2020年09月25日

インドの秘境ナガランドの音楽やコスプレのオンライン・イベントのご案内!

「Do you know Cosplay? 知人がコスプレや音楽のオンラインイベントを行うんだ。ぜひ日本からも参加してほしい」
インド北東部で音楽ライターをしている友人から、いきなりこんな連絡があった。

彼の知人だという女性から詳細を教えてもらったところ、その企画は、'Magnum Opus'という名称で、ナガランドの'Act of Kindness'という団体が企画しているものだそうだ。
ナガランドといえば、かつては首狩りの風習があったことでも知られているミャンマーと国境を接するインド北東部の土地。
第二次世界大戦での日本軍の無謀なインパール作戦の激戦地にもなった土地としても知られている。

昨年公開された、田園地帯で歌われる美しい労働歌を描いたドキュメンタリー映画『あまねき旋律』でご存知の方も多いだろう。

もともとは異なる文化や言語を持つ16もの部族が暮らすナガランドは、住民のほとんどがキリスト教に改宗し、激しい独立運動を経て、そしてなぜか今では日本のアニメのコスプレが大流行しているという非常にユニークな土地だ。
 
どれほどコスプレが人気かというと、Nagaland Anime Junkiesというアニメ同好会が毎年開催しているコスプレの祭典Cosfestには、近隣の州からも含めて、毎年1万人近いファンが集まるほどだという。

ご覧の通り、ナガランドに住んでいるのは、典型的なインド人のイメージとは異なるモンゴロイド系の民族。
民族衣装を着ていなければ(とくにコスプレをしていると)日本人と間違えてしまいそうである。

今回案内のあったMagnum Opusは、10月25日の「世界芸術の日(International Artist Day)」に合わせて開催されているアートと音楽の祭典で、今年で6回目を数える。
絵画、写真、オリジナル楽曲、短編ストーリーなどと並んで、「コスプレ部門」があるというのがいかにもナガランドらしい
というか、日本の芸術祭のようなイベントで、コスプレ部門が行われているというのは聞いたことがない。
ナガランドはオタクカルチャーの市民権という点で言えば、もはやとっくに日本を超えているのかもしれない。
すごいぞ、ナガランド。 

このイベントは、例年ナガランド州の中心都市ディマプルで開催されていたが、今年はコロナウイルス禍によりオンライン開催となったことで、ぜひコスプレの本場である日本からも参加してほしい、ということで私にコンタクトしてくれたようだ。

こちらは2年前に行われたイベントの様子。
コスプレ部門の様子は1:30頃から出てくる。

インドの山奥の地方都市とは思えないコスプレっぷりに驚かされるだろう。

ナガランドの人々のジャパニーズ・カルチャーへの情熱には驚かされるばかり。
この動画は、先述の'Cosfest'を取り上げたドキュメンタリー映画だ。
38:20頃から、ナガの人々が日本への思いを告白する部分がある。

なんだか日本人として、こそばゆいような気持ちになるが、ここまで日本のカルチャーに情熱を傾けてくれている人々に、日本のコスプレイヤーの皆さんには是非とも応えてほしい。

エントリー費用はたったの150ルピー(215円程度)。
賞金もベスト・コスチューム賞が10,000ルピー(14,000円程度)、ベスト・パフォーマンスなどの各賞が5,000ルピー(7,000円程度)とごく少額だが、オンラインとはいえ、旅行でもなかなか行けない地域のイベントに参加することは、プライスレスな経験になること間違いなし。

 コスプレ部門の審査員はNaga Anime Junkiesの優勝者らが務めるそうだ。

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審査は、未編集の1分間未満の動画と、未加工の画像3枚(正面・横・後ろから撮影したもの。アクセサリー等にフォーカスした画像1枚を追加可能)で行われる。
評価の対象は、コスチュームのディテールやパフォーマンス、オリジナリティーとのこと。
(詳細はこちら)
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このRegistrationを10月15日までに以下のメールアドレス宛に送り、参加費をGoogle Payで振り込んだうえで、動画や画像を10月20日までに送ればエントリー完了。
(送付先のメールアドレスは、actofkindness.dimapur@gmail.com) 
 
 
もちろん、それ以外の部門も参加大歓迎。
オリジナルソング部門は、英語の曲が望ましいが日本語でも構わないとのこと。
これらの部門の詳細や審査方法については、上記のメールアドレス宛に気軽に問い合わせてほしい。
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それぞれ、ナガランドで活躍しているアーティストが審査を行うようだ。
コスプレイヤーをはじめ、アーティストのみなさんはコロナ禍でなかなかリアルでのイベントに参加できない日々が続いていると思うが、こんな時だからこそ、普段はなかなか接する機会がない地域の人々とも繋がってもらえたらと思う。

日本からの入賞者の知らせを聞くことを、心待ちにしています。


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2020年09月22日

ロック好きにお勧めしたいインド風ロック特集!Advaita, Sabculture, Pakshee


今から20年以上前、バックパッカーとして初めてインドを訪れたとき、自分はロック好きの19歳だった。
1ヶ月後、初めての海外一人旅から帰ってきた頃には、すっかりインドにかぶれてしまい、インドとロックが融合したような音楽はないものか、と探し回ったものだった。

ところが、これがなかなか見つからない。
Big Brother and Holding Co.とかJefferson Airplaneみたいに、ヒッピー・ムーブメントの流れでインドっぽい格好をしている60年代のサンフランシスコあたりのバンドはいるんだけど、彼らは別に音がインドっぽいわけではない。
イギリスに目を向ければ、ジョージ・ハリスンがラヴィ・シャンカルに弟子入りしたり、ストーンズがシタールを導入したりもしていたけれど、インドという濃すぎる原液の上澄みのような感じがして、あまり夢中になれなかった。
当時(90年台後半)、リアルタイムでは、インドかぶれバンドのクーラ・シェイカーが流行っていて("Tattva"とか"Govinda"とか、いかにもなタイトルの曲をやっていた)、結構好きだったけど、結局のところ彼らも「欧米人から見たインド」の域を超えているようには思えなかったんだな。

ロックのエナジーとインド音楽の深遠を、もっとうまく融合する方法があるんじゃないかと思って、当時の私はどこか満たされない気持ちを抱えていた。

欧米にいなければ、インドにいいロックバンドはいないものか…と思ってみたものの、インターネットも一般的ではなかった当時、インドのロックを探す方法もなく、次のインド渡航時にやっと見つけたと思ったら800ルピー騙し取られた!なんていうこともあった。(こちらを参照)

その後、ネットの普及などによってさまざまな情報が入手できるようになって、本場インドの「いかにもインドっぽいロック」もいろいろ見つけることができた。
インドでは、古典音楽と西洋のロックが融合した音楽を「フュージョン・ロック」と呼ぶ。
日本でフュージョンと言えば、1980年代頃に流行ったジャズとロックが融合したような音楽を指すが、インドでフュージョンと言うと、それは古典音楽と現代音楽の融合のことなのだ。

ところが、このフュージョン・ロックがまたくせもので、インド(南アジア)の要素は異常に濃いのにロックの部分が雑でダサかったり、インドっぽいのは確かなんだけど、独特すぎてロック的感覚からすると違和感が大きかったり、なかなか納得できるものは見当たらないのである。
それも当然で、彼らはべつに日本や欧米のロックファンのために曲を作っているわけではなく、あくまでローカルのリスナー向けに曲を作っているのだ。
当時の私は、本格的インドカレーにボンカレーやククレカレーの味を求めていたようなものだったのだろう。

それでも、フュージョン・ロックを聴き込むうちに、欧米のロックに馴染んだ耳にも、素直にかっこよく思えるバンドを何組か見つけることができた。
というわけで、今回はフュージョン・ロックの中でも、一般的なロックファンにも聴きやすいものを選んでお届けしたいと思います。


まずはじめに紹介したいのが、2004年にデリーで結成されたAdvaita.
バンド名の意味は「不二一元論」。
正直何だかよく分からないが、インドかぶれの心をぐっとつかむ哲学的なバンド名ではある。

サーランギー(北インドの擦弦楽器)の響きに導かれて始まる"Dust"は2012年にリリースされた彼らのセカンド・アルバム"The Silent Sea"のオープニングナンバー。

曲が始まってみれば意外にも普通のロックで、間奏部分で再び導入されるサーランギーも、舌に馴染んだ和風カレーにアクセントとして加えられた本格的インドスパイスといった風情だ。

Bol(古典音楽の口で取るリズム)のイントロが印象的な"Mo Funk"は、うってかわって古典音楽風のヴォーカルだが、そこまで癖が強くないのが聴きやすさのポイントか。

この曲は、18〜19世期の南インドの詩人Muthuswami Dikshitarの宗教詩がもとになっているとのこと。
やはりよく分からないが、「インドっぽい深遠さ」幻想をしっかり満たしてくれていてポイント高い。
謎の荷物を運ぶ男をワンショットで撮影したミュージックビデオは…衝撃の結末!(謎すぎて)

2009年リリースの"Grounded in Space"の収録曲、"Gates of Dawn"は、おごそかなタンプーラのイントロに続いて、Nirvana的なメロディーがインド風サウンドに乗せて歌われる。
(そういえば、Nirvanaというバンド名も「涅槃」を意味するサンスクリット語だ)。


彼らは8人のメンバーからなる大所帯バンドで、ロック・スタイルとヒンドゥスターニー・スタイルの2人のヴォーカリストと、ギター、ドラム、キーボード、ベース、タブラ、サーランギーのプレイヤーがいる。
8人がそれぞれ異なる音楽的バックグラウンドを持っているとのことで、曲によってインド古典にもロックにも自在に変化するサウンドはまさに「不二一元論」というバンド名にふさわしい。
近年はロック色の薄いアンビエント/ニューエイジ的な方向性に進んでしまっているようなのが少し残念だ。


最近のバンドでは、同じくニューデリーのバンドSabcultureがロックとインド音楽の心地よい融合を聴かせてくれている。

彼らは、以前は在籍していたカレッジの学校の名前を取ってHansRaj Projektを名乗っていたが、卒業にともなって改名。
2018年にデビューアルバムをリリースした。

彼らもやはり古典音楽とロックスタイルの2人のヴォーカリストを擁していて、このアコースティックバラード"Cycle Song"では、二人のヴォーカルのコール&レスポンスのようなアレンジが印象的だ。


ここまで聴いてきて分かる通り、フュージョン・ロックは、古典音楽風のヴォーカルが入ると、インドらしさが急増する。
より本格的なフュージョンになるのと同時に、ロックファンには少しとっつきにくくなってしまう気もするのだが、古典音楽のヴォーカルを活かしながらも、タイトなロックサウンドとの絶妙な融合を聴かせてくれるバンドがPaksheeだ。
Paksheeの場合、ロック風と古典風ではなく、二人の異なる古典音楽、つまり、北インドのヒンドゥスターニー音楽(彼は北インドからインド中部で広く話されているヒンディー語で歌う)と、南インドのカルナーティック音楽のヴォーカリスト(彼は南インド・ケーララ州の言語であるマラヤーラム語で歌う)が在籍していて、しかも英語のラップまでこなすというユニークさだ。

ジャズやファンクの要素のあるタイトな演奏も心地よく、彼らはフュージョンの新しいスタイルを確立したと言って良いだろう。
彼らについては、過去に特集記事を書いているので、興味のある方はこちらも参照してほしい。


今回紹介したバンドは、あくまでフュージョン・ロックの導入編。
もっと「濃い」バンドや、大胆すぎて真面目なんだかイロモノなんだか分からないバンドもたくさんいて、それぞれに良さがあるのだが、それは改めて紹介することとして、今日のところはこのへんで!

参考サイト:
https://en.wikipedia.org/wiki/Advaita_(band)
https://dailyjag.com/featured/an-interview-with-advaita-an-emerging-eclectic-fusion-band-from-india/




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goshimasayama18 at 21:43|PermalinkComments(0)フュージョン・ロック 

2020年09月15日

これはもう新ジャンル 「インディアンEDM(もしくは印DM〈InDM〉)」を大紹介!


以前の記事で、無国籍なサウンドで活動していたインドのEDM系アーティストが、ここ最近ぐっとインド国内に寄せた楽曲をリリースするようになったことを紹介した。


その後も彼らの新曲をチェックしていると、これはもうEDMと従来のインディアン・ポップスを融合させた新しいジャンルが確立ているという確信を得てしまった、というのが今回のテーマ。

その新しいジャンルをインディアンEDMと呼びたいのだけど、長いので印DM(InDM)と呼ばせてもらうことにする。
このジャンルの特徴を挙げると、ざっとこんな感じになる。
  • EDM系のプロデューサーが手掛けており、ダンスミュージックの要素を残しつつも、インド的な要素(とくに歌やメロディーライン)を大幅に導入している。
  • 歌詞は英語ではなく、ヒンディー語などの現地言語であることが多い。
  • ミュージックビデオにも、インド的な要素が入っている。(インド人プロデューサーが手掛ける無国籍なEDMの場合、ローカルな要素はミュージクビデオから排除されていることが多かった)
ボリウッド的メインストリームが新しいダンスミュージックを積極的に取り入れる一方で、EDM系のアーティスト達もインド的な要素を導入していった結果、もはやどこに境目があるのか分からないような状況になってしまっているのだ。

かつてはゴリゴリのEDMを作っていたLost Storiesの新曲"Heer Ranjha"は、この王道ボリウッドっぷり。

目を閉じると、主人公とヒロインが離れた場所から見つめ合いながら手を伸ばして、届きそうだけど届かない、みたいな場面から始まるミュージカルシーンが浮かんできそうな曲調だ。
ブレイク部分でのEDMっぽいアレンジのセンスの良さはさすが。

もうちょっとダンスミュージック寄りの曲調なのがこの"Noor".
ミュージックビデオがなぜパンダなのか謎だが、たぶん理由は「かわいいから」だろう。

クレジットには同じくインドの人気EDMプロデューサーのZaedenの名前も入っている。

そのZaedenの最近の曲は、もはやエレクトロニック・ミュージックの要素すらほとんどない普通のヒンディーポップだ。
1年前の曲がコレ。


最新の曲は、デリーのシンガーソングライターPrateek Kuhadのカバー。
彼はエレクトロニック系のプロデューサーから、オーガニックな曲調のシンガーソングライターへの転身を図ろうとしている真っ最中のかもしれない。

原曲は今年の7月にリリースされたばかりで、ここまで新しい曲のカバーというのは異例だが、Zaedenがこの曲を大いに気に入ったために制作されたものらしい。
Prateek Kuhadによるオリジナル・バージョンのミュージックビデオも大変素晴らしいので、ぜひこちらから見てみてほしい。



2013年のデビュー当初から印DMっぽい音楽性の楽曲をリリースしていたのが、プネー出身のシンガーソングライター/プロデューサーのRitvizだ。
彼は幼少期から古典音楽(ヒンドゥスターニー音楽)を学んで育ち、またEDMやヒップホップだけでなく、A.R.ラフマーンのファンでもあるようで、そうした多彩な音楽的背景が見事に結晶した音楽を作っている。
彼の曲のミュージックビデオはインドの日常を美しい映像で描いたものが多く、それがまた素晴らしい。




ラム酒のバカルディのロゴが頻繁に出て来るのは、バカルディ・ブランドによるインディー音楽のサポートプログラムの一環としてミュージックビデオが制作されているからのようだ。
インドではヒンドゥーでもイスラームでも飲酒はタブー視される時代が長く続いていたが、新しい価値観の若者たちに売り込むべく、多くのアルコール飲料メーカーがインディーズ・シーンをサポートしている。

今年に入ってからは、デリーのラップデュオSeedhe Mautとのコラボレーションにも取り組むなど、ますますジャンルの垣根を越えた活動をしているRitviz.
これからも印DMを代表する存在として目が離せない。

ハードコア・ラッパーとしてのイメージの強かったSeedhe Mautにとっても新機軸となる楽曲だ。


1998年にインド古典音楽のリズムとダンスミュージックを融合したユニットBandish Projektの一員としてデビューし、のちにベースミュージック的な印DMに取り組んでいるのが、タージ・マハールで有名なアーグラー出身のUdyan SagarことNucleyaだ。
彼が2015年にリリースした"Bass Rani"は、インドの伝統音楽とエレクトロニック・ミュージックの融合のひとつの方向性を示した歴史に残るアルバム。


この曲ではガリーラップ界の帝王DIVINEとコラボレーションしている。(この共演は『ガリーボーイ』のヒットのはるか以前の2015年のもの)

この2人の組み合わせは2017年のボリウッド映画"Mukkabaaz"(Anurag Kashyap監督、Vineet Kumar Singh主演)で早くも起用されており、インド映画界の新しい音楽への目配りの早さにはいつもながら驚かされる。

ポピュラー音楽のフィールドでの評価や知名度という点では、このNucleyaが印DM界の中でも随一と言って良いだろう。


ベースミュージック的な印DMに、レゲエやラテンの要素も加えた音楽性で異彩を放っているのが、このブログの第1回でも紹介したSu Realだ。


この"Soldiers"ではルーツ・レゲエとEDMの融合という意欲的すぎる音楽性でインド社会にはびこる保守性を糾弾している(興味深いリリックについては上記の第1回記事のリンクをどうぞ)。




この"EAST WEST BADMAN RUDEBOY MASH UP TING"では、映像でもインド的な要素をポップかつクールに編集していて最高の仕上がり。
長年、欧米のポピュラー音楽から「エキゾチックやスピリチュアルを表す記号」として扱われてきたインドだが、ここ最近インド人アーティストたちは西洋と自分たちのカルチャーとのクールな融合方法を続々と編み出しており、印DMもまさにそうしたムーブメントのなかのひとつとして位置付けることができる。

新曲"Indian Wine"のミュージックビデオでは、レゲエを基調にしたビートに、レゲエダンサーとインド古典舞踊バラタナティヤムのダンサーが共演するという唯一無二の世界観。

こうした融合をさらっと行ってしまえるところが、インドの音楽シーンの素晴らしいところだ。


このように、ますます加熱している印DMシーンだが、今回紹介した人脈同士でのコラボレーションも盛んに行われている。
この曲はSu RealとRitvizの共作による楽曲。


これはRitvizの曲をNucleyaがRitvizの"Thandi Hawa"をリミックスしたもの。


世界的にEDMの人気は落ち着きを見せてきているようだが、それに合わせるかのようにインドで勢いづいてきている印DMは、「ダンスミュージックにインドの要素がほしいけど、既存のボリウッドの曲はちょっとダサいんだよな…」というような若者たちを中心に支持を広げているのだろう。
インドのメインストリームである映画音楽と、インディーミュージックシーンを繋ぐミッシングリンクの最右翼と言えるのが、この印DMだと言える。

今後、EDMブームが過去のものになってしまうとしても、このブームが生み出した印DMという落とし子は、今後ますます成長してゆくはず。
ヒップホップやラテン音楽への接近など、目が離せない要素が盛り沢山の印DM。
これからも取り上げてゆきたいと思います!




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2020年09月05日

ムンバイの'First Class'シンガーソングライター、Raghav Meattle

インド人がよく使う英語のフレーズに、'First Class'という言葉がある。
要は「一流」という意味で、例えば、「生のタブラを聴いたことがある?」「ザキール・フセインのライブを見たことがあるよ」「彼はファースト・クラスね」みたいな使い方をする。
(実際に、この通りの会話をインド人としたことがある。)

同じようにインドで使われる言葉で、'World Class'という言葉もある。
「このような条件を満たして初めて、インド人はワールド・クラスの市民になれたと言えるだろう」とか「果たして彼はワールド・クラスな政治家だろうか?」なんていう文章を、インド人作家が書いているのを読んだことがある。
本日紹介するRaghav Meattleは、「ファースト・クラス」なシンガーソングライターだ。
ことと場合によっては、今後「ワールド・クラス」な評価を得ることもあるかもしれない。

これまで、インドのインディー音楽シーンを評して「インドにはあらゆる都市にラッパーがいる」(いや、周辺国も含めた「南アジアには」というべきか)と何度も書いてきたが、じつはインドには、相当な数のシンガーソングライターも存在している。
ラッパーたちが自分の生き様や社会的主張を吐き出しているように、シンガーソングライターたちは、都市の暮らしの孤独や、恋愛の喜びや悲しみを、自分の言葉とメロディーで歌っている。
率直に言って、「なかなかいい音楽」を作っているアーティストもいるのだが、この「なかなかいい」というのがくせ者で、要は「すごくいい」アーティストは少ないのだ。

彼らの音楽が居心地の良いカフェやショップで流れていたら、けっこう似合うだろうし、少なくとも雰囲気をぶち壊したりはしない。
メロディーは洗練されているし、英語の発音もこなれている。
でも、一度聴いて「いいな」と思ったとしても、何度も繰り返して聴きたいと思うほどの楽曲やアーティストはほとんどいない。
インドのシンガーソングライターは、率直に言うとそれくらいの微妙なレベルなのだ。

それでも、例えばレディー・ガガみたいにド派手だったりとか、歌詞のテーマやビジュアルにいかにもインドっぽい要素があったりとかすれば、それを切り口に記事にもしやすいのだが、困ったことに、インドのシンガーソングライターたちは、そろいもそろって、地味で無国籍な雰囲気なのである。
西洋的な都市生活をしている彼らが、自分の表現を追求すると、どうしてもそういう感じになってしまうのだろう。

もちろん、だからといって彼らを批判する意図はない。
それを言ったら、我々日本人こそが、アジアで真っ先に欧米的な消費社会にどっぷりと浸かることを選んだのだから。

余談はともかく、そんななかで、この音楽なら紹介する価値があるだろう、と思わせてくれたのが、以前紹介したPrateek Khuhadや、本日の主役であるRaghav Maetlleである。
つまり、彼らが作っている音楽そのものの魅力が相当高いということだ。


現在はムンバイを拠点に活動しているRavav Meattleは、なかなかの苦労人だ。
彼はもともとデリー出身で、名門St.Stephen's Collegeで歴史学を専攻しながら、音楽活動を始めたという。
彼はこれまで、プログレッシブロックバンドThe Uncertainty Principle(2013年に脱退)やMeattle and Malikというポップデュオで活動したり、ハイデラバードやバンガロールの企業で働いたりと、音楽活動のみならずさまざまな経験を重ねてきた。
2016年にインドのミュージシャン発掘番組"The Stage"に出演し、準決勝にまで進出したことで、音楽で生きていこうという決心をしたという。

ソロデビューは2018年。
現時点での彼の最新作は、今年4月にリリースされたこの"City Life"だ。

ムンバイの日常をアナログカメラで撮影した映像は、ロックダウン前に制作されたものと思われるが、コロナウイルスですっかり暮らしが変わってしまった今見ると、胸にぐっと迫ってくる。
この曲は、街での暮らしの中で、少しずつ自分を見失ってしまい、居場所を探すのに苦労している人のための曲とのこと。
彼のメロディーや歌声には、そっと心に寄り添ってくれるような優しさがある。

映画音楽以外の音楽シーンがまだまだ発展途上のインドでは、インディーミュージシャンが音楽だけで暮らしてゆくことは難しい。
まして、イベントにお客の集まりやすいダンスミュージックではなく、ギター1本で歌うシンガーソングライターであればなおさらだ。
それでもRaghavはこう語っている。

「他の選択肢はなかったんだ。ギターを弾くのを覚えて、詩を音楽に乗せる。それだけさ。(電子音楽ではなくて)ずっとバンドが演奏する音楽を聴いてきたし、今でも生のサウンドに夢中なんだよ」

実際、彼は今もソニーが立ち上げた非映画音楽のためのレーベル'Big Bang Music'で働いており、映画『ガリーボーイ』のモデルになったストリートラッパー、Naezyのマネジメントなどを手掛けているようだ。

彼のファーストアルバムは、2018年にリリースされたこの"Songs from Matchbox".
このアルバムは、インドの新進アーティストの常套手段であるクラウドファンディングによって集めた資金によって、ロンドンのアビーロードスタジオでマスタリングが施されている。

このアルバムのなかで個人的に気に入っているのは、妹の結婚式のために書かれたというこの"She Can"だ.

穏やかに始まり、美しいメロディーが次々にたたみかけてくるフォークポップの佳曲。

"I'm Always Right"は、アーティストを目指すインドの若者がいつも感じる不安を歌ったものだという。

RaghavはJohn MayerやGeorge Ezra、Damien Riceといった現代のシンガーソングライターの影響を受けていると語っているが、この曲ではポール・マッカートニーのようなメロディーラインが印象的だ。
エンジニアのような手堅い仕事につくようにというプレッシャーや、男女交際に反対する親たちに対するメッセージが込められている。

"Songs from the Matchbox"に収録された"Bar Talk"は、インドの同性愛カップルを描いたミュージックビデオが先日発表されたばかり。

彼はこのミュージックビデオに「これは(単に)ビタースウィートな関係にある2組のカップルの物語。今こそ、ずっと前から受け入れるべきだったストーリーから、センセーショナリズムのベールを取り払う時だ」というコメントを寄せている。



最近ではNetflix制作のドラマに楽曲を提供したり、またナイキのキャンペーンに起用されるなど、活躍の場をますます広げつつあるRaghav Meattle.
またInstagramなどのソーシャルメディアをうまく活用して、より多くの人にアプローチできるよう取り組んでいるという。

彼は、Parekh & Singhや、F16s, Peter Cat Recording Co.といった国内アーティストや、Lucy RoseやBen Howardなどの海外のアーティストとのコラボレーションを夢見ているそうだが、彼の才能を持ってすれば、国内のアーティストとの共演はすぐにでも実現しそうだ。
きっかけさえあれば、世界的に高い評価を得ることも夢ではないだろう。

インターネットによって世界中がつながった今も、音楽シーンの「地元主義」は根強く、またそれが地域ごとに個性あふれるシーンを作り出しているのも事実だが、彼のように普遍的な優れたポップミュージックを作り出す才能を、インドのインディーシーンだけにとどめておくのはあまりにも惜しい。
彼の音楽がワールド・クラスの評価を受ける日がくることを願うばかりだ。


参考サイト:
https://rollingstoneindia.com/raghav-meattle-recording-new-album-musician-ive-grown-100-times/

https://rollingstoneindia.com/raghav-meattle-captures-mumbai-of-yesteryear-in-city-life-music-video/

https://queenmobs.com/2019/08/interview-raghav-meattle/

https://www.indulgexpress.com/culture/music/2020/apr/10/raghav-meattle-speaks-about-his-soulful-new-song-city-life-and-the-music-video-shot-entirely-on-reel-23949.html

https://ahummingheart.com/features/interviews/raghav-meattle-on-city-life-day-job-and-music-marketing/




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goshimasayama18 at 15:46|PermalinkComments(0)インドのロック 

2020年08月26日

『懐かしい』『旅』『認識』『生きがい』『物語』… インドで生まれた日本語タイトルの楽曲たち!



インドの音楽シーンを見ていると、日本語のタイトルを冠した曲を目にすることがたまにある。
アニメやマンガに代表される日本のサブカルチャーは、インドでも刺激的な新しい文化に敏感な都市部の若者を中心に人気があり、サブカルチャー経由で日本に興味を持つアーティストも多い…ということが、この現象の理由のようだ。
それだけでも日本人としてうれしいが、さらにうれしいことに、日本語タイトルの曲は、音的にも興味深い作品が多いので、今回、まとめて紹介してみます。

まず最初に紹介するのは、以前に特集したこともあるニューデリーのオーガニック・ソウルシンガーSanjeeta Bhattacharyaの"Natsukashii".

考えてみれば、「懐かしい」にあたる言葉って外国語にないのかもしれない。
Nostargicとも少し違うし…。
日本語が使われているというだけではなく、曲ポップで歌っているSanjeetaもとてもチャーミングなので、日本でももっと聴かれてほしい1曲だ。
彼女はアメリカの名門バークリー音楽大学の出身。
スペイン語の歌を歌っていたりもするので、おそらくバークリーで世界中の様々な言語やカルチャーに触れ、「懐かしい」という言葉をタイトルにつけるに至ったのだろう。



曲名だけではなく、アーティスト名に日本語を採用しているアーティストもいる。
ジブリ作品など日本のカルチャーの影響を大きく受けているデリーのエレクトロニカ・アーティスト'Komorebi'ことTarana Marwahだ。
先日リリースした、他のアーティストによる彼女の作品のリミックス集のタイトルは"Ninshiki"(認識)。
彼女のFacebookによると、「'Ninshiki'は日本語で'In Dreams'という意味」と語っていて「うーん、ちょっと違う」と言いたいところだが、他人によって解釈された作品を『認識』と名付けるのは間違っていないし、なかなか良いセンスだと思う。
ここでは、"Ninshiki"に収録された"Rebirth(Psychonaut Remix)"と、原曲(アニメになったKomorebiがインドと東京を行ったり来たりするミュージックビデオが面白い!)を両方紹介してみたい。





日本語の名前を持ったアーティストといえば、前回も紹介したムンバイのアンビエント/エレクトロニカアーティストRiatsuも、漫画/アニメの" Bleech"に出てくる霊的エネルギー「霊圧」から名前も取っている。
先日の記事でも触れた"Kumo"(蜘蛛)は朝露に輝く蜘蛛の巣のきらめきを思わせる美しい曲。
彼は"Tabi"(旅)という曲をリリースしたこともある。


新型コロナウイルスによるロックダウン中に発表された"Tabi"は、25分におよぶ、内的宇宙への旅とも言える静かな大曲だ。



バンガロールのジャズ/ヒップホップバンドFakeer and the Arcが今年5月にリリースしたアルバムのタイトルは、"Ikigai".

ちょうどこの記事を書いているときに、「インドのヨガ講師がIkigaiという言葉を使っていた」というツイートを読んだばかり。
'Ikigai'という言葉は、スペイン出身で日本在住の作家Hector Garciaによるベストセラーのタイトルになっており、インドの書店にも平積みされていて、インド制作のNetflix作品『マスカ 夢と幸せの味』(原題"Maska")でも使われているという。(ちなみにHector Garciaは"Ichigo Ichie"という著書も書いている。)
「生きがい」はグローバルな言葉になりつつあるようだ。


コルカタのテクノユニットHybrid Protokolによる"Tetsuo"は、『アキラ』のキャラクターではなく、塚本晋也監督による「日本最初のサイバーパンク映画」である『鉄男』(Tetsuo the Iron Man)から取られたものだという。

コルカタは古くはアジア初のノーベル賞受賞者である詩人のタゴールや映画監督のサタジット・レイらを輩出した文化の薫り高い都市だが、現代のテクノアーティストが1989年の日本のカルト映画にまで行き着くとは思わなかった。
どこか90年代テクノの影響を感じさせるサウンドが、映画の世界観にも合致しているように感じられる。



インド北東部のアコースティック・ポップバンドLai Lik Leiによる"Eshei"は、曲名こそ日本語では無いが、"Iriguchi"という映画のテーマ曲として作られている。

マニプル州は、無謀な進軍で多大な犠牲者を出した旧日本軍のインパール作戦の戦場となった土地だ。
この曲に日本語のタイトルが採用されている理由は、こうした悲劇的な歴史によるものかもしれないが、モンゴロイド系の民族が暮らすインド北東部では、ナガランド州で日本のアニメのコスプレがブームになるなど、東アジアのカルチャーへの親和性が高い土地でもある。

民族的にも宗教的にもインドのマジョリティーとは異なる北東部の人々にとって(インド北東部はクリスチャンが多い)、日本や韓国のカルチャーは、ボリウッドなどのインドの現代文化よりも身近に感じられるのかもしれない。


ムンバイのビートメーカーKaran Kanchanは、NaezyやDIVINEなど、インドを代表するラッパーたちのトラックを制作するかたわら、ソロ作品では日本文化の影響を大きく取り入れた'J-Trap'なるジャンルの楽曲を多く発表している。
(このJ-Trapというジャンルは、日本発祥ではなく、このKaran Kanchanが提唱しているものだ)
6月に発表した最新作"Monogatari"では、日本の三味線奏者の寂空(Jack)とのコラボレーションにより、よりユニークな世界観を表現している。


じつは、このコラボレーションのきっかけになったのは、私、不肖軽刈田。
以前インタビューしたことがあるKaran Kanchanから「三味線奏者を紹介してほしい」という相談を受け、SNSで声をかけたところ、世界ツアーの経験もある寂空が応えてくれたのだ。
今作では寂空はナレーションのみの参加だが、今後、三味線でのコラボレーションも計画されているそうで、期待は高まるばかりだ。

インドと日本のコラボレーションとしては、以前このブログでも大々的に紹介したムンバイ在住のダンサー/シンガーのHirokoさんと現地のラッパーIbex, ビートメーカーKushmirによる『ミスティック情熱』も記憶に新しい。


Hirokoさんも現地のミュージシャンとの新しいコラボレーションの計画が進行中だそうで、今後、日印共作による面白い作品がどんどん増えてゆくのかもしれない。


と、ざっと日本語のタイトルを持つ曲や、日本との関わりのある曲を紹介した。
面白いのは、「懐かしい」や「生きがい」といった、日本独特の心のあり方をタイトルに採用した曲が多いということ。
かつて、ヨガやインド哲学に代表されるインドの精神文化は、西洋的な消費文化に対するカウンターカルチャーとして、欧米の若者たちに大きな影響を与えた。
また、インドは仏教のルーツとして、日本文化の源流となった国でもある。
それが今日では、欧米的な生活をするようになったインド都市部の若者たちが、日本の文化をその作品に引用しているというわけで、この現象は、世界的なカウンターカルチャーや精神文化の動向という意味でも、なかなか興味深いものがある。

今後も、極東アジアと南アジアの文化の影響のもとで、どんな素晴らしい作品が生まれてくるのか、興味は尽きない。
また何か面白い作品を見つけたら紹介したいと思います!




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