
まだまだインドのヒップホップシーンは熱く、面白くなりそうだ。




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goshimasayama18 at 20:39|PermalinkComments(0)インドのヒップホップ 

2023年10月07日

フェスでも躍進!在外南アジア系アーティストたち


以前このブログでも特集したインド各地で開催される大規模フェス、'NH7 Weekender'の最新のラインナップが面白い。
各地で開催といっても、このフェスはサマソニみたいに同じ日程に複数会場で開催して同じアーティストが出演するわけではなく、ばらばらな日程でいろんなな都市で開催される。
出演するラインナップも各会場まったく別だったりするので、イベント名は品質を保証するブランドみたいなものなのだろう。
こういうタイプのフェスは日本にはないような気がする。




このNH7 Weekender、現時点では、12月1〜3日にかけてインド西部の学園都市プネーで開催されることがアナウンスされていて、出演アーティストは以下のフライヤーの通り。
以前は、Mark Ronson, Flying Lotus, Mogwai, Basement Jaxx, Steve Vai, Megadethといった世界的ビッグネーム(ジャンルはばらばらだが)をヘッドライナーに据えて、いつもこのブログで紹介しているようなインド国内のインディペンデント系アーティストが脇を固める、といった感じのラインナップが多かったのだが、今回はかなり様子が異なっている。

NH7Weekender2023Pune

ヘッドライナーや大文字で紹介される位置に、在外南アジア系のアーティストが多くラインナップされているのだ。
前回の記事でも書いた通り、インドの音楽シーンはシームレスに在外インド人と繋がっている。


このプネーのNH7 Weekednerは、インドのみならず周辺諸国にゆかりのある在外アーティストが勢揃いで、世界の南アジア系ポピュラー音楽の祭典としても楽しめそうだ。

トップに名前が上がっているのはM.I.A.
このタミル系スリランカ人の両親のもとに生まれたUKのラッパー/シンガーのことは、ご存知の方もおおいだろう。
彼女の父はスリランカでは少数派であるタミル人の政治活動家で、母と共に11歳のときにイギリスに亡命。
M.I.A.というステージネームは、Missing In Actionの略で、戦闘中に行方不明になった父に向けたメッセージだとなかば伝説的に語られている(実際行方不明になったのは父ではなく従兄弟らしいが)。
彼女はダンスホールレゲエやヒップホップ、電子音楽を融合した斬新かつ強烈なサウンドを特徴としていて、’00年代にはミッシー・エリオットやマドンナと共演するなど、音楽業界内でも高い評価を受けた。


M.I.A. "Paper Planes"


2007年のアルバム"Kala"の収録曲"Paper Planes"は翌年の映画『スラムドッグ$ミリオネア』にも使用され、世界的なヒットを記録した。
YouTubeでの再生回数は2700万回を超えている。
歌詞では欧米社会で移民として暮らす途上国出身者の率直な心情が表現されており、こうした鋭く批評的なテーマ設定が、ポストヒップホップ的な文脈での評価にも繋がっていたように思う。
最近の曲ではSNS映えを意識する風潮を皮肉っぽく取り上げていて、一時期に比べて注目度は高くはないものの、このミュージックビデオは1年で130万回程の再生回数となっている。

M.I.A "Popular"




イギリス系ジャズグループのEzra Collectiveの次にラインナップされているJai Wolfはニューヨーク在住のバングラデシュ系電子音楽アーティスト。
2015年にリリースされたIndian Summerで注目を集め、アメリカのコーチェラ・フェスティバルへの出演も果たしている。

Jai Wolf "Indian Summer"


どこか柔らかいポップさのあるEDMサウンドが魅力のアーティストだ。
彼のスタイルは、ゴリゴリのダンスサウンドからポップな方向に舵を切ったインドのEDMリスナーとも共鳴することだろう。



続いてクレジットされているPriya Raguはスイス生まれのタミル系(M.I.A.同様にルーツはスリランカ)R&Bシンガー。
もうちょっと下に名前のあるCartel Madrasはカナダのカルガリーを拠点とする姉妹ラッパーデュオで、その名の通りチェンナイにルーツを持っている(つまり彼女たちもタミル系)。
彼女たちはここ数年の間に注目を集めるようになった新進南アジア系アーティストだ。

Priya Ragu "Good Love 2.0"



Cartel Madras "Goonda"


Cartel Madrasについては、姉妹ともに性的マイノリティであることをカミングアウトしているクィア・ラッパーだということにも触れておきたい。
インドでは性的マイノリティに対する差別や偏見も根強いが、こうした音楽フェスに来るような若者は概してリベラルな考え方を持っている。
在外インド系ミュージシャンは、これまでも音楽スタイルや価値観で国内の音楽シーンをリードしてきており、彼女たちもその系譜に連なる存在と考えることもできそうだ。

東京を舞台にした(という設定の)こんな曲もリリースしていた。

Cartel Madras and Tyris White "Lavender Nightz"


彼女たちはあのシアトルの名門レーベルSubpopと契約しており、これから世界的な注目を集めることもあるかもしれない。


在外インド系アーティストといえば、イギリスやカナダを拠点に活動するパンジャーブ系のラッパーやシンガーも多いが、今回は南のタミル系(スリランカ・ルーツを含む)が多いラインナップがなかなか面白い。
バングラーなどのパンジャービー音楽は今も北インドを中心に根強い人気を持っているが、パンジャーブ系住民が多くはないプネーという土地柄がアーティストの人選に影響しているのかもしれない。

意地悪な見方をすれば、南アジアにルーツを持つ人気のピークを過ぎたアーティストと世界的にはまだ無名な若手が、成熟してきたインドの音楽シーンに照準を合わせてきていると見えなくもないが、こうした傾向からどんな化学反応が起きるのか、楽しみでもある。

タミル系といえば、マレーシアあたりの在外タミル系音楽シーンも面白そうなので、近々特集してみたいです。

それでは今回はこのへんで。



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goshimasayama18 at 00:13|PermalinkComments(0)